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2021-03-16

致命的な誤字/『革命のインテリジェンス ソ連の対外政治工作としての「影響力」工作』佐々木太郎


『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫
『ヴェノナ』ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア
・『ミトロヒン文書 KGB(ソ連)・工作の近現代史』江崎道朗監修:山内智恵子

 ・致命的な誤字

・『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』クライブ・ハミルトン
・『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』クライブ・ハミルトン、マレイケ・オールバーグ
・『「目に見えぬ侵略」 見えない手」副読本』奥山真司監修:『月刊Hanada』編集部

 国家による非軍事的で政治的な対外活動はさまざまな形態が存在する。その中には、たとえば、公然の手法を持(ママ)ってして自らの国益に沿った行動を他国にとらせようとするものがある。具体的に言えば、外交や通商において他国と折衝をおこなうことであったり、公式の声明を発表したり、あるいは政府高官がメディアのインタビューに答えるなどの行為がこれに該当する。
 一方で、自らの国益に沿った行動を他国にとらせるために用いられる非公然の手法としては、偽文書など情報の発信元を隠蔽したプロパガンダや、あるいは表向きは関係がないように装った組織を使って示威運動をおこなったりすることなどがある。これらは、いわゆる「欺瞞」(deception)と呼ばれる工作形態に属するものである。
 本書は、こうした非公然の手法のうち、自らの影響力を持(ママ)ってして他国の国民や政策決定者の知覚を誘導する個人を利用した工作――本書では「影響力」工作と呼ぶ――を、ソ連が当該時期に世界各地で展開していたことを示す。

【『革命のインテリジェンス ソ連の対外政治工作としての「影響力」工作』佐々木太郎(勁草書房、2016年)】

 一応、著者の経歴を調べてみたが、大学院を出ていながら「持ってして」と一度ならず何度も出てくるとあっては読むに堪(た)えない。更に「――を以てしても」と使うのが普通で、「以てして」は間違いではないが「以て」とするべきだろう。上記テキストでも気取ったつもりなのか、「他国の国民や政策決定者の知覚を誘導する個人を利用した工作」という意味不明な文章が出てきて辟易(へきえき)させられる。

 他方、日本においても、摘発されたソ連の「影響力行使者」はひとりもいない。だが、日本を舞台にしたソ連の「影響力」工作の実態は、ある事件によって世界的な注目を集めることになった。その事件とは、1975年から1979年まで東京のKGB駐在部に勤務して対日工作に当たり、その後アメリカに亡命したスタニスラフ・レフチェンコが、1982年7月14日に開催されたアメリカ連邦議会下院情報特別委員会聴聞会において、宣誓のうえ、日本における自身の活動内容について証言したことである。このときのレフチェンコの証言には、次のような一節がある。

KGBは1970年代において、日本社会党の政治方針を効果的にコントロールできていました。同党の幹部のうち10人以上を影響力行使者(エージェント・オブ・インフルエンス)としてリクルートしていたのです。

 さらにレフチェンコは議会での証言後、アメリカや日本のメディアからの取材の中で、自ら管理した協力者らのカバーネーム(コードネームとも言う)や実名を一部公表し、日本社会党関係者以外にも「影響力行使者」がおり、また日本政府の機密情報をソ連側に漏洩する者たちなどもいたことを明らかにした。

 もったいぶった文章が鼻につく。しかも今となっては広く知られた事実である。私は菅沼本で知った。やはり先程指摘したのは「致命的な誤字」であった。確かにパソコン辞書だと「持ってして」と出てくるが、これだけ多用する言葉を誤っているのだから、かような人物が発信する情報を信用できるわけがない。更に勁草書房編集者・校正の責任を見過ごすわけにはいかない。私が社長なら首にしているところだ。勁草書房の未来は暗い。

2021-01-28

アメリカ民主党の人種差別的土壌~アイデンティティ・リベラリズム/『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹


『9.11 アメリカに報復する資格はない!』ノーム・チョムスキー
『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス
『アメリカの国家犯罪全書』ウィリアム・ブルム
・『コールダー・ウォー ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争』マリン・カツサ
『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー

 ・利益率97%というクリントン財団のビジネスモデル
 ・アメリカ民主党の人種差別的土壌~アイデンティティ・リベラリズム

・『クリントン・キャッシュ』ピーター・シュヴァイツァー

必読書リスト その五

ヒラリー・クリントン アイデンティティ・リベラリズムの象徴 その一

 2016年7月26日、民主党は同年11月の大統領選候補にヒラリー・クリントンを正式指名した。本書でこれまで明らかにした疑惑の数々を知っている読者にとっては、なぜ民主党が彼女を選択したのかいぶかしく思うに違いない。その原因は、メディアにあった。
 CNNを筆頭にした米国主要メディアは、ネオコン系資本の支配下にあり、リベラル国際主義(干渉主義)を絶対善とする論陣を張った。彼らは、ヒラリーの疑惑をほとんど報じないか、報じても矮小化(わいしょうか)した。クリントン財団を利用した利益誘導外交は、本来であれば政権を揺るがす大スキャンダルであった。しかし、メディアはこの問題を深追いせず、次期大統領はヒラリーになると報道した。メディアの偏向については後述するが、そもそも民主党はなぜスキャンダルを抱えるヒラリーを選出したのだろうか。
 民主党は、19世紀半ばの時代、人種差別的政党であった。民主党の基盤は、南部白人層つまりコットン・プランテーション経営(奴隷労働経営)者層にあった。1861年に始まった南北戦争は、北部の商工業者の支持を受けた共和党リンカーン政権に対して、南部民主党に率いられた南部連合が離脱したことから始まった。南部連合は戦いに敗れ奴隷解放に応じたが、ナブ諸州の政治は、民主党が牛耳ったままであった。彼らは、南部白人の結束を訴え(ソリッド・サウス政策)、黒人隔離政策を推進した(ここでは当時の空気を正確に記すために、政治的用語であるアフリカ系とせずあえて黒人と表記する)。交通機関、トイレ、食堂なども肌の色で隔離する法律を次々と導入した。黒人に対するリンチも止まらなかった。これらは州の独自の権限(州権)に基づく州法であったため、連邦政府は口出しできなかった。黒人隔離(差別)の諸法律はジム・クロウ法と総称され、第二次大戦後も続いた。これが廃止されたのは1964年のことである。
 戦後になると、民主党の主たる支持層であった南部白人層が相対的に豊かになった。豊かさが人種差別的意識を希釈した。支持基盤の喪失を恐れた民主党は、「弱者のための政党」へカメレオン的変身を企てた。かつて、黒人を激しく嫌悪し、隔離政策をリードした首謀者でありながら、当時は【国全体が人種差別的】であった、と言い逃れをし、責任を他者に押し付けた。民主党の責任については洞ヶ峠(ほらがとうげ)を決め込んだ。
 弱者はどこにでもいた。かつて自らが差別していた黒人層、西部開拓の過程で白人に姦計(かんけい)を弄(ろう)され居住地を追われた原住インディアン、遅れてアメリカにやってきて嫌われたアジア系・ラテン系・東欧系移民、宗教的に阻害されてきたユダヤ系移民、職場でパワハラやセクハラを感じている女性層、性的嗜好マイノリティ層(LGBT)。探せばどこにでもいた。
 相対的弱者とされる層が必ずしも弱者と自覚しているわけではない。したがって、彼らを「票の成る木」に変えるには、「弱者であることを能動的に意識」させなくてはならない。その上で、強者(国家あるいはエスタブリッシュメント白人層)への怒りを煽(あお)る。いかなる国にも誇れない過去がある。理不尽であった過去の振る舞いは、先人たちの努力で十分とはいえないまでも矯正がなされてきた。しかし権力を奪取したい、あるいは維持したい民主党にとっては、矯正の歴史はどうでもよいことであった。対立、いがみ合い、非妥協の継続。それが票になった。
 民主党は、ターゲットとした弱者層に、「失われた」権利を回復しなくてはならないと訴えた。弱者であることを意識させることは難しくない。ほとんどのケースで、外見だけで弱者に所属していると自認できた。所属するグループ(黒人、移民、少数民族、女性など)を見渡せば、容易にわかった。この思想ともいえない権力を摑(つか)むための主張(戦術)が、アイデンティティ・リベラリズム(IL:Idetity Liveralism)である。
 ILの考え方の延長が「多様化礼賛」だった。いわゆる「多文化共生思想」である。社会的弱者にも優しくすべきだという主張は美しい。社会的優位にあった白人エスタブリッシュメントも白人中間層もその訴えに同意した。こうして弱者救済に政治が積極的にかかわるべきだとする運動(アファーマティブ・アクション〈積極的差別撤廃措置〉)が始まった。この言葉を初めて使ったのはジョン・F・ケネディ大統領(民主党)だった。大統領令10925号(1961年3月)は、求職の際に、人種(肌の色)、宗教的信条、出身国などによって差別されてはならないと規定した。そうした行動を雇用者が【積極的】にとるよう勧告した。それがアファーマティブ・アクションであった。
 次のリンドン・ジョンソン大統領(民主党)もこの施策を引き継いだ。ただ二人の主張は、「競争は弱者を差別することなくフェアに行なわれるべきだ」と勧奨するにとどまっていた。
 この主張に、法的拘束力をもたせたのはジョンソンに続いたリチャード・ニクソン大統領(共和党)だった。ニクソンは悪い意味で人種を強く意識した政治家だった。彼は、人種間には自然科学的な違いがあると信じていた。ユダヤ人を創造力に富むが倫理観に欠ける、黒人は白人よりIQは低いが身体能力は高い、アジア人は勤勉でなかなか頭が良い、などという「科学的」な決めつけが得意だった。
 ニクソンが人種差別的信条をもっていたことは間違いなかったが、皮肉にも、その彼が、大統領令11478号を発し、アファーマティブ・アクションに法的強制力をもたせた(1969年8月)。これにより、雇用均等委員会(1965年設置)が、政府および連邦政府資金で運営される組織全体(大学や研究機関など)の職員採用に少数派(主として黒人)を積極的に採用させる監視機関となった。その結果、1970年代初めになると、黒人男子大卒者の57%、女子の72%が公務員となった。
 アファーマティブ・アクションは次第に拡大され、政府の下請け企業の受注においても、マイノリティの経営する会社が入札なしで優先的に選ばれる制度(Set-aside)も生まれた。こうしてマイノリティ利権が制度的に確立していった。マイノリティの定義は当初想定していた黒人層から、女性、原住インディアン、あるいは遅れてきた移民層にまで拡大された。マイノリティに属していることが採用に有利になった。これが少数派利権の始まりだった。
 人種差別主義者であったニクソンがアファーマティブ・アクションを促進したのには訳があった。黒人隔離(差別)のジム・クロウ法が廃止されたのは1964年だと書いた。60年代は黒人公民権運動が吹き荒れた時代だった。1969年に大統領に就任したニクソンは、外交に専念したかった。「騒いでいる」黒人活動家の憤りを「ガス抜き」することで内政を落ち着かせたかった。それが、強制力をもたせたアファーマティブ・アクション導入の背景だった。

