2017-10-01

ヴァレリー艦長の威厳/『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン


『ボーン・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー
『レイチェル・ウォレスを捜せ』ロバート・B・パーカー
『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ

 ・ヴァレリー艦長の威厳

必読書リスト その一

 また長い咳き込みがあり、長い間があり、ふたたび口をひらいたとき、声の調子はまったく変わっていた。それはあまりにしずかな声だった。
「私は諸君になにをたのんでいるか、よくわかっている。諸君のだれもが、いかに疲れ、いかにみじめな、苦しい思いをしているか、私にはわかる。私は知っている――だれよりも知っている――諸君がどんな目に会(ママ)ってきたか、いま諸君にとって、なにがいかに必要か、諸君が休養を得るにふさわしいか。休養はあたえられる。18日ポーツマスに入港、さらにアレキサンドリアで艦修復の予定だが、その間、乗組員全員に10日間の休暇が許される」自分にはなんの意味も持たないかのような、無造作な言葉だった。「だが、その前に――残酷な、人道を無視したことにきこえるだろうが――いや、きこえないはずはない――いまいちど諸君に、それも諸君がかつて味わったことのないほどのものに耐えてくれと、たのまねばならない。だが、私にはいかんともしがたい――だれにもしがたいのだ」ひとことごとに、ながい沈黙がつづいた。艦長の声はひくく、そして遠く、言葉をききわけるのがむずかしかった。
「だれにも、諸君にそれをやってくれという権利はない。だれよりも私にはない……この私には。だが、諸君がかならずやってくれることを、私は知っている。私は信じている。諸君が私を見すてないことを、諸君がユリシーズを送りとどけてくれることを。幸運を祈る。幸運と神のご加護を。そして、いい夜(グッド・ナイト)を」

 拡声器の音は消えた。だが、静寂はつづいた。だれもしゃべらず、だれもうごかない。目さえうごかない。拡声器をみつめていた者は、なおも呆然とみつめている。両手に目をおとしている者、疲れた目にひりひりとしみる煙も忘れて、禁じられたたばこの赤い火をじっと見ている者。それはまるで、だれもが自分ひとりになって、自分の心をのぞき、自分ひとりの考えをすすめようとしているみたいだった。ほかの者と目が会(ママ)えば、もう自分ひとりにはなれないと思っているかのようだった。それは異様な、一種幻妙な静寂、人間がおよそまれにしか味わうことのないあの無言の悟入であった。ヴェールがあがって、ふたたびおりる。人はなにかをかいま見たのか思いだすことはできないが、なにかを見たことを、二度とおなじものはあらわれないことを知っている。それはめったに、ほんと(ママ)にめったにあるものではない。それは絶妙なたぐいない日没の一瞬、偉大なシンフォニーの一断片、大闘牛士の剣があやまたず突き刺されたとき、マドリードとバルセロナの巨大なリングをつつむ恐ろしい静寂。スペイン人は、それをたくみによぶ――〈真実の瞬間〉と。

【『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン:村上博基〈むらかみ・ひろき〉訳(ハヤカワ・ノヴェルズ、1967年)/ハヤカワ文庫、1972年/原書は1955年】

「ジャック・ヒギンズを知らない? 死んで欲しいと思う」と内藤陳〈ないとう・ちん〉が見出しに書いたのは1983年であった(『読まずに死ねるか!』)。私がヒギンズを読んだのは丁度同じ頃で、それ以降ミステリや冒険小説にハマった。『鷲は舞い降りた』(ジャック・ヒギンズ:菊池光訳、早川書房、1976年/完全版、1992年)、『初秋』(ロバート・B・パーカー:菊池光訳、早川書房、1982年)、そして本書の3冊は金字塔といってよい。


 再読は一度挫けている。文章が硬質なため一定の覚悟を持たなければ読むのが困難だ。上記テキストは100ページの手前だが、ここに辿り着けば後は一気読みである。

 ヴァレリー艦長の威厳と影の濃い群像がユリシーズ号そのものであった。戦争の悲惨・矛盾を記しながらも決して子供じみた平和論に堕していない。

 フィクションということもあろうが、ここには旧日本海軍のようなビンタやリンチがない。私は日本文化をこよなく愛する者だが、日本に特有のいじめや村八分といった気風を嫌悪する。

 男の曲がった背中を正す物語として本書は永く読まれることとなるだろう。

本人名義口座間の振込手数料を0円にする方法


 ま、大したことではないのだが便利なので紹介しよう。証券会社をハブ口座として使う。ただそれだけのことである(笑)。私は「ヒロセ通商【LION FX】」を使っているのだが、対応可能な銀行がどんどん増えている。

クイック入金 約380行対応!!

 リアルタイム出金であれば14:30までなら即時に反映される。地方銀行もあるので給与を他行宛てに振り込む際も一々ATMに行く必要がない。

 尚、出金口座を変更する手間はあるが、ATMへ行くことを思えばどうってことはない。

読み始める


 今までは別ブログにアップしていたのだが、読書日記をサボりがちのため今回からこちらで紹介する。尚、読みたい順番で並べている。

七帝柔道記 (角川文庫)
増田 俊也
KADOKAWA (2017-02-25)
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田中角栄 封じられた資源戦略
山岡淳一郎
草思社
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中核VS革マル(上) (講談社文庫)
立花 隆
講談社
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中核VS革マル(下) (講談社文庫)
立花 隆
講談社
売り上げランキング: 28,291

2017-09-22

つなぎ Prono(プロノ) vs. GRACE ENGINEERS(グレースエンジニアーズ)


