2014-05-07

自由競争は帝国主義の論理/『アメリカの日本改造計画 マスコミが書けない「日米論」』関岡英之+イーストプレス特別取材班編


佐藤●なぜ、いま大川周明なのかということですが、現在、世界を新古典派経済学的な市場原理主義が席巻(せっけん)しています。「自由競争」というのは、実は最強国に有利な論理であって、19世紀であればイギリス、20世紀であればアメリカしか利さない。つまり帝国主義の論理だということです。そこに気づくかどうかが、いま問われていると思います。

関岡●「自由主義」を装った帝国主義ですね。そのことを戦中に理路整然と説き明かした大川周明の『米英東亜侵略史』(第一書房、1942年)は非常に重要な文献で、いまの日本で広く読まれる必要があると、私もかねがね思っていました。

【『アメリカの日本改造計画 マスコミが書けない「日米論」』関岡英之+イーストプレス特別取材班編(イーストプレス、2006年)以下同】

 佐藤優と関岡の対談が面白かった。他は生臭くてちょっと……。帝国主義は力の論理である。ドラえもんでいえばジャイアンが帝国主義で、メガネををかけた弱者のび太はドラえもんと手を組んでテクノロジーで勝負をする。あれは日本のよき時代を象徴したマンガであったのかもしれぬ。ま、本当はたくさんの人々をいじめるジャイアン(アメリカ)の手助けをのび太とドラえもん(日本)がしていたわけだが(『メディア・コントロール 正義なき民主主義と国際社会』ノーム・チョムスキー)。

 大川周明といえば極東軍事裁判で東條英機の頭を叩く映像が広く知られている。大川は裁判そのものが茶番劇であることを示そうとした。


佐藤●ソ連が崩壊してイデオロギーの時代が終焉(しゅうえん)すると、世界各国は露骨に自国の利益を追求する時代になりました。なかでも一番強い国は、関係国に対して「さぁ、競争だ、自由に競争させろ、競争を邪魔するな」と市場開放や規制改革をどんどん要求するようになった。自分と同じやり方でやれ、自分のルールを受け入れろ、と。
 駆け足が一番速い人は、物事をすべて駆け足で決めるのが一番有利です。そして「ウィナー・テイク・オール」、勝者が果実を独占する。『拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる』(文春新書、2004年)を私なりに解釈すると、そういうことだろうと思います。

関岡●正確に汲(く)み取ってくださって、ありがとうございます。

『拒否できない日本』はアメリカが日本に突きつける「年次改革要望書」を広く知らしめた一書で関岡英之の名を不動のものとした。そして保守の質を明らかに変えた著作であった。

 自由貿易で貧しい国が栄えたことはない。産業革命の歴史を見てもわかるように、技術力を有する国家に強味がある。発展途上国には技術どころかインフラすら整備されていない。つまり自由貿易とは経済の名を借りた侵略戦争なのだ。

関岡●井筒俊彦は、アラビア語だけでなく、古典ギリシャ語、ラテン語なども学び、イスラーム研究の範疇(はんちゅう)にとどまらず、思想史の分野の世界的権威になりましたね。深層心理学の父カール・グスタフ・ユングなどが中心的メンバーになっていたエラノス会議にも招かれ、ユング一門や、宗教学のミルチャ・エリアーデ、神話学のカール・ケレーニイなど、ヨーロッパの錚々(そうそう)たる知識人たちと交流していたようです。

佐藤●井筒俊彦は天才ですよ。

関岡●慶應の東洋史学科にはアラビア史専攻の前嶋信次(まえじましんじ)もいましたが、井筒俊彦も前嶋信次も慶應が生んだのではなく、東亜経済調査会(ママ)の「大川塾」に育てられたんですよ。竹内好(たけうちよしみ/中国文学者、文芸評論家)も指摘していますが、大川周明の隠れた偉大な功績は、日本のイスラーム研究の先駆者として学問的な礎(いしずえ)を築いたことです。戦後、巣鴨(すがも)プリズンで『コーラン』を邦訳したことが有名ですが、『復興亜細亜の諸問題』や『回教概論』(慶應書房、1942年)を発表したのは戦前ですよね。

 大川周明がA級戦犯とされたのは日本に理論的指導者が見当らず、大川の著作が英訳されていたためアメリカ当局が目をつけた。ただそれだけの話である。どのような時代であろうと優れた人物がいる事実に驚かされる。

アメリカの日本改造計画―マスコミが書けない「日米論」 (East Press Nonfiction #006)日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く大川周明の大アジア主義

「年次改革要望書」という名の内政干渉/『拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる』関岡英之
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