【『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹〈わたなべ・そうき〉(PHP研究所、2019年)】

 これは『ニュース女子』#302「日米新外交関係で日本が取るべき進路は・牙を剥く中国の脅威」(1月26日)で武田邦彦や飯田泰之・江崎道朗〈えざき・みちお〉・門田隆将〈かどた・りゅうしょう〉らが指摘した発言を裏付けるテキストである。

「ポリティカル・コレクトネスは白人による人種差別を覆い隠すために編み出された概念」(『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン)という歴史を踏まえれば、差別の細分化~再生産を目的としているのだろう。

 ヒトは大脳新皮質を発達させて、200万年という長大な時間をかけて群れの領域を国家にまで拡大してきた。ザ・コーポレーションDVD)は国家を横断する経済規模に発展した。新型コロナウイルスは国家に強権の発動を許した。国民の移動を禁じる自粛要請や休業要請はたまた学校の休校措置はさながら「現代の空襲警報」といってよい。

 そして自由の象徴であったインターネット空間がビッグテックの完全支配下に降ろうとしている。twitterはトランプ大統領のツイートによってメインストリームメディアの嘘を明らかにした。にもかかわらず、twitter社はトランプ大統領を永久追放した。まるで中国共産党のような仕打ちである。シリコンバレーが民主党支持に傾いている事実を思えば、今後は共和党から大統領が選出されることはないだろう(『2025年の世界予測 歴史から読み解く日本人の未来』中原圭介)。

利益率97%というクリントン財団のビジネスモデル/『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹


『9.11 アメリカに報復する資格はない!』ノーム・チョムスキー
『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス
『アメリカの国家犯罪全書』ウィリアム・ブルム
・『コールダー・ウォー ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争』マリン・カツサ
『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー

 ・利益率97%というクリントン財団のビジネスモデル
 ・アメリカ民主党の人種差別的土壌~アイデンティティ・リベラリズム

・『クリントン・キャッシュ』ピーター・シュヴァイツァー

必読書リスト その五

 ヒラリーが、個人サーバーの利用に拘(こだわ)ったのは、交信記録は国家財産として保存され、後に公開されるからである。彼女と夫のビルは、クリントン財団(1997年設立)なる「チャリティー」組織を設立して、多くの「支援者」から寄付を募っていた。運営は元大統領と娘のチェルシーが担っていた。表向きは、国際慈善事業の推進であったが、運営コストの割合が高く、関係者も異常な高給を貪(むさぼ)っていた。2014年度の数字は収入総額1億7780万ドルに対し、チャリティー事業に支出されたのはわずか516万ドルだった。1ドルの寄付に対して、真の事業には3セントの支出だったことになる。クリントン財団には外国の企業や要人から巨額の寄付があった。国務長官として(あるいはその前の上院議員)の外交方針が、彼らの利益になったからだった。

【『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹〈わたなべ・そうき〉(PHP研究所、2019年)】

 1ドル=100セントである。クリントン夫妻は講演でも荒稼ぎをしており、45分間の講演で3000~5000万円が相場とされる(ITmedia ビジネスオンライン)。クリントン夫妻は大統領を退いてから15年間で270億円も稼いでいる(フォーブス ジャパン)。

 どう考えてもおかしい。人間としておかしいと思う。富の偏在は賃金の上昇を阻害し、人々の労働意欲を失わせる。使い切れない莫大なお金を思えば環境破壊といってもよさそうだ。

 トランプ大統領再選の予見は外れたが、共和・民主両党にまたがるネオコンの動向を見据えた一書で、アメリカの今後を占う重要テキストになるだろう。

 必ず『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』の後に読むこと。

2019-12-02

ロックフェラーとニュー・ワールド・オーダー/『悪の宗教パワー 日本と世界を動かす悪の論理』倉前盛通


『小室直樹vs倉前盛通 世界戦略を語る』世界戦略研究所編
『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『新・悪の論理』倉前盛通
『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』竹山道雄:平川祐弘編
『情報社会のテロと祭祀 その悪の解析』倉前盛通
『自然観と科学思想』倉前盛通
『悪の超心理学(マインド・コントロール) 米ソが開発した恐怖の“秘密兵器”』倉前盛通
『悪の運命学 ひとを動かし、自分を律する強者のシナリオ』倉前盛通
『悪の戦争学 国際政治のもう一つの読み方』倉前盛通
『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹

 ・ロックフェラーとニュー・ワールド・オーダー

 現在アメリカで最も有名なジャーナリストのひとりであり、スタンフォード大学で歴史を学び、後にカリフォルニア州立大学で国際問題を研究したゲイリー・カレン著の『ロックフェラー・ファイル』の次の一文が目をひく。
“現在、ロックフェラー・グループは、世界の大衆を着実に「大合併」へと導くために、計画的に人口問題、石油危機、食糧危機、あるいは通貨不安を演出し、これらの「危機」を打開するためには「国際管理」が必要であると我々に訴えている。この驚くべき計画を立案するためにあたり、その基礎をほとんど手がけたのが、かの有名なキッシンジャー博士だ”

【『悪の宗教パワー 日本と世界を動かす悪の論理』倉前盛通〈くらまえ・もりみち〉(広済堂ブックス、1986年)】

「ゲイリー・カレン」となっているが正しくはゲイリー・アレンのようだ(『The Rockefeller File』/『ロックフェラー帝国の陰謀 見えざる世界政府 Part1』『ロックフェラー帝国の陰謀 見えざる世界政府 Part2』高橋良典訳、自由国民社、1984年、1986年)。

 ロックフェラーとロスチャイルドを比較したのが以下の図である。


 所謂「ニュー・ワールド・オーダー」(新世界秩序)である。この言葉はジョージ・H・W・ブッシュ大統領が湾岸戦争前に連邦議会で行った『新世界秩序へ向けて』というスピーチで有名になった。それが1990年の9月11日であったことから9.11テロ陰謀説が唱えられるようになった経緯がある。

 1989年にベルリンの壁が崩壊し、翌1990年にドイツが統一される。同年、マルタ会談にて冷戦の終結が宣言され、1991年にソ連が解体された。よく憶えている。私は20代後半だった。日本はバブル景気に浮かれて世間全体が祭りのような熱気に包まれていた。ビル・クリントン大統領が対日経済戦争を布告し、日本の富はあっという間に簒奪(さんだつ)され“失われた20年”が始まるのである(『この国の権力中枢を握る者は誰か』菅沼光弘)。

 アメリカはアジア・中東で好き勝手に戦争を行い、9.11テロ後は対テロの名目で経済制裁を加え、その一方で民主化を扇動してきた。カラー革命に資金援助をしていたのはジョージ・ソロスである。民主化さえ実現できれば後は金融とメディアで望む方向に動かすことができる。ユダヤ財閥はそう考える。

 キッシンジャーはロックフェラー家の番頭のような存在だ。日本にとって最大の問題はG2構想が生きているのかどうかである。私はなくなっていないと考える。米中貿易戦争はヤラセだろう。アメリカが世界から退いて保護主義に向かっているわけだから、その分中国が前に出るのは当然だろう。沖縄から米軍が撤退するのも数年以内のことと思われる。

 第二次世界大戦以降、「東アジアを不安定にする」のがアメリカの戦略であった。日本を取り巻く島嶼(とうしょ)部の国土紛争もアメリカが蒔(ま)いていった種だ。

 9.11テロを経て「世界は多極化に向かう」というのが玄人(くろうと)筋の見立てであった。多極化には必ず紛争が伴うがそれを予測する人を私は知らない。東アジアと中東で戦乱が起こるのは必至だろう。

 話は変わるがユダヤ資本に牛耳られた世界を変えようとして誕生したのがビットコインであった(『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー)。

 ヨーロッパに銀行大帝国を築いたロスチャイルド家の兄弟の母は、戦争の勃発を恐れた知り合いの夫人に対して「心配にはおよびませんよ。息子たちがお金を出さないかぎり戦争は起こりませんからね」と答えたという。

