2014-06-08

信ずることと知ること/『学生との対話』小林秀雄:国民文化研究会・新潮社編


『小林秀雄全作品 25 人間の建設』小林秀雄
『小林秀雄全作品 26 信ずることと知ること』小林秀雄

 ・信ずることと知ること

 僕は信ずるということと、知るということについて、諸君に言いたいことがあります。信ずるということは、諸君が諸君流に信ずることです。知るということは、万人の如く知ることです。人間にはこの二つの道があるのです。知るということは、いつでも学問的に知ることです。僕は知っても、諸君は知らない。そんな知り方をしてはいけない。しかし、信ずるのは僕が信ずるのであって、諸君の信ずるところとは違うのです。現代は非常に無責任な時代だといわれます。今日のインテリというのは実に無責任です。例えば、韓国の或る青年を救えという。責任を取るのですか。取りゃしない。責任など取れないようなことばかり人は言っているのです。信ずるということは、責任を取ることです。僕は間違って信ずるかも知れませんよ。万人の如く考えないのだから。僕は僕流に考えるんですから、勿論間違うこともあります。しかし、責任は取ります。それが信ずることなのです。信ずるという力を失うと、人間は責任を取らなくなるのです。そうすると人間は集団的になるのです。自分流に信じないから、集団的なイデオロギーというものが幅をきかせるのです。だから、イデオロギーは常に匿名です。責任を取りません。責任を持たない大衆、集団の力は恐ろしいものです。集団は責任を取りませんから、自分が正しいといって、どこにでも押しかけます。そういう時の人間は恐ろしい。恐ろしいものが、集団的になった時に表に現れる。本居宣長を読んでいると、彼は「物知り人」というものを実に嫌っている。ちょっとおかしいなと思うくらい嫌っている。嫌い抜いています。
 彼の言う「物知り人」とは、今日の言葉でいうとインテリです。僕もインテリというものが嫌いです。ジャーナリズムというものは、インテリの言葉しか載っていないんです。あんなところに日本の文化があると思ってはいけませんよ。左翼だとか、右翼だとか、保守だとか、革新だとか、日本を愛するのなら、どうしてあんなに徒党を組むのですか。日本を愛する会なんて、すぐこさえたがる。無意味です。何故かというと、日本というのは僕の心の中にある。諸君の心の中にみんなあるんです。会を作っても、それが育つわけはないからです。こんな古い歴史を持った国民が、自分の魂の中に日本を持っていない筈がないのです。インテリはそれを知らない。それに気がつかない人です。自分に都合のいいことだけ考えるのがインテリというものなのです。インテリには反省がないのです。反省がないということは、信ずる心、信ずる能力を失ったということなのです。(「講義 信ずることと知ること」昭和49年8月5日 於・鹿児島県霧島)

【『学生との対話』小林秀雄:国民文化研究会・新潮社編(新潮社、2014年)以下同】

 私が書き起こしたもの(集団行動と個人行動/『瞑想と自然』J・クリシュナムルティ)と比べると微妙に違うが、まあよしとしよう。小林秀雄の講演CDを聴いた者なら本書を待ち望んでいたことだろう。

 国民文化研究会が主催した「全国学生青年合宿教室」(4泊5日)に小林は5回参加している。

 実をいえば、この講義がこうしていまも聴けるということは、奇跡にちかいことなのです。小林秀雄は、講演であれ、対話・座談の類であれ、自分の話を録音することは固く禁じていました。(中略)小林が録音を禁じた理由のひとつは、自分の知らないところでそれが勝手に使われ、書き言葉ではない話し言葉をもとに小林秀雄論など書かれたりしては困るからです。(池田雅延)

 小林はとにかく遠慮を知らぬ男で、酔っ払って正宗白鳥に絡んだり、対談で柳田國男を泣かせたりしている(『直観を磨くもの 小林秀雄対話集』)。

 講演CDの白眉をなすのが「信ずることと知ること」である。個と普遍、感情と理論を見事に語り切ってあますところがない。しかもそれを集団の力と結びつけることで個の喪失をも暴き出している。小林は「私」(わたくし)を重んじた。「信ずる心、信ずる能力を失った」という指摘は新興宗教にも向けられたものだ。小林が創価学会池田大作と会ったのは昭和46年(1971年)のこと。

 現代社会は信じる力も知る力も弱まった。どちらも強制されているためであろう。我が子がいじめられていた事実を自殺した後で親が初めて気づくような時代である。子が親を信じることもできず、親が子を知ることもない恐ろしさ。

 逆説的ではあるが信じる力は疑うことで養われる。懐疑を経ていない信は脆弱(ぜいじゃく)なものだ。信と疑は真偽に通じ、これを峻別することで感性が磨かれる。薄っぺらい信と知は軽薄な生き方を示すものだ。

学生との対話小林秀雄講演 第2巻―信ずることと考えること [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 2巻)小林秀雄全作品〈26〉信ずることと知ること脳と仮想 (新潮文庫)小林秀雄講演 第1巻―文学の雑感 [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 1巻)小林秀雄講演 第3巻―本居宣長 [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 3巻)現代思想について―講義・質疑応答 (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第4巻)小林秀雄講演 第5巻―随想二題 本居宣長をめぐって [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 5巻)小林秀雄講演 第6巻―音楽について [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 6巻)小林秀雄講演 第7巻―ゴッホについて/正宗白鳥の精神 [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 7巻)小林秀雄講演 第8巻―宣長の学問/匂玉のかたち [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 8巻)

