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2011-02-15

宗教の原型は確証バイアス/『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン


『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ

 ・宗教の原型は確証バイアス
 ・自閉症者の可能性

『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」がうまれたとき』山極寿一、小原克博
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗

宗教とは何か?
必読書 その五

 正真正銘の神本(かみぼん/神の如く悟りを得られる本)だ。著者のテンプル・グランディンは、オリヴァー・サックス著『火星の人類学者 脳神経科医と7人の奇妙な患者』(吉田利子訳、早川書房、1997年)のタイトルになっている人物。自称「火星の人類学者」は自閉症(※アスペルガー症候群と思われる)の女性動物学者であった。

 これは凄い。とにかく凄い。本書とトール・ノーレットランダーシュ著『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』とレイ・カーツワイル著『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』を合わせて、「科学本三種の神器」と私は名づけたい。

 網羅、渉猟、越境の度合いが生半可でないのだ。本物の知性は統合に向かうことがよく理解できる。緻密さや細部で勝負する知性はカミソリみたいなもので、切れ味は鋭いものの骨肉を断ち切るところまで及ばない。それに対して豊かな広がりをもつ知性は、専門領域を通して高い視点を示すことで世界の風景を変える。

 テンプル・グランディンは自閉症患者が動物の気持ちを理解できるとしている。彼女は幼い頃から動物の感情を知っていたのだ。大人になるまでそれが特殊な能力であることに気づかなかったという。ここから様々な動物の生態を通して人間との違いや人類の歴史を綴っている。

 まあ、一回こっきりの書評で紹介できる作品ではないため、時間が許す限り何度でも書いてみせるよ(笑)。数多(あまた)ある驚天動地の内容で最も驚かされたのがこれ──

 動物と人間は、「確証バイアス」と学者が呼ぶものを、生まれつきもっていることがわかっている。ふたつの事柄が短時間のあいだに起こると、偶然ではなくて、最初の事柄が2番目の事柄を引き起こしたと信じるようにつくられているのだ。
 たとえば、食べ物が出てくる直前に明かりがつくボタンつきのかごにハトを入れると、ハトはすぐに、食べ物を手に入れようとして、明かりがついたボタンをつつくようになる。これは、確証バイアスによって、最初のできごと(ボタンの明かりがつく)が2番目のできごと(食べ物が出てくる)を引き起こしていると考えるようになるからだ。ハトは、たまたま何回かボタンをつついて食べ物が出てくると(ボタンの明かりがついているときに、かならず食べ物が出てくるので)、こんどは、明かりがついているときにボタンをつつくから食べ物が出てくるという結論を出す。
 ハトの行動は、ウサギの足のお守り〔行為のまじないとして持ち歩くウサギの左の後ろ足〕を持っていたらチームが野球の試合に勝てると考える人に似ている。それで、B・F・スキナーはこういった行為を「動物の迷信」と呼んだ。ピッチャーがウサギの足を持っていたときに登板した試合で勝ったのは、ハトが明かりがついたボタンをつついたあとに何回が食べ物を手に入れたのと同じことだ。どちらの場合も、相関関係が原因だと考えた。

【『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン:中尾ゆかり(NHK出版、2006年)以下同】

確証バイアス confirmation bias

 既に何度も紹介済みだが、相関関係と因果関係の混同である。

相関関係=因果関係ではない/『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン

 つまり脳というシステムは、相関関係を因果関係に仕立てることで物語を創造していると言い換えることも可能だ。例えば歴史は権力者のトピックにすぎない。それゆえ歴史の大半は戦争という糸で紡がれている。圧倒的に膨大な量がある一般人の日常が年表に記されることは、まずない。捨象、切り捨て、無視ってわけだ。

「理想的年代記」は物語を紡げない/『物語の哲学 柳田國男と歴史の発見』野家啓一
歴史が人を生むのか、人が歴史をつくるのか?/『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン

