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2017-12-17

教義とは鳥かごのようなもの/『オープン・シークレット』トニー・パーソンズ


『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース
『これのこと』ジョーイ・ロット

 ・教義とは鳥かごのようなもの

悟りとは

 言葉で表せないものを教義という形に置き換える試みは、そのどれもが必然的に不正確な表現に終わるように私には思えた。もともとの美しく繊細な自由の歌を、際限なく語られ続ける制限の教義に変えてしまう。完璧さをめぐる矛盾した考え……。鳥が飛び立ったとき、その歌の本質はたいていは見失われ、そこには空の鳥かごだけが残される。

【『オープン・シークレット』トニー・パーソンズ:古閑博丈〈こが・ひろたけ〉訳(ナチュラルスピリット、2016年)以下同】

「覚醒ブックス」というネーミングセンスに鼻白むのは私だけではあるまい。本を読んで覚醒できるなら私が教祖になっていてもおかしくないのだが(笑)。

 あまりいい本ではない。翻訳もこなれておらず、「――に――に」や「――は――は」が目につき、理解に苦しむ文章が多い。トニー・パーソンズはノンデュアリティの大物で、彼に導かれた悟りを開いた人々が相当数いる。

「なぜ自転車に乗ることができるか」を言葉で説明することはできない。悟りや啓示を言語化することは、自転車を知らない人に対して自転車に乗ることを説明するようなものだろう。

 言葉はシンボルに過ぎない。教義や憲法の解釈が異なるのも当然である。コミュニケーションの手段である言葉を経典化する営みは必ず人間を隷属させる方向に動く。

 言葉は「使う」ものだ。「しがみつく」ものではない。

オープン・シークレット(覚醒ブックス)
トニー・パーソンズ Tony Parsons
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2017-12-03

なにかを信じることにはまったく意味がない/『これのこと』ジョーイ・ロット


『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース

 ・なにかを信じることにはまったく意味がない

・『つかめないもの』ジョーン・トリフソン
・『オープン・シークレット』トニー・パーソンズ
『すでに目覚めている』ネイサン・ギル
『今、永遠であること』フランシス・ルシール
『プレゼンス 第1巻 安らぎと幸福の技術』ルパート・スパイラ

悟りとは

 信じられないかもしれないけど、なにかを信じることにはまったく意味がない。信じるというのは単に信じるってこと。それだけ。
 でも僕らが生きている世界では、信じることにとてつもなく大きな価値が置かれているように見える。だから、信じていることの催眠にかかっている人がほとんどだとしても特に不思議はない。
 信じるのは別に悪いことじゃない。ただ、あるということの単純さと信じることはまったくどんな関係もないというだけだ。だから、あるということの単純さを見つけだすために、つまり自由を探すために、なにかを信じてそれにしがみつくとしたら、それは誤った戦略だし間違いなく失敗する。
 信じるのは悪いことじゃないとは言っても、自分が信じていることに執着すると、あるということの単純さがはっきりとは見えなくなる。
 なにを信じていてもそれは単なる思考が観念で、真実と取り違えられているだけだ。どんな思考も観念も真実とは違う。そこに誤りがある。

【『これのこと』ジョーイ・ロット:古閑博丈〈こが・ひろたけ〉訳(ブイツーソリューション、2015年)】

 古閑博丈が精力的に翻訳を行っている。少し考えれば当たり前のことだが悟り本にはいわゆる個性というものがない。例外はブッダとクリシュナムルティくらいだろう。自我という大地を破れば意識は虚空に解き放たれる。個性とは地に咲くものだ。ただし文に滲み出る何かがある。それが気になるのは私が悟っていないためなのだが(笑)。

 実際は「わからない」からこそ信じるのである。地球が丸いことを「信じている」人はいない。事実は「知る」だけであり、「理解」すれば信じる必要はない。

私は何も信じない」とクリシュナムルティは語った。この一言に込められたのは「神と自己の否定」であろう。「神と自己」という概念が世界を二元に分け隔てる。非二元(ノンデュアリティ)と言おうがワンネス(一元性・単一性)と呼ぼうが結局は「私」という軛(くびき)から自由になるかどうかである。

