2016-08-31
ラリー・ローゼンバーグ、ウィリアム・ハート
2冊読了。
135冊目『ゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想入門 豊かな人生の技法』ウィリアム・ハート:日本ヴィパッサナー協会監修、太田陽太郎訳(春秋社、1999年)/良書。タイトルに難あり。具体的なヴィパッサナー瞑想については全く書かれていない。また原書タイトルに「Mr.」がないのに「氏」はおかしいだろう。ゴエンカが名前であることを示すならば「師」とすべきである。「ミャンマーに伝わる仏教瞑想の心構え」といった内容である。注目すべきは死後の生命に関する記述で、『時間の終焉 J・クリシュナムルティ&デヴィッド・ボーム対話集』の後に読むのがいいだろう。優れた内容ではあるが日本ヴィパッサナー協会の10日間コース(費用は喜捨)を宣伝する結果となっており、プロパガンダ本であるとの謗りを免れない。呼吸の瞑想についてはラリー・ローゼンバーグがラベリング(膨らむ・縮む)を説くのに対し、ゴエンカ師の場合はただ呼吸を観察するとの相違がある。
136冊目『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ:井上ウィマラ訳(春秋社、2001年)/書き忘れていた。これはオススメ。「悟りとは」の最後に入れた。西洋人を通した仏教翻訳が新たな視点を与えてくれることは少なくない。質量ともに文句なし。
2016-08-30
早瀬利之著『石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』が文庫化
稀代の軍略家として知られる石原莞爾将軍。帝國陸軍の異端児だった関東軍作戦参謀は、満州攻略の作戦を立案しこれを遂行した。本書は貴重な史料や関係者へのインタビューを基に、石原莞爾の最晩年ともいえる東京裁判酒田法廷の模様を紹介し、天才・石原莞爾の思想を炙り出したもの。現代日本に石原在れば……と考えずにはいられない。2013年刊の同タイトル新書を文庫化。
・天才戦略家の戦後/『石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』早瀬利之
2016-08-29
杉田かおる、エドワード・O ウィルソン
1冊挫折、2冊読了。
『道徳性の起源 ボノボが教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール:柴田裕之訳(紀伊國屋書店、2014年)/著者の卑屈さが内容をなし崩しにしている。エドワード・O ウィルソンと内容が重なるだけに残念極まりない。理想的な思い込みが先にあり科学的な姿勢を欠く。牽強付会が捻じれば文章となってわかりにくい。
133冊目『杉田』杉田かおる(小学館、2005年)/びっくりするほど面白かった。詐欺を繰り返す父親、精神の病んだ母親との確執。創価学会で一級の活動家となったものの、池田大作の実像に幻滅し、脱会するまで。そして24時間100kmマラソンが綴られている。誤読しやすいと思われるが著者は創価学会を批判するよりも、忠実に実体験を書いている。「杉田」とのタイトルは父親の姓で既に戸籍も変えたという。中年に差し掛かった女性が過去への訣別を綴る。不思議なことにマラソンで走ったコースは著者に縁のある土地であった。佐藤典雅著『ドアの向こうのカルト 九歳から三五歳まで過ごしたエホバの証人の記録』と併読せよ。姿勢としては杉田かおるの方が上だ。
134冊目『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン:岸由二〈きし・ゆうじ〉訳(思索社、1980年/思索社新装版、1990年/ちくま学芸文庫、1997年)/何とか読了。難解ではあるが挿入されたエピソードはいずれも面白い。生物学者が利他性・道徳の起源を探る。「必読書」と「宗教とは何か?」に入れる予定。利他性という点ではフランス・ドゥ・ヴァールを先に読むべし。宗教だとニコラス・ウェイド著『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』と併読せよ。
2016-08-27
谷本道哉、石井直方、七里和乗、佐々淳行
3冊挫折、3冊読了。
『本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー』養老孟司〈ようろう・たけし〉、竹村公太郎〈たけむら・こうたろう〉(PHP新書、2008年)/地理的側面が強すぎて私の興味に合わなかった。
『自律神経を整える「長生き呼吸」 なぜ呼吸を変えると病気が治るのか?』坂田隆夫(マキノ出版、2016年)/スカスカ本。医学的な説明が少し目を惹いた程度。呼吸法としての内容は乏しい。
『キッチン日記 J・クリシュナムルティとの1001回のランチ』マイケル・クローネン:高橋重敏訳(コスモス・ライブラリー、1999年)/少し前に大野純一訳が出た。古書は法外な値がついていただけに喜んでいるファンも多いことだろう。何となく高橋訳を再読したのだが読むに堪えず。マイケル・クローネンは単なる追っ掛けであり、アイドルに肩入れする少女のような情熱の持ち主で、薄気味悪いこと甚だしい。ただしクリシュナムルティの日常を描いた点では評価できる。新訳も読む気がしない。