 確証バイアスが組みこまれているために生じる不都合は、根拠のない因果関係までたくさん作ってしまうことだ。迷信とは、そういうものだ。たいていの迷信は、実際には関係のないふたつの事柄が、偶然に結びつけられたところから出発している。数学の試験に合格した日に、たまたま青いシャツを着ていた。品評会で賞をとった日にも、たまたま青いシャツを着ていた。それからとは、青いシャツが縁起のいいシャツだと考える。
 動物は、確証バイアスのおかげで、いつも迷信をこしらえている。私は迷信を信じる豚を見たことがある。

 ここでいう「迷信」とは「非科学的」という意味であろう。だとすると殆どの宗教は迷信になる。なぜなら因果関係を証明することができないからだ。幸不幸の原因は神が下したものかも知れないし、家の方角の善し悪しかも知れないし、単なる偶然かもしれないのだ。

 たまたま朝一番でつけたテレビの番組で星座占いをしていたとしよう。あなたのラッキーカラーはピンクだ。ピンクのものさえ身につけておけば万事が上手く運ぶ。昨日、上司から叱られ、恋人と喧嘩をしたあなたの脳は敏感に反応することだろう。で、ピンクのネクタイを締め、颯爽と出社する。

 こうして一日の中の好ましい出来事は「ピンクのネクタイのおかげ」となるのだ。

予言の自己成就/『世界は感情で動く 行動経済学からみる脳のトラップ』マッテオ・モッテルリーニ
人間は偶然を物語化する/『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ

 占いを信じる人は、占いに沿った思考となり、占いに当てはまらない事実は印象に残らなくなる。このようにして「占い物語」という人生が進んでゆく。

 ところが、ほかの豚も、これまた確証バイアスにもとづいて、囲いの中の餌桶にまつわる迷信をこしらえる。私が見ていたときには、何頭かが餌用囲いまで歩いていって扉が開いているときに中に入り、それから餌桶に近づき、地面を踏み鳴らしはじめた。足を踏み鳴らしつづけていると、そのうち頭がたまたま囲いの中のスキャナーにじゅうぶんに近づいて、タグが読みとれ、餌が出てきた。どうやら豚は、たまたま足を踏みならしていたときに餌が出てきたことが何回かあって、餌にありつけたのは足を踏み鳴らしたからだという結論に達していたらしい。人間と動物はまったく同じやり方で迷信をこしらえる。わたしたちの脳は、偶然や思いがけないことではなく、関連や相互関係を見るようにしくまれている。しかも、相互関係を原因でもあると考えるようにしくまれている。わたしたちは生命を維持するうえで知っておく必要のあるものや、見つける必要があるもの学ばせる脳の同じ部分が、妄想じみた考えや、陰謀じみた説も生み出すのだ。

 これだ。多分ここから宗教が生まれたのだ。宗教という現象は人間特有のものではなかったのだ。とすると宗教感情がいかに脳の深い部分にあるか知れようというもの。動物にもあるわけだから新皮質より下部にあることだろう。きっと情動も絡んでいるはずだ。

 とはいうものの物語なしで我々は生きてゆけない。はっきりと書いておくが、かつて宗教が人類を救ったことは一度もなかった。聖書や仏典が伝えられてから2000年以上も経過しているが、今尚人類は争い合っている。

 混乱はバラバラの物語が衝突し合っている姿といってよい。同じ宗教を信じていても考え方は違うだろうし、それこそ人の数だけ思想や価値観が存在するのだ。

 まして高度な社会になればなるほど、幸不幸はヒエラルキーや経済性に依存してしまう。我々の幸不幸は比較の中にしかない。

 結局、情報と情報をどう結び合わせるかという問題なのだろう。「私」という情報をどう扱うか? エゴイズムと無縁の物語はあるのか? 人生からそんな宿題を与えられているような気がする。



