「不可触民虐待は少しも改まっていないのをあなたもすでに知ったはずです。
この国の不可触民は今もなお“農奴”だ、ということも、ね。
われわれが不可触民の唯一、かつ真に偉大な指導者と認める
アンベードカル博士の例をみてごらんなさい。
彼は、初代法務大臣として、インド憲法を創設していながら、ガンジーイズム批判者の最右翼の一人として結局国民会議派から追い出されました。国民会議派支配即ちブラーミン・カーストヒンズー支配下のインドでは終始黙殺されています。
ネルーの、かの有名な『インドの発見』という本の中には、アンベードカルのアの字も見当りません。(中略)
アンベードカル博士は、いうなれば、不可触民階級の“
ジンナー”だったのです。彼が不可触民に分離選挙制度を設けることを主張したとき、ガンジーがお得意の
“死の”ハンガーストライキで反対し、結局阻止してしまいました。
ジンナー同様、裏切り者、分裂主義者のレッテルを貼られたアンベードカル博士の最大の罪は、一億の不可触民を、独立の名においてカーストヒンズーの犠牲にすることを最後まで拒否した、ということなのです。
だからこそ、われわれは彼を尊敬し、彼の思想の忠実な弟子であることに誇りをもっているのです」
【『
不可触民 もうひとつのインド』山際素男〈やまぎわ・もとお〉(三一書房、1981年/光文社知恵の森文庫、2000年)】
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合衆国憲法とブッカー・T・ワシントンとジョン・デューイ/『不可触民の父 アンベードカルの生涯』 ダナンジャイ・キール