130冊目『私を通りすぎたスパイたち』佐々淳行〈さっさ・あつゆき〉(文藝春秋、2016年)/「マドンナたち」よりは面白いが「政治家たち」には劣る。フレデリック・フォーサイスとの友情が描かれている。佐々は大変ダンディな人物である。
131冊目『池田大作 幻想の野望 小説『人間革命』批判』七里和乗〈しちり・わじょう〉(新日本出版社、1994年)/著者は「宗教学者」としか記されていない。「江藤俊介や七里和乗なんていないんです!」との記事を見つけた。赤旗の引用が多いところを見ると、覆面をした共産党関係者の可能性がある。政教分離に関してはやや誤謬があるものの、それ以外は常識的な批判で特に鋭さは感じられない。小説『人間革命』に関する考察を深めれば紙価も高まったことだろう。
132冊目『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』谷本道哉、石井直方〈いしい・なおかた〉(高橋書店、2008年)/ほぼ全頁カラーで1242円は破格。早速、実践している。石原結實〈いしはら・ゆうみ〉を必読書リストから外したのでこれを入れておく。
2016-08-26
ジョルジュ・メリエスへのオマージュ/『ユゴーの不思議な発明』ブライアン・セルズニック
・ジョルジュ・メリエスへのオマージュ
・必読書リスト
それ以来、ユゴーは1日中、うす暗がりの中で時計の手入れをするようになった。ユゴーはいつも、自分の頭の中にもたくさんの歯車や部品が詰まっているような気がして、どんなものであれ、手を触れた機械には親しみを覚えた。駅の時計の仕組みを知るのは楽しかったし、壁の裏の階段をのぼって、だれにも姿を見られることなく、ひそかに時計を調整してまわることに、やりがいを感じてもいた。だが食べるものはろくになく、おじさんにどなられ、へまをするたびに手を叩かれ、ベッドは床だった。
おじさんはユゴーに盗みを教えた。それが何よりいやだった。だがそれしか食べ物を手に入れる方法がないときもある。ユゴーは毎晩のように、声を押し殺して泣きながら眠り、こわれた時計と火事の夢を見た。
【『ユゴーの不思議な発明』ブライアン・セルズニック:金原瑞人〈かねはら・みずひと〉訳(アスペクト、2007年/アスペクト文庫、2012年)】
火事で父親が死んだ。母親は元々いなかった。たった独りとなったユゴー少年はリヨン駅の時計台に住みついた。おじは時計を管理する仕事をしていた。ユゴーはその仕事をやらされた。
子供に読ませる場合は奮発してハードカバー版を買ってあげたい。500ページのうち、何と300ページほどが見開きのイラストである。ま、一種の絵本だと思っていい。まだ映画が誕生したばかりの時代である。身寄りのいないユゴー少年とからくり人形の物語だ。鉛筆(?)で描かれたイラストが映画のカットのようにダイナミックな構図で読者に迫る。2011年にマーティン・スコセッシ監督が映画化した(『ヒューゴの不思議な発明』)。
画風にそれほど魅力はない。目を惹(ひ)きつけるのは構図である。父親が遺したからくり人形をユゴーが修理する。人形は自動書記でメッセージを綴り始める。ここから物語はジョルジュ・メリエス(1861-1938年)へのオマージュとなる。
先に「絵本」と書いた。が、実は違う。イラストは絵コンテであり、無声映画の画面なのだ。既に大友克洋や松本大洋を知っている我々でも、映画草創期の歴史を知れば胸に迫ってくるものがある。小説ではあるがジョルジュ・メリエスに関する記述は史実に基づいている。
ファンタジー的色彩の強い、めくるめく物語の伝統が日本にないのは、やはりキリスト教やヒンドゥー教がなかったためか。天国やブラフマンというイデアへの憧れが書き手の脳内で火花を放つ。それを読み手は花火として鑑賞するのだ。
2016-08-24
アルボムッレ・スマナサーラ、他
2冊挫折、1冊読了。
『知らないと損する給与明細』大村大次郎〈おおむら・だいじろう〉(小学館新書、2016年)/過去の著作と重複する内容が目立つが、賢い奥さんを目指すなら必ず読んでおきたい。税金は多めに徴収されている。
『バカの理由(わけ) 役立つ初期仏教法話12』アルボムッレ・スマナサーラ(サンガ新書、2011年)/無智の解説。無智とは貪瞋癡の「癡」である。散漫な内容だ。
129冊目『的中する生き方 役立つ初期仏教法話10』アルボムッレ・スマナサーラ(サンガ新書、2009年)/道徳について。十悪の解説も。これはオススメ。「役立つ初期仏教法話」はあと13と14があるのだが読むつもりはない。スマナサーラは印税を一切受け取っていないようだ。その辺の新興宗教とは決定的に違う。
2016-08-23
武田邦彦、小室直樹、伊藤貫、佐々淳行、他
14冊挫折、6冊読了。
『私を通りすぎたマドンナたち』佐々淳行〈さっさ・あつゆき〉(文藝春秋、2015年)/『政治家たち』と比べると内容が格段に劣る。
『ソトニ 警視庁公安部外事二課 シリーズ1 背乗り』竹内明(講談社+α文庫、2015年)/登場人物の名前が陳腐すぎて、まるで漫画みたいだ。そのセンスのなさに落胆。
『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』おおたとしまさ(幻冬舎新書、2016年)/サピックス小学部と鉄緑会という私塾が日本の頭脳を担っているらしい。学歴ではなく塾歴の光と闇。
『「慰安婦」問題とは何だったのか メディア・NGO・政府の功罪』大沼保昭(中公新書、2007年)/姿勢のいい左翼か。アジア女性基金の理事という立場が主張をわかりにくくしていると思う。