テンプル・グランディン:世界はあらゆる頭脳を必要としている
物語の本質〜青木勇気『「物語」とは何であるか』への応答
人間の脳はバイアス装置/『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
「信じる」とは相関関係に基づいて形成された因果関係の混乱/『哲学者とオオカミ 愛・死・幸福についてのレッスン』マーク・ローランズ
無意味と有意味/『偶然とは何か 北欧神話で読む現代数学理論全6章』イーヴァル・エクランド
偶然性/『宗教は必要か』バートランド・ラッセル
合理性を阻む宗教的信念/『思想の自由の歴史』J・B・ビュァリ:森島恒雄訳
脳神経科学本の傑作/『確信する脳 「知っている」とはどういうことか』ロバート・A・バートン
宗教学者の不勉強/『21世紀の宗教研究 脳科学・進化生物学と宗教学の接点』井上順孝編、マイケル・ヴィツェル、長谷川眞理子、芦名定道
スロットマシンプレーヤーの視点/『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ
カーゴカルト=積荷崇拝/『「偶然」の統計学』デイヴィッド・J・ハンド

2010-05-01

論理の限界/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ


『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

 ・ユーザーイリュージョンとは
 ・エントロピーを解明したボルツマン
 ・ポーカーにおける確率とエントロピー
 ・嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理
 ・対話とはイマジネーションの共有
 ・論理ではなく無意識が行動を支えている
 ・外情報
 ・論理の限界
 ・意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる
 ・神経系は閉回路

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン

必読書 その五

 人は自転車に乗れるが、どうやって乗っているのかは説明できない。書くことはできるが、どうやって書いているのかを書きながら解説することはできない。楽器は演奏できても、うまくなればなるほど、いったい何をどうしているのか説明するのが困難になる。

【『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2002年)】

「論理の限界」、「言葉の限界」を見事に言い当てている。固有の経験を論理化することはできない。人間が持つコミュニケーション能力は無限の言葉でそれを相手に伝えようとしてきた。哲学がわかりにくいのは経験を伴っていないためであろう。ただ、思考をこねくり回しているだけだ。一人の先達の「悟り」を言葉にしたのが宗教であった。とすれば、教義という言葉の中に悟りは存在しないことになる。そこで修行が重んじられるわけだが、今度はスタイルだけが形式化されて内実が失われてしまう。

 もっとわかりやすくしてみよう。例えば自転車を知らない人々に「自転車に乗る経験」を伝えることが果たして可能だろうか? ブッダやクリシュナムルティが伝えようとしたのは多分そういうことなのだ。



脳は宇宙であり、宇宙は脳である/『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』デイヴィッド・イーグルマン

2009-05-01

外情報/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ


『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

 ・ユーザーイリュージョンとは
 ・エントロピーを解明したボルツマン
 ・ポーカーにおける確率とエントロピー
 ・嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理
 ・対話とはイマジネーションの共有
 ・論理ではなく無意識が行動を支えている
 ・外情報
 ・論理の限界
 ・意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる
 ・神経系は閉回路

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン

必読書 その五

 世界一短い手紙(※正確には電報)はヴィクトル・ユゴーが書いたもので、「?」だけが記されていた。これに対する出版社の返事が振るっていて「!」のみ。発売されたばかりの『レ・ミゼラブル』の売れ行きをユゴーが尋ね、出版社が「売れ行き良好」と答えたもの。まさに阿吽(あうん)の呼吸だ。

 トール・ノーレットランダーシュは、意図的に省略された情報を〈外情報〉と名づける――

 ユゴーが書いた疑問符は、明白な形で情報を処分した結果だ。もっとも、ただの処分とは違う。彼はたんに全部忘れてしまったのではない。処分した情報を明確に指し示した。しかし、通信文という観点に立てば、その情報はやはり捨てられてしまっている。本書では、この明白な形で処分された情報を〈外情報〉と呼ぶことにしよう。