【『嬉遊曲、鳴りやまず 斎藤秀雄の生涯』中丸美繪〈なかまる・よしえ〉(新潮社、1996年/新潮文庫、2002年)】

 テクノロジーが世界を変えようとした試みは呆気なく頓挫した。ビットコインの流通を許せば銀行システムは不要となる。そんな真似を彼らが許すはずもない。

 欧米の超エスタブリッシュメントが今も尚、ワン・ワールド体制を目指しているのかどうかはわからない。ただドルを見捨てることだけは明らかだろう。

2019-07-16

自らのイデオロギーのためにはプロパガンダもいとわない新聞/『チベット大虐殺と朝日新聞 朝日新聞はチベット問題をいかに報道してきたか』岩田温


 ・自らのイデオロギーのためにはプロパガンダもいとわない新聞

・『悪の論理 地政学とは何か』倉前盛通
・『崩壊 朝日新聞』長谷川煕
『さらば群青 回想は逆光の中にあり』野村秋介
『人種差別から読み解く大東亜戦争』岩田温
・『だから、改憲するべきである』岩田温
『平和の敵 偽りの立憲主義』岩田温

「朝日新聞」と言った場合、どんなイメージが思い浮かぶだろうか。
「インテリの新聞」、「高所得者が読む新聞」、「受験に出る新聞」、「リベラル色が強い新聞」といったイメージが一般的なのではないか。「自らのイデオロギーのためにはプロパガンダもいとわない新聞」、「利潤のためであれば、いくらでも節操を曲げる新聞」だと正確に理解している良識派は少ないはずである。
 北朝鮮のことを「地上の楽園」と呼び、カンボジアのポルポト派が大虐殺を行っているときに、ポルポトをして「アジア的優しさにあふれている」と書いた朝日新聞。それにもかかわらず朝日新聞のことを、今なお正しく認識している日本人は、残念ながらまだまだごく少数に留まっている。

【『チベット大虐殺と朝日新聞 朝日新聞はチベット問題をいかに報道してきたか』岩田温〈いわた・あつし〉(オークラ出版、2008年)以下同】

 イデオロギーは事実をも歪める。朝日新聞は社会主義国の大量虐殺には目をつぶり容認する。なぜなら正しい目的のためなら行き過ぎた手段は常に正当化されるからだ。志を同じくする同志の殺人を糾弾することのない彼らが一方では人権を主張するのだから片腹痛い。イデオロギーは自分たちの矛盾も見て見ぬふりをする。正しいイデオロギーに生きる者は何をしても許されるのだ。



 朝日新聞に次の川柳が掲載されたという。「五輪前 どうにも邪魔な 生き仏」(2008年3月20日の「朝日歌壇」に載った川柳)。

 チベット問題に関してはチベット側に一点の瑕疵(かし)もないことは明らかである。(中略)それゆえに論説や社説で堂々とダライ・ラマを批判できないから、奇策として、風刺と言いながら誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)を行う。

 日本人がチベット問題を知ったのは長野五輪(1998年)の時であった。「フリーチベット」(チベットに自由を)を叫ぶ人々に中国人が襲いかかったのだ。中国人の行動は明らかに組織立ったもので計画性さえ窺わせた。さすが暴力革命の国である。いかにも集団の暴発と見せかけながらきっちりと目的を果たした。日本の警察は上からの指示があったのか指をくわえてじっと見守った。

 チベット問題に関しては倉前盛通〈くらまえ・もりみち〉著『悪の論理 地政学とは何か』(日本工業新聞社、1977年)の第5章を参照せよ。また朝日新聞の逃げ口上については野村秋介〈のむら・しゅうすけ〉の本が詳しい。

 岩田温〈いわた・あつし〉には小室直樹や倉前盛通の衣鉢(いはつ)を継ぐ論客になってもらいたい。

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岩田温
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2015-11-12

ロシア革命の実態はユダヤ革命/『世界を操る支配者の正体』馬渕睦夫


『日本の敵 グローバリズムの正体』渡部昇一、馬渕睦夫
『国難の正体 世界最終戦争へのカウントダウン』馬渕睦夫

 ・ロシア革命の実態はユダヤ革命

 ロシア革命について、もちろん私たちは歴史の教科書で学んだわけですが、残念ながら真実は隠されていました。そもそもロシア革命という名称自体が誤解を招く元です。ロシア革命はロシア皇帝の圧政に苦しむロシア人が蜂起して帝政を転覆した革命では決してありません。ロシアの少数民族ユダヤ人を解放するために、国外に亡命していたユダヤ人がロンドン・シティやニューヨークのユダヤ系国際金融勢力の支援を受けて起こした革命であったのです。その意味で、ロシア革命ではなく「ユダヤ革命」と言うのが正しいのです。

【『世界を操る支配者の正体』馬渕睦夫〈まぶち・むつお〉(講談社、2014年)以下同】

 アメリカのウッドロー・ウィルソン大統領は新生ソ連に対して「素晴らしい民主主義国家が誕生した」と賛美した。ウィルソンといえばパリ講和会議(1919年)で日本が提案した人種的差別撤廃提案に対して、唐突に「全会一致が望ましい」と言い出し、国際連盟の議長権限で否決した人物である。さしずめ有色人種の人権は軽くユダヤ人の人権は重いといったところか。

「ユダヤ系国際金融」と聞けば陰謀論めいているが、キリスト教が利息を禁じていたため金融業はユダヤ人が行ってきたヨーロッパの歴史がある。信用創造や株式による投資を編み出したのも彼らであった。

 では、ウィルソン大統領はなぜロシア革命を礼賛したのでしょうか。その理由は、彼の周囲を固めていた側近たちが皆社会主義者であったということです。ウィルソン大統領が第二の自分とまで呼んで信頼していたエドワード・マンデル・ハウス大佐は社会主義者でした。ハウス大佐は一介のユダヤ系民間人にすぎませんが、ホワイトハウス内に執務室を与えられていました。ウィルソン大統領の側近中の側近の補佐官であったのです。このように、議会の承認を必要としない、いわば令外官(りょうげのかん)がアメリカ大統領に最も影響を与える地位に就くことができるのです。
 この方程式は現在まで続いています。有名なヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官(1923年~)は、私人の身分でニクソン大統領の外交政策を牛耳りました。カーター大統領の安全保障担当補佐官であったズビグニュー・ブレジンスキー(1928年~)は、オバマ大統領の外交顧問を務めたほど、長期にわたり民主党の外交政策に影響を与え続けました。


「エドワード・マンデル・ハウス」で検索したところこの動画を見つけた。どうやら社会主義よりも国際主義に重きがあるようだ。

 当時の米ソを理解するために欠かせないのはアーマンド・ハマー(1898-1990年)だろう。共産主義のシンボルである「鎌とトンカチ」がそのまんま名前となっている(アーム・アンド・ハンマー)。



「ハマーの父親ジュリアスはロシアから移住してきたユダヤ人医師で、アメリカで最初に『共産党』を組織した男だった」(石油王Dr.ハマー 米ソ貿易で巨利を得たユダヤ大富豪)。正確には「アメリカ共産党の元となった社会主義労働党の創設者」である。「冷戦時代に東西両陣営を股にかけて活躍し、米ソ外交の“影の主役”として歴史に名を残した」(アメリカで活躍するユダヤ人)。更に中国への出入りも自由であった。彼は自家用ジェット機で晩年に至るまで世界を飛び回った。

 ソ連建国が1922年。ウッドロー・ウィルソン政権下でFRB(連邦準備制度)の設立が1913年である。「J・P・モルガンが所有するジキル島クラブで秘密会議が開かれ」「多くの上院議員が休暇で不在の隙を突いて12月23日にワシントンD.C.に駐在する連邦準備制度理事会と12地区に分割された連邦準備銀行により構成される連邦準備制度が成立した」(Wikipedia)。きな臭い匂いがプンプンする。

 後にソ連のスパイであったハリー・デクスター・ホワイトによってIMFが設立された(『秘密のファイル CIAの対日工作』春名幹男、2000年)ことを考えると、FRB設立はユダヤ人によるアメリカ乗っ取りシステムの構築と考えていいだろう。ハマーの資金が投じられたという説もあるが年齢を踏まえると父親によるものか。

 アーマンド・ハマーは池田大作中丸薫とも親交を重ねた。まったくユダヤ人は恐ろしいものだ。



元ソ連外交官が語る「ロシア-ユダヤ闘争史」の全貌
ロシアとウクライナのユダヤ人の悲史
ロシア・ユダヤ人実業家の興亡
歴史という名の虚実/『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一
ネオコンのルーツはトロツキスト/『「米中激突」の地政学』茂木誠

2015-08-11

謝るということの国際的な重大性/『言挙げせよ日本 欧米追従は敗者への道』松原久子


『日本の知恵 ヨーロッパの知恵』松原久子

 ・謝るということの国際的な重大性

『驕れる白人と闘うための日本近代史』松原久子

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

「戦後70年安倍談話」に関するトピックをいくつか挙げる。特に意識をしてフォローしてきたわけではないので見落としがあればご指摘願う。

・有識者会議の座長代理を務める北岡伸一・国際大学学長は、3月9日、「日本は侵略戦争をした。私は安倍首相に『日本が侵略した』と言ってほしい」と言明していた(「安倍談話」の有識者会議座長代理の変節から浮かぶ「圧力」の歴史――シリーズ【草の根保守の蠢動 第7回】

・にもかかわらず、北岡座長代理は、4月10日、『植民地支配と侵略』や『おわび』の踏襲にこだわる必要はないと、全く逆の考え示すに至った。(同ページ)

・公明党の漆原良夫中央幹事会会長は9日、安倍晋三首相の戦後70年談話に「侵略」や「おわび」を明記するよう求めた。「言葉が入ることは大事だ」と強調した。(産経ニュース 2015-08-09

