2017-02-14

共産主義者は戦争に反対したか?/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫


『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子

 ・目次
 ・共産主義者は戦争に反対したか?
 ・佐藤優は現代の尾崎秀実
 ・二・二六事件と共産主義の親和性

『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎
『ヴェノナ』ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア
・『歴史の書き換えが始まった! コミンテルンと昭和史の真相』小堀桂一郎、中西輝政
・『日本人が知らない最先端の「世界史」』福井義高
日本の近代史を学ぶ

 しかして、このマルクス・レーニン主義に従へば、資本主義国家の権力的支柱をなすものはその国の武力即ち軍隊である。したがつて、この資本主義国家の武力――軍隊を如何にして崩壊せしめるかが、共産主義革命の戦略的、戦術的第一目標とされる。そしてこの目標の前に二つの方法があるとレーニンは言ふ。その一つは、ブルジョア国家の軍隊をプロレタリアの同盟軍として味方に引入れ革命の前衛軍たらしめること、第二は軍隊そのものの組織、機構を内部崩壊せしめることである。つまりブルジョア国家の軍隊を自滅せしめる方向に導くことである。
 また、レーニンの戦略論から、戦争そのものについて言へば、共産主義者が戦争に反対する場合は帝国主義国家(資本主義国家)が、世界革命の支柱たるソ連邦を攻撃する場合と、資本主義国家が植民地民族の独立戦争を武力で弾圧する場合の二つだけで、帝国主義国家と帝国主義国家が相互に噛み合ひの戦争をする場合は反対すべきではない。いな、この戦争をして資本主義国家とその軍隊の自己崩壊に導けと教へてゐる。
 レーニンのこの教義を日華事変太平洋戦争に当てはめてみると、共産主義者の態度は明瞭となる。即ち、日華事変は、日本帝国主義と蒋介石軍閥政権の噛み合ひ戦争であり、太平洋戦争は、日本帝国主義と、アメリカ帝国主義及イギリス帝国主義の噛み合ひ戦争と見ることが、レーニン主義の立場であり、共産主義者の認識論であり、したがつて、日華事変及太平洋戦争に反対することはレーニン主義的で共産主義者の取るべき態度ではない――と言ふことになる。事実日本の忠実なるマルクス・レーニン主義者は、日華事変にも太平洋戦争にも反対してゐない。のみならず、実に巧妙にこの両戦争を推進して、レーニンの教への通り日本政府及軍部をして敗戦自滅へのコースを驀進せしめたのである。この見解は筆者の独断ではない。

【『昭和政治秘録 戦争と共産主義』三田村武夫:岩崎良二編(民主制度普及会、1950年、発禁処分/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』自由社、1987年、改訂版・改題/呉PASS出版、2016年/Kindle版、竹中公二郎編)】

 これに続いて具体的にレーニン(1870–1924年)の「敗戦革命論」が縷々(るる)述べられている。その断乎たる主張を支えるのは天才的な狡知(こうち)である。自分たちの美しい理想を実現するために彼らは勇んで薄汚い破壊工作を行った。世界規模の工作活動は第二次世界大戦の命運を左右し、戦後レジームをも決定づけた。

 共産主義者は戦争に反対しなかった。それどころか戦争を後押しすることで国家破壊を目論んだのだ。日本ではリヒャルト・ゾルゲと朝日新聞記者の尾崎秀実〈おざき・ほつみ〉が大東亜戦争をソ連に有利な方向へと導いた。

2017-02-13

目次/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫


『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子

 ・目次
 ・共産主義者は戦争に反対したか?
 ・佐藤優は現代の尾崎秀実
 ・二・二六事件と共産主義の親和性

『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎
『ヴェノナ』ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア
・『歴史の書き換えが始まった! コミンテルンと昭和史の真相』小堀桂一郎、中西輝政
・『日本人が知らない最先端の「世界史」』福井義高
日本の近代史を学ぶ

     目次

  解説篇

 まえがき

 序論 コムミニストの立場から

 1.コミンテルンの立場から
  第二次大戦とコミンテルン
  好ましい戦争陣形
  新しい戦略戦術
 2.日本の革命をいかにして実践するか
  戦術転換
  謀略コース・敗戦革命
  論理の魔術