【『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2002年)以下同】

 で、〈外情報〉にはどのような効果があるのか――

 多くの〈外情報〉を含んだメッセージには深さがある。ある人が最終的なメッセージを作り上げる過程で、意識にある大量の情報を処分し、メッセージから排除すれば、そこには〈外情報〉が生まれる。メッセージの情報量からだけでは、そのメッセージがどれだけの〈外情報〉を伴っているかはわからない。メッセージのコンテクストを理解して初めてそれがわかる。送り手は自分の頭にある情報を指し示すように、メッセージの情報を作り上げる。

 こうなると、情報というよりは言葉の本源に関わってくる問題だ。つまり、我々は日常において言語を介して意思の疎通を図っているが、言語に対するイメージは人によって微妙に異なる。同じということはあり得ない。とすれば、ここに言葉の詐術がある。

 人が心の底から感動した時、「言葉にならない」と言う。本来、情感というものは言葉では表現し尽くせないものだ。それを、相手に何とか伝えようとして我々は言葉を駆使し、声に抑揚をつけ、目を丸くし、身振り手振りを交えて――つまり、身体的な言語をも活用して――表現するのだ。

 結局、意図的に言葉を省略することで、「言葉にならない思い」がメッセージとして放たれるわけだ。「見つめ合う恋人同士」に言葉は不要であろう。ま、数ヶ月もすれば互いに言葉尻を捉えて喧嘩するようになるんだけどさ。

 ここで聞き手に求められるのは、コンテクスト(文脈)を読み解く能力だ。心の深い人物は、おしなべて「声なき声」をすくい取ることができる。本当に耳を澄ませば、小さなため息一つからでも相手の悩みを感じ取ることはできる。

 コミュニケーションの上手な人は自分のことばかり考えたりしない。相手の頭に何があるかも考える。相手に送る情報が、送り手の頭にある何らかの情報を指し示していても、どうにかして受け手に正しい連想を引き起こさせなければ、それは明確さという点で十分とは言えない。情報伝達の目的は、送った情報に込められた〈外情報〉を通して、送り手の心の状態に相通ずる状態を、受け手の心に呼び起こすことだ。情報を送るときには、送り手の頭にある〈外情報〉に関連した何らかの内面的な情報が、受け手の心にもなければならない。伝えられた情報は、受け手に何かを連想させなければならない。

 一読すると、「フーン」以上、で終わりかねないが、実は凄いことを言っている。飯嶋和一著『汝ふたたび故郷へ帰れず』(河出書房新社、1989年)を読んで私は悟った。北朝鮮から帰ってきた曽我ひとみさんが、新潟で父上と再会した際のやり取りなんかが、まさにそうだ。

 仏法ではそれを「念」と名づけた。そして、今この瞬間の思いを「一念」と称し、三千の世間(※本質的な差異との意)を内包していると説かれている(一念三千)。

 言葉を圧縮すれば、当然重みが増す。地球を半径2cmまでに圧縮すれば、ブラックホールが出来上がる(ブライアン・グリーン著『エレガントな宇宙 超ひも理論がすべてを解明する』草思社、2001年)ように。格言や名言が心に響くのも、省略された情報が多いためだと理解できる。そして、〈外情報〉が豊富になればなるほど、メッセージの抽象度は高くなってゆくのだ。



飯島和一作品の外情報

2009-02-16

論理ではなく無意識が行動を支えている/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ


『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

 ・ユーザーイリュージョンとは
 ・エントロピーを解明したボルツマン
 ・ポーカーにおける確率とエントロピー
 ・嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理
 ・対話とはイマジネーションの共有
 ・論理ではなく無意識が行動を支えている
 ・外情報
 ・論理の限界
 ・意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる
 ・神経系は閉回路

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン

必読書 その五

 意識と無意識のわかりやすい例え――

 人は自転車に乗れるが、どうやって乗っているのかは説明できない。書くことはできるが、どうやって書いているのかを書きながら解説することはできない。楽器は演奏できても、うまくなればなるほど、いったい何をどうしているのか説明するのが困難になる。