『オウム的!』小林よしのり、竹内義和(ファングス、1995年)/小林の古い作品は読めた代物ではない。単なる放談。
『歴史問題は解決しない 日本がこれからも敗戦国でありつづける理由』倉山満(PHP研究所、2014年)/文体が肌に合わず。
『無援の抒情』道浦母都子〈みちうら・もとこ〉(雁書館、1980/同時代ライブラリー、1990年/ながらみ書房新装版、2015年)/飛ばしながら半分ほど読む。私が唾棄する全共闘運動の歌集である。知っている歌を確認するために読んだ。どのような世界であれ「生きる現実」がある。主義主張は異なれど共通する感情が通う。青春とは錯誤の異名であろう。そして歳月が錯誤を正すと純粋さが失われる。
『日本史の謎は「地形」で解ける』竹村公太郎〈たけむら・こうたろう〉(PHP文庫、2013年)/竹村は国土交通省河川局長を務めた人物。狙いはいいのだが、思いつきのレベルに感じる。
『日本文明の謎を解く 21世紀を考えるヒント』竹村公太郎〈たけむら・こうたろう〉(清流出版、2003年)/第12章「気象が決める気性」だけ読む。気象変化が激しいために日本人は原則を立てられなかった、という指摘が斬新だ。
『いますぐ読みたい 日本共産党の謎』篠原常一郎〈しのはら・じょういちろう〉、筆坂秀世〈ふでさか・ひでよ〉監修(徳間書店、2009年)/佐藤優が寄稿している。内容も文章も中途半端。創価学会に関する記述が目を惹いた。
『ともしび 被災者から見た被災地の記録』シュープレス編著(小学館、2011年)/「悲しい思い出」を読むのは無駄だと思う。津波てんでんこの言い出しっぺである山下文男が逃げなかったという話には大笑い。いかにも左翼らしい。
『ペリリュー島玉砕戦 南海の小島七十日の血戦』舩坂弘〈ふなさか・ひろし〉(光人社NF文庫、2010年)/文章が冗長なのか、頭に入らず。
『ニッポン核武装再論』兵頭二十八〈ひょうどう・にそはち〉(並木書房、2008年)/専門性が高すぎて読み物としては微妙だ。概念と技術を立て分けて書くべきだと思う。文体に臭みがあって読みにくい。
『日本人が知らない軍事学の常識』兵頭二十八〈ひょうどう・にそはち〉(草思社、2012年/草思社文庫、2014年)/やはり文章が肌に合わない。気取りやポーズがある。
123冊目『彼らが日本を滅ぼす』佐々淳行〈さっさ・あつゆき〉(幻冬舎、2011年)/民主党政権批判の書。一々説得力がある。
124冊目『ほんとに、彼らが日本を滅ぼす』佐々淳行〈さっさ・あつゆき〉(幻冬舎、2011年)/こちらは東日本大震災直後に書かれたもの。記憶を確認するためにも読まれてしかるべきだ。
125冊目『私を通りすぎた政治家たち』佐々淳行〈さっさ・あつゆき〉(文藝春秋、2014年)/いやはや面白かった。佐々の祖父は幕末の志士で後に衆議員となる。父は参議員を務めた。石原慎太郎を持ち上げすぎるきらいがあるが、きちんと根拠を述べている。加藤紘一に事務次官の道を断たれたことも赤裸々に綴る。佐々は武士道の流れを汲む最後の世代か。
126冊目『自滅するアメリカ帝国 日本よ、独立せよ』伊藤貫〈いとう・かん〉(文春新書、2012年)/アメリカの保守層を中心とした要人の発言集といった感がある。確かに自滅しそうだが、その経路は書かれていない。内容は文句なしだが、やや感情の異常さが窺える。「(笑)」はともかく、「(苦笑)」との表記は文筆家として問題がある。しかも苦笑できる内容ではない。伊藤の話し方には妙に甘ったるいところがあり、永六輔のような寄りかかった姿勢を感じる。悪い意味での言文一致といったところか。
127冊目『天皇畏るべし 日本の夜明け、天皇は神であった』小室直樹(ビジネス社、2016年/文藝春秋、1986年『天皇恐るべし 誰も考えなかった日本の不思議』改題、脚註加筆)/天才というべきか、奇才とするべきか。一番相応しいのは鬼才かもしれぬ。小室の力と技は日本人離れしている。「天皇とはキリスト教的神である」と断言するまでに用意周到な根拠を列挙する。ユダヤ教、キリスト教、仏教、儒教、教育勅語、そして栗山潜鋒の『保建大記』。全く関係ないのだが私は本書を読んで、日蓮の『立正安国論』が仏儒習合であることがわかった。崇徳天皇の呪いが末法思想に影響を及ぼした可能性もある。
128冊目『武田教授の眠れない講義 「正しい」とは何か?』武田邦彦(小学館、2013年)/インターネット放送を編んだためか、やや散漫に流れてはいるが十分お釣りがくる内容だ。正しいとは、自分とは別の正しさを知ることである。
2016-08-19
エル・システマとグスターボ・ドゥダメル
近接格闘術のシステマを検索していたところ、「エル・システマ」を知った。
ベネズエラで行われている公的融資による音楽教育プログラムの有志組織であり、1975年に経済学者で音楽家のホセ・アントニオ・アブレウ博士によって「音楽の社会運動」の名の下で設立された。
【Wikipedia】
あのグスターボ・ドゥダメルもエル・システマ出身だという。ドゥダメルの名を一躍有名にした「マンボ」はシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ(25歳以上の青年)の演奏である。クラシック音楽と縁のない人でも十分楽しめる。
貧困は青少年から自信を奪い、ふとしたきっかけで転落することも珍しくない。まして南米の犯罪は銃や麻薬が絡んでくる。ブラジルの映画『シティ・オブ・ゴッド』はストリート・チルドレンの抗争を描いた作品だが実話に基づいている。登場するストリート・チルドレンは全部本物で構成もアドリブ中心だ。
