2022-02-05

ホームレスが宗教ビジネスで運命を引っくり返す/『砂の王国』荻原浩


・『明日の記憶』荻原浩

 ・ホームレスが宗教ビジネスで運命を引っくり返す

 路上に寝て街を眺めれば、人生観は確実に変わる。

【『砂の王国』荻原浩〈おぎわら・ひろし〉(講談社、2010年/講談社文庫、2013年)以下同】

 ハードカバーの表紙がいいので紹介しよう。

 

 見返しには以下の記載がある。

 烏山由美
 ぼくたちの東京ストーリーズ。No.2
 2010
 カンヴァスに鉛筆、インク、アクリル絵具
 ©KARASUMARU Yumi

 何度も確認したが「烏山」で「からすまる」と読むのだろうか? 検索したが情報らしい情報が皆無だ。淡い色づかいが移ろいやすい都会の輪郭を巧みに捉えている。そして時に優しく時に儚(はかな)い。

 荻原浩といえば『明日の記憶』が有名だが、私は二度挫けている。映画は名作である。特に樋口可南子の演技が眼を引いた。

 本書は今年に入り再読した。面白いものは二度読んでも面白い。ホームレスが宗教ビジネスで運命を引っくり返すストーリーもさることながら、人を集めるマーケティング手法に説得力がある。新興宗教の運営が上手くいったにも関わらず、主人公が行き詰まるのもストレス耐性のない現代人を諷刺しているように感じた。

 短いパラグラフに寸鉄人を刺す趣がある。

 空腹は怒りを生む。

 この世には神も仏もない。あるのは運と不運だけだ。

 一度すべてを失うと、何かを取り戻したところで、完全にもと通りになるわけではない。

「気づいたよ。信じると、見えなくなっちまうんだ。信じることをやめれば、何が本当かがすぐに見えてくるんだ」

 現実の宗教に関しては以下の書籍が参考になる。

『カルトの子 心を盗まれた家族』米本和広
『ドアの向こうのカルト 九歳から三五歳まで過ごしたエホバの証人の記録』佐藤典雅
『杉田』杉田かおる

 信じる者は救われる。そして信じる者は掬(すく)われる。足を。更に信じる者は巣食われる。財布を。

 

リー・チャイルド三昧/『反撃』リー・チャイルド


『前夜』リー・チャイルド
『キリング・フロアー』リー・チャイルド

 ・リー・チャイルド三昧

『警鐘』リー・チャイルド
『葬られた勲章』リー・チャイルド

 頭は、同時にふたつのことをおこなっていた。ひとつは、時間をはかることだ。最後に腕時計を見てからそろそろ2時間がたつが、20秒ほどの誤差でいまの時刻を言いあてられる。実戦でいく晩も寝ずの番をしたときに身につけた特技だ。なにかが起こるのを待つ場合、冬場のビーチハウスのように体の動きを停止させ、刻々とすぎていく時間だけに神経を集中させる。いわば仮死状態になるのだ。そうすることで、エネルギーの浪費をふせぎ、意識のなくなった脳は心臓を鼓動させる役割から解放され、その分を体内のどこかに隠された時計にまわす。おかげで思考に費やす暗く巨大な空間が確保される。だが、ひとたびなにかあればいつでも反応できる程度には覚醒しているから、いつでも現在時刻を把握していることができる。

【『反撃』リー・チャイルド:小林宏明訳(講談社文庫、2003年)】

 本を読む速度が急に衰えてきた。「これはいかん」と思い、昨年11月に『隠蔽捜査』シリーズを1日2冊ペースで読み、12月からはリー・チャイルド三昧である。ラドラムパーカー亡き後、私が唯一頼みとするミステリ作家である。

 ややスーパーマン的な要素に鼻白むが、娯楽作品と割り切ってしまえばいい。必ず美女と行為に及ぶ点も同様だ。一種のサービス精神か。

 自然の要塞と化した地でミリシア(民兵)がアメリカからの独立を目論む。陰謀論に囚われた極右組織として描かれているが、アメリカのポリティカル・コレクトネスに配慮したものか。『最重要容疑者』の中には「トルーマンはリーチャーの好きな大統領だ」とある。民主党政権でフランクリン・ルーズベルトが死去し、副大統領から大統領に格上げされた。日本に原爆を落とした大統領でもある。

 やはり、最初に『前夜』を読むのが望ましい。そうすればリーチャーの上司であるレオン・ガーバー大佐の立ち位置がよくわかる。

 

2022-02-03

ケトルベルの教科書本/『動ける強いカラダを作る! ケトルベル』花咲拓実


『ロシアンパワー養成法』足立弘成
『新トレーニング革命 初動負荷理論に基づくトレーニング体系の確立と展開』小山裕史
『身体を芯から鍛える! ケトルベルマニュアル』松下タイケイ

 ・ケトルベルの教科書本

身体革命

 砲丸にハンドルがついた形状をしているケトルベル。ハンドルがついた形状がヤカン(英語でケトル:ketlle)に似ていることからこの名がついたとされています。
 その歴史は古く、1704年にロシアの辞書に初めて登場しています。流行り廃りのあるフィットネス市場において、有酸素性能力と無酸素性能力などを省スペースで向上させることができる利便性から再び注目されています。

【『動ける強いカラダを作る! ケトルベル』花咲拓実〈はなさき・たくみ〉(日東書院、2020年)以下同】

 無酸素は「ハードスタイル」、有酸素は「ギレヴォイスタイル」というらしい。有酸素運動の代表はクリーン&ジャークである。


 とても有酸素運動には見えない(笑)。競技では10分間の回数を競う。ランナーズハイと似た状態(ケトラーズハイ)が現れることもあるらしいので、やはり有酸素運動なのだろう(ケトルベル・スポーツ)。因みにランナーズハイは「狩猟のご褒美」として進化した可能性が研究で指摘されている。やや強い負荷が続くと現れる。

 ケトルベルは、重心が球体の真ん中にありハンドルから距離があります。この特異な形状から遠心力を扱ったトレーニングも行えますので、重量を重くしなくても動作スピードを速めて負荷を高めることができるといった特徴があります。また、重心が離れているためにバランスを取りづらく、より多くの筋肉を動員する必要があります。

 自然界に完全な球体は存在しない。西洋美術はシンメトリー(左右対称)を好んだが、日本文化は非対称の歪みを愛(め)でた。日本は自然志向なのだろう。筋肉よりも骨の動きを活用したのも日本武術の特長であり、山林が国土の70%を占める地理的背景が関わっている。


 ヒンジの姿勢をよく覚えておくこと。最初のうち私は上体を真っ直ぐに起こしていた。腰痛を恐れて。コツは背筋と腰の上下運動でケトルベルを振ることだ。持ち上げる時の初動負荷を意識して、後は浮いたケトルベルに手を添えているだけの状態である。これが出来るようになると20回程度のスイングが可能だ。

 集合住宅の場合は布団の上で行った方がよい。落とした場合のことを想定して。握力が弱くなっている中高年はしっかりと脚を開いて、甲部分に落とさぬよう警戒心を100%発揮すること。

 個人的には単調な運動しか思いつかなかったのだがそうでもないようだ。私は「primal.swoledier」をフォローするためだけの目的でInstagramに登録した。


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