【『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2002年)】

 それまではできなかったことができるようになると、脳内ではシナプスが新しい回路を形成する。この回路が滑らかに作動すると、我々は無意識でそれができるようになる。

 自動車の運転もそうだ。教習所に通っているうちは、「まずエンジンをかけて、それからブレーキペダルを踏んで……」などと頭で考えている。だが免許を取得して運転に慣れてしまえば、全く何も考えることなくラジオに耳を傾け、同乗者と会話しながら運転ができるようになっている。

 そのことを「言葉で説明できない」と指摘するところがトール・ノーレットランダーシュの凄いところ。意識を支えているのが無意識であることが明らか。無意識は言葉にできない。それでも我々は、言葉を交わしながら互いの無意識を感じ取っているのだ。

 きっと無意識は、善悪が混沌としてスープのように煮えたぎっている世界なのだろう。これをコントロールすることは可能なのだろうか? 多分可能なのだろう。無意識が意識を形成し、意識が行為に至る。そして今度は、行為がフィードバックされて意識から無意識へと通じる回路があるはずだ。それをブッダは「業(ごう=行為)」と呼んだ。善男善女よ、善行に励め。



言語も及ばぬ意識下の世界/『共感覚者の驚くべき日常 形を味わう人、色を聴く人』リチャード・E・シトーウィック

2008-12-03

対話とはイマジネーションの共有/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ


『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

 ・ユーザーイリュージョンとは
 ・エントロピーを解明したボルツマン
 ・ポーカーにおける確率とエントロピー
 ・嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理
 ・対話とはイマジネーションの共有
 ・論理ではなく無意識が行動を支えている
 ・外情報
 ・論理の限界
 ・意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる
 ・神経系は閉回路

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン

必読書 その五

 第2部のコミュニケーション論より。

 コミュニケーションの上手な人は自分のことばかり考えたりしない。相手の頭に何があるかも考える。相手に送る情報が、送り手の頭にある何らかの情報を指し示していても、どうにかして受け手に正しい連想を引き起こさせなければ、それは明確さという点で十分とは言えない。情報伝達の目的は、送った情報に込められた〈外情報〉を通して、送り手の心の状態に相通ずる状態を、受け手の心に呼び起こすことだ。情報を送るときには、送り手の頭にある〈外情報〉に関連した何らかの内面的な情報が、受け手の心にもなければならない。伝えられた情報は、受け手に何かを連想させなければならない。

【『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2002年)】

「外情報」とは、トール・ノーレットランダーシュ独自の言葉で、意図的に割愛された情報という意味。多くの外情報があればあるほど、言葉のメッセージ性は深まるとしている。情報の余力といっていいだろう。あるいは奥座敷。

 言葉というものは大変便利であるが、自分が何かを話す時には単なる道具と化す。例えば、友人とレストランへ行ったとしよう。二人で口を揃えて「美味しい」と絶賛しても、言葉の内容は異なっているはずだ。また逆から考えてみれば、もっとわかりやすい。いかに美味なるご馳走であっても、それを言葉で表現するには限界がある。結局、「お前も一度食べてみろ」ってな結果となりやすい。なぜか? 感動が伝わらないからだ。

 わかり合えないからこそ、わかり合う努力が必要となる。だから人は意を尽くし、言葉を尽くす。それどころか、マルコム・グラッドウェルの『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』(旧題『ティッピング・ポイント』)によれば、会話をしている人間同士は微妙なバイブレーションを起こしていて、ダンスを踊っている事実が検証されている。

 確かに、対話とはイマジネーションの共有といえそうだ。豊かな言葉と表現力と共に、「外情報」を増やすという奥床しさを説いているのが斬新。「理解し合える」ことは、ある種の「悟り」に近いものだと私は考えている。