打ち込める何かがあれば青少年は道を踏み外すことはない。好きなものがあれば自暴自棄になることを避けられる。音楽を通した教育活動は長い目で見れば必ずやベネズエラを精神大国としてゆくことだろう。
2016-08-13
鳥居民、養老孟司、マハーシ長老、藤本靖、藤平光一、林えいだい、山本周五郎、他
7冊挫折、8冊読了。
『絶望と歓喜「親鸞」 仏教の思想10』増谷文雄〈ますたに・ふみお〉、梅原猛(角川書店、1970年/角川文庫ソフィア、1996年)
『古仏のまねび「道元」 仏教の思想11』高崎直道、梅原猛(角川書店、1969年/角川文庫ソフィア、1997年)
『永遠のいのち「日蓮」 仏教の思想12』紀野一義〈きの・かずよし〉、梅原猛(角川書店、1969年/角川文庫ソフィア、1997年)/以上でシリーズ全巻終了。初期仏教から鎌倉仏教までを捉える試みはよいと思うが断片的で体系を欠く。梅原の趣味的要素が強いが、1970年前後という時期を思えば、仕事としては評価できる。ただしシリーズ中盤以降の失速は否めない。
『友達の数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学』ロビン・ダンバー:藤井留美訳(インターシフト、2011年)/期待外れ。軽妙だが洒脱ではない文体で好き嫌いが分かれる。
『呼吸で心を整える』倉橋竜哉(フォレスト2545新書、2016年)/パッとしない。
『呼吸法の極意 ゆっくり吐くこと』成瀬雅春(BABジャパン、2005年)/「プラーナ粒子を見る」のところでやめる。神智学会の教義が出てきてびっくりした。
『宇宙論大全 相対性理論から、ビッグバン、インフレーション、マルチバースへ』ジョン・D・バロウ:林一〈はやし・はじめ〉、林大〈はやし・まさる〉訳(青土社、2013年)/100ページほど残してやめた。良書。短いページ数で様々な宇宙論を紹介している。インフレーション・モデルで佐藤勝彦の名前が出てこないのは「やはり」といった印象である。林一・大は親子なのだろうか? 文章が時々おかしくなっている。
115冊目『松風の門』山本周五郎(新潮文庫、1973年)/表題作と「鼓くらべ」が忘れ難い。それにしてもバラエティに富んだ短篇集である。実験的な作品もある。丸山健二に足りないものが全てあるような気がする。
116冊目『証言 台湾高砂義勇隊』林えいだい(草風館、1998年)/良書。高砂隊ものでは一番おすすめ。なんと霧社事件の証言も多い。台湾原住民は理蕃政策・皇民化教育で天皇陛下に忠誠を尽くすようになる。高砂義勇隊は正式な部隊ではなく位も軍属であったが、ジャングル戦で縦横無尽に活躍した。彼らがいなければもっと多くの人々が殺戮されたことだろう。まず証言者の名前が胸を打つ。台湾名・日本名・中国名の三つが記載されているのだ。わずか数十年のうちに翻弄されてきた台湾の運命を思わずにはいられなかった。台湾原住民は部族(社)によって言葉が異なるため、日本語は戦後も使われていた。死ぬまで軍歌を口ずさみ、日本の演歌を愛した人々が多かったという。日本で死んだ精神は台湾に生き残った。
117冊目『氣の呼吸法 全身に酸素を送り治癒力を高める』藤平光一〈とうへい・こういち〉(幻冬舎、2005年/幻冬舎文庫、2008年)/文章がいい。実績も多い。王貞治・高見山・千代の富士といったスポーツ選手が藤平の指導を受けている。呼吸法自体は実に単純で、単純ゆえの難しさがある。呼吸法の概念がよく理解できる。
118冊目『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖(さくら舎、2012年/講談社+α文庫、2016年)/良書。著者は気づいていないようだがヴィパッサナー瞑想に近い。読むだけだとピンと来ないが実際にやってみるとその効果に驚かされる。耳を引っ張るマッサージもよい。
119冊目『ミャンマーの瞑想 ウィパッサナー観法』マハーシ長老:ウ・ウィジャナンダー大僧正訳(国際語学社、1995年/アルマット新装版、2011年)/名(みょう)と色(しき)の関係が初めてわかった。一度挫けたのだが意を決して一気に読んだ。少しずつ実践しているのだが直ぐに飽きてしまう(笑)。悟りの段階がきちんと示されていて目標を設定しやすい。気になったのは2点。一つは集中と書いてあるが、「注意」とすべきだろう。もう一つは「――したい」という念はダメだとスマナサーラ長老が書いている。主観ではなく客観で捉えよ、と。
120冊目『ブッダの集中力 役立つ初期仏教法話9』アルボムッレ・スマナサーラ(サンガ新書、2008年)/集中とはサマタ瞑想のことである。念仏(ブッダの姿を念じる)という発想には疑問が残る。
121冊目『養老孟司特別講義 手入れという思想』養老孟司(新潮文庫、2013年/白日社、2002年『手入れ文化と日本』改題)/手入れとは里山理論である。子育て・自然が講演の共通テーマであるが、情報論・宗教論を盛り込んでいるところが凄い。
122冊目『日米開戦の謎』鳥居民〈とりい・たみ〉(草思社、1992年/草思社文庫、2015年)/評価の難しい本だ。それ相応の知識がなければ鵜呑みにせざるを得ない。「だろう」「はずだ」「違いない」のオンパレードである。ただし、その想像は事実から遠く離れたものではない。鳥居は市井の研究家のようだ。膨大な資料を読み込んで果敢に挑む姿勢には好感が持てる。永野修身〈ながの・おさみ〉を知りたかったのだが、それほど詳しくは書かれていない。徳富蘇峰〈とくとみ・そほう〉が世論に与えた影響の大なるも初めて知った。陸軍と海軍の分裂状態も詳しく描かれている。