・山口代表は、「過去の内閣の談話の趣旨を継承し、国際社会にきちんとその趣旨が伝わるような配慮をしてほしい」などと、公明党側の考えを伝えました。(NHK 2015-08-07

・70年談話、「おわび」盛らず 首相が原案  歴史認識継承は明記(日本経済新聞 2015-08-08

・10日、NHKによると、戦後70年談話の原案は平成7年の村山談話や平成17年の小泉談話でキーワードに位置づけられている「痛切な反省」、「植民地支配」に加え、「お詫び」と「侵略」という、すべての文言が明記されていることが明らかになった。 (中央日報 2015-08-10

・(公明党の意見は当然であり)「侵略」をきちんと位置づけ、「反省とお詫び」を盛り込んだ上で、いくらでも未来志向のものにできると思います。 (小宮山洋子・民主党前衆議院議員 2015-08-09

・私個人は、表現の問題で誤解を受け、ギクシャクするくらいであるならば、過去の談話で表された「侵略」や「お詫び」の文言をしっかりと踏襲し、あらためて我が国の反省の意を明らかにした上で、戦後日本の平和な歩みや国際貢献に言及するとともに、地域と世界の将来を見据えた未来志向の談話にしていただきたいと願っています。(岩屋毅・自民党衆議院議員 2015-08-10

・7日夜の自民・公明両党の幹部会談で示された原案には、「おわび」の文言は入っておらず、公明側は「過去の談話を踏襲すると首相は言うが、おわびが意味として世界各国に伝わるようにしないといけない」と、中国や韓国への配慮を求めていた。(日刊ゲンダイ 2015-08-10

・連立与党の公明党が「侵略」「おわび」などをキーワードとして盛り込むよう求めていることに一定の配慮を示した。(ロイター 2015-08-10

・安倍晋三首相が14日に発表する戦後70年談話で、「侵略」に言及する方向であることが9日、分かった。戦前・戦中の日本の行為に絞っての「侵略」というよりも、世界共通での許されない行為として触れる可能性が高い。(産経ニュース 2015-08-10

・70年談話「侵略」記述へ 首相、国際原則の文脈で (日本経済新聞電子版 2015-08-11

・政府が14日に閣議決定する戦後70年談話で、先の大戦を侵略戦争と位置づけ、「侵略」の文言を明記する方向であることが10日、明らかになった。「反省」という言葉も盛り込むほか、戦後日本の歩みに多くの国が理解を示していることに「感謝」の意も表す。(YOMIURI ONLINE 2015-08-11

・戦後70年談話、アジア諸国への「おわび」に言及へ 14日に閣議決定(ハフィントン・ポスト 2015-08-11

・戦後70年談話「おわび」に言及へ 安倍政権幹部が明言(朝日新聞 2015-08-11

 公明党・創価学会は中国・韓国とのパイプがあるため、ひょっとすると何らかのメッセージを託されている可能性もあるように思う。とはいえ日本の基軸は日米関係であり、アメリカの意向が最も大きな影響を及ぼす。安部首相が「戦後レジームからの脱却」という志を失っていないのであれば、敗戦70周年という節目こそ「新しい日本の像」を示す絶好の機会ではないか。にもかかわらず十年一日の如く東京裁判史観に基づいた謝罪外交を踏襲するとはこれ如何に。

謝る者は弱者、弱者はたたけ

謝れば償え

 そのため、ままあいい加減で謝るなどという迂闊(うかつ)な真似は決してしない。謝るということは自分の負債なり罪責を認めることである。認めた以上それを償わなければならない。これは小さな子供でも知っている。ドイツやフランスで子供が「ごめんなさい」と言えば親はそれで許すどころか、悪いと認めた以上償いのために「庭をきれいに掃除しなさい。わかっているね」とか「今夜テレビを見る時間は30分に減らすから、そのつもりで」などと言い渡している。「ごめんなさい」では済まないのである。
 謝るということの危険さは宗教的風土においても顕著である。教会の教義以外を信じたために捕らえられた者が、教会による苛酷な拷問に苦しむ。苦しんでも自らを曲げず謝らなければ拷問は死ぬまで続く。非を認め、謝れば、恩赦と称して焚刑(ふんけい)に処した。一度悪魔の手に渡った魂を聖なる火で清め、地獄の替わりに天国へ行かせてやるためである。ということは一度捕らえられた以上は神学的理由をつけてどっちにしても殺すのである。
 この無慈悲で無恥なやり方は中世から近世にかけてヨーロッパ全土に繰り広げられた宗教裁判の常識であるが、それはヨーロッパ人の歴史的記憶となって受け継がれ、謝るということは死に繋がるのだという教訓を残している。
 日本では宗教の世界観が動かすことのできない永遠の真理としてたたきこまれ、それとは異なる観察なり意見を持ち出すことが罪であるとして改宗を迫られたことはない。仏教各派の大僧正や伊勢神宮の大宮司が何十万、何百万もの人間を家の中から引きずり出して宗教裁判を行い、謝る者」を焚刑に処したという歴史はない。
 日本では子供の時から「ごめんなさい」と言えば、親は「よしよし、わかったな」と言いながら頭を撫で、早々におやつのひとつも出してくれるし、大人になってからでも「何とかここはご勘弁を」と両手をついて平謝りに謝れば相手も大体心を和(やわ)らげてくれる。謝った以上罪責を認めたのだから大いに償ってもらうというのではなく、あれだけ誤っているのだからもう許してやろうということになる。こういうありがたい社会に住んでいるため、日本人は国の指導者でさえも謝るということの国際的な重大性をまったく意識していない。対外的に謝るということの結果についてはあまりにも無頓着なのである。謝る以上、何に対して謝るのか内容をはっきりさせ、賠償を支払う覚悟がなければ安々と謝ってはならない。
 ヨーロッパでは謝るということは賠償につながり、国土の削減につながり、下手をすると滅亡につながることを誰もが知っている。
 西欧の基本は、非難を受け入れて謝る者、黙って退く者、善意に充ちてはいるが打ち返す力のない者を弱者とみなし、弱者をたたくことである。たたくことは可哀そうだと情に溺れたり、その妥当性を検討している余地がないほど苛酷である。そのため、弱者にならぬよういざとなれば弁護士の知恵を借りる。非難を受け入れて謝ったり、黙って退いたり、打ち返すことをあきらめると弱者と見られる。
 たとえ退くにしても、その理由を延々と述べなければならない。妥協案をとるにしても、喜々としてとってはならない。
「非難を受けるようなことをやったばかりでなく、そのうえ開き直って、つべこべ言訳を述べ、厚顔無恥の徒だ」と日本人が感じるようなやり方が西欧社会の常識である。
 ちなみにクリントン大統領はホワイトハウス見習い生との性的関係を認めざるを得ないところまで行ったにもかかわらず、決して国民に謝罪はしていない。 deeply regret というのは「深く後悔する」という意味だが、謝罪するというのではない。「この車を買って後悔している」というのは「謝罪する」のとは異なる。ここを間違えて日本の新聞は「大統領謝罪する」と書き立てたが、本質的なところで誤解している一つの例である。

【『言挙げせよ日本 欧米追従は敗者への道』松原久子(プレジデント社、2000年)】

 松原久子は日欧比較文化史の学者でドイツではコラムニストとして活躍。テレビ番組にもレギュラー出演し評論家としても知られる。現在はアメリカ在住。

 深代惇郎もこう書く。

 ところが西洋人からすれば「天然現象ではるまいし、(交通)事故が降ってわいたわけではない。どちらかに過失があったから起こったので、アイ・アム・ソーリーかユー・アー・ソーリーのどちらかしかない」ということになる。
 だから交通事故でドライバーが「詫(わ)びる」のは、弁償するということであり、「詫びる」というのは、まことに重大な人格表現で、それだけの覚悟がいる。

【『深代惇郎エッセイ集』深代惇郎〈ふかしろ・じゅんろう〉(朝日新聞社、1977年/朝日文庫、1981年)】

 異民族による征服という危機にさらされてきたのがヨーロッパの歴史であった。そのため「彼らは国家間の協力とか友好の本質を利害関係の均衡に見いだ」(13ページ)す。要は文化の違いであるが、欧米の価値観が国際基準となっているため日本の情緒や阿吽(あうん)の呼吸は通用しない。

 安倍談話に謝罪が盛り込まれるとすれば、日本はまたぞろ奪われる側に身を置くこととなる。結局のところ国家の安全保障を他国に依存しているうちは、国際社会で自分たちの歴史を語ることも許されないのだろう。

