2015-05-06

戦争まみれのヨーロッパ史/『戦争と資本主義』ヴェルナー・ゾンバルト


 近代資本主義の始めを考察し、それを誕生させた外的なもろもろの状況を思い浮かべるとき、十字軍の戦いからナポレオン戦争にいたるまでくりひろげられた永遠の係争と戦争に注目しないわけにはいかないであろう。イタリアとスペインの両軍は、中世後期には唯一の軍隊であった。英仏両国は14世紀から15世紀にかけての100年間にわたって戦った。ヨーロッパにおいて戦争がなかった年は、16世紀においては25年間、17世紀においてはただの21年にすぎなかった。したがって、この200年間に戦争があった年は、154年になる。オランダの場合、1568年から1648年までの間、80年が、そして1652年から1713年までの間は、36年が、戦争の年であった。145年のうち116年は、戦争の年であったわけだ。そしてついに、相次ぐ革命戦争の中で、ヨーロッパの民衆は、最終的な巨大な衝撃を体験する。ところで、そのさい戦争と資本主義との間になんらかの関連があるに違いなかったことは、ちょっと考えただけでも、確実だと思われる。

【『戦争と資本主義』ヴェルナー・ゾンバルト:金森誠也〈かなもり・しげなり〉訳(論創社、1996年/講談社学術文庫、2010年)以下同】

 原著刊行は1913年。第一次世界大戦が翌年に始まる。ヨーロッパの歴史は戦争の歴史であった。第1回十字軍(1096–1099)からナポレオン戦争(1803-1815) までは約700年を要する。ゾンバルトが触れているのはヨーロッパ中世盛期から近世に至るまでであるが、それ以前はゲルマン民族の大移動を中心とする民族移動時代で、これまた戦争・紛争の時代といってよい。

 環境史(『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男)では寒冷化を戦争要因として挙げるが、ヨーロッパ史を動かしてきたのはキリスト教であり、宗教戦争の色合いが強い。三十年戦争(1618-1648)が終わるとドイツの人口は「1800万から700万に減ったという」(世界史講義録 第65回 ドイツの混迷・三十年戦争)。

世界の主な戦争及び大規模武力紛争による犠牲者数

 しかし、それでもなおかつ【戦争がなければ、そもそも資本主義は存在しなかった】。戦争は資本主義の組織をたんに破壊し、資本主義の発展をたんに阻んだばかりではない。それと同時に戦争は資本主義の発展を促進した。いやそればかりか――戦争はその発展をはじめて可能にした。それというのも、すべての資本主義が結びついているもっとも重要な条件が、戦争によってはじめて充足されたからである。
 とりわけわたしは、16世紀と18世紀の間にヨーロッパで進行した資本主義的組織の独自の発展の前提となった国家の形成について考えている。とくに説明する必要はないが、近代国家はひたすら軍備によってつくられた。それは近代国家の外面、国境線、またそれに劣らず内部の構成についてもいえることだ。行政、財政は、近代的意味において、戦争という課題を直接果たすことによって発展した。16世紀以降の数世紀においては国家主義、国庫優先主義、軍国主義は、まったく同一であった。なんぴとも熟知しているように、植民地は大勢の人々の血を流した戦闘によって征服され、防衛された。中近東のイタリアの植民地から始まってイギリスの大植民地にいたるまで、植民地は他国民を武力で駆逐することによって獲得された。

 戦争が莫大な需要を喚起した。カネがなければ戦争はできない。そして鉄と弾薬が工業を発展させる。

 間断なき戦争を遂行しながらヨーロッパは魔女狩りを同時に行った。帝国主義以降はアフリカ黒人を奴隷にし、アメリカ大陸でインディアンを大量虐殺する。

 思い切りのよい人殺しを可能にしたのは「正義」という病であった。病気をもたらしたのはもちろんキリスト教だ。「異民族は皆殺しにせよ」と神は命じた(『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』小室直樹)。

 もともとヨーロッパの植民地であった北米は第二次世界大戦を経て世界に君臨し、その後「経済政策としての戦争」を推し進める。戦争はインフラを破壊し(スクラップ)、再構築(ビルド)することで投資と雇用機会を生む。

