2013-11-28

60年前の赤ちゃん取り違えに思う


 3800万円――これが60年間にわたって失われた「何か」の対価であった。

 原告の実の両親は取り違えの事実を知らないまま他界しており、判決(で宮坂昌利裁判長)は「生活環境の格差は歴然としており、男性は重大な不利益を被った。真の親子の交流を永遠に絶たれた両親と男性の喪失感や無念は察するに余りある」と述べた。(読売新聞 2013年11月27日)

 原告の60歳男性はどのような人生を歩んできたのだろうか?

 2歳の時に養父が死亡。1人の子供は死亡したが、養母は生活保護を受けながら女手一つで原告ら3人の子供を育て上げた。一家が暮らす6畳の部屋には、当時、他の家庭に普及しつつあった家電製品は何一つなく、2人の兄は中学卒業後、すぐに働き始めた。(産経新聞 2013年11月27日)

 男性は、中学卒業と同時に町工場に就職。自費で定時制の工業高校に通った。今はトラック運転手として働く。
 取り違えられたもう一方の新生児は、4人兄弟の「長男」として育ち、不動産会社を経営。実の弟3人は大学卒業後、上場企業に就職した。(毎日新聞 2013年11月27日)

 そうした数々の苦労が「新生児取り違え」に端を発していると考えられる。

「違う人生があったとも思う。生まれた日に時間を戻してほしい」(毎日新聞 2013年11月27日)

 原告の60歳男性はこう語った。不幸な事件である。赤ちゃん取り違えは今に始まったことではないが。

 一方15分後に生まれて裕福な家に送られてしまった男性はどうなのか? 当然、「生まれた日に時間を戻して」ほしくないはずだ。何もなければフラットな人生であったとすれば、マイナスとプラスは釣り合うはずだ。とすると裁かれたのは貧困であったのだろうか? 多分そうなのだろう。「失われた機会」といえば聞こえはいいが、結局のところ「貧しさは罪である」ということになる。

 もっとわかりやすく述べよう。15分後に生まれた裕福男性が同病院を訴えた場合、果たして賠償金はいくらになるのか? 数学的に考えれば「3800万円-実の両親と過ごすことのできなかったことに対する金額」を原告に支払えと命じることになりそうなものだが……。

 だが、訴訟を起こさなくても裕福男性には不幸の影が忍び寄っていた。

 交わることのなかった2家族の運命が動いたのは平成20年。実弟3人が「兄」とされてきた男性を相手取り、自分たちの両親との間に親子関係がないことを確認する訴訟を起こした。(産経新聞 2013年11月2日)

 ただ単にDNA鑑定で済まなかったのは相続か何かが絡んでいるような気がする。しかも60歳男性の訴訟は、

 実弟3人とともに病院側に約2億5000万円の損害賠償を求めた訴訟(毎日新聞 2013年11月27日 大阪朝刊)

 であった。

 人間は物語を生きる動物である。それは「不幸な物語」と「幸福な物語」に大別される。60年前に入れ替わったのは不幸と幸福であった。その事実を知ったことで60歳原告男性のリアルな過去は完全に否定された。ここに正真正銘の不幸がある。

 判決そのものに異論はないが、「人間は環境に支配される動物である」と言われているような気がして腑に落ちないものがある。取り違えがなければもっと幸せな人生を送れたはずだ、というのは空想に過ぎない。取り違われたおかげで交通事故死しなくて済んだのかもしれないし、事件に巻き込まれて殺害されずに済んだのかもしれない。もちろんこれまた空想だ。だが実際のことは誰にもわからない。

 不幸は、そう判断することによって生まれるのだろう。幸福もまた。

2013-11-27

ザビエルも困った「キリスト教」の矛盾を突く日本人


聖書と「甘え」 (PHP新書)

マスコミが報じない原発の本質的問題~ローマクラブの責任


 動画タイトルが悪い。出所不明。ラジオ放送か。苫米地とDJの話は必聴のこと。何と東京MXテレビだった(※動画を差し替えた)。今井雅之も中々侮れない。さすが元自衛官だけのことはある。