 第一篇 第二次世界大戦より世界共産主義革命への構想とその謀略コースについて

 一、裏がへした軍閥戦争
  歴史は夜つくられる
  ロボットにされた近衛
  道化役者 政治軍人
 二、コミンテルンの究極目標と敗戦革命
  ――世界革命への謀略活動について――
  共産主義者は戦争に反対したか
  帝国主義戦争を敗戦革命へ
   レーニンの敗戦革命論
   コミンテルンの第六回大会の決議
  戦略戦術とその政治謀略教程
  日本に於ける謀略活動
   尾崎・ゾルゲ事件
   企画院事件
   昭和研究会の正体
   軍部内の敗戦謀略
  中国の抗日人民戦線と日華事変
  アメリカに於ける秘密活動
 三、第2次世界大戦より世界共産主義革命への構想
  ――尾崎秀實の手記より――
  偉大なるコムミニスト
  大正十四年から共産主義者
  共産主義の実践行動へ
  彼は何を考へてゐたか
  コミンテルンの支持及ソ連邦の防衛
  日本及アジアの共産主義革命
  第二次世界大戦より世界共産主義革命へ
  思想と目的を秘めた謀略活動

 第二篇 軍閥政治を出現せしめた歴史的条件とその思想系列について

 一、三・一五事件から満州事変
  左翼旋風時代の出現
   三・一五の戦慄
   一世を風靡したマルクス主義
   学内に喰い込んだマルクス主義
  動き出した右翼愛国運動
   発火点ロンドン条約問題
   志士「青年将校」の出現
   バイブル「日本改造法案
  満州事変へ
   軍閥政治のスタート、満蒙積極政策
   皇軍自滅へのスタート、三月事件
   満州事変へ
 二、満州事変から日華事変へ
  軍閥独裁への動力
   政治軍人の革命思想
   日華事変への足どり
    1.血盟団事件 2.満州建国宣言 3.五・一五事件 4.日満議定書調印 5.国際連盟脱退 6.神兵隊事件 7.満州国帝制実施 8.埼玉挺身隊事件 9.斎藤内閣総辞職 10.対満政治機構改革問題 11.陸軍国防パンフレット発行 12.士官学校事件 13.美濃部機関説問題 14.永田鐵山事件 15.倫敦軍縮会議脱退 16.二・二六事件 17.廣田内閣成立 18.陸・海軍大臣現役制復活 19.陸、海軍庶政一新の提案 20.軍部、政党の正面衝突 21.宇垣内閣流産 22.日華事変へ
   軍閥政治への制度的基礎
    対満政治機構改革問題
    陸、海軍大臣現役制確立
   軍閥政治の思想系列
    ナチズムスターリニズム
    現状打破 反資本主義革命

 第三篇 日華事変を太平洋戦争に追込み、日本を敗戦自滅に導いた共産主義者の秘密謀略活動について

 一、敗戦革命への謀略配置
  コミンテルンに直結した秘密指導部
   二七年テーゼから尾崎機関へ
   革命家としての尾崎秀實
  素晴らしい戦略配置
   陸軍政治幕僚との握手
   政府上層部へ
   官庁フラクション
   昭和研究会
   言論界
   協力者、同伴者、ロボット
   所謂転向者の役割
   何故成功したか
  二、日華事変より太平洋戦争へ
   日華事変に対する基本認識
    日華事変に対する認識
    軍隊に対する認識
   長期全面戦争へ
    秘密の長期戦計画
    政権の否認と長期戦への突入
    日華前面和平工作を打ち壊した者
    長期前面戦争への政治攻勢
   新政権工作の謀略的意義
    謀略政権の足跡
    政権の正体
   長期戦への理論とその輿論指導
   近衛新体制から太平洋戦争へ
    何の為の新体制か
    対米英戦争への理論攻勢とその輿論指導
   独ソ開戦とシベリヤ傾斜論
   かくて太平洋戦争へ
  三、太平洋戦争より敗戦革命へ
    革命へのプログラム
    敗戦コースへの驀進
     言論結社禁止法の制定
     翼賛選挙 東條ワン・マン政党出現
     戦時刑法改正 東條幕府法
     敗戦経済と企画院事件
     かくして敗戦へ

