2015-12-04

中国人民元をSDR構成通貨に採用、IMF理事会が承認


人民元はSDR構成通貨に、時期不明=IMF専務理事

 ・中国人民元をSDR構成通貨に採用、IMF理事会が承認

 国際通貨基金(IMF)は11月30日に理事会を開き、国際通貨の一種「特別引き出し権(SDR)」を算定する通貨に、中国の人民元を来年10月から加えることを正式に決めた。
 米ドル、ユーロ、円、英ポンドに続く5番目の「国際通貨」としてSDRに加わり、構成割合では円を上回り3位になる。ドルを基軸とする国際金融で、人民元と中国の存在感が高まりそうだ。
 人民元はSDRの構成割合で10・92%と、ドル(41・73%)、ユーロ(30・93%)に次ぐ3位になる。円は4位で8・33%。構成割合は、輸出規模や通貨の国際的な利用状況を踏まえて決める。

YOMIURI ONLINE 2015-12-01



 IMFを背後から突き動かしたのは国際金融界である。2008年9月のリーマンショックでバブル崩壊、収益モデルが破綻した国際金融資本が目をつけたのはグローバル金融市場の巨大フロンティア中国である。その現預金総額をドル換算すると9月末で21兆ドル超、日米合計約20兆ドルを上回る。

産経ニュース 2015-12-02



 中国の朱光耀財政次官は1日、米首都ワシントンで講演し「人民元相場が市場での自由な取引で決まるようにしなければならないが、変動相場制への移行は簡単ではない」と述べ、実現に時間がかかるとの認識を示した。

産経ニュース 2015-12-02



 今般の国際通貨入りは、いよいよAIIBにより日米などを除いた圧倒的多数の国を人民元取引に惹きつけ、これまでのドルを基軸とした国際金融体制を、人民元を基軸とした国際金融体制へと移行させていこうという戦略だ。

遠藤誉 2015-12-02



 世界の外貨準備の約97%は現在、ドル、ユーロ、日本円、英ポンドのわずか4通貨で運用されている。これらの通貨を発行する4つの中央銀行はいずれも、量的緩和(QE)を通じた紙幣増刷で準備通貨の地位を乱用している。これは多くの場合、供給主導型の成長に必要な改革を政府が成立させられないために行われている。QEはいずれインフレや通貨安につながり、結果として信頼できる世界の準備通貨の深刻な不足を招くだろう。そうなれば、各国中銀は人民元の早急な採用が促されるだろう。
 人民元は最終的にドルに代わる主要準備通貨となる可能性が高い一方、中国の国債市場は世界の債券市場の主な指標になるだろう。中国の規模を踏まえると、この予想は当然と言える。中国の人口は米国の4倍を上回る。両国の1人当たりGDPが、米国でQEが始まった2011年から15年までの平均ペースで伸び続けた場合、2043年までには中国が米国を追い越す計算になる。

アシュモア・グループの調査責任者、ヤン・デーン氏 2015-11-17

アーナルデュル・インドリダソン


 1冊読了。

 164冊目『湿地』アーナルデュル・インドリダソン:柳沢由実子〈やなぎさわ・ゆみこ〉訳(東京創元社、2012年/創元推理文庫、2015年)/文庫化される。北欧ミステリ。アイスランド人作家としては初の「ガラスの鍵賞」を受賞した作品。一気読みである。年老いた男が殺される。現場には不可解なメッセージが残されていた。男の過去から別の犯罪が浮かび上がってくる。物語全体をアイスランドのどんよりした鉛色の空が覆う。横軸に主役警官のエーレンデュルの破綻した家庭を描く。長らく音沙汰のない元妻から娘を通して全く別の事件の捜査を頼まれる。縦軸は2本の線が螺旋状に連なる。そして娘はドラッグ中毒であった。エーレンデュルを取り巻く人間模様がリアリズムに徹している。単純な出来事から複雑な物語を紡ぐ手法が映画『灼熱の魂』と似ている。難点は馴染みのないアイスランド人の名前である。男女の判別もつかない。それから柳沢訳ということで安心して手を伸ばしたのだが時折妙な文章が見受けられる。今まで気づかなかったのだが柳沢御大は1943年生まれではないか! 出版社は本気で翻訳家の育成に取り組むべきだ。アーナルデュル(アイスランドでファミリーネームは使われないとのこと)の作品は『緑衣の女』『』と続くがいずれも評価が高い。

