2015-10-30

「心の病」という訴え/『子は親を救うために「心の病」になる』高橋和巳


『3歳で、ぼくは路上に捨てられた』ティム・ゲナール
『生きる技法』安冨歩

 ・子は親の「心の矛盾」もまるごとコピーする
 ・「心の病」という訴え

『消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ』高橋和巳
『生ける屍の結末 「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相』渡邊博史
『累犯障害者 獄の中の不条理』山本譲司
『ザ・ワーク 人生を変える4つの質問』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル

虐待と知的障害&発達障害に関する書籍
必読書リスト その二

 苦しい生き方を強いられた子は、思春期になって苦しみを訴え、生き方を変えたい、助けてほしいと親に迫る。しかし、多くの親はその訴えを理解しない。なぜなら、親は長い間続けてきた自分の生き方に疑問を持っていないので、子どもが何を訴えているのか見当がつかないのだ。子どもが「辛い」と訴えれば、親は自分の人生観から「あなたには我慢が足りない」としか応えられない。親から見ると、子どもはただ「我がままを言い」「親に甘えて」自立していないように映る。親は「そんな子に育てた覚えはない」とイライラし、子どもは「親がいけないんだ」と言い返し、親子対立は激しくなる。
 子どもは分かってもらないと落胆し、挫折し、怒りの気持ちをどこに持っていったらいいか分からなくなる。
 そうして、彼らは最後の手段に訴え、「心の病」になる。

【『子は親を救うために「心の病」になる』高橋和巳〈たかはし・かずみ〉(筑摩書房、2010年/ちくま文庫、2014年)以下同】

『子は親を救うために「心の病」になる』というタイトルの核心部分である。子供がうつ病になって困っている親はたくさんいることだろう。ただおろおろしている親はもっと多いことだろう。舌打ちしながら冷たい視線で眺めている父親も少なくない。高橋和巳は「物語の書き換え」を迫る。

 以下はうつ病に関する情報である。

・ギリシャ時代に「メランコリー」と呼ばれていた「うつ」は、19世紀に入ってから病気としての概念が確立。
・うつ病の発症には、その人本来の性格や家庭・職場でのストレスなど、さまざまな環境が影響しますが、それ以上に大きな要因は、脳内の神経伝達物質が不足すること。
・そう考えれば、「心の病気」というよりも「神経の病気」と認識できる。
・不足している神経伝達物質を薬で補うことによって、症状は確実に改善される。
・2週間以上、落ち込んだ気分が続くようであれば、うつ病の可能性が考えられる。さらに、落ち込んだ気分と同時に何らかの身体症状があるのも特徴。
・うつ病の抑うつ気分や、意欲低下の症状は、午前中に強く現れる。

【『けんこうさろん』NO.156 2005-04-20発行】

 病院に置いてあったパンフレットみたいな代物のせいかデタラメ全開である。一昔前に「心の病は脳の病」という考え方が出回ったが「神経の病気」も同じ穴の狢(むじな)だろう。「薬で治せる」という製薬会社の企業戦略を推し進めるキャッチコピーだ。「驚くべきことに、ほとんどの精神疾患患者で、化学的なバランスのくずれがあるという確かな証拠はなにもない」(『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン、2008年)。ただし、うつ病(メランコリー)がギリシャ時代から存在したことは覚えておいてよい。

 いろいろな親子が思春期の「心の病」をかかえて、私のクリニックにやって来る。その問題とは、不登校、引きこもり、万引き、リスカ(リストカット=手首を切るという自傷行為)、拒食症、過食症、過呼吸発作、家庭内暴力、OD(オーバードース=薬を多量に飲んで自殺を図ること)、非行、ドラッグ(薬物)……などである。これらは、親から引き継いだ「心の矛盾」が子の中に生み出した「病」である。と同時に、教わってきた生き方を修正するために子どもたちが始めた抗議行動であり、親子関係を見直すためにとったぎりぎりの手段である。
 ここまでしないと、親は訴えを聞いてくれない。振り向いてくれない。
 子の苦しみは、親から受け継いだ苦しみである。だから、親の苦しみでもある。十数年間、無心に親に従ってきた子は、心の深いところで、親と一緒に治りたいと願う。親が生き方を修正して親自身の苦しさを取ってくれなければ、自分の苦しみも取れない、と知っている。

