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『異端の数ゼロ 数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念』チャールズ・サイフェ
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『量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』マンジット・クマール
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『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー
・情報という概念
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『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ
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情報とアルゴリズム
熱力学の法則――物質のかたまりに含まれる原子の運動を支配する法則――は、すべての根底にある、情報についての法則だ。相対性理論は、極度に大きな速さで動いている物体や重力の強い影響を受けている物体がどのように振舞うかを述べるものだが、実は情報の理論である。量子論は、ごく小さなものの領域を支配する理論だが、情報の理論でもある。情報という概念は、単なるハードディスクの内容よりはるかに広く、今述べた理論をすべて、信じられないほど強力な一つの概念にまとめあげる。
情報理論がこれほど強力なのは、情報が物理的なものだからだ。情報はただの抽象的な概念ではなく、ただの事実や数字、日付や名前ではない。物質とエネルギーに備わる、数量化でき測定できる具体的な性質なのだ。鉛のかたまりの重さや核弾頭に貯蔵されたエネルギーにおとらず実在するのであり、質量やエネルギーと同じく、情報は一組の物理法則によって、どう振舞いうるか――どう操作、移転、複製、消去、破壊できるか――を規定されている。宇宙にある何もかもが情報の法則にしたがわなければならない。宇宙にある何もかもが、それに含まれる情報によって形づくられるからだ。
この情報という概念は、長い歴史をもつ暗号作戦と暗号解読の技術から生まれた。国家機密を隠すために用いられた暗号は、情報を人目に触れぬまま、ある場所から別の場所へと運ぶ方法だった。暗号解読の技術が熱力学――熱機関の振舞い、熱の交換、仕事の生成を記述する学問――と結びついた結果生まれたのが情報理論だ。情報についてのこの新しい理論は、量子論と相対性理論におとらず革命的な考えである。一瞬にして通信の分野を変容させ、コンピューター時代への道を敷いたのが情報理論なのだが、これはほんの始まりにすぎなかった。10年のうちに物理学者と生物学者は、情報理論のさまざまな考えがコンピューターのビットおよぎバイトや暗号や通信のほかにも多くのものを支配することを理解しはじめた。こうした考えは、原子より小さい世界の振舞い、地球上の生命すべて、さらには宇宙全体を記述するのだ。
【『宇宙を復号(デコード)する 量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号』チャールズ・サイフェ:林大〈はやし・まさる〉訳(早川書房、2007年)】
驚愕の指摘である。熱力学の法則と相対性理論と量子論を「情報」の一言で結びつけている。「振る舞い」とのキーワードが腑に落ちれば、エントロピーで読み解く手法に得心がゆく。『異端の数ゼロ』で見せた鮮やかな筆致は衰えていない。
ロルフ・ランダウアーが「情報は物理的」と喝破し、
ジョン・ホイーラーが「すべてはビットから生まれる」と断言した。
マクスウェルの悪魔に止めを刺したのは
ランダウアーの原理であった。
よくよく考えるとマクスウェルの悪魔自身が素早い分子と遅い分子という情報に基いていることがわかる。思考実験恐るべし。本物の問いはその中に答えをはらんでいる。
調べものをしているうちに2時間ほど経過。知識が少ないと書評を書くのも骨が折れる。熱力学第二法則とエントロピー増大則がどうもスッキリと理解できない。この物理法則が社会や組織に適用可能かどうかで行き詰まった。結局のところ新たな知見は得られず。
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物質界(生命系を含め)の法則:熱力学の第二法則
エントロピー増大則は諸行無常を志向する。自然は秩序から無秩序へと向かい、宇宙のエントロピーは時間とともに増大する。コップの水にインクを1滴たらす。インクは拡散し、薄く色のついた水となる。逆はあり得ない(不可逆性)。つまり閉じたシステムでエントロピーが減少すれば、それは時間が逆行したことを意味する。風呂の湯はやがて冷める。外部から熱を加えない限り。
生物は秩序を形成している点でエントロピー増大則に逆らっているように見えるが、エネルギーを外部から摂取し、エントロピーを外に捨てている。汚れた部屋に例えれば、掃除をすれば部屋のエントロピーは減少するが、掃除機の中のエントロピーは増大する。乱雑さが移動しただけに過ぎない。
ゲーデルの不完全性定理は神の地位をも揺るがした。
ニューヨーク州立大学の哲学者パトリック・グリムは、1991年、不完全性定理の哲学的帰結として、神の非存在論を導いている。彼の推論は、次のようなものである。
定義 すべての真理を知る無矛盾な存在を「神」と呼ぶ。
グリムの定理 「神」は存在しない。
証明は、非常に単純である。定義により、すべての真理を知る「神」は、もちろん自然数論も知っているはずであり、無矛盾でもある。ところが、不完全性定理により、ゲーデル命題に相当する特定の多項方程式については、矛盾を犯すことなく、その真理を決定できないことになる。したがって、すべての真理を知る「神」は、存在しないことになる。
ただし、グリムは、彼の証明が否定するのは、「人間理性によって理解可能な神」であって、神学そのものを否定するわけではないと述べている。
【『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』高橋昌一郎〈たかはし・しょういちろう〉(講談社現代新書、1999年)】
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神の存在論的証明
では熱力学第二法則はどうか? 仏教東漸の歴史を見れば確かに乱雑さは増している。ブッダの時代にあっても人を介すほどに教えは乱雑になっていったことだろう。熱は冷め、秩序は無秩序へ向かう。しかしその一方で人間の意識は秩序を形成する。都市化が典型である。そして生命現象という秩序は、必ず死という無秩序に至る。
宇宙的な時間スケールで見た時、生命現象にはどのような意味があるのか? それともないのか? 思考はそこで止まったまま進まない。
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