2019-10-25

世界史は陸と海とのたたかい/『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫


『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻
『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫、萱野稔人
『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫

 ・世界史は陸と海とのたたかい

『自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠』柿埜真吾
『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ

世界史は陸と海とのたたかい

 EU帝国とアメリカ金融・資本帝国の違いを考える上で、大きな示唆を与えてくれるのが、シュミットの「世界史は陸の国に対する海の国のたたかい、海の国に対する陸の国のたたかいの歴史である」という歴史的視座です。
 21せいきは、シュミットが世界史を「陸と海とのたたかい」と定義した通りの展開となっています。海の「金融・資本帝国」(英米)vs.陸の「領土帝国」(独仏、露・中・中東)のたたかいです。アメリカ金融・資本帝国は無限空間である「海の国」の延長であるのに対して、EU帝国は有限空間の「陸の国」だということです。
 そして現代では、「長い16世紀」以来の近代システムにおいて勝者であった「海の国」が弱体化し、近代システムでは敗者であった「陸の国」の力が強まっているのです。金利がゼロになれば、これまで蒐集する側であった「海の国」が富を蒐集できなくなって、相対的にその地位が低下するからです。(中略)
「陸の時代」の支配者たちは、領土を手中におさめると、官僚組織の肥大化など、人的にも物的にも多大なコストをかけて広大な領土を統治しました。しかし、そのコストの重みに耐えられなくなると、社会秩序が崩れ、領土は拡大から収縮への局面に入っていくということの繰り返しでした。
 ところが、15世紀の末になると、造船技術が発達したおかげで、西欧の人々は陸の縛りから解放され、「より遠く」へ向かうことができるようになりました。ヨーロッパ各国のなかで、真っ先に大海原に出たのは、地中海世界という狭い「閉じた空間」では利潤を得られなくなったスペイン、ポルトガル、それを経済的に支援したイタリアです。「湖」にした地中海から飛び出し、大航海という賭けに出たのです。
 スペインは新大陸で銀山を発見し、ポルトガルは喜望峰を廻(まわ)って遠隔地貿易を拡大させました。しかし、スペインもポルトガルも実質的には「陸の国」の性質を捨て去ることができませんでした。海を渡った先の「陸」で、「陸の国」としての古い統治の方法を続けたのです。
 一方、新しく登場したオランダやイギリスは「海」を制することで空間を拡大させました。海という空間は、既存の国家が制定した「陸の法」が行き届く領域ではない。ならばその空間から「自由」に収奪するべく新たなルールをつくろう――。オランダやイギリスは、このような発想で、まったく新しいルールを自国に有利なようにつくり上げたのです。
 このように「陸の時代」から「海の時代」へと転換したことをシュミットは「空間革命」と呼んでいます。

【『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫(集英社新書、2017年)】

 いやはや勉強になった。付箋だらけである。読了後もパラパラと読み返した。その丁寧な記述と論理の整合性で一気に読むことが可能だ。

 シーパワー(海洋権力)とランドパワー(大陸権力)は地政学の基本的な概念であるが、倉前盛通著『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』を読んで文明史的な意味合いを知った。上記テキストも倉前と異同はない。

 水野は「海の国」である英米が海洋から「金融・電子空間」にシフトしたものの、ゼロ金利時代を迎えた今、資本主義が滅びることは避けられないと説く。資本主義後を提示するのは困難極まりないが、「閉じた帝国」になると予測している。

 ま、倉前の著書が半世紀ほど前なので視点が異なるのは当然としても、水野の主張は心に響いてくるものが少ない。で、既に二度読んだ『悪の論理』も目繰り返す羽目となった。

 私が本書で引っ掛かったのは「正確に言えば、『永続敗戦論』で政治学者、白井聡が鋭く指摘したように」(233ページ)との一文である。

 白井聡は、しばき隊に交じって「安倍やめろ」と叫んでいた人物である(netgeek 2017年7月7日)。札付きの学者といってよい。もちろん赤札だが。

 加齢のため頭脳の衰えは著しいのだが、まだまだ鼻の方は利く。水野和夫の正体は「反資本主義者」なのだ。それに気づいた時、私は隠された「赤い爪」を見たような思いがした。

