2018-01-05

ジャック・ヒギンズ、他


 さて今年は真面目に書こうか。やはり記録を付けておかないと後々困る羽目になる。同じ本を取り寄せてしまうことが少なからずあるのだ。

 2冊挫折、1冊読了。

聖(さとし)の青春』大崎善生〈おおさき・よしお〉(講談社、2000年講談社文庫、2002年/角川文庫、2015年)/文章が飾りすぎていて読みにくい。

ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語』ヴィトルト・リプチンスキ:春日井晶子〈かすがい・あきこ〉訳(早川書房、2003年/ハヤカワ文庫、2010年)/ニューヨーク・タイムズ紙日曜版の記事を長くしたもの。無理に長くしているため文章に締まりがなくダラダラ感が否めない。

 1冊目『鷲は舞い降りた〔完全版〕』ジャック・ヒギンズ:菊池光〈きくち・みつ〉訳(早川書房、1976年ハヤカワ文庫、1981年完全版、1992年/完全版文庫、1997年)/4度目の読了。意外と読みにくかった。主旋律はリーアム・デヴリンとモリイ・プライアの恋の物語である。菊池光の訳は例の如く「てにをは」の乱れがあるがさほど気にならない。この年になって読んでみると昔は気づかなかった様々なことが見えてくる。ヒギンズはドイツ落下傘部隊を好意的に描いた。それでもヒトラーやヒムラーを否定的に扱っている。ひょっとするとクルト・シュタイナ中佐と部下たちの崇高な姿を通して「悪の凡庸さ」(ハンナ・アーレント)を浮かび上がらせようとしたのかもしれない。男の背に厳しく鞭を加える一冊だ。

2018-01-04

隠れた傑作/『完全なる報復』F・ゲイリー・グレイ監督(2011年)


 隠れた傑作である。ただし前半だけ。ジェラルド・バトラーの超然とした演技が『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンスを思わせる。司法制度が人間社会にとって妥協の産物であることがよく理解できる。時に理不尽な判決が下ることは決して珍しくはない。一方に冤罪(えんざい)という落とし穴があり、他方に免罪という罠がある。特にアメリカの場合司法取引が可能なため科罰が軽減される場合がある。

 司法制度に穴はつきものであり、裁判は違法性を争うもので正義を明らかにするのが目的ではない。主人公は不毛な司法制度に鉄槌を下す。

 担当事件の有罪率96%を誇る検事(ジェイミー・フォックス)を見下ろす絶対的な正義の視点はもちろん神を示唆している。主人公は正しい。正しいからこそ厳罰を下すのだ。保釈申請が下りた際に主人公は豹変し、自らが殺人者であると言明し判事をこき下ろす。司法の過ちをこれほど見事に示した例は他にない。

 後半は突然B級作品となる。論理性と整合性を欠き説得力を失ったまま呆気ないラストを迎える。それでも前半の余韻が消え失せることはない。

 かつての西部劇は無法者(アウトロー)を退治する正義の味方という筋書きだった。現代のドラマは法の番人をも裁く。いずれにしてもアメリカ人が法律よりも自分の力を頼みとしていることがよくわかる。その正義を実現するために彼らは銃を所持しているのだ。

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2018-01-03

映画『誘拐の掟』スコット・フランク監督(2015年)


 リーアム・ニーソンつながりで見てしまったがとんでもない駄作で正月早々失望感に襲われた。主人公のマット・スカダーという名前に聞き覚えがあると思ったら、原作はローレンス・ブロックらしい。ホームレスの少年TJを演じるのは『Xファクター』で勝ち上がった(当時14歳)ラッパーのアストロ。不貞腐れた演技が実によい。


 アメリカ麻薬取締局(DEA)と犯人に関連性があることを示しながら実態が明らかにされていないのが致命的だ。またラストシーンではAA(アルコホーリクス・アノニマス)の教えが金言の如く登場するが、その命令と抑制ぶりが聖書の域に達している。つまり「罪と罰」こそがモチーフなのだ。

 正義は必ず勝つ。それが神と共にある限りは。おお、何という陳腐さか。

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2018-01-01

帰省とは親を省みること/『親を切ると書いてなぜ「親切」 二字漢字の謎を解く』北嶋廣敏


「帰省」には「省(かえり)みる」という行為が含まれている。故郷に帰って、父母を省みる。親の安否をうかがう。それが「帰省」の本来の意味である。単に故郷に帰るだけでは「帰省」とはいえないのである。

