2015-05-06
テリー・ヘイズ
3冊読了。
42~44冊目『ピルグリム 1 名前のない男たち』『ピルグリム 2 ダーク・ウィンター』『ピルグリム 3 遠くの敵』テリー・ヘイズ:山中朝晶〈やまなか・ともあき〉訳(ハヤカワ文庫、2014年)/2日で読了。ミステリ界に新星現る。テリー・ヘイズは脚本家で小説としてはデビュー作となる。テロもの。ドラマ『24 -TWENTY FOUR -』と同じ系統だ。9.11テロと9.11テロ後の世界。皮肉の効いた文章がいい。大河小説の趣がある。諜報員である「わたし」とテロリスト「サラセン」という2本の川が流れる。そして三つの事件が進行する。相棒のベン・ブラットリーやハッカーのバトルボイのキャラクターも際立っている。「死のささやき」と呼ばれる国家情報長官やアメリカ大統領はもう少し悪人として描いてもよかっただろう。山中訳は初めて読んだ。全体的にはいいのだが、巻頭部分で「わたし」が多すぎる。時々文章がおかしくなっているのは編集・校正の手抜きだろう。追って指摘する。『チャイルド44』トム・ロブ・スミスを超える面白さだ。
2015-05-03
オイラーは何の苦労もなく計算をし、やすやすと偉大な論文を書いた/『数学をつくった人びと I』E・T・ベル
「オイラーは、人が呼吸するように、ワシが空中に身を支えるように、はた目には何の苦労もなく計算をした」(アラゴのことば)とは、史上もっとも多産な数学者、当時《解析学の権化》と呼ばれたレオナルド・オイラーの比類ない数学的力量を語ることばとして、少しも誇張ではない。オイラーはまた、筆達者な作家が親友に手紙を書くのと同じくらいやすやすと、偉大な研究論文を書いた。その生涯の最後の17年間は、まったくの盲人であったけれども、彼の未曽有の生産能力は少しも衰えなかった。視覚の喪失は、オイラーの内部世界における認識力をかえって鋭くするだけであった。
オイラーの仕事の量は、1936年の今日でさえも正確には知られていないが、彼の全集刊行のためには、大型四つ折り本が60冊ないし80冊いるだろうと推定されている。1909年スイス自然科学協会は、オイラーはスイスのみならず文明社会全体の遺産であるとして、全世界の個人や数学関係の団体からの経済的援助を得て、オイラーの四散した論文を集めて刊行しようと企てたことがあった。ところが、信頼性あるオイラーの原稿がペテルブルグ学士院(レニングラード)で大量に発見されたため、慎重に見積った経費の予想(1909年当時の金額で8万ドル)がみごとにひっくり返ってしまった。
オイラーの数学的経歴は、ニュートンの死んだ年をもって始まる。オイラーのような天才にとって、これほど好都合な出発の年はなかったにちがいない。
【『数学をつくった人びと I』E・T・ベル:田中勇〈たなか・いさむ〉、銀林浩〈ぎんばやし・こう〉訳(東京図書、1997年/ハヤカワ文庫、2003年)】
・レオンハルト・オイラーの偉業
・愛すべき数学者オイラー、生誕300周年
・天才計算術師オイラー
・フェルマーの最終定理(2) 盲目の数学者オイラー
一般的な表記は「レオンハルト・オイラー」である。「レオナルド」というのは本書で初めて知った。「Leonhard」(ドイツ語)が英語だと「Leonard」(レオナルド、レナード)になるようだ(「さらに怪しい人名辞典」を参照した)。
E・T・ベルの名に聞き覚えのある人もいることだろう。10歳のアンドリュー・ワイズがフェルマーの最終定理を知ることになった『最後の問題』の著者だ(フェルマーの最終定理)。
・『フェルマーの最終定理 ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで』サイモン・シン
我々凡人が天才の事蹟に胸躍らせるのは、彼らが真理の近くにいるためか。神の隣りに位置する彼らが神を超えるのも時間の問題だろう。もちろん彼らが神になるわけではなく、神の不在が証明されるという意味合いだ。
天才の天才たる所以(ゆえん)は洗練されたシナプス結合にあると私は考える。これが脊髄とつながればスポーツの天才となる。才能といっても行き着くところは神経細胞のつながりに収まる。後天的な天才がいないところを見ると、幼少期に天才となる数少ないタイミングがあるのだろう。
ホフマン、ジャンリーコ・カロフィーリオ、R・A・ラファティ
3冊挫折。
『昔には帰れない』R・A・ラファティ:伊藤典夫訳(ハヤカワ文庫、2012年)/「バカ」との記述が多すぎて辟易。ラファティを読むのは初めてのこと。