 水野が著作で行っているのは「資本主義の死亡診断書」を提示することだ。その目的が見えれば反資本主義→容共勢力であるのは確実と思われる。

 私の見立てが勘違いか洞察かは読者の判断に委ねるが、池上彰や佐藤優が水野を持ち上げていれば左翼と見て間違いなかろう。

 尚、amazonでは送料(500円)が発生するので要注意。



封建制は近代化へのステップ/『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠

2019-10-23

洪水/『ブッダの 真理のことば 感興のことば』中村元


『日常語訳 ダンマパダ ブッダの〈真理の言葉〉』今枝由郎訳

 ・競争と搾取
 ・洪水

『原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話』アルボムッレ・スマナサーラ
『原訳「法句経」(ダンマパダ)一日一悟』アルボムッレ・スマナサーラ
・『法句経』友松圓諦
・『法句経講義』友松圓諦
・『阿含経典』増谷文雄編訳
・『『ダンマパダ』全詩解説 仏祖に学ぶひとすじの道』片山一良
・『パーリ語仏典『ダンマパダ』 こころの清流を求めて』ウ・ウィッジャーナンダ大長老監修、北嶋泰観訳注→ダンマパダ(法句経)を学ぶ会
『日常語訳 新編 スッタニパータ ブッダの〈智恵の言葉〉』今枝由郎訳
『ブッダのことば スッタニパータ』中村元訳
『スッタニパータ [釈尊のことば] 全現代語訳』荒牧典俊、本庄良文、榎本文雄訳
『原訳「スッタ・ニパータ」蛇の章』アルボムッレ・スマナサーラ
『怒らないこと 役立つ初期仏教法話1』アルボムッレ・スマナサーラ
『慈経 ブッダの「慈しみ」は愛を越える』アルボムッレ・スマナサーラ
『怒りの無条件降伏 中部教典『ノコギリのたとえ』を読む』アルボムッレ・スマナサーラ
『小説ブッダ いにしえの道、白い雲』ティク・ナット・ハン
『ブッダが説いたこと』ワールポラ・ラーフラ
・『ブッダとクリシュナムルティ 人間は変われるか?』J・クリシュナムルティ

ブッダの教えを学ぶ

四六 この身は泡沫(うたかた)のごとくであると知り、かげろうのようなはかない本性のものであると、さとったならば、悪魔の花の矢を断ち切って、死王に見られないところへ行くであろう。
四七 花を摘(つ)むのに夢中になっている人を、死がさらって行くように、眠っている村を、洪水が押し流して行くように、――
四八 花を摘(つ)むのに夢中になっている人が、未だ望みを果さないうちに、死神がかれを征服する。(「真理のことば」〈ダンマパダ〉第四章 花にちなんで)

【『ブッダの 真理のことば 感興のことば』中村元〈なかむら・はじめ〉訳(岩波文庫、1978年/ワイド版岩波文庫、1991年)以下同】

 東日本大震災を経験してそれまでとは全く異なった衝撃を受けた一文である。その後も自然災害が止むことはなかった。平成から令和に変わっても容赦なく台風が襲い掛かった。21の河川が氾濫し、堤防の決壊によって浸水した土地は2万5000ヘクタールに及ぶ。今日現在で70人が死亡、行方不明者が12人となっている。

 生きとし生けるものは必ず死ぬ。にもかかわらず災害死は生の基盤を揺るがす恐怖を与える。戦争やメガデス(大量虐殺)と同様に。

 本能なのか。それとも感情なのか。徒死を嫌い、無駄死にを恐れ、酔生夢死を忌(い)む裏側には「掛け替えのない人生」という誰もが信じる虚構が存在する。

 このテキストは「感興のことば」にも登場する。

一四 花を摘(つ)むのに夢中になっている人を、死がさらって行くように、――眠っている村を、洪水が押し流していくように――
一五 花を摘(つ)むのに夢中になっている人が、未だ望みを果さないうちに、死神がかれを征服する。
一六 花を摘(つ)むのに夢中になっている人が、まだ財産が集まらないうちに、死神がかれを征服する。(「感興のことば」〈ウダーナヴァルガ〉第一八章 花)

 花を摘む幸福が生を見失わせるのか。功成り名を遂げた人も、市井に埋没する人も、不遇をかこつ人も死が押し流してゆく。目を開いて周囲を見てみよう。死はありふれている。死はそこここに転がっている。中高年ともなれば親が死に、兄弟が死に、そして友人が次々と死んでゆくことにたじろぐ。だが私が見るのは他人の死だ。果たして「自分が死ぬ」という当たり前の現実を真剣に受け止めている人は少ない。

 人生の総決算が死ぬ姿にあると考えれば、死に方を問う人々が出てきて当然だ。そんな彼らが編み出した一つの解決法がたぶん「殉教」だったのだろう。“大義のために死ぬ”ことは誰が見ても絵になる。それまでの平凡な人生が突如としてドラマチックな色彩を帯びる。キリスト教宣教師は「発見の時代」(Age of Discovery/大航海時代)から近代に至るまで殉教の旗を掲げて世界を駆け巡った。

 ところがそのキリスト教を排除してきた日本にはもっと凄い死に方があった。切腹である。自らの死を苦痛の中で決断する行為は人間の意志の極限に位置するものだ。武士という存在は刀を自他に突きつける中で絶妙なバランスを社会にもたらした。その精神は大東亜戦争の特攻隊にまで引き継がれる。

「感興のことば」は「無常」の章から始まる。ここで説かれる無常とは死を意味する。諸行無常とは「何をやっても(死ぬから)無駄」と言っているようにしか思えない。真実は単純の中にある。人々が思う幸福はきっと不幸の因なのだろう。幸福は真理と懸け離れている。それは単なる欲望に過ぎない。「洪水」とは煩悩の濁流を示している。

 河海の洪水を恐れても、煩悩の洪水を何とも思わぬ己をじっと見つめる。

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2019-10-20

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2019-10-16

国宝「紙本著色日月四季山水図」(作者不詳)


「紙本著色日月四季山水図」(しほんちゃくしょくじつげつしきさんすいず/大阪府河内長野市・天野山金剛寺所蔵)は2018年、重要文化財から国宝になった。左隻の月が隠れてしまっているがデジタル復元するとクッキリと映(は)える(日月山水図屏風 | 小林美術科学)。白洲正子が『かくれ里』(新潮社、1971年/講談社文芸文庫、1991年/新版、2010年)で、丸山健二が『千日の瑠璃』(文藝春秋、1992年/文春文庫、1996年)でカバーに使った。作成年代については室町時代(14-16世紀)と安土桃山時代(16-17世紀)の二説がある。

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作者不明《日月山水図屏風》循環する宇宙のエネルギ 髙岸輝(※画像クリックで拡大)

2019-10-14

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