「長嶋茂雄っぽい感じ」とプラトンのイデア論/『脳と仮想』茂木健一郎
政党が藩閥から奪った権力を今度は軍に奪われてしまった/『重光・東郷とその時代』岡崎久彦

2014-06-07

テレビ局と大手新聞社は原発利権の一部/『利権の亡者を黙らせろ 日本連邦誕生論 ポスト3.11世代の新指針』苫米地英人


 某テレビ局では最近プロデューサーが全員集められ、「原発の悪口をいうコメンテーターは使うな!」と幹部から伝えられたそうです。
 かれらはあれだけの惨状を目にしても、まだ原発を続けたいのです。マスコミとしての責任のもと、きちんと原子力発電とはなにかを調べたうえでの判断として「原発の安全性」をいうのならまだ話はわかります。しかし、かれらが原発について調べたようには見えません。いわゆる御用学者と東電、原子力安全・保安院の言葉をそのまま流しているようにしか見えないのです。
 一体なぜかれらはそんなことをしているのでしょうか? 答えは簡単です。テレビ局と大手新聞社は完全に原発利権の一部だからです。読売新聞社社主であった正力松太郎〈しょうりき・まつたろう〉氏は原子力委員会の初代委員長でしたし、「関電中興の祖」と呼ばれた関西電力元会長の芦原義重〈あしはら・よししげ〉氏は毎日新聞社の顧問をしていました。産経新聞社代表取締役だった稲葉秀三〈いなば・ひでぞう〉氏も1973年に原子力委員会委員に就任していますし、日本経済新聞の論説委員を務めた鳥井弘之〈とりい・ひろゆき〉氏は日本原子力産業協会の理事(4月1日現在)です。これらは原発とマスコミのつながりが歴史的にも相当深いことの証左といっても言い過ぎではないでしょう。

【『利権の亡者を黙らせろ 日本連邦誕生論 ポスト3.11世代の新指針』苫米地英人〈とまべち・ひでと〉(講談社、2011年)】

 利権とは無縁な原発推進派の本音は日本の安全保障にある。しかしながら本気で安全保障を考えるのであれば、原発そのものが攻撃対象となり得るリスクをどう回避するかが問われよう。私は原発に否定的な立場だ。まず嘘が多すぎる。東京の電力をまかなうための原発を地方につくること自体がインチキだと思う。コスト計算も不明だし、原子炉が古いタイプでパテント料はアメリカがせしめる仕組みになっている。

 日本はエネルギーを輸入せざるを得ない。であればガスタービンコンバインドサイクル発電(GTCC)のような省エネ技術開発を進めてエネルギー効率を上げるしかない(動画、32分あたりから)。

 私は原発には反対するが反対デモには参加しない。そもそもデモはデモンストレーション、すなわち示威に目的がある。その意味から申せば平和的なデモなどあってはならない。常に一触即発の緊張感を漲らせるのが正しいデモのあり方だ。不当逮捕など織り込み済みの上で、いつでも警察の暴力に対抗し得る構えが必要だ。つまり暴徒の隣に位置する者でなければデモを行う意味がないと私は考える。



 オバマ政権の2期目は明らかにドル高政策に舵を切った。日本のエネルギーコストは上がる一方で原発推進派には追い風が吹く。ドル高が極まると第二次世界大戦前夜と同じ情況に日本は追い込まれる。その時、新聞各紙は再び大政翼賛に傾き戦争を煽ることだろう。

利権の亡者を黙らせろ 日本連邦誕生論

日本の原発はアメリカの核戦略の一環/『原発洗脳 アメリカに支配される日本の原子力』苫米地英人

波照間島産黒糖 450g ゆうな物産

波照間島産黒糖 450g

 黒糖は沖縄お土産として古くからの定番! 日本最南端の島・波照間島の黒糖を食べやすいカチワリに。沖縄県でも最高級の波照間島産の黒糖は全国の和菓子職人が最も好む黒糖として有名です。もしかしたら皆さまも和菓子を通じて知らない内に口にしているかも知れない。食感は舌の上で溶けるほどさらさらしており、苦みの少ない黒糖です。そのままおやつ代わりやお茶うけとして食べたりまたは砂糖代わりに調味料としてもお使いください。(送料無料)

沖縄黒糖オンラインショップ:八島セット(※6000円以上で送料無料)

2014-06-05

岩本沙弓、佐藤優、小玉歩、松沢哲郎


 3冊挫折、1冊読了。

想像するちから チンパンジーが教えてくれた人間の心』松沢哲郎〈まつざわ・てつろう〉(岩波書店、2011年)/期待外れ。「遺書のつもりで書いた」(あとがき)のが裏目に出た。何となく私的な記録に近いものを感じた。フランス・ドゥ・ヴァールを読めば十分だと思う。

仮面社畜のススメ 会社と上司を有効利用するための42の方法』小玉歩〈こだま・あゆむ〉(徳間書店、2013年)/新聞広告でよく見掛ける一冊。20代前半のサラリーマンが読むといいだろう。毒があるようで薄い。

地球時代の哲学 池田・トインビー対談を読み解く』佐藤優〈さとう・まさる〉(潮出版社、2014年)/かなり出来が悪い。池田・トインビー対談に寄り掛かりすぎていて、新たな価値を提示できていない。内容紹介にとどまっているような印象が強い。「創価学会のファン」を公言してはばからない佐藤であるが、孫引きしている池田の著作も明らかに少ない。佐藤が中間団体応援団長として創価学会にテコ入れした作品と考えてよかろう。『サバイバル宗教論』の方がはるかに面白い。

 36冊目『バブルの死角 日本人が損するカラクリ』岩本沙弓〈いわもと・さゆみ〉(集英社新書、2013年)/岩本沙弓に外れなし。消費税、税制改革、時価会計導入、為替介入について。岩本の真っ直ぐな性格が文章の端々から伝わってくる。言い回しに女性特有の細やかさが見られるが、もっと思い切って断言してよいと思う。もっともっと活躍してほしい女性アナリストだ。