 まだ読み終えていないのだが、タイミングを逸することを恐れるあまり紹介した。

2015-03-20

グローバリズムと共産主義は同根/『国難の正体 世界最終戦争へのカウントダウン』馬渕睦夫


『われら』ザミャーチン:川端香男里訳
『日本の敵 グローバリズムの正体』渡部昇一、馬渕睦夫

 ・グローバリズムと共産主義は同根

『世界を操る支配者の正体』馬渕睦夫
菅沼光弘
『愛国左派宣言』森口朗

 今、世界にはグローバリズムという妖怪が徘徊しています。今から160年以上も前にカール・マルクスが、共産主義という妖怪の徘徊を宣言して以来、世界の歴史はこの妖怪に翻弄されてきました。東西冷戦が自由主義陣営の勝利で終了し、やっと共産主義の脅威が消滅し世界は平和になったと信じられていましたが、今またグローバリズムという新たな妖怪に世界が翻弄されているのです。
 ところが、このグローバリズムと共産主義は根は一つなのです。グローバリズムは、物、金、人の国境を超えた自由な移動を実現することによって、世界を自由主義経済で統一しようとする運動です。共産主義とは、世界各国に私有財産を否定する共産主義独裁政権を樹立することによって、世界を共産主義で統一しようとするイデオロギーです。一見すると、グローバリズムと共産主義は正反対のイデオロギーのように感じられます。
 グローバリズムの主役は、民間の国際銀行家やこれと結びついたグローバル企業であり、彼らは政府の規制を排して自由に経済活動を行うことを求めています。他方、共産主義は、労働者の前衛を自称する共産党が、国家の上にあって国家や人民を独裁的に支配する体制です。このように、双方とも国家や政府の規制の及ばない独占的権力を保持している点で、類似性があります。
 また、この二つのイデオロギーは国民国家を超えた世界全体を対象としていること、すなわち国際性を有していることに共通性があります。共産主義者もグローバリストも国際主義者なのです。加えて、共産主義者もグローバリストも唯物思想の権化です。唯物思想で世界を解釈しているため、市場競争であれ、権力闘争であれ、勝ったものが正義であり、すべてに君臨するという結論に行き着きます。私有財産は大富豪は所有できますが、貧困大衆は自らの自由になる私有財産を事実上所有していないのと同じです。共産主義体制の下では、特権的政治エリートは国富の形式的な所有権は保持していなくても、無制限的な使用権を持っていますが、被支配階級は富の使用権を持っていません。一握りの特権階級(富豪)と膨大な貧困大衆の二極に分裂した社会は、共産主義社会であれグローバル資本主義社会であれ、本質的に同じ支配構造にあるといえます。
 このように、共産主義もグローバリズムも、特権エリート階級と貧困大衆という超格差社会を生み出す点で同じものなのです。この超格差社会化が今世界的規模で進行しています。世界がグローバル経済化するということの究極的意味は、特権的民間資本による世界政府が樹立という想像を絶する世界の出現です。

【『国難の正体 世界最終戦争へのカウントダウン』馬渕睦夫〈まぶち・むつお〉(ビジネス社、2014年)/総和社、2012年『国難の正体 日本が生き残るための「世界史」』改題】

 東日本大震災以降、尊皇攘夷の雰囲気が強まっている。最初のきっかけは北朝鮮による拉致被害者の帰国であった(2002年)。中央情報機関を持たぬ日本政府の無能と無責任を国民は思い知らされた。次は2008年4月26日に長野で行われた北京五輪の聖火リレーであった。フリー・チベット運動がリレーを妨害したのだ。この行為によって中国共産党によるチベット弾圧が明るみに出た。そして2005年には竹島を巡って韓国で反日運動が激化。これを受ける格好で中国においても日本の国連安保理常任理事国入り反対の署名活動が大々的に行われた。2010年には尖閣諸島中国漁船衝突事件が起こる。

 この間に、中国で四川大地震(2008年)、日本では東日本大震災(2011年)、韓国ではフェリー転覆事故(2014年)などの災害や事故も関係改善の一助とはならなかった。

 ウェブ上にはネトウヨが出現し、ニュースではヘイトスピーチ問題が取り上げられるようになった。私が歴史認識に目覚めたのは昨年のことだ。20~30冊の本を読んで完全に目から鱗(うろこ)が落ちた。どっさりと。

 結局、第二次世界大戦の延長線上に今日の世界の枠組みがあり、戦争に勝利を収めたアメリカを中心とする連合国が大手を振って歩いているのだ。国際連合は「United Nations」の訳語だが直訳すれば連合国でもある。

 朝日新聞が大好きな「地球市民」や「世界市民」なる言葉も、左翼が掲げる天皇制打倒を思えば、日本人の民族性を漂白するところに目的があるのだろう。



大衆運動という接点/『折伏 創価学会の思想と行動』鶴見俊輔、森秀人、柳田邦夫、しまねきよし

2014-03-09

帝国主義大国を目指すロシア/『暴走する国家 恐慌化する世界 迫り来る新統制経済体制(ネオ・コーポラティズム)の罠』副島隆彦、佐藤優


『日本の秘密』副島隆彦

 ・帝国主義大国を目指すロシア

 数日前に読了。時間がなくてまだ読書日記にも書いていないが、タイムリーな部分だけ紹介しよう。佐藤優は本に対しても人に対しても健啖家(けんたんか)のようだ。個人的には副島隆彦が苦手である。メディアから完全に無視されていることに対するルサンチマンを感じるせいだ。見ようによっては師事した小室直樹の負の部分を受け継いでいるようにも思える。裏づけはあるのだろうが結論の前に飛躍が目立ち、頑迷さを露呈することが多い。ただ侮れない人物であることは確かだ。

佐藤●石油、天然ガス、レアメタルなどの資源が豊富なロシアが再び大国の位置をめざしています。私はプーチン、メドベージェフ体制が推進するロシアは、2020年までに帝国主義大国をめざすと考えています。

【『暴走する国家 恐慌化する世界 迫り来る新統制経済体制(ネオ・コーポラティズム)の罠』副島隆彦〈そえじま・たかひこ〉、佐藤優〈さとう・まさる〉(日本文芸社、2008年)以下同】

 佐藤の予告はウクライナ危機から実現に向かいそうだ。日本のニュースは西側情報を垂れ流しているため迂闊に信用すると世界情勢を読み誤る。ロシアに対する否定的な見方は片目をつぶったも同然だ。以下のブログを参照せよ。

櫻井ジャーナル

 私は2020年までに日中戦争が起こると考えている。同年夏に開催予定の東京オリンピックは実現しないことだろう。【1940年】の再来だ。

佐藤●グルジアに対する軍事攻撃で、米ロが再び「新冷戦の時代」に入ると主張する人々がいます。しかし、冷戦はイデオロギーがないと起こりません。冷戦の条件というのはイデオロギーがあること、実際の戦争にならない状態が維持されるような次元が図られること、それができないから、今回のグルジア問題では「冷戦」には入らないと思います。(中略)
 私は新冷戦などではなく、ロシア・グルジア戦争は既に「熱い戦争」になっていると思います。
 今後、大国が絡んだ形での2国間戦争というのは「フォークランド紛争」のような形になるでしょう。

 歴史は繰り返す。なぜなら人類の知性が更新されないからだ(『先物市場のテクニカル分析』ジョン・J・マーフィー)。業(ごう)が輪廻(りんね)するのではなくして、輪廻すること自体が人類の業なのだろう。

佐藤●物事を戦争によって解決するというハードルが低くなります。現状の国境線というものを、不可侵ではなく、武力による不変更というヨーロッパ・ロシアに存在していたゲームのルールが、アブハジア、南オセチアの独立で完全に破られました。
 ですから、「新冷戦」は訪れない、新冷戦は来ないけれどそれがよい話だと勘違いしたら間違いで、軍事衝突という「熱い戦争」の時代が来ると思います。

「ロシアの防衛産業の雇用人口は250万人から300万人といわれ、製造業全体の20%を占める」(Wikipedia)。ロシアはアメリカに次ぐ武器輸出大国とされるが、軍需産業のランキングにロシア企業は見当たらない。

軍需産業
世界の軍事企業の売上高ランキング

 プーチンの狙いは軍需産業へのテコ入れも考えられよう。アメリカも同様だが在庫を処分しなければ新製品の販売が困難だ。戦争は最大のスクラップ・アンド・ビルドであり経済政策として推進される。資本主義は地球を不毛化する。

 もう一つ、ちょっと気になった部分を。

副島●ネオ・コーポラティズム Neo-Corporatism という言葉があります。これを、いちばん、手っ取り早く日本人が理解したければ、「開発独裁」とか「優れた独裁者国家」を類推すればよい。シンガポールのリー・クアン・ユーとかマレーシアのマハティールとか、韓国の朴正煕〈パク・チョンヒ〉とか、台湾の李登輝〈リー・トンホイ〉を例に挙げればいい。彼らのような優秀な指導者が出てきて、資源と国民エネルギーとを上手に配分したら、その国は急速に豊かになれるわけです。そうした新興国の開発独裁を、今、ブラジルやインド、そして中国、ロシアが一生懸命やろうとしています。
 ロシアのプーチンやメドベージェフこそは、ネオ・コーポラティズムの体現者です。ひと言で言えばイタリアのムッソリーニの再来です。イタリアのファシズム運動こそはコーポラティズムです。労働組合までも巻き込んだ国家体制づくりをしました。

 直後のページではネオ・コーポラティズムに「新統制経済国家」とルビを振っている。

 Wikipediaを見たところ、コーポラティズムおよびネオ・コーポラティズムの原義は副島の考え方が正しいようだ。日本がファシズム化する証拠として佐藤は「自動車の後部座席シートベルトの着用義務」を挙げ、副島は「ATMでの送金が10万円を上限」としたことを金融統制と言い切っている。

 私が本書を知ったのは「コーポラティズム」で検索したことによる。ナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』を読んだ直後であった。ナオミ・クラインが説くコーポラティズムは巨大資本を有する私企業が米国政府の政策決定に深く関与し、世界各国の戦争や災害に便乗して他国をエコノミック・レイプする手口であった。実に紛らわしい。日本語だとコーポレーション主義にした方がよさそうだ。いっそのこと「ハゲタカ」と呼んだらどうだ?