飯島和一作品の外情報
コミュニケーションの第一原理/『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』P・F・ドラッカー
死線を越えたコミュニケーション/『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
コミュニケーションの可能性/『逝かない身体 ALS的日常を生きる』川口有美子

2008-11-09

嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ


『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

 ・ユーザーイリュージョンとは
 ・エントロピーを解明したボルツマン
 ・ポーカーにおける確率とエントロピー
 ・嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理
 ・対話とはイマジネーションの共有
 ・論理ではなく無意識が行動を支えている
 ・外情報
 ・論理の限界
 ・意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる
 ・神経系は閉回路

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン

必読書 その五

「嘘つきのパラドックス」は「自己言及のパラドックス」ともいう。

「私は嘘をついている」――この言葉、嘘つきのパラドックスは、何千年にもわたってヨーロッパの思索者たちを悩ませてきた。この言葉は、もし正しければ偽りになり、偽りなら正しくなる。自分が嘘をついていると主張する嘘つきは、真実を語っていることになるし、逆に、彼が嘘をついているのなら、そう主張したときには嘘をついていないことになってしまう。このパラドックスを特化させたものはいくらでもあるが、根本はみな同じで、自己言及は問題を来たすのだ。これは「私は嘘をついている」という主張にもあてはまるし、「有限の数の語句では定義できない数」という定義にもあてはまる。そうしたパラドックスは、じつに忌まわしい。その一つに、いわゆる〈リシャールのパラドックス〉という、数の不加算性にまつわるものがある。
 ゲーデルは、そうしたパラドックス(哲学者のお好みの言葉を使えば「二律背反」)を彷彿とさせる命題を研究することで、数学的論理の望みを断ち切った。1931年に発表された論文に、非数学的表現を使った文章は非常に少ないが、その一つにこうある。「この議論は、いやがおうにもリシャールのパラドックスを思い起こさせる。嘘つきのパラドックスとも密接な関係がある」ゲーデルが独創的だったのは、「私は証明されえない」という主張をしてみたことだ。もしこの主張が正しければ、証明のしようがない。もし偽りならば、この主張も立証できるはずだ。ところがこの主張が証明できてしまうと、主張の内容と矛盾する。つまり、偽りの事柄を立証してしまったことになる。この主張が正しいのは、唯一、それが証明不可能なときだけだ。これでは数学的論理は形無しだが、それは、これがパラドックスや矛盾だからではない。じつは、問題はこの「私は証明されえない」という主張が正しい点にある。これは、私たちには証明のしようのない真理が存在するということだ。数学的な証明や論理的な証明では到達しえない真理があるのだ。
 ゲーデルの証明をおおざっぱに言うとそうなる。

【『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2002年)】

 ゲーデルの不完全性定理については、以下のページがわかりやすい――

不完全性定理 - 哲学的な何か、あと科学とか

 第1不完全性原理「ある矛盾の無い理論体系の中に、肯定も否定もできない証明不可能な命題が、必ず存在する」

 第2不完全性原理「ある理論体系に矛盾が無いとしても、その理論体系は自分自身に矛盾が無いことを、その理論体系の中で証明できない」

 ということは、だ。もし全知全能の神がいるとすれば、それは神が創った世界の外側からしか証明できないってことになる。それでも、ゲーデルは神の実在を証明しようとはしていたんだけどね。

 これは凄いよ。デジタルコンピュータが二進法で動いていることを踏まえると、数学は「置き換え可能な言語」と考えられる。そこに限界があるというのだから、人間の思考の限界を示したも同然だ。早速、今日から考えることをやめようと思う。エ? ああ、その通りだよ。元々あまり考える方ではない。

 ただし、ゲーデルの不完全性定理は、「閉ざされた体系」を想定していることに注目する必要がある。これを、「開かれた体系」にして相互作用を働かせれば、双方の別世界から矛盾を解決することも可能になりそうな気がしないでもないわけでもなくはないとすることもない(←語尾を不明確にしただけだ)。【※これは私の完全な記述ミスで「開かれた系」は系ではない。システムは閉じてこそ世界が形成されるからだ。例えば人体が開かれているとすれば、それはシャム双生児のようになってしまう。同じ勘違いをする人のために、この文章は敢えてそのままにしておく。 2010年9月3日】