【『親を切ると書いてなぜ「親切」 二字漢字の謎を解く』北嶋廣敏〈きたじま・ひろとし〉(リイド文庫、2011年)】

 帰省中の諸君、今からでも遅くはないから親を省みるよーに(笑)。一方、「帰郷」には定住する意味合いが感じられる。

「帰省」と「帰郷」「里帰り」の違い

 昔は「故郷に錦を飾る」という言葉があった。経済が上向きの時代は功成り名を遂げることが人生の目的と化すのだろうか。男児が産まれると「末は博士か大臣か」とも囁いた。

 中には帰りたくても帰れない人もいるだろう。男であれば中々電話もしにくい。私からは「いつまでもあると思うな親と金」との言葉を贈ろう(笑)。

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映画『フライト・ゲーム』ジャウム・コレット=セラ監督(2014年)


映画『アンノウン』:ジャウム・コレット=セラ監督(2011年)

 ・映画『フライト・ゲーム』ジャウム・コレット=セラ監督(2014年)

 これまた、ジャウム・コレット=セラ監督&リーアム・ニーソンコンビの作品。当然だが作風がよく似ている。『アンノウン』よりは劣るが、この荒唐無稽ぶりは辛うじて許容可能な範囲だ。リーアム・ニーソンが1952年生まれとは驚き。搭乗直後のジュリアン・ムーアが素晴らしい演技をしている。主人公と少女のやり取りを見るだけでも価値がある。サスペンスであって謎解きではないと割り切れば、そこそこ面白いと思う。ま、二度見ることはないだろうが。予告編を見ると魅力が半減するので敢えて紹介しない。それにしても3年前に封切りされた映画のDVDが1000円を切っているとは恐れ入谷の鬼子母神である。尚、『24:レガシー』の主役に起用されたコーリー・ホーキンズがチンピラ役で登場する。

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映画『アンノウン』:ジャウム・コレット=セラ監督(2011年)


 ・映画『アンノウン』:ジャウム・コレット=セラ監督(2011年)

映画『フライト・ゲーム』ジャウム・コレット=セラ監督(2014年)

 行く当てもなく自転車を走らせて佳景と巡り合うことがある。そんな気分が蘇る映画作品だ。記憶喪失ものといえば『ボーン・シリーズ』(原作はロバート・ラドラム著『暗殺者』)が有名だが、主人公のマーティン・ハリス博士は交通事故前後の記憶が欠落している。4日間の昏睡状態を経て、一緒にドイツを訪れた妻の元へゆくと、見知らぬ男性が自分を名乗っていた。妻も自分のことを知らないと言う。パスポートは事故で無くしてしまっていた。物語は突然カフカ的様相を帯びる。

「オチがつまらなかったら承知しないぞ」と誰もが思うタイミングで主人公は命を狙われ、続いて旧東ドイツの秘密警察シュタージの一員であったエルンスト・ユルゲンという老人が登場する。この色合いの変化こそが本作品の醍醐味であるといってよい。

 男は自分が自分であることを探し求め、遂に見つける。そして男は生まれ変わった。アメリカ映画らしからぬ傑作だ。

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2017年に読んだ本ランキング


 今年手をつけたのは400冊ほどで読了本は120冊前後だと思う。まずは再読本から紹介しよう。「必読書」たり得るかどうかの検証を兼ねている。

『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロース/再読。

『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン/再読。

『狂気のモザイク』ロバート・ラドラム/6回目。個人的には『暗殺者』よりも好きな作品だ。

ものぐさ精神分析』『続 ものぐさ精神分析』岸田秀/3回目。

『孟嘗君』宮城谷昌光/再読。

『楽毅』宮城谷昌光/再読。やはり『孟嘗君』の続篇として読むのがいいので必読書入り。

『ボーン・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー/再読。

 膝痛本は十数冊読んだが一押しがこれ。

ひざの激痛を一気に治す自力療法No.1』マキノ出版ムック『安心』特別編集

 具体的な対処法がコンパクトにまとめられていて、健康本にありがちな誤謬もかなり少ない。

七帝柔道記』増田俊也
北の海(上)』『北の海(下)』井上靖
VTJ前夜の中井祐樹』増田俊也

 七帝(高専)柔道シリーズ。『北の海』は飛ばし読み。井上靖が経験者だとは知らなんだ。ランクインというわけではないのだが若い人に読んで欲しい。

 次に番外。

『台湾高砂族の音楽』黒沢隆朝

 飯嶋和一と宮城谷昌光はどれもオススメできる。

出星前夜 』飯嶋和一
狗賓童子の島』飯嶋和一
管仲(上)』『管仲(下)』宮城谷昌光
湖底の城』宮城谷昌光
草原の風』宮城谷昌光

 では、ランキングを。郡司ペギオ幸夫はまだ途中までしか読んでいない。

 15位『いま沖縄で起きている大変なこと』惠隆之介

 14位『春宵十話』岡潔

 13位『カルトの子 心を盗まれた家族』米本和広

 12位『群れは意識をもつ 個の自由と集団の秩序』郡司ペギオ幸夫

 11位『『闇の奥』の奥 コンラッド・植民地主義・アフリカの重荷』藤永茂

 10位『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫

 9位『日本教の社会学』小室直樹、山本七平

 8位『「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》』橋本毅彦

 7位『人類を変えた素晴らしき10の材料 その内なる宇宙を探険する』マーク・ミーオドヴニク

 6位『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史』スティーブン・ジョンソン

 5位『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー

 4位『しらずしらず あなたの9割を支配する「無意識」を科学する』レナード・ムロディナウ

 3位『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 2位『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー

