2011-06-12
キリスト教を知るための書籍
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・必読書リスト
・『地下足袋の詩(うた) 歩く生活相談室18年』入佐明美
・『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』町山智浩
・『科学と宗教との闘争』ホワイト
・『思想の自由の歴史』J・B・ビュァリ
・『魔女狩り』森島恒雄
・『奇跡を考える 科学と宗教』村上陽一郎
・『聖書vs.世界史 キリスト教的歴史観とは何か』岡崎勝世
・『世界史とヨーロッパ』岡崎勝世
・『科学vs.キリスト教 世界史の転換』岡崎勝世
・『「私たちの世界」がキリスト教になったとき コンスタンティヌスという男』ポール・ヴェーヌ
・『殉教 日本人は何を信仰したか』山本博文
・『黄金旅風』飯嶋和一
・『出星前夜』飯嶋和一
・『青い空』海老沢泰久
・『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新
・『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』小室直樹
・『完全教祖マニュアル』架神恭介、辰巳一世
・『現代版 魔女の鉄槌』苫米地英人
・『イエス』ルドルフ・カール・ブルトマン
・『宗教の倒錯 ユダヤ教・イエス・キリスト教』上村静
・『〈私〉だけの神 平和と暴力のはざまにある宗教』ウルリッヒ・ベック
・『仏教とキリスト教 イエスは釈迦である』堀堅士
・『イエス・キリストは実在したのか?』レザー・アスラン
・『仁義なきキリスト教史』架神恭介
・『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス
・『生活の世界歴史 9 北米大陸に生きる』猿谷要
・『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観』ダニエル・L・エヴェレット
・『宗教は必要か』バートランド・ラッセル
・『死生観を問いなおす』広井良典
・『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人
・『精神の自由ということ 神なき時代の哲学』アンドレ・コント=スポンヴィル
・『神は妄想である 宗教との決別』リチャード・ドーキンス
・『解明される宗教 進化論的アプローチ』 ダニエル・C・デネット
・『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド
・『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー
・『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」が生まれたとき』山極寿一、小原克博
・『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクション第2巻』竹山道雄:平川祐弘編
・『みじかい命』竹山道雄
・『いかにして神と出会うか』J・クリシュナムルティ
エドワード・S・カーティス
1冊読了。
36冊目『ネイティヴ・アメリカンの教え』写真=エドワード・S・カーティス:井上篤夫訳(ランダムハウス講談社文庫、2007年)/10分で読了。924円は高い。だが彼らの風貌を目撃し、大地の中から生まれた言葉に接することを思えば値段は気にならない。ネイティヴ・アメリカンが自分のことを「インディアン」と呼ぶ哀しさ。それでも尚、先祖の教えを奉じ、大自然と共に生きた。ヨーロッパから流れ着いたキリスト者が彼らを虐殺した。宮崎駿〈みやざき・はやお〉が国債的な評価を受けていることを踏まえれば、アニミズム復興は可能だと思う。アニミズムはキリスト教思想を解体する有効な手段の一つであると私は考える。
2011-06-11
宗教的ユートピアを科学的ディストピアとして描く/『絶対製造工場』カレル・チャペック
・『「絶対」の探求』バルザック
・宗教的ユートピアを科学的ディストピアとして描く
・『木曜の男』G・K・チェスタトン
カレル・チャペックを初めて読んだ。私は長らく「庭仕事をやっているオヤジだろ?」くらいに思っていた。20代で刻印された先入観はそう簡単に消えるものではない。その後、「ロボット」という言葉をつくったのがチャペックであることを知った。
本書はバルザック著『「絶対」の探求』に対するオマージュである。
物語の後半が失速していて文学性や作品の完成度はバルザックに及ばないが、「絶対」というテーマを別角度から照らしていて一読に値する。脳機能を司る理性と感情は、外へこぼれ落ちて科学と宗教となる。人間が絶対や真理を求めずにいられないのは脳が二つに割れているためだ、というのが私の持論である。
カレル・チャペックの柔軟さにベルトルト・ブレヒトと相通ずるものを感じた。
・人間を照らす言葉の数々/『ブレヒトの写針詩』岩淵達治編訳
チェコスロバキアと東独が隣り合っていたことと関係しているのだろうか? ただし文化的な共通点は少ないようだ。
・チェコとドイツは人々も建物もなんとなく似ているように見えるのですが、具体的にどの辺が違うのでしょうか?