 ヴェルナー・ゾンバルトマックス・ウェーバーと並び称される経済史家だが明らかに了見が狭い。戦争が資本主義の発達に大きな役割を果たしたことは確かだろうがそれがすべてではない。株式会社は大航海時代から誕生した(『投機学入門 市場経済の「偶然」と「必然」を計算する』山崎和邦)。また経済史という点では三大バブルも見逃せない。更に戦争経済におけるユダヤ資本の影響を考慮する必要があろう(『ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ 影の支配者たちがアジアを狙う』宋鴻兵)。

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テリー・ヘイズ


 3冊読了。

 42~44冊目『ピルグリム 1 名前のない男たち』『ピルグリム 2 ダーク・ウィンター』『ピルグリム 3 遠くの敵』テリー・ヘイズ:山中朝晶〈やまなか・ともあき〉訳(ハヤカワ文庫、2014年)/2日で読了。ミステリ界に新星現る。テリー・ヘイズは脚本家で小説としてはデビュー作となる。テロもの。ドラマ『24 -TWENTY FOUR -』と同じ系統だ。9.11テロと9.11テロ後の世界。皮肉の効いた文章がいい。大河小説の趣がある。諜報員である「わたし」とテロリスト「サラセン」という2本の川が流れる。そして三つの事件が進行する。相棒のベン・ブラットリーやハッカーのバトルボイのキャラクターも際立っている。「死のささやき」と呼ばれる国家情報長官やアメリカ大統領はもう少し悪人として描いてもよかっただろう。山中訳は初めて読んだ。全体的にはいいのだが、巻頭部分で「わたし」が多すぎる。時々文章がおかしくなっているのは編集・校正の手抜きだろう。追って指摘する。『チャイルド44』トム・ロブ・スミスを超える面白さだ。

2015-05-03

オイラーは何の苦労もなく計算をし、やすやすと偉大な論文を書いた/『数学をつくった人びと I』E・T・ベル


「オイラーは、人が呼吸するように、ワシが空中に身を支えるように、はた目には何の苦労もなく計算をした」(アラゴのことば)とは、史上もっとも多産な数学者、当時《解析学の権化》と呼ばれたレオナルド・オイラーの比類ない数学的力量を語ることばとして、少しも誇張ではない。オイラーはまた、筆達者な作家が親友に手紙を書くのと同じくらいやすやすと、偉大な研究論文を書いた。その生涯の最後の17年間は、まったくの盲人であったけれども、彼の未曽有の生産能力は少しも衰えなかった。視覚の喪失は、オイラーの内部世界における認識力をかえって鋭くするだけであった。
 オイラーの仕事の量は、1936年の今日でさえも正確には知られていないが、彼の全集刊行のためには、大型四つ折り本が60冊ないし80冊いるだろうと推定されている。1909年スイス自然科学協会は、オイラーはスイスのみならず文明社会全体の遺産であるとして、全世界の個人や数学関係の団体からの経済的援助を得て、オイラーの四散した論文を集めて刊行しようと企てたことがあった。ところが、信頼性あるオイラーの原稿がペテルブルグ学士院(レニングラード)で大量に発見されたため、慎重に見積った経費の予想(1909年当時の金額で8万ドル)がみごとにひっくり返ってしまった。
 オイラーの数学的経歴は、ニュートンの死んだ年をもって始まる。オイラーのような天才にとって、これほど好都合な出発の年はなかったにちがいない。

【『数学をつくった人びと I』E・T・ベル:田中勇〈たなか・いさむ〉、銀林浩〈ぎんばやし・こう〉訳(東京図書、1997年/ハヤカワ文庫、2003年)】

レオンハルト・オイラーの偉業
愛すべき数学者オイラー、生誕300周年
天才計算術師オイラー
フェルマーの最終定理(2) 盲目の数学者オイラー

 一般的な表記は「レオンハルト・オイラー」である。「レオナルド」というのは本書で初めて知った。「Leonhard」(ドイツ語)が英語だと「Leonard」(レオナルド、レナード)になるようだ(「さらに怪しい人名辞典」を参照した)。