 法然・親鸞・日蓮は信を説いた。ここに鎌倉仏教の限界があるように思われる。信は眼を塞(ふさ)ぎ智慧に至ることがない。どのように理を尽くしたところで信をもって慧(え)に代えることはできず不確実性や偶然性に翻弄される。悟りとはありのままの現実を直視することであり、何かを信じて未来を待望する精神はその欲望によって明晰さを失う。諸法無我を思えば信を支える基底が自我であることを見抜ける。

 何かを信じる人々は常に争い合っている。他を貶(おとし)め自らを持ち上げることに躍起な姿は悟りから程遠い。無上道であればこそ争いから離れることが可能となる。

 初期仏教の悟り重視を軽んじたのが後期仏教(大乗)であった。彼らは個人の悟りを「小乗」と嘲(あざけ)った。ま、悟りを無視すれば多数を収める乗り物が作れるのは当然だ。乗り物の行き先は知らないが。そして自分たちの弱みを押し隠すために精緻な理論を築いた。

これのこと
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ジョーイ・ロット
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2017-08-17

ジドゥ・クリシュナムルティ(Jiddu Krishnamurti)著作リスト 3


ジドゥ・クリシュナムルティ(Jiddu Krishnamurti)著作リスト 1
ジドゥ・クリシュナムルティ(Jiddu Krishnamurti)著作リスト 2
・ジドゥ・クリシュナムルティ(Jiddu Krishnamurti)著作リスト 3

・『境界を超える英知 人間であることの核心 クリシュナムルティ・トーク・セレクション 1』J・クリシュナムルティ:吉田利子、正田大観訳(コスモス・ライブラリー、2017年)
・『生の書物』J・クリシュナムルティ:藤仲孝司、内藤晃訳(UNIO、2016年)
・『ブッダとクリシュナムルティ 人間は変われるか?』J.・クリシュナムルティ:正田大観・吉田利子訳、大野純一監訳(コスモス・ライブラリー、2016年)
・『知られざるクリシュナムルティ』G・ナラヤン:高岡光解説・監修、チャンドラモウリ・ナルシプル編集、高岡光・玉井辰也訳(太陽出版、2015年)
・『最初で最後の自由』J・クリシュナムルティ:飯尾順生訳(ナチュラルスピリット、2015年)
 ・『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース:古閑博丈訳(ブイツーソリューション、2014年)
・『静けさの発見 二元性の葛藤を越えて クリシュナムルティ著述集 第4巻』J・クリシュナムルティ:横山信英、藤仲孝司、内藤晃訳(UNIO、2013年)
 ・『創造性について 新しい知覚術を求めて』デヴィッド・ボーム:大槻葉子、大野純一監訳、渡辺充監修(コスモス・ライブラリー、2013年)
・『愛について、孤独について』J・クリシュナムルティ:中川正生(麗澤大学出版会、2013年)
・『クリシュナムルティ その対話的精神のダイナミズム』稲瀬吉雄(星雲社、2013年)
・『スタンフォードの人生観が変わる特別講義 あなたのなかに、全世界がある』J・クリシュナムルティ:中川吉晴訳(PHP研究所、2013年)
・『伝統と革命 J・クリシュナムルティとの対話』J・クリシュナムルティ:大野純一(コスモス・ライブラリー、2013年)
・『思考は生(いのち)を知らない クリシュナムルティと共に考える』森本武(JDC出版、2012年)
・『静かな精神の祝福 クリシュナムルティの連続講話』J・クリシュナムルティ:大野純一(コスモス・ライブラリー、2012年)
・『神話と伝統を超えて 2 DVDで見るクリシュナムルティの教え』ジッドゥ・クリシュナムルティ:白川霞監修、大野純一訳(彩雲出版、2011年)
・『真の革命 クリシュナムルティの講話と対話』J・クリシュナムルティ:柳川晃緒訳、大野純一監訳(コスモス・ライブラリー、2011年)
・『四季の瞑想 クリシュナムルティの一日一話』J・クリシュナムルティ:こまいひさよ(コスモス・ライブラリー、2011年)
・『神話と伝統を超えて 1 DVDで見るクリシュナムルティの教え』ジッドゥ・クリシュナムルティ:白川霞監修、大野純一訳(彩雲出版、2011年)
 ・『悟り系で行こう 「私」が終わる時、「世界」が現れる』那智タケシ(明窓出版、2011年)
・『時間の終焉 J.クリシュナムルティ&デヴィッド・ボーム対話集』 J・クリシュナムルティ:渡辺充(コスモス・ライブラリー、2011年)

