2015-07-17

特集『KANO 1931海の向こうの甲子園』馬志翔(マー・ジーシアン)監督


『海角七号 君想う、国境の南』魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督
『セデック・バレ』魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督

 ・『KANO 1931海の向こうの甲子園』馬志翔(マー・ジーシアン)監督

『台湾を愛した日本人 土木技師 八田與一の生涯』古川勝三

 ウェイ・ダーション(プロデュース、脚本)がマー・ジーシアンを監督に起用したようだ。マー・ジーシアンは『セデック・バレ』の主要キャストだった。実に不思議なことだが近藤兵太郎〈こんどう・ひょうたろう〉が監督に就任した1931年は霧社事件が起こった翌年に当たる。











渦巻きの三角形







 渦巻きの三角形は巴紋(ともえもん)や(まんじ)を連想させる。これをマンダラの元型と考えることは可能だろうか。

B・V・A・レーリンク、A・カッセーゼ、小室直樹、藤原肇、手塚治虫


 1冊挫折、2冊読了。

手塚治虫クロニクル 1968~1989』手塚治虫(光文社新書、2011年)/町山智浩が「傑作」と評した「きりひと讃歌」を読もうと思ったのだが、第1話しか掲載されておらず。ネット注文にありがちな失敗のひとつ。

 84冊目『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹、藤原肇(ダイヤモンド社、1982年)/学問の原理を重んじるこの二人が対話しているとは知らなかった。小室のデビュー作『危機の構造 日本社会崩壊のモデル』(ダイヤモンド社、1976年)を読んだ藤原が自著での主張と酷似していたため対談を申し出た。6歳年下の藤原がまったく臆することなく討論に臨む。内容は手厳しい日本叩きが大半であるが、東京裁判史観に毒された日本が高度経済成長を遂げ、バブル景気に向かう時期に当たる。史観を失って経済を重視したものの、国際社会で資本主義原理を弁えない日本の無知を二人は徹底的にこき下ろす。裏表紙の二人が実に若々しい。50歳の小室御大がギラギラした表情を放っている。天才が放つ火花に見とれる。

 85冊目『東京裁判とその後 ある平和家の回想』B・V・A・レーリンク、A・カッセーゼ:小菅信子〈こすげ・のぶこ〉訳(中公文庫、2009年)/ベルト・レーリンクは東京裁判の判決に異を唱えた判事の一人だ。オランダ人。他ではインドのパール判事が最も広く知られているが、フランスのアンリ・ベルナール判事も個別反対意見書を提出している。日本人である私はレーリンクの考えを全面的に支持するものではないが、やはり歴史の当事者が語る重みがある。重要テキストであることに鑑み「日本の近代史を学ぶ」に追加した。法学部の大学生は本書を通して東京裁判を法的に検証するべきだ。日本の軍事力が二流で政治力が三流である現状を思えば、国際法という分野でエリートを育成するしか手が残されていない。戦略的な法律研究が必要だ。レーリンクは東條英機を始めとする日本人の被告は「皆、立派であった」と語っている。小菅信子の「解題」も気合十分。

台湾コメディの快作/『海角七号 君想う、国境の南』魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督


 ・台湾コメディの快作
 ・フィナーレ

『セデック・バレ』魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督
『KANO 1931海の向こうの甲子園』馬志翔(マー・ジーシアン)監督

 ウェイ・ダーション監督が『セデック・バレ』の資金を集めるために制作した映画である。ウェイ・ダーションが関わった最新作は『KANO 1931海の向こうの甲子園』(馬志翔〈マー・ジーシアン〉監督)でいずれも日本統治時代の台湾が背景となっている。


『海角七号 君想う、国境の南』をまだ観ていない人は絶対にネット上で情報を検索してはならない。Wikipediaもダメだ。映画の重要な仕掛けがあちこちで紹介されているためだ。

 町長が経営するリゾートホテルで日本人ミュージシャン(中孝介〈あたり・こうすけ〉)が台湾でコンサートを行う。そこへ次期町長を狙う町議会の議長が横槍を入れる。議長は地域の発展だけを願うコテコテの保守政治家である。「地元メンバーによる前座を起用しなければコンサートを潰す」と脅した。モデル崩れの友子が通訳兼コーディネーターを務める。前座バンドの中心となるのは阿嘉(アガ)という夢破れたミュージシャンで彼は郵便配達をしていた。「海角七号」という古い住所が記された宛先不明の郵便物が現れる。そこには戦争に引き裂かれた日本人男性と台湾人女性を巡る悲しい恋の物語が記されていた。

 最初の30分ほどはやや忍耐を要する。だが教会のシーンあたりから突然コミカル度が急上昇する。牧師(※台湾キリスト教の最大勢力は長老教会なので多分プロテスタントだろう。カトリックだと「神父」)とピアノを演奏する少女の対比に大笑い。この冷めた少女が前座バンドのキーボートを担当するが終始一貫して面白い。

 やはり日本映画と比べるとキャスティングが際立つ。甘いマスクの阿嘉(アガ)と元特殊部隊だった警官でルカイ族のローマーは、どこか『プリズン・ブレイク』の主役兄弟を思わせる雰囲気が漂う。

「海角七号」宛てのラブレターはナレーションで随所に挿入される。もちろん日本語だ。台湾で公開された時リピーターが多かったのも頷ける。観客はラブレターの内容を確認したかったのだろう。

 60年前と現在が交錯し、友子と友子が交錯し、台湾人と日本人が交錯する。アガと友子は夢破れて傷つく二人であった。映画はクライマックスに向かって二人の再生を描く。構成の妙。

 アガと友子のラブシーンが唐突で興醒めするが、ま、構わない。そもそもコメディや風刺というものは常識を基準としており、そのステレオタイプが理解できないと笑えない。きっと感情は陳腐なものを好むのだろう。

 練習の時はドタバタバンドっぽかったのが本番となると音が変わる。2曲目のバラードは「海角七号」との題名で60年前の友子と現在の友子を歌ったものだ。ここから畳み込むようにドラマが展開され、最後の最後であっと驚くひとひねりが挿入されている。エンディングも秀逸。

 監督に力みがなかった分だけ映画の完成度が高い。作品の構成という点では『セデック・バレ』よりも優れている。友子役を演じたのは田中千絵という女優で、たまたま彼女の中国語ブログを見た監督が起用したという。「8か月の留学を終えて、日本に帰ろうとしていた二週間前に、この映画の話が舞い込んできた」(台湾で活躍する日本人7『田中千絵』インタビュー)。役どころと本人までもが交錯していたことになる。

【付記】前座バンドによる乗りのいい曲はザ・ガスライト・アンセム「The '59 Sound」のパクリっぽい。尚、「『野玫瑰』(野ばら)は日本統治時代の小学校での代表的な唱歌であり、台湾が日本統治を離れた後も、中国国民党軍政権に排斥された日本文化の中で、ドイツのフランツ・シューベルトの作曲ということで、かろうじて日本統治世代に受け継がれてきたもので、日本と台湾を結び付ける象徴となっている」(Wikipedia)とのこと。

海角七号/君想う、国境の南 [DVD]
(DVDが何と927円)