2011-08-20

ペットボトルのサンダル


 履き物すら奪われた人々。

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占いこそ物語の原型/『重耳』宮城谷昌光


『天空の舟 小説・伊尹伝』宮城谷昌光
・『太公望』宮城谷昌光
『管仲』宮城谷昌光

 ・占いこそ物語の原型
 ・占いは神の言葉
 ・未来を明るく照らす言葉

『介子推』宮城谷昌光
・『沙中の回廊』宮城谷昌光
『晏子』宮城谷昌光
・『子産』宮城谷昌光
『湖底の城 呉越春秋』宮城谷昌光
『孟嘗君』宮城谷昌光
『楽毅』宮城谷昌光
『青雲はるかに』宮城谷昌光
『奇貨居くべし』宮城谷昌光
『香乱記』宮城谷昌光
・『草原の風』宮城谷昌光
・『三国志』宮城谷昌光
・『劉邦』宮城谷昌光

 元々文章が得意ではないので暑さや寒さを理由にして書かなくなることが多い。頑張ったところで書ける内容は知れているから、今後はあまり気負うことなく感じたことや考えが変わったことをメモ書き程度に綴ってゆこう。

 タイトルは「ちょうじ」と読む。主人公の名である。生まれが紀元前697年というのだからブッダ(紀元前463年/中村元の説)より少し前の時代である。枢軸時代の綺羅星の一人と考えてよかろう。重耳とは春秋五覇の一人、晋(しん)の文公(ぶんこう)である。

 読み物としては『孟嘗君』に軍配が上がるものの、物語の本質が占いにあることを示した点において忘れ得ぬ一書となった。重耳は43歳で放浪を余儀なくされ、実に19年もの艱難辛苦に耐えた。「大器は晩成す」とは老子の言。

 おどろいた成王(せいおう)は、
「わたしは、あれとふざけていただけだ」
 と、弁解した。ところが尹佚(いんいつ)は表情をゆるめるどころか、厳粛さをまして、
「天子に戯言(ぎげん)があってはならないのです。たとえどんなご発言でも、史官というものは、それを書き、宮廷の礼儀によって、その発言を完成させ、音楽とともに歌って、公表するものです」
 と、さとした。

【『重耳』宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(講談社、1993年/講談社文庫、1996年)以下同】

 成王が遊び半分で弟の唐叔虞(とうしゅくぐ/晋国の祖)を「封じる」と言った時のエピソード。歴史が記録によって形成されることを鮮やかに表現している。歴史とは記録であり、記録されたものだけが歴史なのだ。

 狐氏(こし)が晋に交誼(こうぎ)を求めてきた。この使者が狐突(ことつ)であった。

 若いが、その容貌には山巒(さんらん)の風気に鍛えぬかれたような精悍(せいかん)さと重みとがあり、それでいて目もとはすずやかさをたもって、山岳民族のえたいのしれぬ蒙(くら)さから、すっきりとぬけでている。
 狐突(ことつ)は馬上だけで見聞をひろめた男ではなく、かれの目は書物の上を通ってきたということである。

 書物は蒙(もう/道理に暗いこと)を啓(ひら)き、世界を明るく照らす。学問とは眼(まなこ)を開く営みに他ならない。後に狐突(ことつ)の子である狐毛(こもう)と狐偃(こえん)が重耳を支える。

 狐氏から詭諸(きしょ/重耳の父)のもとに二人の娘が送られることとなった。直ちに吉兆が占われる。

「山岳の神霊は、この婚姻を祝慶(しゅくけい)なさいました。なんと、曲沃(きょくよく)に嫁入(かにゅう)する娘の一人は、天下に号令する子を生むであろうということです」
 と、からだが張り裂けるほどの声でしらせた。

 私の心にフックが掛かった。そして下巻で悟った。占いこそ物語の原型であることを。占いとは未来の絵を描くことだ。卜(ぼく)の字は亀甲占いの割れの形に由来がある。

 不思議なもので占いは偶然から必然をまさぐる行為である。筮竹(ぜいちく)やサイコロ、あるいはコインといった道具を用いて偶然を必然と読み換えるのだ。

 キリスト教の運命や仏教の宿命が不幸の原因を求めて過去をさかのぼるのに対して、占いは未来に向かって道を開く。まったく根拠の薄弱な血液型占いや星座占いの類いが好まれるのも故なきことではないと思われる。

 現状は皆が知っている。責任に応じて視点の高さは変わってくるが、現状から見える未来図は予想範囲が限定される。現実の重さに縛られるためだ。起承転結の起承止まりだ。ここに転結の勢いを与えるのが占いである。