 だけどさ、不完全だから面白いんだよね。物質やエネルギーを見ても完全なものなんてないしさ。大体、完全なものがあったとしても、時を経れば劣化してゆくことは避けようがない。成住壊空(じょうじゅうえくう)だわな。

「私たちには証明のしようのない真理が存在する」――そうなら、ますます生きるのが楽しみになってくるよ。科学も文明も宗教も、まだまだ発展する余地があるってことだもんね。



アルゴリズムとは/『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ

2008-10-26

ポーカーにおける確率とエントロピー/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ


『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

 ・ユーザーイリュージョンとは
 ・エントロピーを解明したボルツマン
 ・ポーカーにおける確率とエントロピー
 ・嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理
 ・対話とはイマジネーションの共有
 ・論理ではなく無意識が行動を支えている
 ・外情報
 ・論理の限界
 ・意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる
 ・神経系は閉回路

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン

必読書 その五

 トール・ノーレットランダーシュは、実に巧みな表現で科学の世界を明かしてくれる。前回紹介した「ボルツマン」もそうだが、簡にして要を得た言葉がスッと頭に入ってくる。「通る・脳烈人乱打手」という名前を進呈したい。

 で、今回はこれまた絶妙な比喩で、マクロとミクロ、そしてエントロピーを説明している。

 ポーカーは格好の例となる。トランプが一組あるとしよう。買ったときには、そのトランプは非常に特殊なマクロ状態にある。一枚一枚のカードがマークと数に従って並んでいる。このマクロ状態に呼応するミクロ状態は、たった一つしかない。工場から出荷されたときの順で全部のカードが並んでいるというミクロ状態だ。しかし、ゲームを始める前にカードを切らなければならない。順番がばらばらになっても、マクロ状態は相変わらず一つしかない(切ったトランプというマクロ状態だ)が、このマクロ状態に呼応するミクロ状態は数限りなくある。カードを切ると、じつに様々な順番になるが、私たちにはとてもそれを全部表現するだけのエネルギーはない。だから、たんに、切ったトランプと言う。
 ポーカーを始めるときには、一人一人のプレーヤーに5枚のカード、いわゆる「手(持ち札)」が配られる。すると、今度はこの手が、プレーヤーが関心を向けるマクロ状態となる。5枚の組み合わせは多種多様だ。たとえば、数は連続していないが、5枚全部が同じマークという組み合わせ(フラッシュ)のように、似たもの同士のカードから成るマクロ状態もある。また、同じマークではないが、数が連続している組み合わせ(ストレート)というマクロ状態もある。ストレートには何通りもあるが、極端に多いわけではない。ストレートでない組み合わせのほうが、はるかに多い。(中略)
 確率とエントロピーには明らかに関係がある。ある「手」を作れるカードの数が多いほど、そういう手を配られる確率が高くなる。だから、「弱い手」(エントロピーの多い手)になりやすく、「強い手」(呼応するミクロ状態の数がとても少ないマクロ状態)は、なかなかできない。ポーカーの目的は、誰が最も低いエントロピーのマクロ状態を持っているかを決めることだ。

【『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2002年)】

「ポーカーの目的は、誰が最も低いエントロピーのマクロ状態を持っているかを決めることだ」――凄いよね。「これぞ科学的思考だ!」ってな感じ。麻雀や花札も同様だ。ただし、雀卓であなたが厳(おごそ)かにこの言葉を叫んだとしても、誰一人耳を貸さないことだろう。

 カードを何万回切っても、買った時のように数字とマークが順番で並ぶことはあり得ない。これが不可逆性を意味する。カードはどんどんバラバラになってゆく。これが拡散。熱エネルギーは一方向に拡散する。