 アメリカが吹聴する「自由」とは、戦争をする自由であり、簒奪(さんだつ)する自由のことである。日本は敗戦以降、ひたすら奪われ続けてきた。TPPによって収奪は極限まで加速し、円安が極まった時点で日本は暴走することだろう。その後ドルの価値が崩壊する。

2014-03-06

ロシアを罵倒したケリー米国務長官の背後には国有財産を私有化し、国民をIMFへ差し出す富豪たち


 ある国の反政府勢力を経済的に支援し、その国のファシスト集団を軍事訓練、さらに国外から傭兵を送り込んで争乱を演出、選挙で成立した政権を倒し、自分たちに都合の良い「暫定政権」を作ること、つまりクーデターを容認、しかもそのクーデターに対抗するために軍隊を使おうとする国に「軍事介入の中止」を求める人たちがいる。

櫻井ジャーナル

2014-01-28

穀物メジャーとモンサント社/『面白いほどよくわかる「タブー」の世界地図 マフィア、原理主義から黒幕まで、世界を牛耳るタブー勢力の全貌(学校で教えない教科書)』世界情勢を読む会


なくならない飢餓
・穀物メジャーとモンサント社

『自殺する種子 アグロバイオ企業が食を支配する』安田節子
『タネが危ない』野口勲
 世界の食料供給は、すべてアメリカが掌握してきたといっても過言ではないだろう。従来の農業を根底から変え、「国際化」「大規模化・高収量化」「企業化」戦略を実現させた。その背景にあるのが、いわゆる“穀物メジャー”と呼ばれる多国籍企業による巨大資本だ。
 アメリカ国籍のカーギル、コンチネンタル・グレイン、オランダ国籍のブンゲ、フランス国籍のアンドレが五大穀物メジャーといわれ(現在はアメリカのADMが穀物メジャー第2位に急成長した)、全世界における穀物貿易の70~80%のシェアを握っていると推定される。オイルメジャーと並び世界経済の実質的な支配者といっていいだろう。
 日本のように食料の海外依存度が高い国にあっては、不測の事態が生じた時こそ穀物メジャーにビジネスチャンスが生まれる。
 なにしろ、自国の食糧さえ供給できれば、あとは市場で値をつり上げて売ればいい。食糧供給量が減って価格が高騰すれば、それだけ余剰利益を上げられる仕組みとなるからだ。
 こうした構造は、1954年に成立した農業貿易促進援助法(PL480号)にその萌芽を見ることができる。

【『面白いほどよくわかる「タブー」の世界地図 マフィア、原理主義から黒幕まで、世界を牛耳るタブー勢力の全貌(学校で教えない教科書)』世界情勢を読む会(日本文芸社、2004年)以下同】

「カーギル、ブンゲ、ドレフェス、コンチネンタル、アンドレが、その五大穀物メジャーだが、カーギルを除き、すべてユダヤ系資本である」(笑う穀物メジャー。: 日本人は知ってはいけない。)。やっぱりね。ユダヤ人の世界戦略は数千年間にわたる怨念に支えられている。彼らの意趣返しを止めることは決してできない。

 以前から不思議でならないのは日本の食料自給率の低さである。きっと敗戦によって食の安全保障までアメリカに支配されているのだろう。小学校の給食でパンが出るようになったのも「アメリカの小麦戦略」であった。

 軍事・エネルギー・食糧を海外に依存しながら独立国家であり続けることは難しい。牙を抜かれた上に与えられる餌でしか生きてゆくことができないのだから。

 本書は軽薄なタイトルとは裏腹に硬骨な文体で国際情報の裏側に迫っている。

 たとえば、モンサント社はカーギル社の海外種子事業を買収するほか、アメリカ国内はもとより海外の種子企業まで軒並み買収している。市場規模ではアメリカが57億ドルとトップだが、それに次いで日本が25億ドルと、ニュービジネスに賭ける意気込みは強い。

モンサント社が開発するターミネーター技術/『自殺する種子 アグロバイオ企業が食を支配する』安田節子

 アグリビジネスといえば聞こえはいいが、実際に行っているのは大掛かりなバイオテロに等しい。種の自爆テロ。穀物が実るのは一度だけ。農家は永久に種を買い続ける羽目となる。砂漠の民は自然を脅威と捉えて愛することがないのだろう。種に死を命じる発想がやがては人間にも及ぶことだろう。

 そもそも、種子市場で主要輸出国の上位3位を占めるのが、アメリカ、オランダ、フランスとくれば、いかに穀物メジャーと密接なかかわりをもつかは一目瞭然だ。これらで世界の種子輸出の53%をきっちり押さえ、複合的にビジネスが展開されていく。

 いつからだろうか。ビジネスがトレード(交換)を意味するようになったのは。右から左へ物を移して、差額分を儲けるのがビジネスだ。それを労働とは呼びたくない。かつては商いにだって志が存在したものだ。高値で売れればよしとするなら麻薬売買と変わりがない。

 遺伝子組み換え作物の開発主体が、多国籍アグリビジネスであることはもはや周知の事実。1980年台から農業や医薬部門を主力とする多国籍化学企業によるM&Aが進み、モンサント、デュポン、シンジェンダ、アベンティスの4社でシェアのほぼ100%を寡占している状態だ。

 企業はメガ化することで国家を超えた存在と化す。多国籍企業は最も法人税率の低い地域に本社を設置し、オフショアバンクを通じて国家から利益を守りぬく。彼らは租税を回避し、世界中から収奪した富をひたすら蓄え続けるのだ。彼らは飢餓をコントロールできる存在だ。

 エネルギーは少々困ったところで経済的な打撃を受けるだけである。だが食糧が絶たれれば生きてゆくことは不可能だ。その時になってから戦争を始めても遅い。

2014-01-27

なくならない飢餓/『面白いほどよくわかる「タブー」の世界地図 マフィア、原理主義から黒幕まで、世界を牛耳るタブー勢力の全貌(学校で教えない教科書)』世界情勢を読む会


 ・なくならない飢餓
 ・穀物メジャーとモンサント社

 人間一人が生きていくために必要な食料が穀物で年間約150キログラムとすると、数字の上では133億人分が確保されていることになる。
 ところが、その多くは人間のためだけではなく家畜の飼料に回され、先進国の食肉用として消費される割合が高いのが現状だ。
 その結果、生産地の国々に食料が回らず、先進国では飽食状態となる構造が生まれた。この偏在が是正されないかぎり、食料不足と飢餓人口の増大には歯止めがかけられないのだ。

【『面白いほどよくわかる「タブー」の世界地図 マフィア、原理主義から黒幕まで、世界を牛耳るタブー勢力の全貌(学校で教えない教科書)』世界情勢を読む会(日本文芸社、2004年)】

 この状況を端的に表したのが以下の画像である。

IMF(国際通貨基金)を戯画化するとこうなる

 資本主義経済は椅子取りゲームであり、国家同士がプレイする場合には椅子の数は8脚しかない(G8)。そしてクラブに出入りできる国家も限られている(OECD)。

 胴元はFRBIMF世界銀行など。

 コモディティのメインである原油やゴールドは完全に白人が支配している。

経済侵略の尖兵/『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス
ODA(政府開発援助)はビジネスだ

 飢餓状態にある人間は学ぶことができない。反逆する意思すら持てないことだろう。彼らは乏しい糧食のためにどんな酷い仕打ちにも耐えながら生きてゆくほかない。病めば死ぬ。免疫力も抵抗力も削がれている。

 人間を奴隷という名で家畜化したのが白人の文化であり、日本は有色人種でありながらその恩恵を享受している。確かに貧富の差は拡大しているが、まだスラム化までには至っていない。

 以下のページで紹介した動画をよく見て欲しい。

暴力と欲望に安住する世界/『既知からの自由』J・クリシュナムルティ

 こんな世界は一度破壊しなければならない。同じような世界が再び現れるなら何度でも破壊すべきだろう。


中国人が肉を食べ始めた/『国家の自縛』佐藤優

2011-12-16

カストロ氏、暗殺企てられた回数世界一 ギネスが認定


「暗殺を命じた国」としてアメリカもギネス認定すべきだろう。

 暗殺されそうになった回数が世界一として、キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が、ギネスブックに掲載されることになった。複数の同国メディアが伝えた。キューバ政府によると、米中央情報局(CIA)の文書に基づく記録で、暗殺の企ては2006年までに638回に上るという。

 暗殺方法は、狙撃、葉巻への毒の注入、野球のボールに仕込まれた爆薬など様々だが、いずれも政府が事前に情報をキャッチし、失敗に終わった。

 キューバの情報機関のトップを長年務めたファビアン・エスカランテ氏は昨年、前議長に対する暗殺の試みについての本を出版。最も深刻だったのは、61年にニューヨーク市内で企てられた爆弾計画だったと回想する。ミルクセーキに毒入りカプセルを入れられたこともあったが、幸運にものみ込まなかった。「フィデルは、待ち伏せを直感する能力がある」と話している。

asahi.com 2011-12-16

Fidel Castro

フィデル・カストロ――みずから語る革命家人生(上)フィデル・カストロ――みずから語る革命家人生(下)冒険者カストロ (集英社文庫)カリブ海のドン・キホーテ フィデル・カストロ伝

カストロ暗殺未遂の大半はCIAによるもの
若きカストロの熱弁

2011-11-11

「CSIS(米国戦略国際問題研究所)の日本再占領計画」関岡英之



日本再占領 ―「消えた統治能力」と「第三の敗戦」―



拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる (文春新書)亡国最終兵器-TPP問題の真実(チャンネル桜叢書vol.1)国家の存亡 (PHP新書)

Amazon.co.jpでの長期品切れ

 年次改革要望書について分析した、2004年刊の『拒否できない日本』が、Amazon.co.jpで品切状態が続いたことで、インターネット上などで「米IT企業の代表格として日本に進出したアマゾンは小泉改革を推し進めたい。先の総選挙では、小泉陣営の邪魔になるから売らないのだ」との噂が飛び交った。

 2011年刊の『国家の存亡 「平成の開国」が日本を亡ぼす』が、Amazon.co.jpで品切れ状態が現在進行中で続いている。ジャーナリストの水間政憲が自身のブログにて、TPPと年次改革要望書を紐付けた同書を日本国民の目に触れさせたくないことが理由であると指摘している。

