2012-01-03

マイク・タイソンの孤独とストイシズム





脳を持たない知能のカギ「粘菌」、活躍する日本の研究者たち

 脳を持たない原生生物なのに迷路の中を進むことができる「粘菌」が、理想の交通ネットワークを設計考案する上で役立つかもしれない。落ち葉に生息する単細胞生物にしては「上出来」だ。

 アメーバー様で黄色い粘菌は、地球上に数千年前から存在していたが、粘菌たちの生活はハイテクとはほど遠いものだった。だが、科学者たちは、複雑な問題を解決することのできるバイオコンピューターを設計する上で、この粘菌の生態が鍵になるかもしれないと語っている。

粘菌研究でイグ・ノーベル賞

 はこだて未来大学(Future University Hakodate)の中垣俊之(Toshiyuki Nakagaki)教授は、シャーレ上で培養している粘菌をえさ場への迷路に入れると、最短経路を探し当て、それに沿って自分の細胞を組織化すると述べる。

 中垣教授によると、粘菌には自分にとって害となる光などのストレス要因を避けながら、えさ場に到達するという、経路の「最適化」を行える一種の情報処理能力があるようだ。

 函館(Hakodate)にある研究室で、中垣氏は「人類だけが情報処理能力のある生き物だとは限らない」と語る。「単純な生物でさえ、ある程度の難しいパズルを解くことができる。もし生命や知能についての根源は何かということを考えていこうとすれば、単純な生物に使うほうがわかりやすい」

 粘菌よりも単純なものはない。粘菌は落ち葉や枯れ木に住み着き、バクテリアを食べる生物だ。中でも真正粘菌のモジホコリ(Physarum polycephalum)は、顕微鏡なしで肉眼で見ることのできるサイズに成長する。見た目はマヨネーズのようだ。

 中垣氏のモジホコリを使った研究は、2008年と10年に「イグ・ノーベル賞(Ig Nobel Prizes)」を受賞した。ノーベル賞(Nobel Prize)のパロディー版である同賞は「一見、人々を笑わせ、それから考えさせるような」科学研究に授与される賞だ。

最適ルートを発見する粘菌

 知能の鍵を探すのに、粘菌を研究するのは奇妙に思えるかもしれない。だが、粘菌こそがスタート地点にふさわしいと研究者たちは語る。

 九州大学(Kyushu University)の手老篤史(Atsushi Tero)准教授は粘菌の研究について、人間の知性のメカニズムを探求する上でおかしな研究ではなく、かなり正統なアプローチだと述べる。手老氏によると、粘菌は人類の最先端技術よりもはるかに効果的なネットワークを作りだすことができるのだ。

「複数の通過点を経由する最適ルート分析は、コンピュータの得意な分野ではありません。なぜならこの種の計算は膨大になってしまうからです」と手老氏は語る。「しかし粘菌は、全てのオプションを計算することなく、場当たり的に広がりながら最適ルートを徐々に見つけていきます。粘菌は何億年も生き続けた結果、環境の変化に対して柔軟に適応できるようになり、不測の要因にも耐えうるネットワークを構築できるようになったのではないでしょうか」

 粘菌は温度や湿度の変化といったストレスにさらされると、活動を停止することが研究で分かっている。さらにストレスを「記憶」し、同じストレスを体験すると予測したときに、あらかじめ自己防衛的に活動を停止することも判明している。

 手老氏の研究チームは、東京を中心とした関東圏の鉄道網によく似たパターンを粘菌に形成させるのに成功した。鉄道網は人びとが知恵を絞って、作り出したものだ。手老氏は、将来の交通網や、停電時の迂回も組み込んだ送電網計画などにこうした粘菌ネットワークが使われることを期待しているという。

粘菌を使い、人間の脳に近いコンピューターを

 理化学研究所(Riken)の研究者、青野真士(Masashi Aono)氏は、人間の脳のメカニズムを研究し、やがて人間の脳を粘菌で複製することが研究の目標だと語る。

「低次な細胞の情報処理能力を研究することが、人間の脳のメカニズムの解明につながると思っています。研究者として、(そのような手法で解明する)モチベーションとか野望はあります」と青野氏は述べる。

 いわゆる「粘菌ニューロコンピューティング」の応用例には、粘菌のネットワーク形成に用いられる手法に基づいて設計された新たなアルゴリズムやソフトウエアなどの創造なども含まれる。