硬い性質はわかりやすいものの反発力に変化がない。柔軟さの奥深いところは、ぶつかった力を受け入れた後に反動を加えて投げ返すところだ。チャペックやブレヒトには弓や鞭のような精神のしなやかさがある。この弾力性がユーモアの源だ。
発明
収益性の非常に高い、どの工場にも好適のもの 個人的理由により即時売却――問い合わせ先ブジェヴノフ 1651 R・マレク技師
【『絶対製造工場』カレル・チャペック:飯島周〈いいじま・いたる〉訳(平凡社ライブラリー、2010年)以下同】
新聞広告にボンディの目が留まる。マレクは青年時代の親友であった。
「(※現代技術の問題が)ビジネスだなんて全然ちがうよ、わかるか? 燃焼だ! 物質の中に存在する熱エネルギーの完全な燃焼だ! 考えてみろよ、石炭からは燃焼可能なエネルギーの、ほんの10万分の1しか燃やしていないんだよ! ちゃんとわかってるか?」(マレク)
戯曲『ロボット(R.U.R.)』が1920年、その次に発表されたのが本書で1922年(大正11年)のこと。オットー・ハーンが原子核分裂を発見したのは1938年である。カレル・チャペックは明らかに原子力発電の可能性を見越していた。正真正銘のサイエンス・フィクションといってよい。しかもハードSF。
「聞いてるかい、ボンディ? あれは何十億も何千億もの金をもたらすぞ。でもその代わり、良心に対する恐ろしい害毒を引き受けなきゃならない。覚悟しろよ!」
「ぼくの完全カルブラートルは、完全に物質を分解することで、副産物を作り出す――純粋な、束縛されぬ【絶対】を。化学的に純粋な形の神を。言ってみれば、一方の端から機械的なエネルギーを、反対の端から神の本質を吐き出すのだ。水を水素と酸素に分解するのとまったく同じさ。ただ、それよりおそろしく大規模なだけだ」
原子力発電の着想もさることながら、有害物質ではなく有益物質としたところにチャペックの卓抜したアイディアが光る。厳密にいえば有益というよりは、多幸症(ユーフォリア)を惹き起こす物質であった。
「ぼくは信じているが、科学は神を一歩一歩閉め出している、あるいは少なくとも、神の顕現を制限している。そしてそれが、科学の最大の使命だとぼくは信じる」
マレクは自ら製造したカルブラートルに対して否定的だった。幸福が「状態」を意味するのであれば、棚ぼた式の啓示や悟りでも一向に構わないはずだ。しかしマレクは飽くまでも科学的真理を求めた。
「でも想像してみろよ、たとえば、本当にどんな物質の中にも神が存在すること、物質の中になんらかのやり方で閉じ込められていることを。そしてその物質を完全に破壊すれば、神はぱりっとした格好で飛び出すのだ。神は完全に解放されたようになる。物質の中から、まるで石炭から石炭ガスが蒸発するように蒸発する。原子を一つ燃焼させれば、地下室いっぱいの【絶対】が一気に得られる。【絶対】があっと言う間に広がるのには、びっくりするぜ」
目に見えぬ放射能のように絶対は拡散する。信仰者が目指す理想を状況として描くことで、チャペックは宗教の安易さを暴き立てている。つまり宗教的ユートピアを科学的ディストピアとして描画(びょうが)したのだ。まさに天才的手法。