2015-12-03

黒船の強味/『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八


『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織
『國破れて マッカーサー』西鋭夫

 ・黒船の強味
 ・真珠湾攻撃の宣戦布告が遅れた真相

『「日本国憲法」廃棄論 まがいものでない立憲君主制のために』兵頭二十八

日本の近代史を学ぶ

Q●なぜ徳川幕府は、黒船と戦争しなかったのでしょうか。兵員数では圧倒していたと思うのですが……。

A●(中略)つまり波打ち際から5kmぐらい離れれば、最新鋭の艦砲の直撃も免れることができるのだが、江戸城の周りには武家屋敷が、さらにその周りにはおびただしい町屋が連なっていた。ペリー艦隊にとっては、風上の市街地をまず砲撃で炎上させ、それを江戸城まで延焼させることぐらいは、わけもないのであった。そのような前例としては、ナポレオン戦争中のネルソン艦隊による、コペンハーゲン市の焼き討ちがあった。
 さらにペリー艦隊は、江戸湾の入り口付近で海賊を働き、日本の商船の出入りを完全に阻止することもできた。江戸時代の街道は、荷車すら通れない未舗装の狭い道幅で、陸上の長距離輸送は、馬の背中や牛の背中に物資を載せて運ぶ以外にない。それではとうてい、大坂方面からの廻船による輸送力を、代行できるものではなかった。食料や薪炭の入港が途絶すれば、ひたすら消費するのみの100万都市には、たちどころに飢餓状態が現出するはずであった。そこには旗本の家族や家来だって巻き込まれてしまうのである。
 もしも江戸城が焼かれ、将軍のお膝元が生活物資の欠乏で大混乱に陥るという事態になれば、諸藩が徳川家に対する忠誠をひるがえす好機が、そこに生ずるだろう。大名が勝手に国元に戻ったり、各地から諸藩の軍勢が江戸にのぼってくるかもしれない。外様大名の誰かと、外国軍が結託しないという保証もなかった。(中略)
 幕末の日本には、全国で47万人くらいの武士がいたらしい。しかし戦争では、特定の戦場に、相手より強力な戦力を集中できた者が勝つ。ペリー艦隊は、日本の海岸の好きな場所に、300人の海兵隊を投入することができる。しかも、艦砲射撃の支援火力付きである。日本側が1500人の火縄銃隊をあつめてきたら、こんどは別な場所を襲撃すればよいのだ。有力な親藩の城下町も多くが海岸の近くにあり、焼き討ち攻撃には弱かった。
 この機動力と火力とを、徳川政権が実力で排除するためには、台場ではなく、鉄道か軍艦かの、どちらかが必要なのであった。

【『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八〈ひょうどう・にそはち〉】

 長年にわたる疑問が解けた。黒船の強味は火力と機動力にあった。世界中の主要都市が海に接しているのも船を受け入れるためである。それは現在も変わらない。鉄道ではやはり量が劣る。

 大まかな歴史を辿ってみよう。

 1415-1648年 大航海時代
 1434年 エンリケ航海王子の派遣隊がボジャドール(ブジャドゥール、ボハドルとも)岬を踏破
 1492年 クリストファー・コロンブスバハマ諸島に到達。
 1497年 ヴァスコ・ダ・ガマがインドに到達
 1543年 種子島にポルトガル船が漂着。鉄砲伝来。
 1519-22年 マゼランが世界一周。
 1602年 オランダ東インド会社(世界初の株式会社)が設立。
 1620年 ピルグリム・ファーザーズメイフラワー号で北米へ移住。
 1840-42年 第一次阿片戦争
 1853-56年 クリミア戦争
 1853年 黒船来航
 1856-60年 第二次阿片戦争
 1856年 ハリス来日。
 1858年 日米修好通商条約
 1861-65年 北米で南北戦争
 1868年 明治維新
 1894-95年 日清戦争
 1904-05年 日露戦争
 1914-18年 第一次世界大戦
 1939-45年 第二次世界大戦

 大航海時代は植民地化と奴隷貿易の時代でもあった。

 ヨーロッパ人によるアフリカ人奴隷貿易(英語版)は、1441年にポルトガル人アントン・ゴンサウヴェスが、西サハラ海岸で拉致したアフリカ人男女をポルトガルのエンリケ航海王子に献上したことに始まる。1441-48年までに927人の奴隷がポルトガル本国に拉致されたと記録されているが、これらの人々は全てベルベル人で黒人ではない。
 1452年、ローマ教皇ニコラウス5世はポルトガル人に異教徒を永遠の奴隷にする許可を与えて、非キリスト教圏の侵略を正当化した。
 大航海時代のアフリカの黒人諸王国は相互に部族闘争を繰り返しており、奴隷狩りで得た他部族の黒人を売却する形でポルトガルとの通商に対応した。ポルトガル人はこの購入奴隷を西インド諸島に運び、カリブ海全域で展開しつつあった砂糖生産のためのプランテーションに必要な労働力として売却した。奴隷を集めてヨーロッパの業者に売ったのは、現地の権力者(つまりは黒人)やアラブ人商人である。

Wikipedia

大英帝国の発展を支えたのは奴隷だった/『砂糖の世界史』川北稔
奴隷は「人間」であった/『奴隷とは』ジュリアス・レスター

「奴隷を集めてヨーロッパの業者に売ったのは、現地の権力者(つまりは黒人)やアラブ人商人である」には疑問あり。要はビジネスとして成立させたのは誰か、ということが重要だ。ユダヤ人であるという指摘もある(デイヴィッド・デューク)。大航海時代を支えたのはユダヤ資本であり、リスクを債権化するという株式会社の原型を考案したのもユダヤ人だ(『投機学入門 市場経済の「偶然」と「必然」を計算する』山崎和邦)。

