2019-07-03

文明とエントロピー/『ほんとうの環境問題』池田清彦、養老孟司


『やがて消えゆく我が身なら』池田清彦

 ・石油とアメリカ
 ・文明とエントロピー

『正義で地球は救えない』池田清彦、養老孟司
『生物にとって時間とは何か』池田清彦

●文明とエントロピー

 ですから、環境問題の根本とは、文明というものがエネルギーに依存しているということです。そしてそのときに、議論に出ない重要な問題があります。それは、熱力学の第二法則です。
 文明とは社会秩序ですよね。いまだったら冷暖房完備というけれども、普通の人は夏は暑いから冷房で気持ちがいい。冬は寒いから暖房で気持ちがいいというところで話が止まってしまう。しかし根本はそうではない。夏だろうが冬だろうが温度が一定であるという秩序こそが文明にとっては大切なのだと考えるべきなのです。しかし秩序をそのように導入すれば、当然のことですが、どこかにそのぶんのエントロピーが発生する。それが石油エネルギーの消費です。
 端的に言えば文明とは、ひとつはエネルギーの消費、もうひとつは人間を上手に訓練し秩序を導入すること、このふたつによって成り立っていると言えます。人間自体の訓練で秩序を導入する際のエントロピーは人間の中で解消されるから、自然には向かいません。文明は必ずこの両面を持っています。さきほども述べたように、古代文明があったところでは、石油に頼らずとも文明が作れるという意識があったため、石油に対する意識は鈍かった。しかしアメリカは荒野だったし、そこに世界中からバラバラの人間が集まってきた。そういうところでなぜ文明ができたのかと言えば、まさに秩序を石油によって維持したためです。秩序を維持することは、エントロピーをどこで捨てるかという問題であり、それを1世紀続けたら炭酸ガス問題になったのです。アメリカ文明のいちばん端的な例は、アパートの家賃が光熱費込みだということです。これではエネルギーの節約に向かうはずがない。だから、恐ろしく単純な問題なんですよ。それを認めずに何かを言っても意味がない。
 僕が代替エネルギーを認めないというのは、どんな代替エネルギーを使おうが、エントロピー問題には変わりがないからです。(養老孟司)

【『ほんとうの環境問題』池田清彦、養老孟司〈ようろう・たけし〉(新潮社、2008年)】

 一般的にエントロピーは「乱雑さの度合い」と解釈されている。厳密ではないが熱力学第一法則がエネルギー保存則で熱力学第二法則がエントロピー増大則と覚えておけばよい。

 熱いスープは時間を経るごとに冷める。熱が空気中に分散した状態を「乱雑さ」と捉えるのである。つまり冷めたスープはエントロピーが増大したのだ。コーヒーに入れたミルクは渦を巻きながら拡散し、掻き混ぜることで全体に行き渡る。このように秩序から無秩序への変化は逆行することがない(不可逆性)。

「ホイルは、最も単純な単細胞生物がランダムな過程で発生する確率は『がらくた置き場の上を竜巻が通過し、その中の物質からボーイング747が組み立てられる』のと同じくらいだという悪名高い比較を述べている」(Wikipedia)。フレッド・ホイルのよく知られた喩え話もエントロピーという概念に裏打ちされている。

 出来上がったカレーを元の材料に戻すことは不可能だ。混ぜた絵の具を分離することも無理だ。砂で作ったお城は波に洗われて崩れる。テーブルから落ちて砕け散った茶碗が元通りになることはない。「覆水盆に返らず」という言葉は見事にエントロピー増大則を言い表している。

 やがて太陽も冷たくなり、宇宙はバラバラになった原子が均一に敷かれた砂漠と化す(熱的死)。

 冷房を効かせると熱い部屋が涼しくなる。一見するとエントロピー増大則に反しているようだが室外機の排熱とバランスすれば、やはりエントロピーは増大している。




 武田邦彦はエントロピー増大則に照らしてリサイクルを批判しているが、養老孟司の代替エネルギー批判も全く一緒である。エントロピー増大則は永久機関を否定する。

 エントロピーに逆らう存在が生物であるが、熱や排泄物(≒エントロピー)を外に捨てている。

 物理世界の成住壊空(じょうじゅうえくう/四劫)・生老病死がエントロピーなのだろう。



エントロピー増大の法則は、乱雑になる方向に変化するというものではない。 | Rikeijin
エントロピーとは何か | 永井俊哉ドットコム日本語版
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