 アマゾン以外のショッピングサイトや書店では購入できる。

Wikipedia

2011-11-09

なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 3


なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 1
なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 2
・なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 3

よりよい未来を建設するには

 2010年にハイチが直面した切実な課題は、100億ドルの援助をどうすれば社会を変貌させる復興と再建に生かせるかという点にあった。「かつてよりもよい状態へ再建する」。これが復興のキャッチフレーズになった。その任務は気も萎えんばかりに大きかったが、特に複雑なことではなかった。人々をより地震の影響を受けにくいところで生活させ、この地域で雇用を創出し、社会サービスを提供する。これが基本だった。

 これは本質的に新しい町を作ることを意味した。第1段階で住宅とインフラを建設する。このプロセスにおいて建設関連の雇用が創出される。第2段階で、建設需要による一時的雇用を、より持続的な雇用へと進化させていく。例えば、特恵的アクセスを認められている米市場向けの軽工業製品の生産工場を誘致すれば、持続的雇用が創出される。その結果、都市が成長していく。都市の成長は、経済開発が成功していることを示す大きな特徴であり、100億ドルの初期投資で、この流れを大きく刺激できたはずだった。

 だが、より基本的な問題は、こうした流れを作り出す意思決定構造が存在するかどうかだ。ハイチ政府も、NGOも開発機関もこの点では有望ではない。状況が慢性的ではあっても急性ではない(ハイチよりはましな)国においてさえ、このジレンマに遭遇することはよくあるが、それが解決されることは滅多にない。アウトサイダーも、こうした現状に正面から取り組むのを尻込みする。

 こうして、援助の拠出国は、怒りを禁じ得ない現実には目を向けずに、政府を迂回して直接NGOに資金を提供するか、援助そのものを打ち切る場合もある。ハイチでの慢性疾患を抱えるなかでの急性疾患は、この現実をさけられないものにした。

 この状況に対処するために、弱体国家でのモデルとできるような革新的な制度が考案された。ハイチ政府と国際コミュニティが共同運営する暫定ハイチ復興委員会(IHRC)だ。この委員会は一時的ながらも、独自に決断を下す権限を持っていた。この委員会には二人の指導者がいた。一人は、計画相を務めた経験のあるベルリーブ首相。もう一人が、この国に長期的に関わってきたことが現地で評価されているビル・クリントン元米大統領だ。

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 IHRCは、機能不全状況を打開するために立ち上げられ、拠出国に対しては何に資金を提供すべきか、NGOに対しては何をすべきかを指示し、政府に代わって采配をふるった。このような国際委員会が依然としてハイチには不可欠だ。もちろん、長期的には、この委員会は完全にハイチ人によって運営されるものへと進化させていかなければならない。

 予想された通り、IHRCは多くの敵を作り出すことになった。ハイチ政府はIHRCと調子を合わせたが、委員会との協力には必ずしも積極的ではなかった。政府の役人たちはIHRCのことを「自分たちの権限、そして略奪の機会を摘み取る脅威」とみなし、「委員会はハイチの主権を侵している」と公然と批判した。だが、役人が状況に不満を抱くのは理解できるとしても、こうした主張は不当だった。

 ハイチ政府とは違って再建に真剣に取り組んだルワンダ政府は、この点を理解していた。ルワンダの役人たちは、拠出国に対して、財政政策面での権限を共有して欲しいと申し入れた。拠出国を安心させ、彼らに一部責任を担わせることで、ルワンダ政府は次第に拠出国にとって援助を提供しやすい環境を整備していった。

 一方、IHRCがハイチで直面したのは、省庁の反発だけではなかった。国際的援助機関やNGOも、委員会の存在を「説明責任を負わない自分たちに対する脅威」とみなした。彼らの反対によって委員会の立ち上げは遅れ、あらゆる局面で障害が作り出された。この状況からみれば、IHRCを立ち上げたことそのものが妥当だったのかと問われても不思議はない。これにどう答えるかはIHRCのパフォーマンスに左右されるし、瓦礫の撤去がどの程度進んだかがパフォーマンスを判断するための単純な指標になる。

 ファーマーが言うように、「瓦礫の撤去こそもっとも切実で明快な優先課題」だが、現実には撤去はほとんど進んでいない。建設関連のNGOは切実な使命感を持ってこの課題に取り組もうと、巨大な瓦礫粉砕のための機材を現地に持ち込もうとしたが、これがハイチの税関で5ヶ月間も足止めされた。クリアランスが遅れたのは税関業務の怠慢のためではない。公益を無視して機材の持ち込みを阻止しようとハイチの国内勢力がロビイングを展開したからだ。

 瓦礫を撤去できたところには、新しい家を建てる必要があるが、現在も人々はテントで暮らしている。この領域での主要な障害は物質的なものではなく、法律領域にあった。土地名義をめぐる未解決の論争ゆえに、住宅建設を進められなかったのだ。

Deceased Quake Victims Left at Entrance of Port-au-Prince Morgue

 すべての領域の行動が利益団体の略奪的な動きによって妨げられ、この手詰まり状況を前に人々はシニシズムに陥っていった。唯一の解決策は、決意に満ちた権限を確立することだった。だが、IHRCはこれまでのところハイチの主権を乱用するどころか、過度に慎重になりすぎているようだ。

 とはいえ、この国にそうした意思決定構造が必要なことをIHRCは十分に立証している。すでにIHRCは世界有数のアパレルメーカーをハイチに誘致することに成功し、この企業は、地震ゾーンから離れた北東の沿岸部に建設される予定の新しい都市で2万の雇用を創出すると約束している。

 誘致と投資を成立させるにはきめ細かな調整が必要だった。例えば、都市と工場のインフラ整備のために資金を出すように援助拠出国を説得する必要があった。ハイチからのアパレル輸出をめぐる米市場へのアクセス改善に向けて米議会も説得しなければならなかった。ハイチ政府も、必要とされる許認可を出すとともに、規制枠組みを整備する必要が出てきた。地震の余波のなか、コレラが流行し、問題の多い選挙が行なわれるという困難な環境下で、プロジェクトのための投資を取り付けたのは、IHRCの非常に大きな成果とみなせよう。

 これこそハイチがまさに必要としていたプロジェクトだった。しかし、予想通り、感情的なNGOは「アパレル工場は環境を破壊する」と主張して、プロジェクトに反対した。ファーマーは「ハイチでのプロジェクトにはそれこそ数えるのがいやになるほど多くの批判が寄せられる」とこぼしている。

The Dead pile up at the Local Morgue

 ハイチが弱体な国家のままであっていいはずはない。この国は、よい近隣諸国と平和と繁栄に取り込まれている。近隣には軽工業製品を輸出できる広大な北米市場があるし、マンゴーなど栽培食物の輸出、ツーリズムなど、この国は数多くの機会に恵まれている。「慢性疾患を抱えるなかの急性症状」が引き起こした混乱に対処していくには、IHRCは適切なメカニズムだ。大規模な外国資金を必要としているものの、それをうまく管理できるシステムが存在しないからだ。IHRCがその機能を果たせる。

 5月にミシェル・マテリ大統領率いる新政府が誕生している以上、IHRCの権限を見直す必要はあるが、ハイチのポテンシャルを生かす政策決定のための政治的敷石がついに完成した。このメカニズムが動き出せば、統治エリートたちは略奪の機会よりも、経済的進展の機会を重視するようになり、いずれIHRCと権限を分かち合う時代が終わりに近づいていると感じる時がやってくるだろう。

 大地震は世界の関心を集め、ハイチへの大規模な援助が表明された。だが地震から時間が経つにつれて、世界の関心は薄れ始めている。ハイチの大きな悲劇に世界の関心を再び集めるであろうファーマーの熱い思いに満ちた著作は、国際社会に支援の約束を果たさせる助けになるだろう。

【ポール・コリアー(オックスフォード大学教授)/フォーリン・アフェアーズ・リポート 2011年11月8日】

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なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 2


なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 1
・なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 2
なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 3

統治の空白と国際援助のジレンマ

 なぜ地震がかくも甚大な被害を与えたのだろうか。それは、地震が起きる前からハイチの統治が破綻していたからだ。ハイチ地震から数週間後にさらに大きな地震がチリを襲ったが、現地の建築基準がしっかりしていたおかげで、ハイチよりもはるかに小さなダメージで済んでいる。ハイチにおける脆弱な統治は、被害を大きくしただけでなく、救済・復興対策への大きな障害となっている。

 地震が起きる前から、社会の必要性を満たせていなかったハイチ政府は、地震によって社会サービスの必要性が爆発的に増大するという事態を前に、わずかに残されていた対応能力さえも失ってしまった。さらに悪いことに、選挙を控えていたために、政治、統治の機能不全はますますひどくなった。地震後の一年間は復興と再建がテーマとされるべきだったが、そうはならなかった。政治腐敗にまみれ、しかも長期化した大統領選挙の影響を引きずり、市民の政府への不信感はますます大きくなった。

 ハイチの統治制度は事実上破綻していたし、現地が必要とする支援の内容と規模からみて、唯一の選択肢は国際支援だった。しかし、これも克服し難い障害に遭遇した。

 ファーマーは、ハイチ政府が破綻したそもそもの原因は、植民地時代におけるフランス、その後のアメリカによる外部からの有害な介入だったと主張している。最近もアメリカは、事実関係のはっきりしない2004年のアリスティド大統領の追放劇に関与している。