 E・T・ベルの名に聞き覚えのある人もいることだろう。10歳のアンドリュー・ワイズがフェルマーの最終定理を知ることになった『最後の問題』の著者だ(フェルマーの最終定理)。

『フェルマーの最終定理 ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで』サイモン・シン

 我々凡人が天才の事蹟に胸躍らせるのは、彼らが真理の近くにいるためか。神の隣りに位置する彼らが神を超えるのも時間の問題だろう。もちろん彼らが神になるわけではなく、神の不在が証明されるという意味合いだ。

 天才の天才たる所以(ゆえん)は洗練されたシナプス結合にあると私は考える。これが脊髄とつながればスポーツの天才となる。才能といっても行き着くところは神経細胞のつながりに収まる。後天的な天才がいないところを見ると、幼少期に天才となる数少ないタイミングがあるのだろう。

数学をつくった人びと〈1〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)数学をつくった人びと〈2〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)数学をつくった人びと 3 (ハヤカワ文庫 NF285)

ホフマン、ジャンリーコ・カロフィーリオ、R・A・ラファティ


 3冊挫折。

昔には帰れない』R・A・ラファティ:伊藤典夫訳(ハヤカワ文庫、2012年)/「バカ」との記述が多すぎて辟易。ラファティを読むのは初めてのこと。

無意識の証人』ジャンリーコ・カロフィーリオ:石橋典子訳(文春文庫、2005年)/著者はイタリア人でマフィア担当の検事。これが初めての小説作品。主人公の一人称代名詞を「僕」としたのが失敗だと思う。そして驚くほど「僕」が多い。

砂男/クレスペル顧問官』ホフマン:大島かおり訳(光文社古典新訳文庫、2014年)/大島かおりは『モモ』を翻訳した人物。解説が素晴らしい。怪奇幻想作品らしいが、思わせぶりな書き出しについてゆけず。

2015-05-01

日米経済戦争の宣戦布告/『この国の権力中枢を握る者は誰か』菅沼光弘


『日本はテロと戦えるか』アルベルト・フジモリ、菅沼光弘:2003年
『この国を支配/管理する者たち 諜報から見た闇の権力』中丸薫、菅沼光弘:2006年
『菅沼レポート・増補版 守るべき日本の国益』菅沼光弘:2009年
『この国のために今二人が絶対伝えたい本当のこと 闇の世界権力との最終バトル【北朝鮮編】』中丸薫、菅沼光弘:2010年
『日本最後のスパイからの遺言』菅沼光弘、須田慎一郎:2010年

 ・IAEA(国際原子力機関)はアメリカの下部組織
 ・日米経済戦争の宣戦布告
 ・田中角栄の失脚から日本の中枢はアメリカのコントロール下に入った

『この国の不都合な真実 日本はなぜここまで劣化したのか?』菅沼光弘:2012年
『日本人が知らないではすまない 金王朝の機密情報』菅沼光弘:2012年
『この国はいつから米中の奴隷国家になったのか』菅沼光弘:2012年
『誰も教えないこの国の歴史の真実』菅沼光弘:2012年
『この世界でいま本当に起きていること』中丸薫、菅沼光弘:2013年
『日本を貶めた戦後重大事件の裏側』菅沼光弘:2013年

 1990年代に入ってアメリカの最大の敵であったソ連邦が崩壊し、東西冷戦が終結しました。それによってアメリカの外交戦略も大きく転換することになります。このときジョージ・H・W・ブッシュ(父)政権のCIA長官だったロバート・ゲイツは、「ソ連という最大の標的がなくなったいま、CIAは何をやるのか」と議会で問われて、こう答えました。「これまでわれわれはソ連との冷戦に80%以上の能力を費やしてきたが、これからはわれわれのインテリジェンス能力の60%以上を経済戦争のために使う」と。
 ゲイツがいった経済戦争の相手はどこかといえば、これは世界第2位の経済大国にのし上がってきた日本以外にない。日本に対する日米経済戦争の宣戦布告です。
 ブッシュを破って1993年に大統領となった民主党のビル・クリントンもまた、経済政策を最優先課題に掲げて、選挙戦中に「われわれはソ連に勝って冷戦は終った。しかし本当の勝利者はわれわれではない。日本とドイツだ」と、その後の対日政策を象徴するようなことをいっています。米ソ冷戦の谷間で日本とドイツはぬくぬくと平和を享受し、アメリカに対抗できるような巨大な経済力をつくり上げてきた。その「平和の代償」はいただくよ、といったのです。