 火薬・羅針盤・活版印刷術の三大発明はもともと中国伝来のものだった。これらを戦争および侵略の道具としたところに西欧の強味があった。活版印刷は紙幣(銀行券)を生み、他方では宗教改革の追い風となる。

 年表を見直すと、やはり戦争によって技術革新(イノベーション)が進んできた事実がよくわかる。第二次世界大戦は空中戦となり、スプートニク・ショック(1957年)以降、人類は宇宙を目指す。

 本書で初めて知ったのだがクリミア戦争の戦域はカムチャツカ半島まで及んだという(Wikipedia)。つまりペリー艦隊はヨーロッパ諸国が戦争で手を出しにくい絶好の時期に訪れたわけだ。

 日本の開国は事実上はハリスによる日米修好通商条約だが、そのインパクトによって殆どの日本人が黒船によるものと誤解している。開国した日本は自ら黒船を造ろうと決意。欧米列強に学びながら帝国主義の道を歩まざるを得なくなる。

日本の戦争Q&A―兵頭二十八軍学塾
兵頭 二十八
光人社
売り上げランキング: 793,653

日米関係の初まりは“強姦”/『黒船幻想 精神分析学から見た日米関係』岸田秀、ケネス・D・バトラー
泰平のねむりをさますじようきせん たつた四はいで夜るも寝られず/『予告されていたペリー来航と幕末情報戦争』岩下哲典
黒船を歌う江戸時代の人々/『幕末外交と開国』加藤祐三

2015-12-02

小山矩子


 1冊挫折。

日本人の底力 陸軍大将・柴五郎の生涯から』小山矩子〈こやま・のりこ〉(文芸社、2007年)/文芸社といえば自費出版系で知られるが、2008年に草思社を子会社化したのは知らなかった。著者は1930年生まれで小学校教諭、校長を務めた人物。フォントの大きい183ページの小著だが、半分過ぎたあたりでやめた。各所に思い込みの強さが見受けられ、自分の思い通りにならないと気が済まないような性質が露呈している。はっきり言って馬鹿丸出しだ。幼児期に会津戦争を経験した柴は何が何でも平和主義者であらねばならない、との強迫観念にとらわれている。日教組臭さを感じるが教育勅語は評価している。歴史とは現在と過去との対話であるが、この人は現在の価値観でしか過去を見ることができないようだ。少なからず資料的価値はあるものの病的な思考に耐えられず。

坂井三郎、副島隆彦、他


 4冊挫折、2冊読了。

山川 世界史総合図録』成瀬治、佐藤次高、木村靖二、岸本美緒監修(山川出版社、1994年)/843円なのだから、もちろん印刷に期待はしていない。たくさんの図が掲載されているがドキドキワクワクするものが少ない。個人的に図録は体質に合わないようだ。今のところ『ニューステージ世界史詳覧』が最強である。

詳説日本史研究』佐藤信、 五味文彦、高埜利彦、鳥海靖編集(山川出版社、2008年)/図表写真がオールカラーという大盤振る舞い。高校生の参考書といった内容で通史を学ぶにはうってつけだろう。執筆者の一人に加藤陽子の名前がある。彼女は左翼だ。西尾幹二らが『自ら歴史を貶める日本人』批判をしている(※動画)。

スッタニパータ[釈尊のことば]全現代語訳』荒牧典俊、本庄良文、榎本文雄訳(講談社学術文庫、2015年)/読了することあたわず。原典に忠実な翻訳が日本語を滅茶苦茶にしている。それでも尚、本書は必須テキストで参照用の副読本として中村本の隣に置くことが望ましい。

寝たきり老人になりたくないならダイエットはおやめなさい 一生健康でいられる3つの習慣』久野譜也〈くの・しんや〉(飛鳥新社、2015年)/『寝たきり老人になりたくないなら大腰筋を鍛えなさい』の二番煎じ。女性読者層の拡大を狙ったものか。文章もわかりやすく説明も巧みなのだが発展性に欠ける。前著を読んだ人には不要な本だ。

 161冊目『日本の秘密』副島隆彦〈そえじま・たかひこ〉(弓立社、1995年/新版、PHP研究所、2010年)/好著。副島本はおすすめできるものが殆どないのだがこれは例外。吉田茂、安保闘争など。片岡鉄哉と田中清玄〈たなか・きよはる〉の名前を知ったことが最大の収穫であった。

 162、163冊目『大空のサムライ 死闘の果てに悔いなし(上)』『大空のサムライ 還らざる零戦隊(下)』坂井三郎(講談社+α文庫、2001年/光人社、1967年『大空のサムライ かえらざる零戦隊』改題)/一気読み。フィクションありということを知り躊躇していたが読んで正解だった。戦記ものとしては驚くほど悲惨な場面が少ないのも空の男ゆえか。躍動する青春記といってよい。戦闘シーンが単純に堕していない表現力の妙がある。白眉は「あとがき」だ。恐ろしいまでの修練を課してきたことを赤裸々に綴る。零戦が強かったのはその性能もさることながら、パイロットたちの技量によるものであることがよくわかった。