2017-05-02

西洋におけるスピリチュアリズムは「神との訣別」/『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース


『悟りの階梯 テーラワーダ仏教が明かす悟りの構造』藤本晃
『無(最高の状態)』鈴木祐
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『未処理の感情に気付けば、問題の8割は解決する』城ノ石ゆかり
『マンガでわかる 仕事もプライベートもうまくいく 感情のしくみ』城ノ石ゆかり監修、今谷鉄柱作画
『ザ・メンタルモデル 痛みの分離から統合へ向かう人の進化のテクノロジー』由佐美加子、天外伺朗
『無意識がわかれば人生が変わる 「現実」は4つのメンタルモデルからつくり出される』前野隆司、由佐美加子
『ザ・メンタルモデル ワークブック 自分を「観る」から始まる生きやすさへのパラダイムシフト』由佐美加子、中村伸也
『左脳さん、右脳さん。 あなたにも体感できる意識変容の5ステップ』ネドじゅん
『すでに目覚めている』ネイサン・ギル
『今、永遠であること』フランシス・ルシール
『プレゼンス 第1巻 安らぎと幸福の技術』ルパート・スパイラ
『ザ・ワーク 人生を変える4つの質問』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル
『人生を変える一番シンプルな方法 セドナメソッド』ヘイル・ドゥオスキン

 ・西洋におけるスピリチュアリズムは「神との訣別」
 ・悟ると過去が消える
 ・シフトの性質

『悟り系で行こう 「私」が終わる時、「世界」が現れる』那智タケシ
『二十一世紀の諸法無我 断片と統合 新しき超人たちへの福音』那智タケシ
『無自己の体験』バーナデット・ロバーツ
『覚醒の炎 プンジャジの教え』デーヴィッド・ゴッドマン


悟りとは
必読書リスト その五

 こういう目覚め、見ること、まあ呼び名はどうでもいいとして、それは過去にどんなことをしてきたとか、逆に何をしてこなかったかということにはまるで関係なく起こる。つまりこれは人が左右できるようなことではないのだ。(ジェフ・フォスター)

【『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース:古閑博丈〈こが・ひろたけ〉訳(ブイツーソリューション、2014年)以下同】

 あまりよくは知らないのだがジェフ・フォスターという人物はノンデュアリティ(非二元)のリーダー的存在のようだ。ついでにもう一つ白状しておくと最近よく目にするノンデュアリティもよくわからない。

 当てずっぽうの説明を試みよう。1960年代にカウンターカルチャーのムーブメントが起こる。ロックが世界を席巻し、若者は髪を伸ばし、ドラッグに手を染めた。ヒッピーはルンペンではない。それまでの西洋のあり方に対するプロテスト(抵抗)行動であった。アメリカはベトナム戦争をする一方で公民権運動というジレンマを抱え込んだ。この時、物から心へという価値観の変化が現れ、ニューエイジが誕生する。我々日本人からするとニューエイジは仏教の基本知識を心理学の言葉で飾り立てたケーキのように見えるが、西洋の歴史においては一つの重要な転換点と見なすことができよう。

 ワンネス(単一性、調和)とかホリスティック(全体性)とかトランスパーソナル(超個的)というキーワードが特徴である(『現代社会とスピリチュアリティ 現代人の宗教意識の社会学的探究』伊藤雅之)。その延長線上にノンデュアリティがあると考えてよかろう。

 ニューエイジの総本山は神智学協会(『仏教と西洋の出会い』フレデリック・ルノワール)であった。そしてクリシュナムルティが祀(まつ)り上げられる。既に神智学協会と袂(たもと)を分かっていたにもかかわらず(『クリシュナムルティ・目覚めの時代』メアリー・ルティエンス)。