  資料篇

 一、『コミンテルン秘密機関』 尾崎秀實手記抜萃

(省略)

 二、日華事変を長期戦に、そして太平洋戦争へと理論的に追ひ込んで来た論文及主張

(省略)

 三、企画院事件の記録

(省略)

 四、対満政治機構改革問題に関する資料

(省略)

  あとがき

  書評 馬場恒吾 岩淵辰雄 阿部眞之助 鈴木文史朗 南原繁 島田孝一 小泉信三 田中耕太郎 飯塚敏夫

  序 岸信介
  復刊に際して 遠山景久

【『昭和政治秘録 戦争と共産主義』三田村武夫:岩崎良二編(民主制度普及会、1950年、発禁処分/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』自由社、1987年、改訂版・改題/呉PASS出版、2016年/Kindle版、竹中公二郎編)】

 三田村武夫は1928年(昭和3年)から1932年(昭和7年)まで内務省警保局に勤務し、続いて1935年(昭和10年)まで拓務省管理局に異動となる。一貫して共産主義・国際共産党の調査研究に従事した人物である。その後、1936年(昭和11年)から10年間にわたって衆議院議員を務めた。政治家となってからは反政府・反軍部の旗を掲げ、憲兵と特高から追われる身となる。この間もコミンテルンと共産主義運動から目を逸(そ)らすことはなかった。

 本書は1950年(昭和25年)に刊行されるも、その衝撃的内容に驚いたGHQ民政局の共産主義者が直ちに発禁処分とした経緯がある。岸信介が本書を読んだのも自由社版が刊行される直前と思われる。目次をたどるだけでも史料的価値が窺えよう。



無意識の協力者/『ワシントン・スキャンダル』イーヴリン・アンソニー

2017-02-08

南京~つくられた”大虐殺”





大村大次郎、東京裁判研究会、他


 3冊挫折、1冊読了。

共同研究 パル判決書(上)』東京裁判研究会編(講談社学術文庫、1984年/東京裁判刊行会、1966年『共同研究 パール判決書 太平洋戦争の考え方』改題・改訂)/上巻が880ページ(巻頭解説が215ページ)、下巻が805ページある。ウェルマンの『反対尋問』を軽々と凌駕する厚さだ。想像以上に読みやすい文章で、大東亜戦争全体の流れをつかむ上で欠かせないテキストといってよい。何にも増して戦前の日本を正しく見つめ、東京裁判において異を唱えた英知に対し、尽きせぬ恩愛を感じずにはいられなかった。数世紀にわたって虐げられ続けてきた有色人種にあって、日本は軍事力をもって白人を打ち破り(米国にだけ敗れた)、パール判事は知性で白人を凌駕した。時間的なゆとりがなく550ページで挫けたが、日を改めて必ず読破したい。

読む年表 日本の歴史』渡部昇一〈わたなべ・しょういち〉(WAC BUNKO、2015年)/少し大きめの新書サイズで見開きで1項目。文章に締まりがあってよい。パラパラとめくっただけで終わった。

システマを極めるストライク!』ヴラディミア・ヴァシリエフ、スコット・メレディス:大谷桂子訳(BABジャパン、2016年)/悪くはないのだが写真が少なすぎる。著者のスコット・メレディスはカナダで実際にヴラディミア・ヴァシリエフからシステマを学んでいる人物。ヴァシリエフはミカエル・リャブコの一番弟子らしい。

 7冊目『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が「古代~現代史」にガサ入れ』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(KADOKAWA、2016年)/『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』の続篇でどちらもオススメ。実にわかりやすい。「日本の近代史を学ぶ」の筆頭に掲げた。日本という国家が数千年に渡って安定してきたのは税制が上手く機能していたから、との指摘に目から鱗が落ちる。逆に言えば酷税ではなかったということ。「あとがき」も心がこもっていて大村は人間として信頼できる。