Haiti Earthquake 2010

 民主的に選出されたポピュリスト政治家で、貧困層に多くの支持者を持っていたアリスティドは、ギャングが関係していた反乱によってポストを追われた。アリスティドはこの時以来、「介入のせいで自分はポストを失った」とアメリカの介入を批判している。このため、歴史的にも最近の出来事からも、ハイチ人は外国の介入に大きな猜疑心を持っており、これが人道支援にとっての大きな障害を作り出している。 

 支援の必要性は明らかに存在したが、政府が機能不全に陥っていたために、現地は、NGOにとって非常に活動しにくい環境にあった。

 地震が起きる前の段階でも、ハイチではNGOのスタッフ約1万人が活動していた。その一つを運営していたファーマーは、NGOが全般的に政府を迂回して活動していることに批判的だ。

 ファーマーも「政府の役人にはNGOの仕事を監督したり調整したりする能力はなく、NGO間の活動をどう調整するかが医療を提供する上での最大の課題の一つになっていること」と政府側に問題があることは認めている。だが、彼が言うように、問題はハイチの終わりのない膨大な必要性がNGOの対応能力をはるかに超えていることだ。子供の半分が学校に通っていないという問題をNGOが解決するのはどうみても不可能だ。

 だが、NGOの活動が政府の機能不全をさらにひどくしているのも事実だ。NGOは現地の優秀な人材を根こそぎ雇い入れ、教育領域では政府よりもNGOが大きなプレゼンスを持っている。この状況で、政府に対して社会サービスを提供するように求める圧力が作り出されることはない。NGOが政府に代わって社会サービスを提供しているようなものだからだ。

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ルワンダとハイチの違い

「効率のない国家をよりよい存在へと変えていくこと」と「さらに国家を形骸化させないようにすること」の間の矛盾と緊張は、ハイチのような脆弱な国家に介入する外部アクターがよく直面するジレンマだ。だが、地震がハイチの慢性的問題を急性の問題へと変化させたために、このジレンマはさらに大きくなった。

 地震に見舞われたハイチへの大きな同情と連帯を示した国際社会は、救済と復興のために総額100億ドル規模のハイチへの援助を約束した。

 だが拠出国は、腐敗まみれのハイチ政府に対する不信ゆえに援助資金を政府に渡すことを嫌がった。この点をめぐって、社会的混乱から復興への好ましいモデルとしてファーマーが思い描いているのはルワンダのケースだ。(現在ファーマーが活動している)ルワンダでは、1994年に大虐殺が起きた後、国際社会による援助によって効率ある国家の樹立が後押しされた。

 ルワンダでの課題は非常に大きく、現地の壊滅的事態はハイチよりも悲惨で、開発に向けた機会も乏しかった。だが、政治エリートの質という側面でルワンダとハイチは大きく違っていた。1994年以降、ルワンダを率いてきたのは、利益供与や政治腐敗を退け、職務に忠実で能力のある官僚たちだった。対照的に、ハイチ政府のエリートは腐敗にまみれ、カネでポストを手に入れることも日常的だった。ファーマーが指摘していないのは、援助拠出国がもっとハイチ政府を支援していれば、盗み出せるものが多くなる分、ますます腐敗が深刻になっていたと考えられることだ。

 政府が機能不全に陥っている原因を、悪意に満ちた外部勢力の介入に求めるファーマーの立場は間違ってはいない。しかし、だからといって、援助を提供する側がハイチの政治システムを信用しさえすれば、すべてがうまくいくことにはならない。

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 もちろん、私よりもファーマーのほうがハイチのことをよく理解している。だが、前首相で市民社会活動家のミシェル・ピエールルイを含む、私が尊敬するハイチの改革主義者たちは、ファーマーとは逆の処方箋を示している。「変化は内側からだけでは実現できない」と彼らは考えている。悪意に満ちた外部勢力の介入が、ハイチを機能不全へと追い込んだのかもしれないし、その結果、友好的な介入さえも難しくなっているのは事実だろう。しかし、外部アクターの介入が必要とされているのも間違いない。

 ハイチ政府に資金を提供するのを援助拠出国がためらうのは無理もない。どうみても、政府は救済や復興を管理していく能力を持っていない。ハイチ政府に巨額の援助を与えれば、石油資源が発見された弱体な国家でよくみられる、援助を政治的支持に置き換える動きを刺激することになる。

 だが、他の選択肢はもっと魅力に欠ける。この場合、ハイチ社会とは接点を持たない援助組織やNGOがばらばらに活動することを意味する。問題は、援助組織やNGOにとってこの状況が非常に魅力的なことだ。これを裏付けるように、地震後の活動の必要性、メディアでの露出、そして資金流入の組み合わせによって、現地で活動するNGOの数は5000へと膨れあがっている。地震前にも、NGOがハイチ全土で展開した無意味なプロジェクトの残骸が数多くある。その象徴としてファーマーは、3000万ドルの資金を要して建設され、いまは放棄されている風車の存在を指摘している。

【ポール・コリアー(オックスフォード大学教授)/フォーリン・アフェアーズ・リポート 2011年11月8日】

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なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 1


・なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 1
なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 2
なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 3

統治なき国を襲った巨大地震

 2010年1月12日にハイチを襲った壊滅的な地震を、自然災害の9.11と呼んでもおかしくはないだろう。地震によって多くの人が犠牲になった現地のせい惨な状況を、テレビ画面を通じて知った世界の人々は、ハイチの人々にかつてない同情と共感を寄せた。アメリカ人家庭の半数以上がハイチでの救済活動を支えるための寄付を行った。しかし、ほぼ3000人が犠牲になった2001年の9.11はその後10年経っても人々の心に深く刻まれているのに対して、地震で20万人が犠牲になり、その後、4000人以上がコレラその他の病気で命を落としたハイチで2010年に起きた悲劇の記憶はすでに色あせつつある。

Haiti earthquake

(ハーバード大学医学部教授で、公衆衛生・医学領域での人道支援活動を世界的に展開している)ポール・ファーマーは、彼の熱意、医学的専門知識、ハイチとの深いつながりを基に、多くの人が忘れつつあるこの悲劇を、ここに取り上げる『地震後のハイチ』で議論している。

 地震後の現地での状況を、ファーマーは個人的ストーリー、現実描写、分析という三つのレベルに分けて議論している。ハイチ人の妻を持つファーマーにとって、地震によって生活を大きく揺るがされた多くの人々のなかには彼の親戚や友人も含まれていた。ハイチとの深い絆ゆえに、彼の著作は、さまざまなエピソードと感情で満ちあふれている。

 大きな悲劇を人々の記憶に刻みこむには、感情を共有できるようなパーソナルなストーリーが必要になる。ファーマーの著作にも、シラブという名の25歳の女性が登場する。彼女は、孤立し何も変わらない日常が流れる田舎から、期待を胸にハイチの首都ポルトープランスへとやってきた多くの若者の一人だった。だがその夢と期待は、ポルトープランスで出遭った安普請の粗末なアパート、そして地震によって打ち砕かれる。

 崩壊したコンクリートの下敷きになり、片方の足は瓦礫に押しつぶされた。まだ意識のあるうちに、なんとか、通りへと這い出した彼女を、非政府組織(NGO)のスタッフが2日後に見つけたものの、この人物には、押しつぶされた足に包帯を巻くことしかできなかった。通りかかった牧師によって病院に連れていかれた彼女は、命を守るために、足の切断手術を受けた。路上では麻酔なしの切断処置が行われることが多かったことを思えば、少なくとも病院で麻酔を受けた上で片足の切断処置を受けた彼女は、他の人々よりは幸運だったのかもしれない。

 こうしたパーソナルなストーリーを読めば、読者は動揺を隠せないだろう。だが、そうした心理的な衝動が人々を行動へと駆り立てる。

Haiti earthquake

 ポール・ファーマーは並み外れた活動家だ。カリスマ医師として、彼は1987年に12カ国で活動する公衆衛生国際NGO「パートナー・イン・ヘルス」を立ち上げ、地震が起きる前の段階で、すでにハイチに10の病院を設立していた。生と死をわけるような緊急事態のなかで直接的に成功と挫折を味わってきたファーマーは、このミッションを通じて、医療ケアを提供する上での問題と可能性についての指針を身につけていく。

 他のNGOとは違って、パートナー・イン・ヘルスは、ハイチ保健省などの政府機関と緊密に連携して活動してきた。しかし、他のハイチの省庁同様に、保健省も地震によって瓦礫と化してしまった。ハイチの人々のための活動を通じて、ファーマーは、ハイチ復興への熱意を持ち、現地でも評価されていたビル・クリントン元米大統領と協力するようになった。

Haiti earthquake - Port au Prince field hospital

 地震が起きる前段階で、クリントンは国連のハイチ特使になり、ファーマーは特使の代理人になっていた。非常に高いポジションから国際コミュニティの活動を監督する機会を得た彼は、現場において、官僚的手続きと差別ゆえに、協調支援行動のポテンシャルがいかに摘み取られているかを思い知るようになる。

 一方で彼は、ハーバード大学医学部の公衆衛生学教授としての見識を、ハイチの医療危機、社会経済問題の分析にうまく生かした。ファーマーは、ハイチの状況を「慢性疾患を抱えるなかで発症した急性症状」と診断している。慢性的な社会的機能不全という環境で切実な危機が起きている、と現実を描写している。慢性的症状が急性症状をさらに深刻にし、緊急事態への対応を難しくしている。急性症状を治すには、慢性疾患を治さなければならないという、非常に難しい状況にハイチは追い込まれている。そして、政府が破綻していることが、社会的な機能不全の根っこにある。

【ポール・コリアー(オックスフォード大学教授)/フォーリン・アフェアーズ・リポート 2011年11月8日】

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