 青野氏は「究極的には、粘菌そのものを使い、人間の脳がもつ情報処理システムに近いコンピュータを作ってみたい」と述べ、「粘菌は中枢神経など持っていないが、自らの流動性を利用して知性があるように動いている。それってすごい。私にとって粘菌は小宇宙です」と語った。

AFP 2012-01-03







最先端の軍事技術、世界どこでも1時間以内に? 空飛ぶ自動車も

 米国防総省高等研究計画局(DARPA)は、世界での中でもずば抜けて先端を行く未来志向の軍事技術研究に投資している。助成先はハイテク製品の開発を手掛ける民間企業や研究機関。現在はダチョウロボット、空飛ぶ自動車、滞空時間5年間の航空機などの開発プロジェクトを支援する。

 中にはSFに登場しそうな技術もあるが、DARPAによる資金提供は、少なくとも実現の可能性があることを意味する。以下に紹介する研究プロジェクトは未来の戦争を一変させる可能性があり、そしていつか、軍用以外にも転用される日が来るかもしれない。

ディスクローター複合ヘリコプター
 DARPAとボーイング米航空大手ボーイングの共同プロジェクト。ヘリコプターと飛行機の利点を組み合わせ、ヘリコプターのようなホバリング状態からそのまま飛行機のような飛行へと切り替えられる性能の実現を目指す。中央のディスクから伸びた回転翼で地面から離着陸でき、この翼をディスク内に回収すれば、両翼の下に搭載したエンジンで飛行できる。

バルチャー
 バルチャーは「コンドル」の意味。偵察や監視、通信などの作戦用に、滞空時間5年以上の性能を備えた衛星のような無人機の開発を目指す。このプロジェクトもボーイングが手掛け、太陽光発電式の無人機「ソーラーイーグル」を開発中。同機は翼幅120メートル。1万8000メートルの高度で運航する。2014年に初のデモ飛行を予定している。

チェムボット
 米ハイテク企業のアイロボットとDARPAが共同で開発している柔軟性の高い軟体ロボット。変形しながら自分よりも小さな隙間(ドアの下など)をくぐりぬけて進み、極秘作戦の遂行を目指す。

LANドロイド
 アイロボットが開発中のポケットサイズのロボット。兵士が都市部を移動しながら安定した通信を確保できるよう、各ロボットに無線LAN通信の中継機能を備え、兵士が移動するとロボットも自動的に付いてくる。重さは約450グラム。水かきのような構造を使って態勢を立て直し、障害物を乗り越える。

ファルコンHTV-2
 セ氏1925度の高温に耐え、世界中のどこへでも1時間以内に到達できる飛行体の開発が目標。ロケット打ち上げ式の無人航空機「HTV-2」はDARPAが既に製造し、飛行実験を行った。マッハ20はニューヨークからロサンゼルスまで12分足らずで到達できる速度。2010年4月の実験では打ち上げから約9分で太平洋に墜落し、11年8月の実験も同じような経過をたどった。

ファストランナー
 別名「ダチョウロボット」はDARPAとマサチューセッツ工科大学(MIT)などの共同プロジェクト。人間の短距離走者並みのスピードで荒れ地を駆け抜けられる二足歩行ロボットの開発を目指す。コンピューターモデルでは最高時速43キロを達成、2012年に実際のロボットを開発予定。

フェニックス
 地上2万マイルの軌道上にある通信衛星が故障した場合、たとえアンテナや太陽光電池パネルなどの部品がまだ利用できる状態にあったとしても、代替となる衛星を新たに打ち上げなければならない。このプロジェクトでは故障したり引退したりした衛星からこうした部品を取り外し、再利用することを目指す。つまり宇宙ごみのリサイクル事業。

シュライク
 航空宇宙会社のアエロバイロンメントが開発する垂直離着陸式の無人偵察機。バックパックに入れて持ち歩けるサイズの小型機に4枚の回転翼と高解像度のカメラを搭載し、映像を生中継できる。最高40分間のホバリングと数時間の映像中継が可能。

トランスフォーマー
 自動操縦機能を備えた空飛ぶ軍用車の開発は、ロッキード・マーティンやカーネギーメロン大学などの共同プロジェクト。4人乗りで、タンク1個分の燃料で400キロ以上の運航が可能。周囲の環境を認識し、それに応じた飛行ができる自動操縦機能の実現を目指す。