 中年太りはベルトを嫌う。なぜならズボンが下がってくるからだ。私は30代半ばの頃から平然と人前でズボンを下げてYシャツの裾を直す癖がついてしまった。そしてデブの安易さがつなぎとサスペンダーに向かう。

 初めて買ったつなぎは「DOGMAN」というメーカーだった。確か5000円代の値段だったと記憶する。普段着にしていたため数年でヒッコリーの色が褪せ、袖が擦り切れてしまった。同じものが欲しかったのだが、ヒッコリーのストライプが太くなっていて好みに合わない。

 やむを得ずProno(プロノ)とGRACE ENGINEERS(グレースエンジニアーズ)というメーカーのつなぎを購入した。

 Prono(プロノ)は3000円ちょっとの値段でありながら生地がしっかりしており、ウエスト調整も可能だ。襟の形が気になったのだが実際に着てみるとそれほど悪くはない。カラーはカジュアル調なのでワッペンでも貼ればそこそこお洒落になるだろう。

 GRACE ENGINEERS(グレースエンジニアーズ)は5000円台という値段の割にはイマイチである。紺色のヒッコリーに黄色のアクセントはいくら何でも趣味が悪すぎる。生地はいいのだが要所要所にコスト削減の跡が窺え、着れば着るほど居心地が悪くなる。最悪なのは袖の切れ目が短く折り返すことは可能だが二つ折りにはできないところだ。マジックテープも正方形で小さく外れやすい作りだ。細部で手を抜いているのがよく伝わってくる。左側の胸ポケットは見せ掛けのフラップ(蓋)で、右胸のボタンも飾りだ。腰部分のポケットも微妙に小さい。内側にウエスト調整のベルトを付ける前に基本的な部分をしっかりと作るべきだろう。

 つなぎ選びは股下が文字通りの【急所】となる。大き目のサイズを選んで股下が下がるようだと動きが損なわれる。やはり実際に試着した方がいいのだが、ビニール袋に入っていて試着できない商品も多いのが実状だ。ネットで注文する際はユーザーのコメントでサイズを探るしかない。私は173cmで72kgという体型だが、どちらもLサイズで少々大き目といったところだ。綿100%だと洗濯すると縮むので丁度いいと思う。


GRACE ENGINEERS グレースエンジニアーズ GE-105 長袖ツナギ19ヒッコリーL
GRACE ENGINEERS グレースエンジニアーズ
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2017-09-18

相関関係が因果関係を超える/『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ


『複雑系 科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』M・ミッチェル ワールドロップ
『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン
『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』マーク・ブキャナン
『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』マルコム・グラッドウェル
『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック
『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー
『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正

 ・相関関係が因果関係を超える

『正論』2021年6月号
『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男
『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー
『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ

必読書リスト その三

 現時点でビッグデータの捉え方(と同時に、本書の方針)は、次のようにまとめることができる。「小規模ではなしえないことを大きな規模で実行し、新たな知の抽出や価値の創出によって、市場、組織、さらには市民と政府の関係などを変えること」。
 それがビッグデータである。
 ただし、これは始まりにすぎない。ビッグデータの時代には、暮らし方から世界との付き合い方まで問われることになる。特に顕著なのは、相関関係が単純になる結果、社会が因果関係を求めなくなる点だ。「結論」さえわかれば、「理由」はいらないのである。過去何百年も続いてきた科学的な慣行が覆され、判断の拠り所や現実の捉え方について、これまでの常識に疑問を突きつけられるのだ。
 ビッグデータは大変革の始まりを告げるものだ。望遠鏡の登場によって宇宙に対する認識が深まり、顕微鏡の発明によって細菌への理解が進んだように、膨大なデータを収集・分析する新技術のおかげで、これまではまったく思いもつかぬ方法で世の中を捉えられるようになる。やはりここでも真の革命が起こっているのは、データ処理の装置ではなく、データそのもの、そしてその使い方だ。

【『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ:斎藤栄一郎訳(講談社、2013年)】

 いやはや吃驚仰天(びっくりぎょうてん)の一書だ。刊行されてから4年も本書に気づかなかった不明を恥じた次第である。

 Google社が検索データからインフルエンザを予測した。Googleでは1日に30億件以上の検索が実行されるが、上位5000万件の検索キーワードを抽出し、4億5000万に上る膨大な数式モデルを使って分析した。その結果、特定の検索キーワード45個と特定の数式モデルを組み合わせると、米国疾病予防管理センター(CDC)の公式データと高い相関関係を示した。

 これだけでも凄いのだが、CDCのデータには風邪をひいてから病院へ行くまでの時間やデータ調査にまつわる時間(週に一度)などのタイムラグがあるが、Googleの予測はほぼリアルタイムなのだ。つまりビッグデータによる予測という点では【相関関係が因果関係を超える】。これが驚かずにいられようか。

 科学的視点に立てば相関関係を因果関係と混同するところに誤謬(ごびゅう)が生じる。

相関関係=因果関係ではない/『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン
相関関係と因果関係の違いが一発でわかる具体例5選

「あなたが不運なのはご先祖様をきちんと供養していないからだ」ってなわけだよ。「祈ったから病気が治った」「高価な壷を買って人生が好転した」なんてのも同様だ。

 ところが膨大なデータから浮かび上がる相関関係は未来予測を可能にする。「風が吹けば桶屋が儲かる」のは因果関係を辿ったものだが、ビッグデータは風が吹く前にネズミ捕りが売れることを予測するのだ。

 ビッグデータはさながら人の無意識を思わせる。「巨大で複雑なデータ集合の集積物」(Wikipedia)が阿頼耶識(あらやしき)であるとするならば、データマイニングは一種の悟りなのかもしれない。



有害で悪質な数学破壊兵器のフィードバックループ/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール