・『明日の記憶』荻原浩
・ホームレスが宗教ビジネスで運命を引っくり返す
路上に寝て街を眺めれば、人生観は確実に変わる。
【『砂の王国』荻原浩〈おぎわら・ひろし〉(講談社、2010年/講談社文庫、2013年)以下同】
ハードカバーの表紙がいいので紹介しよう。
見返しには以下の記載がある。
烏山由美
ぼくたちの東京ストーリーズ。No.2
2010
カンヴァスに鉛筆、インク、アクリル絵具
©KARASUMARU Yumi
何度も確認したが「烏山」で「からすまる」と読むのだろうか? 検索したが情報らしい情報が皆無だ。淡い色づかいが移ろいやすい都会の輪郭を巧みに捉えている。そして時に優しく時に儚(はかな)い。
荻原浩といえば『明日の記憶』が有名だが、私は二度挫けている。映画は名作である。特に樋口可南子の演技が眼を引いた。
本書は今年に入り再読した。面白いものは二度読んでも面白い。ホームレスが宗教ビジネスで運命を引っくり返すストーリーもさることながら、人を集めるマーケティング手法に説得力がある。新興宗教の運営が上手くいったにも関わらず、主人公が行き詰まるのもストレス耐性のない現代人を諷刺しているように感じた。
短いパラグラフに寸鉄人を刺す趣がある。
空腹は怒りを生む。
この世には神も仏もない。あるのは運と不運だけだ。
一度すべてを失うと、何かを取り戻したところで、完全にもと通りになるわけではない。
「気づいたよ。信じると、見えなくなっちまうんだ。信じることをやめれば、何が本当かがすぐに見えてくるんだ」
現実の宗教に関しては以下の書籍が参考になる。
・『カルトの子 心を盗まれた家族』米本和広
・『ドアの向こうのカルト 九歳から三五歳まで過ごしたエホバの証人の記録』佐藤典雅
・『杉田』杉田かおる
信じる者は救われる。そして信じる者は掬(すく)われる。足を。更に信じる者は巣食われる。財布を。