 病状ではなく病因を見つめる。家庭の内部には外から窺うことのできない闇がある。夫婦はたいていの場合、同じ価値観を共有しており、善悪を巡って争うことは稀だ。家庭には小さな暴力、小さな抑圧、小さな不正、小さな嘘が紛れ込んでいる。人の出入りが少ない家庭ほど風通しは悪い。まして少子化である。フォローできる横の関係も失われている。

 他人が親子関係に介入することは困難だ。どうしても親だけ、子だけへのアプローチとならざるを得ない。となればやはり専門家の門を叩くのが望ましいのだろう。

 高橋の説く物語はわかりやすい。例外はないのだろうか? また大人の精神疾患はどう考えればよいのか? 一つ答えが見つかると、別の新しい疑問が湧いてくる。

 視点を高めることで物語は上書き更新される。因果の書き換え作業だ。重要なのは「更新された物語」よりも「物語の解体」にある。つまり「書き換え可能性」を見出すことなのだ。

2015-10-26

渡部昇一、浦野真彦、藤原正彦、藤原美子、他


 3冊挫折、3冊読了。

アメリカン・インディアンの歌』ジョージ・W・クローニン編:渡辺信二訳(松柏社、2005年)/どれ一つピンとこなかった。口承文学の弱さを思い知る。

ウパニシャッド』辻直四郎(NHKラヂオ新書、1942年/講談社学術文庫、1990年)/昭和14年にAK(社団法人東京放送局。現在のNHK東京ラジオ第1放送)で5日間にわたって放送された際の原稿に手を入れたもの。初版は昭和17年。解説と部分訳から成る。ウパニシャッドとは仏教以前のインド哲学の総称。梵我一如の思想がよく知られている。解説の後半を飛ばし読み。訳文は文語調で味わい深い。

夢にむかって飛べ 宇宙飛行士エリソン=オニヅカ物語』毛利恒之:絵・吉田純(講談社、1989年)/小学生上級向け。エリソン・オニヅカはハワイ初の宇宙飛行士。日系3世。チャレンジャー号爆発事故で殉職した。読み物としてはイマイチ。

 137冊目『藤原正彦、美子のぶらり歴史散歩』藤原正彦、藤原美子(文藝春秋、2012年)/散歩で交わす夫婦の会話もレベルが高いと書籍にできる。府中、番町、本郷、皇居周辺、護国寺、鎌倉、諏訪など。相変わらずの夫婦漫談が面白い。夫婦揃って由緒ある家系の出自。毎日夕食後に「雨が降ろうと風が吹こうと、4キロを40分という猛烈な速さで」散歩をするそうだ。皇居はいっぺん訪ねてみたい。

 138冊目『1手詰ハンドブック』浦野真彦(毎日コミュニケーションズ、2009年)/ジャパネット浦野の面目躍如といったといころ。いやあ侮れない。巻頭に駒の動かし方も掲載されているので将棋入門として打ってつけである。私は限りなく中級に近い初級を自認するが5~6問間違えた。トイレや電車で脳を鍛えよう。

 139冊目『『パル判決書』の真実 いまこそ東京裁判史観を断つ』渡部昇一〈わたなべ・しょういち〉(PHP研究所、2008年)/松下政経塾出身者が中心となった読書会を編んだもの。小林よしのりの『ゴーマニズム宣言SPECIAL パール真論』の次に読むとよい。渡部は東京裁判史観をパル史観へと変えることが急務であると主張する。