コグニティブ技術危険通報システム(CT2WS)
 遠方から危険を察知して兵士に知らせる双眼鏡。「コグニティブ視覚処理」技術を使って兵士の脳にある潜在意識のパターンをチェックし、兵士が自覚する前に危険を察知する。

ナノエアービークル(NAV)
 屋内および屋内での作戦に利用する超軽量小型飛行体。翼を高速で羽ばたかせてホバリングや飛行ができるハチドリ型ロボットの試作品が既に開発されている。

CNN 2012-01-02

◎フォトスライド

「なぜ入力するのか?」「そこに活字の山があるからだ」


「なぜ、そこまで入力するのですか?」という質問が寄せられた。

私はブック・キャッチャーである/『スリーピング・ドール』ジェフリー・ディーヴァー

「そこに活字の山があるからだ」と返事をした。私はかねがねジョージ・マロリー卿に強い憧れを抱いている。

『そして謎は残った 伝説の登山家マロリー発見記』ヨッヘン・ヘムレブ、エリック・R・サイモンスン、ラリー・A・ジョンソン

 高峰へのアタックはルート選びで成否が決する。未踏の領域には何があるのか? そこには誰も経験していない「山との対話」があるのだ。対話とはコミュニケーションである。天に近い領域に縁起的世界が広がる。私は山であり、山は私である。

 高尾山くらいしか登れない私でも、そんなことは容易に想像がつく。多くの人々によって踏み固められたコースに感動はないかといえばそうでもない。初めて往く道には新鮮な出会いがある。通勤や通学コースがつまらないのは「先がわかっている」ためだ。

 話を元に戻そう。入力は相手の思索を辿る行為である。その意味で「思想のトレース」といってよい。実際にやってみるとわかるが、読んだ時は感動したものの、入力するとキータッチが重くなることがある。これは文体が悪いためだ。文体の生命はリズムである。つまり思想が身体性に至っていないためにアンバランスが生じるのだ。

 法華経の法師品第十で五種法師が説かれ、法師功徳品第十九では「受持、読、誦、解説、書写」という五種の修行の功徳が宣言される。

 書写の目的は情報のコピーではなく、思想のトレースにあったというのが私の見立てである。日本でも明治初期まではこれが普通であった。勝海舟や福澤諭吉が学問と取り組む姿勢にひ弱なところは全くない。むしろ格闘技に近い。

日清戦争に反対した勝海舟/『氷川清話』勝海舟:江藤淳、松浦玲編
枕がないことに気づかぬほどの猛勉強/『福翁自伝』福澤諭吉

 彼らの時代は蘭書があると聞けば全国を渡り歩き、和紙を用意し、墨を磨(す)り、筆を振るって書き写した。その強靭な身体性が外国の思想に肉薄したことは間違いないだろう。

 だから本当であれば、やはり「書く」という行為が重要なのだ。また「声に出して読む」ことも大切であろう。テキストを演劇化すれば、もっと凄い領域に辿りつくはずだ。

 これはスポーツの世界においても同様で、徹底して基本の繰り返しが行われる。身体で「なぞる」のだ。例えば野球の素振りは100回を超えると無駄な力が抜けるといわれる。そして少しずつ理想のフォーム(型)が固まってゆくのだ。

「型にはまるな」という考えはここでは通用しない。型を身につけないと、型を超えることはできないからだ。名選手とはいずれも基本型から独自世界を生み出した人々の異名である。型を無視することは不自由につながる。

 悟りや知性は身体性を伴う。コンピュータが人間にかなわないのは身体性を欠いているためだ。我々は脳内ネットワークが言葉や思考で結ばれていると錯覚しているが、実際の反応を司っているのは五感の刺激であると思われる。つまり身体性を伴う刺激が脳を左右するのだ。

 私の直観が告げる。ここに呼吸が絡んでくる、と。呼吸法ではない。様々な呼吸の変化を見つめ、自覚するということだ。呼吸が生命のリズムを奏でる。

歩く瞑想/『君あり、故に我あり 依存の宣言』サティシュ・クマール

 生の本質は呼吸にある。自信のないまま断言してしまおう。今年も冴えてるぞ(笑)。

私のダメな読書法