『無意識の証人』ジャンリーコ・カロフィーリオ:石橋典子訳(文春文庫、2005年)/著者はイタリア人でマフィア担当の検事。これが初めての小説作品。主人公の一人称代名詞を「僕」としたのが失敗だと思う。そして驚くほど「僕」が多い。
『砂男/クレスペル顧問官』ホフマン:大島かおり訳(光文社古典新訳文庫、2014年)/大島かおりは『モモ』を翻訳した人物。解説が素晴らしい。怪奇幻想作品らしいが、思わせぶりな書き出しについてゆけず。
2015-05-01
日米経済戦争の宣戦布告/『この国の権力中枢を握る者は誰か』菅沼光弘
・『日本はテロと戦えるか』アルベルト・フジモリ、菅沼光弘:2003年
・『この国を支配/管理する者たち 諜報から見た闇の権力』中丸薫、菅沼光弘:2006年
・『菅沼レポート・増補版 守るべき日本の国益』菅沼光弘:2009年
・『この国のために今二人が絶対伝えたい本当のこと 闇の世界権力との最終バトル【北朝鮮編】』中丸薫、菅沼光弘:2010年
・『日本最後のスパイからの遺言』菅沼光弘、須田慎一郎:2010年
・IAEA(国際原子力機関)はアメリカの下部組織
・日米経済戦争の宣戦布告
・田中角栄の失脚から日本の中枢はアメリカのコントロール下に入った
・『この国の不都合な真実 日本はなぜここまで劣化したのか?』菅沼光弘:2012年
・『日本人が知らないではすまない 金王朝の機密情報』菅沼光弘:2012年
・『この国はいつから米中の奴隷国家になったのか』菅沼光弘:2012年
・『誰も教えないこの国の歴史の真実』菅沼光弘:2012年
・『この世界でいま本当に起きていること』中丸薫、菅沼光弘:2013年
・『日本を貶めた戦後重大事件の裏側』菅沼光弘:2013年
1990年代に入ってアメリカの最大の敵であったソ連邦が崩壊し、東西冷戦が終結しました。それによってアメリカの外交戦略も大きく転換することになります。このときジョージ・H・W・ブッシュ(父)政権のCIA長官だったロバート・ゲイツは、「ソ連という最大の標的がなくなったいま、CIAは何をやるのか」と議会で問われて、こう答えました。「これまでわれわれはソ連との冷戦に80%以上の能力を費やしてきたが、これからはわれわれのインテリジェンス能力の60%以上を経済戦争のために使う」と。
ゲイツがいった経済戦争の相手はどこかといえば、これは世界第2位の経済大国にのし上がってきた日本以外にない。日本に対する日米経済戦争の宣戦布告です。
ブッシュを破って1993年に大統領となった民主党のビル・クリントンもまた、経済政策を最優先課題に掲げて、選挙戦中に「われわれはソ連に勝って冷戦は終った。しかし本当の勝利者はわれわれではない。日本とドイツだ」と、その後の対日政策を象徴するようなことをいっています。米ソ冷戦の谷間で日本とドイツはぬくぬくと平和を享受し、アメリカに対抗できるような巨大な経済力をつくり上げてきた。その「平和の代償」はいただくよ、といったのです。
【『この国の権力中枢を握る者は誰か』菅沼光弘(徳間書店、2011年)】
ロバート・ゲイツ。 pic.twitter.com/SKBTvJHGmr
— 小野不一 (@fuitsuono) 2015, 5月 1
「日本にとって危険なヒラリー・クリントン」の続き。キリスト教文化圏は「始めに言葉ありき」(新約聖書「ヨハネによる福音書」)で、言外に含むところが少ない。ま、「ない」と思っていい。彼らにとっては「言葉が全て」である。こうした宗教的・文化的差異を弁えないところに日本外交の悲劇がある。
クリントン政権の日米経済戦争は菅沼本で必ず取り上げられる。「戦争」とは勝つために手段を選ばぬことを意味する。中には殺された人もいたかもしれない。CIAは世界中で暗殺を遂行してきた。最大のテロ集団と指摘する声も多い。
日本の経済発展は戦略に基づくものではなく漁夫の利であった。アメリカがベトナム戦争で疲弊し、公民権運動で揺れる中、日本人はひたすら働いた。アメリカが戦争を始めるたびに日本の仕事は増えた。マレーシアではマハティール首相が「ルック・イースト政策」を実施した。「日本に見倣(なら)おう」というわけだ。日本は第二次世界大戦に敗れてから奇蹟的な復興を遂げた。
そんななかでクリントン政権は国家経済会議(NEC)を組織する。これは経済面でのアメリカの安全保障を考え、アメリカの利益を守るための器官です。その議長の席に就いたのが世界最大級の投資銀行ゴールドマン・サックスの共同会長で、ウォール街の天才と称されたロバート・ルービンです。ルービンは後に財務長官に就任しますが、彼の下で働いていたローレンス・サマーズもルービンの後を継いで後に財務長官になり、また現在のオバマ政権で財務長官を務めているティモシー・ガイトナーもまたこのときのメンバーです。つまりNECはアメリカの経済・財務の逸材を集結して構成された機関で、それらが一丸となって対日経済戦略に乗り出してきたわけです。