2016-08-12
弁護士を信用するな/『証拠調査士は見た! すぐ隣にいる悪辣非道な面々』平塚俊樹
・『桶川ストーカー殺人事件 遺言』清水潔
・弁護士を信用するな
・『実子誘拐ビジネスの闇』池田良子
・必読書リスト
また、これも重要なことだが、弁護士をすぐに信用しないことだ。いまだに日本人はこの職業名に弱いようだが、クズみたいな弁護士が世の中には山ほどいることを知っておいてほしい。
なにしろ、こやつらの悪さは言語に絶する。私も悪いやつはたくさん見てきたが、この地球上で一番悪いのは、ヤクザでもない、詐欺師でもない、間違いなく(悪辣な)弁護士である。これは仕事でつきあいのある警察幹部や探偵、他の弁護士などとも一致した意見だ。これほど人の心をもてあそんで平気でいられる生き物を私は他に知らない。
しかも、その目的がただの金だというのだから、その愚劣さは筆舌につくしがたい。やつらの悪さと比較したら暴力団などはまだ善良……なんていうとまたクレームがきそうだが、そう言いたいほど、鬼畜生にも劣る外道だ。断じて許すことはできない。
【『証拠調査士は見た! すぐ隣にいる悪辣非道な面々』平塚俊樹(宝島社、2012年)】
証拠調査士(エビデンサー)とは「警察や弁護士が手を出せないトラブルの解決に向けて調査をし、証拠を集め、最終的に解決を図る仕事」とのこと。海外ではメジャーな仕事らしい。警察は事件が起こった後でしか動けない。弁護士は正義を証明するわけではない。法律に適っているか違(たが)っているかを争うだけの仕事である。
その弁護士に悪い連中が蔓延(はびこ)っているという。具体的に触れているのは所謂(いわゆる)「別れさせ屋」という仕事で、会社を経営している資産家の夫とその妻がターゲットである。手口としては会社の乗っ取り・カネ・別居状態で莫大な養育費を請求するなど。で、妻に対してイケメンの弁護士・コンサルタント・医師・ベンチャー企業社長を紹介し肉体関係を持たせる。籠絡(ろうらく)された奥方は引くに引けなくなるという寸法だ。紹介した男は性交渉だけが目的のヤリチン野郎だ。
弁護士は既に需給関係が逆転し無職弁護士が増加している。法科大学院制度も失敗した。仕事のない弁護士が悪知恵を働かせる構図はいかにもあり得る。法に精通しているがゆえに彼らの悪徳がやくざを凌駕するのも当然だろう。
本書では証拠調査士が見てきた数々の驚くべき事件が紹介されている。現代社会の危険を知るためにも広く読まれるべき一冊である。
・売春に罰則があるのは管理売春のみ/『紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男』野崎幸助
2016-08-07
「胸に痛みのない心筋梗塞」がある/『臓器の急所 生活習慣と戦う60の健康法則』吉田たかよし
・『心臓は語る』南淵明宏
・「胸に痛みのない心筋梗塞」がある
・『免疫力が10割 腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず』小林弘幸、玉谷卓也監修
・『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』吉田たかよし
・必読書リスト その一
【健康で長生きするための秘訣は、安静にしているときにはしっかり心拍数を下げて、心臓と血管に無理をさせないことです。】そのためにとっておきの方法が、「心臓呼吸法」です。心臓のブレーキである迷走神経は、息を吐いているときに活発に働き、心拍数をより強力に下げてくれます。心臓呼吸法はこうした効果を利用して、息をゆっくり長く吐くことによって心拍数を低く保つというものです。【目安としては、10秒間ほどかけて息を吐くのがおすすめです。】
本当に心拍数が下がっているかどうか、脈を取りながら息を吐いてみるといいでしょう。
【『臓器の急所 生活習慣と戦う60の健康法則』吉田たかよし(角川SSC新書、2009年)以下同】
知っているようで知らないのが自分である。私が知る自分とは鏡に映った顔や心の反応といった表面に限られる。自分の後ろ姿は見たことがないし、心の奥底に何が潜んでいるかは案外わからぬものだ。時折、腕を横に振ったり、ガニ股で走っている人を見掛けることがある。自分の胸元や足元すら見えていないのだろう。まして体の内側ともなれば、とんと見当がつかない。体を自覚するのは異変を感じた時である。
私は三十の頃から酒を呑み始め、気がつくと中年太りになっていた。塵も積もれば山となり、不摂生が積もればデブになる。健康に留意するようになったのは最近のことだ。
知ることは備えることである。体のメカニズムを知れば自ずと生活習慣も変わる。吉田たかよしは東大で量子化学を専攻し、東大大学院で分子細胞生物学を学び、NHKアナウンサーとなる。その後NHKを退職し、北里大学医学部を卒業。加藤紘一元自民党幹事長の公設第一秘書を経て、現在は開業医をしながら東京理科大学客員教授も務める。医学と科学に関してはポスト池上彰になるかもね。中高年は本書を座右に置くべし。
