・ウイルスとしての宗教/『解明される宗教 進化論的アプローチ』 ダニエル・C・デネット
・進化宗教学の地平を拓いた一書
・忠誠心がもたらす宗教の暗い側面
・宗教と言語
・宗教の社会的側面
・普遍的な教義は存在しない/『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー
・キリスト教を知るための書籍
・宗教とは何か?
宗教はとりわけ、共同体のメンバーが互いに守るべき道徳規範を示し、社会組織の質を維持する。まだ市民統治機構が発達していなかった初期の社会では、宗教だけが社会を支えていた。宗教は、同じ目的に向けた深い感情的つながりをもたらす儀礼をつうじて、人々を束ね、集団で行動させる。
したがって、単独で存在する教会はない。教会とは、同じ信念を持つ人々が作る特別な集団、つまり共同体である。その信念はありふれた無味乾燥なものの見方ではなく、深い感情的つながりを持つ。象徴的儀礼や、合唱や一斉行動のなかで共通の信念を表現することによって、人々は、自分たちを共同体として束ねている共通の信仰に深くかかわっているという信号を送り合う。宗教(religion)という語が、ラテン語で「束ねる」を意味する religare からおそらく派生しているのは、この感情的な結びつきのためかもしれない。
【『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド:依田卓巳〈よだ・たくみ〉訳(NTT出版、2011年)】
余生が少なくなってきたので(あと30年くらいか)重要な書籍からどんどん紹介してゆこう。進化宗教学の地平を拓いた一書である。「宗教とは何か?」で順序を示してあるので参照せよ。相対性理論や数学の知識がある人は小室直樹から始めてよろしい。このラインナップですら省(はぶ)いている書籍は多い。本来であればやはり「キリスト教を知るための書籍」から入るのが正しい。流れとしてはキリスト教→科学→宗教→仏教&クリシュナムルティという順序が望ましい。ま、所詮は感性の問題であるが。
人間と動物を分かつのは宗教行為である。政治や経済は類人猿にも存在する(『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』フランス・ドゥ・ヴァール/『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール)。だが死を悼(いた)み、死者を弔(とむら)い、遺体を埋葬し祈りを捧げるのは人類だけだ。宗教行為は「死の認識」に基づく。
ヒトのコミュニティが巨大化して国家にまで至ったのはなぜか? それは「悲しい」という感情を共有したためと考えられよう。「悲しみ」はたぶん後天的な感情だと思われる。既に学術的価値がないとされるJ・A・L・シング著『野生児の記録 1 狼に育てられた子 カマラとアマラの養育日記』(福村出版、1977年/原書は1942年)にもそのような件(くだり)があった。
北朝鮮の国家主席が死亡した際に登場する泣き女もシャーマン(巫女)と関係があるのではないだろうか。
「笑い」が知的行為で人によって異なるのに対して、「悲しみ」の感情は同じ場面で現れる(『落語的学問のすゝめ』桂文珍)。つまりコミュニティとは「悲しみを共有する」舞台装置なのだろう。オリンピックがその典型であろう。浅田真央が転んだと聞けば、オリンピックをまったく見ない私ですら悲しくなる。国家は感情を分断する。戦争が国家単位で行われるのも不思議ではない。
世界宗教と呼ばれるような宗教でも教義解釈によって絶えず分派を繰り返す。国家であろうと宗教であろうと権力は必ず腐敗する。その悪臭の中から必ず原点回帰運動が起こる。そして叫ばれた「正義」が人々に受け入れられると一気に暴力行為が花開くのだ。
宗教の語源については以下も参照せよ。
・宗教の語源/『精神の自由ということ 神なき時代の哲学』アンドレ・コント=スポンヴィル
細切れの時間で書いたため取りとめのない文章となったが今日はここまで。あと10回か20回は紹介する予定だ。
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・宗教は人を殺す教え/『宗教の倒錯 ユダヤ教・イエス・キリスト教』上村静
・デカルト劇場と認知科学/『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー
・マントラと漢字/『楽毅』宮城谷昌光
・『歴史的意識について』竹山道雄