彼らは日本経済について徹底的に調べ、分析し、これに対処するための戦略を考えた。CIAもまた経済担当職員を大挙して日本に送り込み、経済だけでなく、日本の企業形態や社会の特質、文化にいたるまで、あらゆるインテリジェンスを駆使して徹底的に調べ上げた。そして到達した結論の一つが、大蔵省の存在でした。
ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』も、実は同じことを指摘しています。この本は、なるほど日本の高度経済成長の要因を分析し、日本的経営を高く評価していますが、日本人が浮かれて喜ぶような本ではなく、そんな日本を野放しにしてはいけない、潰さなければいけないという警告の書でもあったのです。ヴォーゲルは、日本の経済を主導しているのは大蔵省や通産省の優秀な役人たちだと見抜いていました。
ビル・クリントンとロバート・ルービン。 pic.twitter.com/1iIGCrD5CV
— 小野不一 (@fuitsuono) 2015, 5月 1
左がローレンス・サマーズ、右はベン・バーナンキFRB議長。 pic.twitter.com/I4lHRzzXCR
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ティモシー・ガイトナーとオバマ。 pic.twitter.com/RNI6sZnU4f
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エズラ・ヴォーゲル。 pic.twitter.com/jFhp28MFP0
— 小野不一 (@fuitsuono) 2015, 5月 1
こうしてバブル景気はあっと言う間に崩壊し、「失われた10年」がその後20年続くこととなる。この間も日本はアメリカを同盟国と信じ、安全保障を委ねてきた。お人好しというよりは馬鹿丸出しである。日本経済を牽引してきた大蔵省と経産省は解体された(中央省庁再編)。日本の国富はアメリカに奪われ続けた。
青森県にある米軍三沢基地のエシュロンはソ連や中国の情報ではなく、日本の情報を収集するようになる。「戦争」であるがゆえにアメリカはあらゆる技術を駆使して、日本経済の破壊を目論んだ。
アメリカは1990年代後半にITバブルに沸き、2000年代には住宅バブルとなる。そして2007年にサブプライム・ショック、翌2008年にはリーマン・ショックに見舞われ、資本主義は激しく揺れる。アメリカはマネーそのものから手痛いしっぺ返しを食らった。その後、世界は金融緩和・通貨安競争によって「100年に一度の危機」を乗り越えたかのように見える。だが、そうは問屋が卸さない。じゃぶじゃぶの緩和マネーが氾濫を起こすのはこれからだ。
2015-04-30
ブライアン・セルズニック、レスリー・ヴァリアント
1冊挫折、1冊読了。
『生命を進化させる究極のアルゴリズム』レスリー・ヴァリアント:松浦俊輔訳(青土社、2014年)/科学本に迷ったら松浦俊介の訳本を辿ればよい。外れが少ない。これは名著。レスリー・ヴァリアントは計算機学・応用数学の教授。チューリング賞も受賞している。流麗な文章だが、かなり手強い。私は歯が立たなかった。それでも「必読書」に入れ、「情報とアルゴリズム」にも加えた。挫けたのは私の知的レベルに問題があるためで本の問題ではないからだ。頑張れば読めるのだが、修行し直すことにした。尚、1ページの7行目に「与えられたのではななく」との誤植がある。青土社も随分といい加減になったものだ。
41冊目『ユゴーの不思議な発明』ブライアン・セルズニック:金原瑞人〈かねはら・みずひと〉訳(アスペクト文庫、2012年)/子供に読ませる場合は奮発してハードカバー版を買ってあげたい。500ページのうち、何と300ページほどがイラストである。ま、絵本だと思っていい。まだ映画が誕生したばかりの時代である。身寄りのいないユゴー少年とからくり人形の物語だ。鉛筆で描かれたイラストが映画のカットのようにダイナミックな構図で読者に迫る。これはオススメ。「必読書」入り。マーティン・スコセッシ監督が映画化した『ヒューゴの不思議な発明』も必ず見たい。
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