「その間に、地下室にあの大きなカルブラートルを設置して、稼働させた。きみに話したように、もう6週間、昼も夜も動いている。そこではじめて、【こと】の全容を認識した。その日のうちに地下室には【絶対】が満ちあふれて裂けんばかりになり、家の中全体を徘徊しはじめた。いいかい、純粋な【絶対】はどんな物質にも浸透してくるんだ。固い物質の場合は少しゆっくりだがね。大気の中では光と同じくらい速く拡散する。ぼくが地下室へ入って行った時は、きみ、まるで発作のように襲ってきた。ぼくは大声でわめいた。逃げ出すだけの力が、どこから湧いたのかわからない。それからここ、上の部屋で、全部のことをよく考えた。最初の考えでは、それは新しい、気分を高揚させるさせるガスかなにかで、物質の完全燃焼から生じたのだ、ということだった。そこで、外からあの空調機を取り付けさせた。3人の工事人のうち2人が作業中に啓示を受け、幻影を見た。3人目はアル中だったから、たぶんそのせいでいくらか免疫があったのだろう。それはただのガスだ、と信じていた間は、それについていろいろ実験をした。興味深いことに、【絶対】の中では、どの光もずっと明るく燃える。【絶対】を梨の形のガラス器に密封できれば、電球にしたいところだがね。だが彼は、この上なく厳重に閉じられたどんな容器からでも蒸発してしまう。だからぼくは、彼は一種の超放射能物質だろうと考えた。しかし、電気の軌跡は一切ないし、感光板にもなんの痕跡もない。3日目には、家の管理人をサナトリウムに送らなきゃならなかった。管理人は地下室のうえに住んでたんだよ、それにその妻も」
「どうしたんだい?」ボンディ氏は尋ねた。
「人が変わってしまったんだ。霊感を受けて。宗教的な説教し、奇跡を行なった。その妻は預言者になった」
大笑い。失礼。私が読んだのは福島の原発事故が起こる前だったのだ。許せ。
スピリチュアル系の連中を嘲り笑うような場面である。現実離れした平和主義者も同じ俎(まないた)の上に載っている。
マレクが逃げ出した姿が、映画『トゥルーマン・ショー』のラストシーンと重なり合う。自由が一切の束縛を拒絶するものであるならば、麻薬的な幸福感は隷属を意味する。
チャペックは更に宗教を絡める。
「それはまちがってますよ、あなた」祝聖司教は快活に叫んだ。「まちがってますよ。教義(ドグマ)の欠けた学問はただの懐疑の集積です。もっと悪いのは、あなた方の【絶対】が教会の法律に反することです。真正さについての教えに対する抵抗です。教会の伝統を無為にするものです。三位一体の教えに対する乱暴な侵犯です。聖職者たちの使徒的な服従の無視です。教会の悪魔払い(エクソシズム)にさえも従わない、その他もろもろ。要するに、われわれが断固として拒否せねばならない振る舞いをしているのです」
それまでは教会の専売特許であった啓示が工場で大量生産されるようになったのだから大変だ(笑)。ただし教会には神学という武器があるから理屈をこねくり回すのには事欠かない。彼らは現実よりもバイブル(聖書)を重んじるのだ。
そしてほんのわずかな記述ではあるのだが、フリーメイソンや神智学協会まで出てくる。恐るべき見識である。
悪のない世界を描いたものとしては、福永武彦の「未来都市」(『廃市・飛ぶ男』所収)という作品があるが、両者に通い合うのは破壊の調べだ。
カレル・チャペックは「絶対」という価値観に巣食うファシズム性をものの見事に暴いてみせた。
・『カレル・チャペックの世界』
・カレル・チャペック『絶対製造工場』
・フリーメイソン
多幸症(ユーフォリア)
多幸症とは、常識的には幸せに感じないことに対して、何もかも幸せに感じてニコニコしている不自然な上機嫌をいう。精神症状のひとつ。躁うつ病や認知症の症状として現れることが多い。また、男性ホルモンや副腎皮質ホルモン使用の副作用として現れることもある。
【『介護福祉士 基本用語辞典』田中雅子監修、エディポック編(エクスナレッジ、2007年)】
・バブル時代の多幸症(ユーフォリア)/『戦争と罪責』野田正彰
・宗教的ユートピアを科学的ディストピアとして描く/『絶対製造工場』カレル・チャペック
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