【『この国の権力中枢を握る者は誰か』菅沼光弘(徳間書店、2011年)】


日本にとって危険なヒラリー・クリントン」の続き。キリスト教文化圏は「始めに言葉ありき」(新約聖書「ヨハネによる福音書」)で、言外に含むところが少ない。ま、「ない」と思っていい。彼らにとっては「言葉が全て」である。こうした宗教的・文化的差異を弁えないところに日本外交の悲劇がある。

 クリントン政権の日米経済戦争は菅沼本で必ず取り上げられる。「戦争」とは勝つために手段を選ばぬことを意味する。中には殺された人もいたかもしれない。CIAは世界中で暗殺を遂行してきた。最大のテロ集団と指摘する声も多い。

 日本の経済発展は戦略に基づくものではなく漁夫の利であった。アメリカがベトナム戦争で疲弊し、公民権運動で揺れる中、日本人はひたすら働いた。アメリカが戦争を始めるたびに日本の仕事は増えた。マレーシアではマハティール首相が「ルック・イースト政策」を実施した。「日本に見倣(なら)おう」というわけだ。日本は第二次世界大戦に敗れてから奇蹟的な復興を遂げた。

 そんななかでクリントン政権は国家経済会議(NEC)を組織する。これは経済面でのアメリカの安全保障を考え、アメリカの利益を守るための器官です。その議長の席に就いたのが世界最大級の投資銀行ゴールドマン・サックスの共同会長で、ウォール街の天才と称されたロバート・ルービンです。ルービンは後に財務長官に就任しますが、彼の下で働いていたローレンス・サマーズもルービンの後を継いで後に財務長官になり、また現在のオバマ政権で財務長官を務めているティモシー・ガイトナーもまたこのときのメンバーです。つまりNECはアメリカの経済・財務の逸材を集結して構成された機関で、それらが一丸となって対日経済戦略に乗り出してきたわけです。
 彼らは日本経済について徹底的に調べ、分析し、これに対処するための戦略を考えた。CIAもまた経済担当職員を大挙して日本に送り込み、経済だけでなく、日本の企業形態や社会の特質、文化にいたるまで、あらゆるインテリジェンスを駆使して徹底的に調べ上げた。そして到達した結論の一つが、大蔵省の存在でした。
 ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』も、実は同じことを指摘しています。この本は、なるほど日本の高度経済成長の要因を分析し、日本的経営を高く評価していますが、日本人が浮かれて喜ぶような本ではなく、そんな日本を野放しにしてはいけない、潰さなければいけないという警告の書でもあったのです。ヴォーゲルは、日本の経済を主導しているのは大蔵省や通産省の優秀な役人たちだと見抜いていました。





 こうしてバブル景気はあっと言う間に崩壊し、「失われた10年」がその後20年続くこととなる。この間も日本はアメリカを同盟国と信じ、安全保障を委ねてきた。お人好しというよりは馬鹿丸出しである。日本経済を牽引してきた大蔵省と経産省は解体された(中央省庁再編)。日本の国富はアメリカに奪われ続けた。

 青森県にある米軍三沢基地のエシュロンはソ連や中国の情報ではなく、日本の情報を収集するようになる。「戦争」であるがゆえにアメリカはあらゆる技術を駆使して、日本経済の破壊を目論んだ。

 アメリカは1990年代後半にITバブルに沸き、2000年代には住宅バブルとなる。そして2007年にサブプライム・ショック、翌2008年にはリーマン・ショックに見舞われ、資本主義は激しく揺れる。アメリカはマネーそのものから手痛いしっぺ返しを食らった。その後、世界は金融緩和・通貨安競争によって「100年に一度の危機」を乗り越えたかのように見える。だが、そうは問屋が卸さない。じゃぶじゃぶの緩和マネーが氾濫を起こすのはこれからだ。

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