失敗した過去、行き詰まる現在を赤裸々に語ることができるのは心が開かれている人に限られる。四十、五十と年を重ねるごとにこれができる人は少なくなる。資本主義の哲学は成功だ。大人はあたかも自分が成功したように見せ掛ける技能を磨く。
「あたしさ……」と彼女が言った。「そうか」と私は聴いた。「こんな風に考えてしまうのは更年期障害のせいかな」と呟いた。「多分」と答えた。10年、20年前の私なら全力で励ましたことだろう。悩みとは解決されるべきマイナス要因であって停滞に他ならないと考えていたからだ。
ところがそうでもないらしい。一つの悩みが解消されると別の悩みが芽を出し、やがて大きく生長するのだ。悩みとは観念という妄想が構築する脳のアルゴリズムなのだろう。とすれば悩むというメカニズムを見極め、悩むよりも具体的な問題処理の行動を一歩踏み出した方がよい。
実に不思議なことだがその人の悩みは往々にして自分で自分を罰しているような側面がある。特に親子関係の複雑さが原因となっていることが多い。
率直な言葉を通して相手の輪郭がくっきりと浮かび上がってくる。それは一人泣いている母親を見ていた幼い彼女の姿だ。母親を尊敬する彼女は自分が幸福になることを許さない。
・
子は親の「心の矛盾」もまるごとコピーする/『子は親を救うために「心の病」になる』高橋和巳
0 件のコメント:
コメントを投稿