 西洋におけるスピリチュアリズムは「神との訣別」であると私は考える。多用されるリアリティという言葉が示すのは「神が支配する世界」の否定であろう。

 本書のタイトル『わかっちゃった人たち』は軽妙よりはやや軽薄に傾いているが、「期せずして悟ってしまった」様子を巧みに表現している。すなわち悟りに修行は必要ない。

 その秘密は想像したのとはまるで違う。それは宗教も、イデオロギーも、信念も、そして「覚醒」や「悟り」といった概念も超越したものだ。自由だ。何の条件もない。その秘密は今にありすぎて、それについて何か言ったところで、そんな言葉はすぐに灰になってしまう。それはどんな目標とも、達成とも、欲求とも、後悔とも、スピリチュアルな成就とも、世俗的な失敗とも、まったく関係がない。自分とはまったく何の関係もないのだ。それは今あって、ここにある。これはトニー・パーソンズの言葉で言えばオープン・シークレット、つまり公然の秘密だ。あまりにうまく隠されていて、あらゆるものとして現れているのに、文字どおりあらゆるものとして現れているのに、人にはそれが見えないのだ。(ジェフ・フォスター)

 もちろん悟りに段階があることは知っている(『悟りの階梯 テーラワーダ仏教が明かす悟りの構造』藤本晃)。だが訳知り顔で「段階がある」と語る人よりも、実際に悟った人の言葉が重い。

 悟りが気づきであれば、単純に「見えるか」「見えないか」の違いしかないのだろう。彼らの言葉は一様に単純でわかりやすく、理窟をこねくり回すような姿勢は微塵もない。何にも増して「静か」である。他人に対して何かを強要するようなところがない。欲望を超越したというよりは、脳のシステム構成が変わったような印象を受ける。欲望から離れることが目的なのではなく、欲望に基づく価値観が真実を見失わせていることに気づかされる。

 クリシュナムルティは訪れる悟りを「他性(アザーネス)」と表現してる(『クリシュナムルティの神秘体験』J・クリシュナムルティ)。クリシュナムルティは理想も努力も否定する(『自由とは何か』J・クリシュナムルティ)。修行は悟りを保証するものではない。

 私が世界であれば(『あなたは世界だ』J・クリシュナムルティ)、欲望に基づく私の行動が世界の混乱を招いている事実に気づく。自(おの)ずから調和を目指す行為や言動となることだろう。過去の怒りや恨みから離れることも可能だ。私は悟っていない。悟っていない瞳に映るのは誤った世界である。だから私の感情は決して正しくない。悟れば世界はありのままに見える。

2016-05-14

マーティン・J・ブレイザー、サリー・ボンジャース、西山俊彦、カルロス・ルイス・サフォン、片田敏孝、他


 7冊挫折、8冊読了。

風水先生 地相占術の驚異』荒俣宏(集英社文庫、1994年)/文章が悪くてびっくりした。

検屍官』パトリシア・コーンウェル:相原真理子訳(講談社文庫、1992年)/文章が全く頭に入らず。他数冊も全部挫ける。

企業指揮官のための戦争の原則』ウイリアム・E・ピーコック:小関哲哉〈おぜき・てつや〉訳(二見書房、1986年)/オペレーションズ・リサーチといえなくもないが底の浅い内容。

U理論 過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』C・オットー・シャーマー:中土井僚〈なかどい・りょう〉、由佐美加子〈ゆさ・みかこ〉訳(英治出版、2010年)/「U理論」というネーミングがよくない。狙いはいいのだが専門用語が多すぎて読む気が失せる。わかりにくい理論を信じる必要はない。真理は単純なものだ。

ホールシステム・アプローチ 1000人以上でもとことん話し合える方法』香取一昭、大川恒(日本経済新聞出版社、2011年)/全く読めず。別世界の話である。この手の「恊働の仕組み」みたいな本は面白いのが見当たらないね。

リラックスと集中を一瞬でつくる アイスブレイク ベスト50』青木将幸(ほんの森出版、2013年)/見知らぬ人が集まった際に緊張を和らげるアトラクションの紹介本。幼稚園でやるようなものばかりで参考にならず。