 1位『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ

テクノロジーは人間性を加速する/『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー


『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
・『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー

 ・テクノロジーは人間性を加速する

必読書リスト その五

 現在の生活の中のどんな目立った変化も、その中心には何らかのテクノロジーが絡んでいる。テクノロジーは人間性を加速する。テクノロジーによって、われわれが作るものはどれも、何かに〈なっていく〉(ビカミング)プロセスの途中にある。あらゆるものは何か他のものになることで、【可能性】から【現実】へと撹拌(かくはん)される。すべては流れだ。完成品というものはないし、完了することもない。決して終わることのないこの変化が、現代社会の中心軸なのだ。
 常に流れているということは、単に「物事が変化していく」以上の意味を持つ。つまり、流れの原動力であるプロセスの方が、そこから生み出される結果(プロタクト)より重要なのだ。過去200年で最大の発明は、個別のガジェットや道具でなく、科学的なプロセスそのものだ。ひとたび科学的な方法論が発明されれば、それなしでは不可能だった何千ものすばらしいものをすぐに創れるようになる。方法論として常に変化し進歩するというプロセスは、ある特定のプロダクトを作り出すより100万倍も優れ、おかげで何世紀にもわたって100万もの新しいプロダクトを生み出してくれた。現行のプロセスを正しく使えば、それは今後も利益を生み出していくだろう。われわれの新しい時代には、プロセスが製品(プロダクト)を凌駕するのだ。
 プロセスへと向かうこうした変化によって、われわれが作るすべてのものは、絶え間ない変化を運命づけられる。固定した名詞の世界から、流動的な動詞の世界に移動していく。

【『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー:服部桂〈はっとり・かつら〉訳(NHK出版、2016年)】

 飛行機に乗ったスー族は空港で魂が到着するのを待った(『裏切り』カーリン・アルヴテーゲン)。そしてエネルギーを使えばつかうほど時間が早く進む(『「長生き」が地球を滅ぼす 現代人の時間とエネルギー』本川達雄)。新たなテクノロジーがエネルギーを最大化する。ここにイノベーション(技術革新)の本質がある。

「まえがき」がまだるっこしくて読むのを躊躇(ちゅうちょ)したが、本文に入るやいなや独創性あふれる視点と文体に引きずり込まれた。「プロダクトよりもプロセスが重要だ」という指摘はツイッターを見れば明らかだ。新聞やブログなどの固定した記事よりも、返信・引用・リツイートという「流れ」に人々は注目する。かつての掲示板(BBS)は議論することが目的だった。ところがツイッターは基本的につぶやき(独語)である。情報の取捨選択は自分に委ねられている。膨大な数のツイートがあたかも脳内のシナプスのように発火し、つながり、回路を形成してゆく。いつの日か優れた知性と感情が世界を覆い尽くすようになれば、その流れは「神」と呼ばれてもおかしくはない(『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル)。

 ここでクリシュナムルティの『人はどのようにして変容し、「なる」(ビカミング)から「ある」(ビーイング)ことへのこの根源的変化を起こしたらいいのでしょう?』(『自由とは何か』J・クリシュナムルティ)との提起を引用するのは場違いだ。ケヴィン・ケリーが指摘する「ビカミング」は人類全体が種(しゅ)として変化する様相を指すのだ。

 ヒトは言葉を生み、文字を発明した。紙、印刷技術、通信、ラジオ、テレビ、そしてコンピュータ、インターネットに至るイノベーションは「人類が一つになる」方向を目指している。邪悪と凡庸は恐るべきスピードで淘汰(とうた)されてゆくことだろう。

 誰かに言われた一言や一冊の本が人生を変えることは決して珍しいことではない。新しい時代はそれが日常的かつ連続的に起こるのだ。融合することで個の影は薄くなる。これがネット時代の諸法無我だ。「私は変わった」ではなく、「変わり続ける流れが『私』」となる。

 つまり大脳新皮質の外側を覆うべく、インターネットを介して大脳超新皮質が誕生するのだ。

〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則
ケヴィン・ケリー 服部 桂
NHK出版
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