実際にやってみると直ぐわかるが、息を長く吐くと心拍数が遅くなる。哺乳類の一生は心拍数20億回で共通している(『ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学』本川達雄、1992年)。ということは、ゆっくりと呼吸をすれば長生きできる計算になる。また、「心臓は“浪”を通じて体中にメッセージを伝えている可能性もある」(『心臓は語る』南淵明宏、2003年)から、ゆっくりと落ち着いたリズムは好ましいと思う。
これほど、痛みに特徴がある心筋梗塞ですが、大きな例外があります。【心筋梗塞にかかっても4人に1人は胸の痛みがないのです。特に75歳以上の高齢者の場合は、4人に3人が胸に痛みを感じません。】そのため本人は心筋梗塞だと気づかず、手遅れとなって死亡してしまうケースも少なくないのです。
このような場合に備えて、「胸が痛まない心筋梗塞」に関する知識をぜひとも覚えておいてください。【ポイントは、胸以外の場所が痛むこと。特に、左肩が痛みます。また、左腕、アゴ、それに奥歯が痛いということもあります。】
心筋梗塞なのに、心臓ではない部分が痛くなるのは不思議に思われるでしょうが、これには理由があります。一言で言えば、脳がだまされるのです。心臓の痛みを伝える神経は、脊髄(せきずい)に入って脳につながっていきますが、この脊髄に入る場所が肩の痛みを伝える神経と近いため、脳は心臓の痛みを肩の痛みと勘違いすることがあるのです。神経が関連している痛みだから、関連痛といいます。
あな恐ろしや。無知による死といってよい。肉体の痛みですら誤って伝わることがあるのだから、心の痛みはもっと誤謬(ごびゅう)にまみれていることだろう。大病を患(わずら)えば「なぜ私が?」と懊悩する。病気という事実に対して、我々は別の物語を付け加えてしまう。これをブッダは「第二の矢」と名づけた(『ブッダ神々との対話 サンユッタ・ニカーヤI』中村元訳、1986年)。
体が発するメッセージを正しく受け取るために知っておくべきことは多い。
・・鼻うがい/『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修
嘘で滅びゆくアメリカ/『日本人の知らない「クレムリン・メソッド」 世界を動かす11の原理』北野幸伯
・『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日 一極主義 vs 多極主義』北野幸伯
・『隷属国家 日本の岐路 今度は中国の天領になるのか?』北野幸伯
・『プーチン最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?』北野幸伯
・『プーチン 最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?』北野幸伯
・『日本自立のためのプーチン最強講義 もし、あの絶対リーダーが日本の首相になったら』北野幸伯
・嘘で滅びゆくアメリカ
・菅沼光弘
〈「ブッシュ大統領は世界の脅威2位 英紙の世論調査
[ロンドン=本間圭一]ブッシュ米大統領が、北朝鮮の金正日総書記やイランのアフマディネジャド大統領よりも、世界平和の脅威だ――。
3日付の英紙ガーディアンは、世界の指導者で誰が平和への脅威になっているかに関して聞いた世論調査でこうした結果が出たと1面トップで報じた。
調査は、英国、カナダ、イスラエル、メキシコの4か国でそれぞれ約1000人を対象に世論調査機関が実施した。
英国民を対象とした調査によると、最大の脅威とされたのは国際テロ組織アル・カーイダ指導者、ウサマ・ビンラーディンで87%。これに続いてブッシュ大統領が75%で2位につけ、金総書記69%、アフマディネジャド大統領62%を上回った。ビンラーディンは他の3国でもトップとなった。〉(読売新聞2006年11月4日)
「イラク戦争の開戦理由は全部大ウソ」であることを証明した、アメリカ上院報告書は、2006年9月に出されています。そして、2006年11月の世論調査がこれ。
イギリス、カナダ、イスラエル、メキシコ、つまり親米国家で、75%が「ブッシュは平和の脅威だ!」と認識していた。
その他の国々では、もっとひどかったことでしょう。
実際、ブッシュが、「ウソの理由」で、イラク戦争をはじめたことで、アメリカの権威は失墜しました。いえ、「ウソがバレたことで」というべきですね。
【『日本人の知らない「クレムリン・メソッド」 世界を動かす11の原理』北野幸伯〈きたの・よしのり〉(集英社インターナショナル、2014年)以下同】
新聞記事冒頭の【「】が閉じていないが原文通りである。記事内のゴシック表記についても脚註がない。そして相変わらず改行が多い。文章の問題はコミュニケーション能力の問題でもある。膨大な余白の量を思えば価格は1500円以下が望ましいと思う。ネット文体で片づけるわけにはいかない。
ブッシュ大統領やチェイニー副大統領が「イラクは大量破壊兵器を保有している」と繰り返しメディアで訴え、アメリカはイラク攻撃(2003年)に踏み切った。小泉首相が真っ先に手を上げ、「アメリカ支持」を表明したことも記憶に新しい。だがそれは嘘だった。
イラク戦争の真の目的はドル基軸通貨体制を守るためで、フセイン大統領が始めた石油のユーロ決済を阻止することにあった。本書で初めて知ったのだが、プーチン大統領はロシア産資源の決済通貨をドルからルーブルに変えたという。ジョージ・ソロスの財団がNPO法人を通してカラー革命を支援する理由もこのあたりにあるのだろう。外交の舞台裏で行われている「小さな戦争」を日本人は知らなさすぎる。
みなさん、以下の事実をご存知でしょうか?