魂の脱植民地化とは何か』深尾葉子(青灯社、2012年)/「叢書 魂の脱植民地化 1」。amazonレビューの「議論が足りていない」と似た印象を私も抱いた。この文章を安冨歩が解析したのが「『魂の脱植民地化とはなにか』へのアマゾンのコメントに示された魂の植民地化の構造」である。冒頭で安冨は「気持ち悪い」と書いているが、これでは批判の応酬にしか見えない。「知性の脱植民地化」ではなく「魂の脱植民地化」を目指すのであれば、宗教的な深度が求められると思う。なぜなら最終的には家族や自分自身に対しても懐疑する態度が必要となるためだ。仮に安冨の「プロファイリング」が当たっていたとしても好ましい文章とは思えない。

 59冊目『教科書には載っていない! 戦前の日本』武田知弘(彩図社、2009年/文庫化、2016年)/一部飛ばし読み。雑誌のような代物でスイスイ読める。岩波書店の小僧たちによるストライキの話が目を惹いた。

 60冊目『血の咆哮』ウィリアム・K・クルーガー:野口百合子訳(講談社文庫、2014年)/一部飛ばし読み。インディアンが登場するので何とか読み終えることができた。主人公一家の娘を巡るトラブルが必要とは思えない。出てくる女性が皆美しいのも妙だ。

 61冊目『人が死なない防災』片田敏孝(集英社新書、2012年)/片田の仕事は東日本大震災で「釜石の奇蹟」として広く知られている。強いメッセージ性が胸を打ってやまない。山村武彦著『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている』の後に読むのが望ましい。必読書。

 62、63冊目『風の影(上)』『風の影(下)』カルロス・ルイス・サフォン:木村裕美訳(集英社文庫、2006年)/『ユゴーの不思議な発明』→『ぼくと1ルピーの神様』→本書→『香水 ある人殺しの物語』の順に読むことをお勧めする。物語まみれ。『風の影』という稀書を巡る物語で劇中劇の趣がある。過去と現在が錯綜し、同じ音色を奏でる。舞台はスペインであるが、インディアン虐殺や闘牛文化に連なるような暴力性が垣間見える。

 64冊目『カトリック教会と奴隷貿易 現代資本主義の興隆に関連して』西山俊彦(サンパウロ、2005年)/西山は現役のカトリック司祭である。その勇気に敬意を表して最後まで読んだ。最終章で教会のあるべき理想の姿を書いていることに愕然とした。どのような事実があろうとも人は神を信じることができるのだ。振り上げた拳は過去に向かって放たれるが、神には向かわない。運命を司る神を疑うべきではないのか?

 65冊目『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース:古閑博丈〈こが・ひろたけ〉訳(ブイツーソリューション、2014年)/一気読み。7人が全く同じことを語っている。仏教では無色界の非想非非想処(ひそうひひそうしょ/有頂天)と涅槃を峻別するが、彼らはどこに位置するのだろうか? その辺の宗教者よりはずっと高みにいるように思われる。やたらとトニー・パーソンズの名前が出てくる。長年に渡る疑問の一つが本書を読んで氷解した。

 66冊目『失われてゆく、我々の内なる細菌』マーティン・J・ブレイザー:山本太郎訳(みすず書房、2015年)/あらゆる生き物は膨大な数の細菌と共にマイクロバイオームを構成している。人体においては細胞の数よりも細菌の方が多いそうだ。人類と長らく進化を共にしてきたその細菌が抗生物質などによって破壊されている。ピロリ菌は潰瘍の原因とされるが、同時に喘息やアレルギーを防ぐ役割があることを著者は突き止める。またヒトは母胎にいる時は無菌状態だが産道で母親から細菌を譲り受ける。帝王切開だと細菌の受け渡しができない。これが様々な現代病の原因になっている可能性が高いと指摘する。自信をもってお勧めできるが250ページで3200円は高い。紙質も悪く、原注が巻末にあるのも不親切だ。

2016-02-06

辨野義己、武田知弘、他


 12冊挫折、2冊読了。

児玉誉士夫 巨魁の昭和史』有馬哲夫(文春新書、2013年)/有馬哲夫の文章には面白味がない。

獄中獄外 児玉誉士夫日記』児玉誉士夫〈こだま・よしお〉(広済堂出版、1974年)/今ひとつ乗れなかった。びっくりしたのだが林房雄が巻末に「児玉誉士夫小論」を寄せている。