原発洗脳 アメリカに支配される日本の原子力

スペイン人開拓者によるインディアン惨殺/『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス


『奴隷船の世界史』布留川正博
『奴隷とは』ジュリアス・レスター
『砂糖の世界史』川北稔

 ・ラス・カサスの立ち位置
 ・スペイン人開拓者によるインディアン惨殺
 ・天然痘と大虐殺

『生活の世界歴史 9 北米大陸に生きる』猿谷要
『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン
『人種差別から読み解く大東亜戦争』岩田温

キリスト教を知るための書籍
必読書リスト その四

 ラス・カサスの報告書はスペインに反感を抱く連中に政治利用される。それは「黒い伝説」となって欧州を席巻した。

黒い伝説
アメリカの古典文明~スペインの黒い伝説
ラス・カサス著「インディアスの破壊についての簡潔な報告」:千田孝之
「インディアスにおける福音宣教 多様な問題に関する宣教師たちの見解の相違」谷川義美(PDF)

 この他「自虐史観は国を衰亡させる」(藤岡信勝公式サイト)も参照したが印象のみで具体的な事実を欠いている。

 本書を翻訳した染田秀藤の見解については千田氏が紹介している。尚、谷川氏のテキストは長文のため私はまだ部分的にしか目を通していない。「ユカイ文書」も検索してみたが情報らしい情報が見当たらなかった。

 個人的には16世紀のキリスト世界で宣教師がデタラメを報告できるとは考えにくい。折しも魔女狩りの嵐が吹き荒れた時代である。スペインはカトリック国であったためドイツやフランスほどの惨状ではなかったが、中世ヨーロッパの公共がキリスト教会であった事実を思えば藤岡の指摘は的外れであろう。

 またラス・カサス以前にインディアンに対するスペイン人の非道を指摘した人物が存在した。そしてラス・カサスが良心の呵責を覚え、改心に至るまで2年ほどの歳月を要したことにも心をとどめる必要がある。それはまさしくラス・カサス本人がインディアンを人間として見つめることができるようになった期間を示すものだろう。

 征服(コンキスタ)は死罪に値いする大罪であり、恐しい永遠の責め苦を負うのにふさわしい企てであります。

【『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス:染田秀藤〈そめだ・ひでふじ〉訳(岩波文庫、1976年/改訂版、2013年)以下同】

 この一言が同胞を敵に回すことは重々覚悟の上で彼はペンを執(と)ったに違いない。どちらが神意にかなっているか勝負を決そうではないか、との気魄が伝わってくる。

 ラス・カサスがアメリカで目の当たりにした光景は凄惨を極めた。

 インディオたちの戦いは本国〔カスティーリャとレオン本国〕における竹槍合戦か、さらには、子供同士の喧嘩とあまり変りがなかった。キリスト教徒たちは馬に跨り、剣や槍を構え、前代未聞の殺戮や残虐な所業をはじめた。彼らは村々へ押し入り、老いも若きも、身重の女も産後間もない女もことごとく捕え、腹を引き裂き、ずたずたにした。その光景はまるで囲いに追い込んだ子羊の群を襲うのと変りがなかった。
 彼らは、誰が一太刀で体を真二つに斬れるかとか、誰が一撃のもとに首を斬り落とせるかとか、内蔵を破裂させることができるかとか言って賭をした。彼らは母親から乳飲み子を奪い、その子の足をつかんで岩に頭を叩きつけたりした。また、ある者たちは冷酷な笑みを浮べて、幼子を背後から川へ突き落とし、水中に落ちる音を聞いて、「さあ、泳いでみな」と叫んだ。彼らはまたそのほかの幼子を母親もろとも突き殺したりした。こうして、彼らはその場に居合わせた人たち全員にそのような酷い仕打ちを加えた。  さらに、彼らは漸く足が地につくぐらいの大きな絞首台を作り、こともあろうに、われらが救世主と12人の使徒を称え崇めるためだと言って、13人ずつその絞首台に吊し、その下に薪をおいて火をつけた。こうして、彼らはインディオたちを生きたまま火あぶりにした。また、インディオの体中に乾いた藁を縛り、それに火をつけて彼らを焼き殺したキリスト教徒たちもいた。