(1)イランは核兵器を開発する意向を一度も示したことがない。
(2)アメリカも数年前まで、イランには「核兵器を開発する意図がない」ことを認めていた。
(3)核兵器開発が「戦争」の理由であるなら、真っ先に攻撃されるべきはイランではない。
イランのアフマディネジャド大統領を最も危険視した人物に佐藤優がいる。ラジオ番組での解説を聴いて、「やはりイスラエルの代弁者か」と落胆した覚えがある。日本という米英情報ピラミッドの中で犬のように振る舞う学者や専門家だけがテレビ出演を許される。民主政が成熟しないのは、新聞・テレビが多様な意見を伝えないことが大きい。
少しでも世界情勢を知っている人であれば、以下の二つの「絶対的定説」をご存知でしょう?
(1)アメリカがシリア攻撃を検討したのは、アサド大統領の軍が、「化学兵器を使ったから」である。
(2)アサド大統領は、「独裁者で悪」である。反アサド派は、「民主主義社で善」である。
どうでしょう?
ほとんどすべての人が、「そのとおりじゃないか!」と思っていることでしょう。
しかし、この二つの「ウソ」が暴露された。
少なくとも、「反アサド派」に関する「大ウソ」が世界に明らかにされた。
それで、アメリカはシリア攻撃できなくなったのです。
その後、「シリア反体制派がサリンガスを使用した可能性がある」と国連調査委員会が指摘した。更に反アサド派が殺害した政府側軍人の内蔵を食べる映像を公表した。
・18禁:動画
プーチン大統領はアサド政権を支持する。そして反アサド派はイスラム国(ISIS)となって今日に至るまで世界各地でテロを実行している。
嘘で滅びゆくアメリカを日本は他山の石とすることができるだろうか? 難しいと言わざるを得ない。安全保障に関する情報をアメリカに依存している以上、アメリカが日本をコントロールするのは容易だ。まずは愛国心が否定されない程度の「普通の国家」になることが求められよう。
日本人の知らない「クレムリン・メソッド」-世界を動かす11の原理
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北野 幸伯
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2016-08-06
日英同盟を軽んじて日本は孤立/『日本自立のためのプーチン最強講義 もし、あの絶対リーダーが日本の首相になったら』北野幸伯
・『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日 一極主義 vs 多極主義』北野幸伯
・『隷属国家 日本の岐路 今度は中国の天領になるのか?』北野幸伯
・『プーチン最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?』北野幸伯
・日英同盟を軽んじて日本は孤立
・『給食で死ぬ!! いじめ・非行・暴力が給食を変えたらなくなり、優秀校になった長野・真田町の奇跡!!』大塚貢、西村修、鈴木昭平
・『日本人の知らない「クレムリン・メソッド」 世界を動かす11の原理』北野幸伯
・菅沼光弘
第一次世界大戦が始まる時、日本とイギリスは同盟国、イギリスとアメリカは同盟国ではありません。
つまり、日本とイギリスのほうが、米英よりも近い関係にあった。
しかし、第一次世界大戦の態度の違いにより、日英関係は冷え込み、米英は「もっとも重要な同盟国」になってしまいます。
「味方が苦しんでいるのを見捨てた」日本の「武士」らしからぬ行動は、すぐに悪い結果となって現れてきました。
米英は、日本を強く警戒するようになり、以後「日本の力を削ぐ」ことが重要な目標になっていきます。
【1921年、日英同盟破棄が決定】されました。
1922年に締結された「ワシントン海軍軍縮条約」で、日本の戦艦保有は、米英の6割と定められました。
日本は7割を主張しましたが、米英は一体化して、これを拒否しています。
【1923年、日英同盟が失効。】
このように、【日本の孤立は、第一次世界大戦時、日英同盟を軽んじたところから始まった】のです。
【『日本自立のためのプーチン最強講義 もし、あの絶対リーダーが日本の首相になったら』北野幸伯〈きたの・よしのり〉(集英社インターナショナル、2013年)】
改行まみれである(笑)。女子中学生の日記みたいだ。ロシアで失脚したプーチンが日本に柔道留学する。日本の無能な政治家がプーチンにアドバイスを求める。つまりプーチンであればどのような日本の舵取りをするか、とのテーマで国家としての自立を示す内容となっている。
ヨーロッパ列強の中で「栄光ある孤立」を貫いてきた大英帝国が翳(かげ)りを帯びた。日英同盟は大英帝国の覇権が弱まったことを意味した。
同盟の直接的なきっかけとなったのは義和団の乱(1900年)であり、柴五郎とジョージ・アーネスト・モリソンの邂逅(かいこう)が両国を結ぶに至った(『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人、『北京燃ゆ 義和団事変とモリソン』ウッドハウス瑛子)。そしてモリソンは日本とロシアを戦争にまで誘導する(『日露戦争を演出した男 モリソン』ウッドハウス瑛子)。
日英同盟破棄には伏線があった。第一次世界大戦後にパリ講和会議で日本による人種的差別撤廃提案が否決されたことである(1919年)。
・白人による人種差別/『国民の歴史』西尾幹二
19世紀末から日本が歩んだ半世紀を振り返ってみよう。
(1868年 明治元年)
1894-95年 日清戦争
1896年- 欧米豪で黄禍論が台頭 1900年 義和団の乱
1902年 第一次日英同盟
1904-05 日露戦争