2015-10-23

山下京子著『彩花へ 「生きる力」をありがとう』が増刷

彩花へ―「生きる力」をありがとう (河出文庫)

 1997年、神戸市須磨区で起きた小学生連続殺傷事件――「神戸少年事件」で犠牲となった山下彩花ちゃん(当時10歳)の母が綴る、生と死の感動のドラマ。少年の凶器に倒れた愛娘との短すぎた生活、娘が命をかけて教えてくれた「生きる力」。絶望の底から希望を見いだし、生き抜こうと決意した母が、命の尊さと輝きを世の中のすべての人に訴える。

彩花へ、ふたたび―あなたがいてくれるから (河出文庫)

 神戸市須磨区で起きた児童連続殺傷事件――「神戸少年事件」で一人娘の彩花ちゃん(当時10歳)を喪った母が綴る2冊目の手記。前著『彩花へ 「生きる力」をありがとう』出版後に寄せられた1000通に及ぶ読者からの共感の手紙に対する返信と、事件後に深く語り合った「生と死」の意味。母の心に生き続ける娘の命の輝きと、本当の幸福とは何かを問う感動の書。

『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子
『彩花へ、ふたたび あなたがいてくれるから』山下京子

加瀬英明、原田伊織、スティーヴン・キング、平塚俊樹


 1冊挫折、4冊読了。

アドラー心理学入門 よりよい人間関係のために』岸見一郎(ベスト新書、1999年)/『嫌われる勇気』を読んだ後では必要ないと思う。文章もよくない。注目すべきはクリシュナムルティを引用していること。

 133冊目『証拠調査士は見た! すぐ隣にいる悪辣非道な面々』平塚俊樹(宝島社、2012年)/必読書。特に不動産購入予定がある人は読んでおくべきだ。資本主義と悪徳企業には親和性がある。弁護士の大半はくず人間、女性専用マンションは強姦犯のターゲットになる、見に覚えのない借金を背負わされる、など。法の庇護が当てにならないかような情況に追い込まれれば、頼ることができるのは政治家か暴力団しかない。悪徳企業が淘汰されるシステムをネット上に構築する必要があるだろう。ただしGoogle八分という言葉があるように、Googleは巨大企業に与(くみ)する傾向がある。

 134冊目『キャリー』スティーヴン・キング:永井淳訳(新潮社、1975年/新潮文庫、1985年)/キング作品を読むのは『ファイアスターター』以来のこと。本書がデビュー作である。下積みが長かったとはとても思えない。母親から抑圧され、学校ではいじめられている少女の怒りがサイコキネシスとなって荒れ狂う。単なるホラー作品として扱うのは誤りだ。抑圧された少年少女の怒りには社会を破壊するほどの力が秘められているに違いない。DVDも見る予定。

 135冊目『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織(毎日ワンズ、2012年/歴史春秋出版、2015年1月/毎日ワンズ改訂増補版、2015年)/完全に予想が外れた。びっくりするほど面白かった。近頃こういう読書体験は珍しい。ただし原田は広告屋なので注意が必要だ。一言でいえば「司馬史観に物申す」との内容である。原田のいうテロリズムとは武士道に悖(もと)る殺生行為を意味する。とはいうものの先祖が武士である原田のダンディズムは青臭くて好きになれない。広告屋の物議を醸(かも)す目的は見事に果たされている。磯田道史あたりが本書をどう読むか気になるところだ。

 136冊目『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』加瀬英明(ベスト新書、2015年)/加瀬の父・俊一は外交官で、連合国軍の戦艦ミズーリ上で行われた降伏文書調印で重光葵外相に随行している。戦後は初代国連大使を務める。本書を読んでびっくりしたのだがオノ・ヨーコが従姉であるという。生前のジョン・レノンとも親しくしていた。全体的によくまとまっている。出典を明示していないところが難点。東京裁判史観を脱却するためにも本書が国民の常識となることを願う。

コンデジのマクロモードに関するポポティの教え


 せっかくなんで保存しておく。









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