 何たる無残。事実は小説よりも奇なり。そして小説よりも恐ろしいのだ。人間は面白半分で人殺しができる動物なのだ。

(※火あぶりにされた)彼らは非常に大きな悲鳴をあげ、司令官(カピタン)を悩ませた。そのためか、安眠を妨害されたためか、いずれにせよ、司令官(カピタン)は彼らを絞首刑にするよう命じた。ところが、彼らを火あぶりにしていた死刑執行人(私は彼の名前を知っているし、かつてセビーリャで彼の家族の人と知り合ったことがある)よりはるかに邪悪な警吏(アルグワシル)は絞首刑をよしとせず、大声をたてさせないよう、彼らの口の中へ棒をねじ込み、火をつけた。結局、インディオたちは警吏(アルグシワル)の望みどおり、じわじわと焼き殺されてしまった。
 私はこれまでに述べたことをことごとく、また、そのほか数えきれないほど多くの出来事をつぶさに目撃した。キリスト教徒たちはまるで猛り狂った獣と変らず、人類を破滅へ追いやる人びとであり、人類最大の敵であった。

Bartolomedelascasas

 キリスト教徒たちは彼らを狩り出すために猟犬を獰猛(どうもう)な犬に仕込んだ。犬はインディオをひとりでも見つけると、瞬く間に彼を八つ裂きにした。また、犬は豚を餌食にする時よりもはるかに嬉々として、インディオに襲いかかり、食い殺した。こうして、その獰猛な犬は甚だしい害を加え、大勢のインディオを食い殺した。
 インディオたちが数人のキリスト教徒を殺害するのは実に稀有なことであったが、それは正当な理由と正義にもとづく行為であった。しかし、キリスト教徒たちは、それを口実にして、インディオひとりがひとりのキリスト教徒を殺せば、その仕返しに100人のインディオを殺すべしという掟を定めた。

 暴力は人類の業病(ごうびょう)なのか。魔女狩り、黒人奴隷、そしてインディアン虐殺……。ヨーロッパの暴力はキリスト教に由来しているとしか考えようがない。そのヨーロッパ文明が先進国基準である以上、世界はいつまでも戦争の連鎖にのた打ち回ることだろう。

 平和的な民族は淘汰される運命にある。これ以上の歴史の皮肉があるだろうか。私が人権という概念を信じないのは、それが殺戮者であるヨーロッパ人によってつくられたものであるからだ。

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2013-11-26

大田俊寛、井波律子、中野美代子、E・L・カニグズバーグ


 4冊挫折。

現代オカルトの根源 霊性進化論の光と闇』大田俊寛(ちくま新書、2013年)/期待外れであった。期待が大きかっただけに残念無念。筆が慎重すぎてスピード感に欠ける。フレデリック・ルノワール著『仏教と西洋の出会い』(2010年)の後で本書を出す意味を見出だせない。どうせ書くなら霊性進化論(スピリチュアリズム)とニューエイジの相関関係をテーマとすべきだ。

中国の五大小説(上) 三国志演義・西遊記』井波律子〈いなみ・りつこ〉(岩波新書、2008年)/好著。ただ単に我が人生の時間不足で挫折。尚、下巻は「水滸伝・金瓶梅・紅楼夢」を取り上げている。

西遊記(一)』中野美代子訳(岩波文庫、1977年)/実に読みやすく、漢詩の訳にも工夫が施されている。挫けたのは上と同じ理由による。全10冊を読むだけの時間がない。いやあ大失敗。20代、30代で読んでおくべきだった。孫悟空の破天荒な暴れっぷりが凄い。

クローディアの秘密』E・L・カニグズバーグ:松永ふみ子訳(岩波少年文庫、2000年)/翻訳が素晴らしい。ツイッターでもお薦めしたのだがダメだった。「貸し洗たく機屋」の件(くだり)でやめた。結局この姉弟は資本主義の申し子なのだ。お金を持って家出をし、食堂を利用し、ニューヨークのメトロポリタン美術館で眠る。これでは先進国にしか通用しない物語だろう。松永の文章は少々古めかしいが、それがまた味わいを深くしている。尚、カニンズバーグ本人によるイラストが秀逸。化学教師とは思えないほど。