 つまり人々の思考回路に新しい道筋をつけ、更に道理を深く打ち込むことで思考のネットワークと人間のネットワークをも一変させるわけだ。皆の予測を超えた地点に旗を立てることができるかどうかが問われる。その旗が鮮やかな目印となって運命の進路を決定づけてゆく。韓万(かんまん)の言葉が如実にそれを示す。

「ことばと申すものは、外にあらわれますと、ありえぬことを、ありうることに変える、不可思議な働きをすることがあるものです」

 春秋戦国時代において狐氏は不安を抱えていたことだろう。であればこそ、晋に対して合従連衡(がっしょうれんこう)を求めたわけである。占いは人々の「淡い期待」を「絶対的な確信」に変えた。その瞬間に脳内で新たなシナプス経路が構築される。それまでの過去・現在と未来は「天下に号令する子」に捧げられることとなる。狐氏の運命が決まった瞬間であった。そして重耳が誕生する。

 いつもながら宮城谷のペンは冴え冴えとした光を放ちながら人間を描写する。

「狐突(ことつ)の体内のどこかに感動の灯がともった」、「かけひきのない人柄」、「眉やひたいの形のよさは、心の美質をもっとも素直にあらわしているといってよい」、「口調はおだやかだが、遁辞(とんじ)をゆるさぬというきびしさを目容(もくよう)にみせた」、「壮意を腹に溜(た)めなおして」、「胆知のさわやかさ」、「恐れがないから、やさしさがないのだ」、「声の質の良さは、その人の心術の良さでもある」――。

 宮城谷作品の魅力は人間の道と振る舞いを丹念に捉えているところにある。

重耳(上) (講談社文庫)重耳(中) (講談社文庫)重耳(下) (講談社文庫)

マントラと漢字/『楽毅』宮城谷昌光
先ず隗より始めよ/『楽毅』宮城谷昌光
占いは未来への展望/『香乱記』宮城谷昌光

ユダヤ人少年「みなが、その共犯者さ」


 私に付いてきた入植地の男の子に聞いた。イェディディヤ・ベインツハック、10歳である。
 ――もっと静かな暮らしをしたいと思うかい。
「うん」
 ――それには、どうしたらいい?
「アラブ人をここからおっぽりだしてしまえばいいのさ」
 ――でも、ここに住んでいるユダヤ人は400人で、アラブ人は12万人なんだよ。どうやってアラブ人を追い出すつもりだい?
「やり方は、いろいろあるさ。例えば、みなが逃げて行くように、何人か殺してやるとか」
 ――でも、人を殺すのはいいことかい?
「人を殺す奴を殺すのは、いいことさ」
 ――でも、みなが人殺しというわけじゃないよ。
「みなが、その共犯者さ」

【『パレスチナ 新版』広河隆一〈ひろかわ・りゅういち〉(岩波新書、2002年)】

パレスチナ新版 (岩波新書)

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パレスチナ人女性を中傷するイスラエルの若者たち

2011-08-19

副島隆彦、一ノ瀬正樹、ポール・ホーケン


 3冊挫折。尚、前回から挫折本の冊数をカウントするのをやめた。読了率を示すことに意味があるとは思えないため。五十の坂が近づいているので、とにかくムダな本を避けなくてはならない。

新たなる金融危機に向かう世界』副島隆彦〈そえじま・たかひこ〉(徳間書店、2010年)/おっかなびっくり開いて飛ばし読み。言葉遣いが2ちゃんねらーと同じレベルだ。きっと小室直樹の負の部分だけを譲り受けてしまったのだろう。ものの考え方が極端を超えて破綻の領域に突入している。一部からカルト的人気を博しているようだが、ただのカルトだと思う。

原因と結果の迷宮』一ノ瀬正樹(勁草書房、2001年)/狙いはいいのだが文章がまどろっこしい。妙なわかりやすさを演出したのではあるまいか。そのため文章が迷宮のようになっている。

祝福を受けた不安 サステナビリティ革命の可能性』ポール・ホーケン:阪本啓一訳(バジリコ、2009年)/「レイチェル・カーソン『沈黙の春』の精神を受け継ぐベストセラー」と見返しに書いてあるのを見てやめた。多分イデオロギー宣揚が目的なのだろう。内容は決して悪くはないと思う。モンサント社に対する批判も書かれている。それから、わけのわからんカタカナ語をタイトルに使用するのは賢明ではない。

知の要塞「図書館」

Library of Celsus
Library of Celsus

Library of Parliament
The library of parliament, Ottawa. ON, CA

NYC: Brooklyn Public Library - Central Library
NYC: Brooklyn Public Library - Central Library

Library - Carmel Mission
Library - Carmel Mission

Library Parabola
Library Parabola

library

Library, University of Copenhagen
Library, University of Copenhagen

Mitchell Library, Sydney (#24)
Mitchell Library, Sydney

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San Francisco Main Library

George Peabody Library
George Peabody Library

NYC Public Library (HDR)
NYC Public Library (HDR)