戊辰戦争の史料学』箱石大〈はこいし・ひろし〉編(勉誠出版、2013年)/会津・庄内両藩がプロイセンに蝦夷地もしくは日本の西海岸にある領地を売ろうとしていた。最新資料による研究所だが、史料学なので読み物としての魅力は皆無である。

からくり民主主義』高橋秀実(新潮文庫、2009年)/ただのエッセイとは思わなかった。解説は村上春樹。

つかめないもの』ジョーン・トリフソン:古閑博丈〈こが・ひろたけ〉訳(覚醒ブックス、2015年)/非二元(ノン・デュアル)を調べようと思ったのだが、つかみどころのない文章で放り投げてしまった。帯にある著者の顔写真も好きになれず。

アフリカの日々 やし酒飲み(池澤夏樹=個人編集 世界文学全集1-8)』イサク・ディネセン、エイモス・チュツオーラ:横山貞子、土屋哲〈つちや・さとる〉訳(河出書房新社、2008年)/どちらも有名な小説だが、どうも乗れず。『やし酒飲み』は再読するかも。

図書館のプロが教える〈調べるコツ〉 誰でも使えるレファレンス・サービス事例集』浅野高史編、かながわレファレンス探検隊(柏書房、2006年)/期待外れ。Googleの方が強力だ。

覚書 幕末の水戸藩』山川菊栄〈やまかわ・きくえ〉(岩波文庫、1991年)/左翼ぶりを遺憾なく発揮している。冒頭で「生瀬の乱」を紹介している。参照→『神無き月十番目の夜』飯嶋和一

忘れたことと忘れさせられたこと』江藤淳(文藝春秋、1979年/文春文庫、1996年)/どうも江藤の文章が肌に合わない。三島由紀夫の自決を「軍隊ごっこ」「病気」と評したことと関係しているのかもしれぬ。

新心理学講座 4 宗教と信仰の心理学』小口偉一〈おぐち・いいち〉編(河出書房、1956年)/戦後の新宗教各団体をスケッチしたような代物で、「心理学」を名乗るほどの高みに至っていない。本書では匿名になっているが池田大作と小泉隆の入信動機が紹介されている。

創価学会 その思想と行動』佐木秋夫、小口偉一〈おぐち・いいち〉(青木書店、1957年)/そこそこ誠実さはあるものの、如何せん左翼傾向が顕著で鼻白んでしまう。

オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より』岡田斗司夫〈おかだ・としお〉 FREEex(幻冬舎新書、2012年)/朝日新聞の週末別冊版「be」(ビー)に掲載された「悩みのるつぼ」を解説した本。昨今、岡田のゲス振りがネット上で露見しているが、やはりこの人は頭がよい。伝説と化した「父親が大嫌いです」との相談が冒頭で紹介されている。ただ、この人の文体についてゆけず。若者向けの芸風なのだろうが、軽薄な文体が鋭さを淡くしてしまっている。更に人生相談の種明かし的な姿勢は共感よりも嫌悪感を抱く人が多いのではないか。

あなたを天才にするスマートノート』岡田斗司夫(文藝春秋、2011年)/今まで読んできたノート本ではピカ一である。早速今日から実践している。私の場合はスマート(賢明)よりもセンス(感覚)を重んじる。右ページに記録をつけ、左ページは空けておく。若い人なら5行日記から始めるのがよかろう。

 15冊目『ヒトラーの経済政策 世界恐慌からの奇跡的な復興』武田知弘〈たけだ・ともひろ〉(祥伝社新書、2009年)/何とナチスドイツは高福祉国家であった。「必読書」入り。『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』、『ファストフードが世界を食いつくす』の後に読むのがよい。学術書ではないこともあって言いわけが目立つのが唯一の難点だ。

 16冊目『大便通 知っているようで知らない大腸・便・腸内細菌』辨野義己〈べんの・よしみ〉(幻冬舎新書、2012年)/腸内細菌入門。わかりやすい文章が頭のよさを窺わせる。便秘気味の女性は必読のこと。ウンコは黒いほど健康状態が悪く、黄色っぽいのがいいそうだよ。あと水に沈むのもよくないらしい。「大便をデザインする」という言葉に痺れる(笑)。