1905年 第二次日英同盟
1911年 第三次日英同盟
1921-22年 ワシントン海軍軍縮条約 1921年 四カ国条約 1931年 満州事変
1933年 日本が国際連盟を脱退
1937年 支那事変
1941-45年 太平洋戦争(日本は支那事変を含めて大東亜戦争と称した)
武士が刀を置き、チョンマゲを落として(散髪脱刀令 明治4年/1871年)からわずか23年で戦争に突入した。日本の近代化は文字通り戦争の歴史であった。
幕末の知識人は阿片戦争(1840-42年)に衝撃を受けた。幕府は外国船に対して宥和政策を執らざるを得なくなった。そこに黒船が来航(1853年)する。迫りくる帝国主義に対する国家改造が明治維新であった。日本が遅れて帝国主義の波に乗ろうとした。だが当時の世界はそれを許さなかった。
戦後の日本は安全保障を米軍に肩代わりさせて、まんまと経済発展を遂げた。辛うじて国体は護持したものの国家観を見失った。GHQの占領期間が終わっても尚、自国の歴史を教えることがなかった。日教組の教員は堂々と国旗掲揚を非難し、君が代斉唱を拒んだ。義務教育では戦前を暗黒史として教えた。マルクス史観を貫く進歩というテーマのために古い時代は悲惨と位置づけられた。
日本の領土問題。 pic.twitter.com/h0NpW4Jg0k
— 小野不一 (@fuitsuono) 2016年8月4日
日本の領土問題は北方領土・竹島・尖閣諸島の三つである。GHQが意図的に島嶼(とうしょ)部の扱いを曖昧にして混乱要因を残したという説もある。そして中国・ロシアが領空・領海を日常的に侵犯している。こうした状況にありながら平和憲法にしがみつくのは一種の教条主義であろう。日本の安全を保障してきたのは憲法第9条ではなくアメリカの核の傘であった。理想を見つめるあまり脅威を無視できる人々が多いことに暗澹(あんたん)たる思いがする。彼らにとってはチベットやパレスチナは他人事なのだろう。
1990年代にようやく自虐史観を乗り越える動きが始まり、東日本大震災を通して尊皇の気風が回復しつつある。
しかし、被災地で、また避難先で、今日もなお多くの人が苦難の生活を続けています。特に、年々高齢化していく被災者を始めとし、私どもの関心の届かぬ所で、いまだ人知れず苦しんでいる人も多くいるのではないかと心に掛かります。
困難の中にいる人々一人ひとりが取り残されることなく、一日も早く普通の生活を取り戻すことができるよう、これからも国民が心を一つにして寄り添っていくことが大切と思います。
【東日本大震災5年 追悼式の天皇陛下お言葉全文 2016年3月11日】
このお言葉を政治家は真剣に受け止めているだろうか? 右も左も関係ない。幕末にあって攘夷派も開国派も尊皇という一点は共通していた。日本が世界最古の国(【ギネス認定】日本は世界最古の国)たり得たのは天皇陛下の存在があったからだ。天皇という国家の軸を失えば「日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう」(「果たし得ていない約束」三島由紀夫/サンケイ新聞 昭和45年7月7日付夕刊)という三島の予言が現実のものとなる。
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北野 幸伯
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2016-08-03
ジョン・D・バロウ、他
4冊挫折、1冊読了。
『ブッダの脳 心と脳を変え人生を変える実践的瞑想の科学』リック・ハンソン、リチャード・メンディウス:菅靖彦訳(草思社、2011年)/狙いはいいのだが力及ばずといったところ。半分ほど読んだが自我を肯定しているため心理学レベルの療法にとどまっている。それでも新しい表現があって参考にはなる。
『がんが自然に治る生き方 余命宣告から「劇的な寛解」に至った人たちが実践している9つのこと』ケリー・ターナー:長田美穂訳(プレジデント社、2014年)/キレとコクを欠く。悪い本ではない。
『千日の瑠璃 究極版(上)』丸山健二(求龍堂、2014年)/厳密に比較したわけではないのだが文章が長くなっているように感じた。「究極版」との尊大なタイトルの割には冗長さしか感じない。しかも旧版はウェブ上で公開されており、わざわざ改行を増やして2000ページにした意味が不明だ。巻末に加えられた詩的な文章もかつての丸山と比べると澱みがある。求龍堂からは古い作品が陸続と増刷され、眞人堂では「丸山健二文学賞」なるものまでできた。古いファンからすれば、やや不思議なスポンサーシップである。丸山が強気なのはこうしたパトロンの存在もあるのだろう。個人的に『千日の瑠璃』は好きな作品なのだが、多くのファンからは見限られた。究極版とはいうものの文章に誤りがある。
『科学vs.キリスト教 世界史の転換』岡崎勝世〈おかざき・かつよ〉(講談社現代新書、2013年)/三部作の最終章。読み物としての山場に欠ける。機会があれば読み直すつもりである。
114冊目『宇宙が始まるとき』ジョン・D・バロウ:松田卓也訳(草思社、1996年)/「ジョン・バロウ」と表記されているが多分『無の本 ゼロ、真空、宇宙の起源』と同じ著者だろう。“なお、訳書の名義は「ジョン・D・バロウ」、「ジョン・バロウ」、「J.D.バロー」など、出版社ごとに異なる”(Wikipedia)。出だしは易しいのだが、あっという間に難解な領域に踏み込む。その手並みが鮮やか。松田の訳もこなれていておすすめ。時間論と人間原理についての言及もある。
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