Ancient Library
Ancient Library

Suzzallo Library HDR - Explored #467
Suzzallo Library HDR - Explored

Philological Library, FU Berlin
Philological Library, FU Berlin

National Library
The National Library of Finland

Chişinău (Moldova) - National Library
Moldova - National Library

TRINITY-COLLEGE-LIBRARY-DUB
TRINITY-COLLEGE-LIBRARY-DUB

図書館 愛書家の楽園本と図書館の歴史-ラクダの移動図書館から電子書籍までー

図書館のプロが教える“調べるコツ”―誰でも使えるレファレンス・サービス事例集図書館に訊け! (ちくま新書)図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」 (新潮新書)

タリバンに鼻を削がれた18歳の女性

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【『タイム』2010年8月7日号】

「タリバンに鼻を削がれたアフガン女性」の衝撃 米軍が撤退したらアフガン女性に何が起きるのか?:菅原出

地獄の炎の説教


 ジョン・ノックス教会を見つけて横道に車を入れ、ロシナンテ号を見えないところに停めた。チャーリーに番をするように命じ、目も眩むほど白い板壁の教会に向かって行儀よく歩いていった。しみ一つなく磨き抜かれた礼拝所の後ろの席に座った。
 祈りの文句は的を射ていた。全能の神は人間の弱さや不信心を見ておられると説いたのだ。まさに私のことだったし、ここに集まっている人たちも同じだと思うしかなさそうだった。
 この礼拝は私の心を動かした。私の魂も少しはよくなったと思いたい。あんな説教の仕方を聞いたのは久しぶりである。
 今の時代、少なくとも大都会では、礼拝は精神分析という聖職者によって行われている。「そんなの、ちっともあなたの罪じゃありません。不可抗力のアクシデントですよ」と言ってもらうわけだ。しかしこの教会ではそんなでたらめなど存在しなかった。
 厳格な牧師は、鋼鉄のような瞳とドリルのような舌鋒を持っていた。祈りの言葉を皮切りに、彼は我々が実に惨めな存在なんだと思い出させた。その通りである。我々は最初から大した者ではなかったし、安っぽい努力しかせず、道を誤ってばかりいる。
 こうして我々の気を楽にした時、彼は見事な説教へと進んだ。地獄の炎の説教だ。我々(いや私だけかもしれない)はろくでもない馬鹿者だと証明した後、性根を入れ替えないと将来どんなひどいことが起こるのか、牧師は冷徹な確信と共に語ってみせた。そのくせ性根を入れ替えることなんてちっとも期待していなかった。
 地獄について、彼は専門家として説明してくれた。軟弱な昨今のふにゃふにゃした地獄ではない。一流の技術者が働き、景気よく燃やされた業火が白熱している地獄についてである。この牧師は我々が分かりやすいように話をかみ砕いた。激しく燃え上がる石炭の炎、そこに風を送る無数の穴、命懸けで炉を燃やす悪魔の一団。そこで燃やされているのは私だった。
 私はすっかり気分がよくなってきた。ここ数年、神様を我々の友達みたいに思って共にあるよう祈っていたのだが、そのせいで父と息子でソフトボールをしているような虚しさを感じていた。ところがこのヴァーモントの神様ときたら、私を気づかうあまり数多くの困難を設け、私の中の罪悪を暴き出してくださった。新たな見地から私の罪を白日の下に晒してくれたのである。
 小さくて卑しい汚らわしい私の罪は、すぐに忘れ去られるようなものだった。しかし牧師は、その罪を大きく膨らまし、華やかで堂々たるものにしてくれた。ここ数年、私は自分を大した奴だとは思っていなかったが、私の罪がこれほど大したものだったのなら、ちょっとは誇ってもよさそうだ。私はいたずら小僧ではなく一流の罪人であり、その罪の報いを受けようとしているのだ。
 魂ごとたっぷりと元気づけてもらったように感じたので、教会の献金皿に5ドルほど入れさせてもらった。その後、教会の前で牧師やできるだけたくさんの会衆者たちと温かな握手を交わした。おかげで悪事を働いているのだという快感が味わえたし、そんな気分を火曜日までたっぷりと味わい続けることができた。
 チャーリーにもこんな満足感を味わわせるために、ぶん殴ってやろうかとまで思い立った。私ほど罪深くはないにせよ、チャーリーだって似たりよったりだからである。

【『チャーリーとの旅』ジョン・スタインベック:竹内真訳(ポプラ社、2007年/大前正臣訳、弘文堂、1964年)】

チャーリーとの旅

John Steinbeck