・「腐敗した銀行制度」カナダ12歳の少女による講演
・30分で判る 経済の仕組み
・「Money As Debt」(負債としてのお金)
・武田邦彦『現代のコペルニクス』 日本の重大問題(2)国の借金
・マネーと民主主義の密接な関係
・『マネーの正体 金融資産を守るためにわれわれが知っておくべきこと』吉田繁治
・『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
マネーと民主主義の欺瞞に斬り込む好著。天野統康〈あまの・もとやす〉はファイナンシャル・プランナーで文章は「わかりやすい合理性」に心を砕いている。資本主義経済は既に政治を凌駕した。政治は経済に収束され、利権に着地する。選挙民は自分の頭で考えることなく、所属している企業・団体・組織・教団が支持する候補に投票する。大衆には責任がない。民主主義は必ず衆愚へと向かう。エントロピーは常に増大するのだ。
冒頭で天野はマネーの多面性と構造が、「操作される民主主義」「偽りに基づく民主主義」へ誘導されたと指摘する。卓見である。近代をどう定義づけるかによって現代の姿は変わって映る。一般的には国民国家と資本主義の誕生といわれるが、その淵源を知らなければただのお題目となる。
千数百年にわたって積もりに積もってきたキリスト教のストレスは魔女狩りという形で発散した。西洋の中世は暴力の季節であった。その渦中からプロテスタントという花が咲いた。カトリックは金銭欲や私益を戒めた。プロテスタントは聖書を合理的に読み解くことで世俗的な欲望を認めた。
・マルティン・ルターとジャン・カルヴァンの宗教改革(プロテスタンティズム)
国民国家と資本主義といっても要は暴力とカネだ。しかも国民国家を待望したのは身分が不安定で金貸しをやらされてきたユダヤ人であったことも見逃してはなるまい。
・何が魔女狩りを終わらせたのか?
・「キリスト教征服の時代」から脱却する方途を探る
資本主義経済と民主主義政治の融合は、ソ連などの20世紀型共産主義諸国が崩壊した後、最も主流となっている政治経済体制である。
いきなり結論をお伝えするが、今までの自由民主主義諸国のほとんどは、国民よりも金融権力が社会への決定権において上位であった。
金融権力は自らの金融力を基に、経済体制としての資本主義と、政治体制としての民主主義を巧みに操作してきた。
この政治システムが実は、「【国際金融権力】」といわれる欧米の金融財閥を頂点とした力関係の中で営まれてきたのである。
そのことについて、自由民主主義諸国の市民の多くは気づいてこなかった。マネーという、社会をコントロールする最大のツールを乗っ取られたことに気づいてこなかったのだ。
そんな馬鹿な? と思うかもしれないが事実である。その証拠にマネーがどう作られ、どう無くなるのか知っているかを周りの人に聞いてみるとよい。ほとんどの人は答えられないだろう。
マネーという支配ツールから目を逸らさせるために、金融権力は多大なる努力を払ってきた。その成果がさまざまな経済学である。経済の最も基本となるマネーについて、経済学は共通の定義をしてこなかった。その結果、ほとんどの人がマネーが増減するシステムを意識していない。
【『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康〈あまの・もとやす〉(成甲書房、2012年)】
天野は民主主義と資本主義経済が組み合わさった社会を「自由民主主義経済社会」と名づける。布教しているのは第二次世界大戦の戦勝国であるアメリカとイギリスだ。プロテスタント国家でもある。
我々にとって幸福や価値はカネで量(はか)るものに転落した。それどころかカネがなければ食うこともままならない。この事実がどれほど自然の摂理に反していることだろう。動物は労働とは無縁だ。
信用創造というユダヤ人が編み出したビッグバンをプロテスタントが採用した。この時、人類の命運は決まった。脳が有するシンボル能力(『カミとヒトの解剖学』養老孟司)はマネーに特化し、すべての価値はカネに換算されるようになった。
プロテスタントはマルティン・ルターが呈した「贖宥状への糾弾」に端を発している。そして宗教改革は「活版印刷術を用いて安価で大量の宣伝パンフレットを流布」(『宗教改革の真実 カトリックとプロテスタントの社会史』永田諒一)させることで実現した。つまり「カネと広告」だ。
近代からアメリカが生まれた。ヨーロッパ人はインディアンを大量虐殺し、黒人奴隷を輸入することで栄えた。そのアメリカが世界の頂点に君臨する以上、我々の世界が暴力とカネに彩られることは避けられない。
マネー・システムと化した世界を読み解く上で格好の入門書。次作にも期待が募る。
類書を挙げておこう。左上から順番で読むのが望ましい。
ファイナンシャル・リテラシーについては以下。
・ファイナンシャル・リテラシーの基本を押さえる
租税を回避するオフショア経由のマネーロンダリングについては以下。
米英による具体的な世界支配については以下の書評を参照せよ。
・経済侵略の尖兵/『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス
・環境帝国主義の本家アメリカは国内法で外国を制裁する/『動物保護運動の虚像 その源流と真の狙い』梅崎義人
・資本主義経済崩壊の警鐘/『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン
最後に動画を挙げておく。
・Ende's Last Will
・『モノポリー・マン 連邦準備銀行の手口』日本語字幕版
・『Zeitgeist/ツァイトガイスト(時代精神)』『Zeitgeist Addendum/ツァイトガイスト・アデンダム』日本語字幕
・映画『なぜアメリカは戦争を続けるのか』
・『アメリカ:自由からファシズムへ』アーロン・ルッソ監督
・『ザ・コーポレーション(The Corporation)日本語字幕版』
・官僚機構による社会資本の寡占/『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃
・「我々は意識を持つ自動人形である」/『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