 当然ではあるが、この後で「マックスウェルの魔物」「ゼノンのパラドックス」にも触れている。

2008-10-25

エントロピーを解明したボルツマン/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ


『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

 ・ユーザーイリュージョンとは
 ・エントロピーを解明したボルツマン
 ・ポーカーにおける確率とエントロピー
 ・嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理
 ・対話とはイマジネーションの共有
 ・論理ではなく無意識が行動を支えている
 ・外情報
 ・論理の限界
 ・意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる
 ・神経系は閉回路

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン

必読書 その五

 私は本書のことを、「現代の経典」に位置すべき作品だ、と書いた。付箋を挟んだページを読み直し、膨大なテキストを書写したが、あながち間違っていないことが確認できた。そこで、がっぷり四つで取り組むことを決意した。こうした行動は過去に何度か試行されているが、その試行のいずれもが錯誤で終わっていることを明言しておく(『千日の瑠璃』→止まったまま、『ホロコースト産業  同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』→進行中、『動物保護運動の虚像 その源流と真の狙い』→まだ端緒)。だが、時を逸してはなるまい。

 では一時限目は、エントロピーから始めよう。

 私は20代の頃に、都筑卓司著『マックスウェルの悪魔 確率から物理学へ』(ブルーバックス、1970年)を読んで以来、エントロピーを誤解し続けてきた。その意味で私にとっては悪書中の悪書といってよい。科学者の仕事は、科学的知識を散りばめて自分の信念を表明することである。そこに、思い込みや勘違い、はたまた誤謬(ごびゅう)や嘘が入り込む余地が大いにあるのだ。科学者だって「にんげんだもの みつを」だ。すなわち、科学者の一部、あるいは大半が「トンデモ野郎」ということだ(←言い過ぎだ)。

 早速、エントロピーを学ぼう。以下のページを読めば十分だ。

「エントロピー」=「乱雑さ具合」ではない

 これでも難しいという人は、次に挙げるテキストをマスターしてから臨んだほうがいいだろう。ニュートンからアインシュタインまでの流れ、そして量子力学&宇宙論、更に脳科学は、世界を読み解く上でどうしても不可欠となる。

『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『「量子論」を楽しむ本 ミクロの世界から宇宙まで最先端物理学が図解でわかる!』佐藤勝彦
『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線』池谷裕二

 で、ボルツマンだ――

 ボルツマンの発想は単純そのものだった。彼は、いわゆる〈巨視的(マクロ)状態〉と〈微視的(ミクロ)状態〉、つまり、物質の巨大な集合体の属性と、その物質の個々の構成要素の属性を区別したのだ。マクロ状態とは、温度、圧力、体積などだ。ミクロ状態とは、個々の構成要素の振る舞いの正確な記述から成る。

【『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2002年)】

 科学の世界も政治に支配されていることが、よくわかるだろう。人間が集まれば、必ず欲望と功名心と利害というパラメータが働く。そして、真理を証明する者は葬られるのだ。歴史は繰り返す。巡る因果は糸車、だ。

「神は細部に宿る」ことをボルツマンは立証した。だが、神はボルツマンを助けなかった。そんな神様があなたや私を助けるわけがないわな。



宗教とは何か?
物語の本質〜青木勇気『「物語」とは何であるか』への応答
脳は宇宙であり、宇宙は脳である/『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』デイヴィッド・イーグルマン
デカルト劇場と認知科学/『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー
無我/『小説ブッダ いにしえの道、白い雲』ティク・ナット・ハン
脳神経科学本の傑作/『確信する脳 「知っている」とはどういうことか』ロバート・A・バートン
宗教学者の不勉強/『21世紀の宗教研究 脳科学・進化生物学と宗教学の接点』井上順孝編、マイケル・ヴィツェル、長谷川眞理子、芦名定道
人間は世界を幻のように見る/『歴史的意識について』竹山道雄