・『動乱はわが掌中にあり 情報将校明石元二郎の日露戦争』水木楊
・『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人
・『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛
・『北京燃ゆ 義和団事変とモリソン』ウッドハウス暎子
・オーストラリアの安全保障を確保するために日露戦争は煽動された
・『辛亥革命とG・E・モリソン 日中対決への道』ウッドハウス暎子
・『小村寿太郎とその時代』岡崎久彦
・『國破れてマッカーサー』西鋭夫
・日本の近代史を学ぶ
「イギリスは、日本人に激しい反露感情をたきつけることを、極東政策とすべきである。日本を煽動(せんどう)するためには、あらゆる手段を講じなければならない……ロシアはなんとしても抑えるべきだ。東清(とうしん)鉄道の完成を妨害し、不凍港の獲得・強化を阻止しなければならない……そして、それを日本にやらせるのだ」
これは、ロンドンタイムズ北京(ペキン)駐在特派員、豪州人のジョージ・アーネスト・モリソンが、同社上海(シャンハイ)特派員J・O・P・ブランドに宛てた書簡の一部である。書かれたのは、1898年1月17日、日露戦争勃発(ぼっぱつ)の6年前である。日露戦争は「モリソンの戦争」といわれ、モリソンは「戦争屋」と呼ばれた。それは、モリソンが、日露戦争を惹起(じゃっき)することと日本を勝利に導くことを自己の使命として全力を尽くしたからであり、また、彼の仕事の効果が日本および世界に認められたからである。
モリソンは、なぜ、日露戦争を切望したのであろうか。それは、オーストラリアの安全保障を確保するためであった。
【『日露戦争を演出した男 モリソン』ウッドハウス暎子(東洋経済新報社、1988年/新潮文庫、2004年)】
修士論文が元になっているので読み物としては面白くない。しかしながら資料的価値が極めて高く、日本近代史なかんずく日露戦争を知るためには外せない一冊だ。ジョージ・アーネスト・モリソンはロンドン・タイムズの記者でオーストラリア生まれ。彼の日記と手紙を中心に日露戦争の経緯を描く。七つの海を制覇した大英帝国はボーア戦争で国力に翳(かげ)りを見せ始めた。ドイツ、ロシア、アメリカの力が英国に迫ろうとする。イギリスは極東で南下しようとするロシアを阻むだけの余裕がなかった。自国の安全保障上の必要から日英同盟を締結するに至る。イギリスの「栄光ある孤立」は幕を下ろす。モリソンはタイムズ紙を通して親日反露報道を繰り返し、日露を戦争させるべく誘導する。ただし現在のアメリカを牛耳るユダヤ・メディアのような嘘は感じられない。国家から兵士に至るまでロシアの不道徳ぶりは凄まじかった。国境線が長いこととも関係しているように思われる。小村寿太郎外相が臨んだポーツマス条約も熾烈な外交戦であったことがよく理解できた。イギリスのボーア戦争とアメリカのイラク戦争が重なる。強大国が衰える時、戦乱を避けることはできない。世界の覇権はまたしても東アジアで戦火を交えることだろう。文庫解説は櫻井よしこ。ついこの間読んだ菅沼本でも紹介されていた(読書日記転載)。
このような全体観に立った安全保障的視点を我々日本人は欠いている。どうしても卑怯な手に思えてしまう。たぶん元軍と戦う際に名乗りを上げて一騎打ちに持っていこうとして殺された鎌倉武士のメンタリティから進歩していないのだろう。その点、アングロサクソン人は一枚も二枚も上手(うわて)だ。分割統治も同じ発想から生まれたものだろう。中世のヨーロッパは戦争を繰り返してきた。ひしめき合う国家間の中で狡知(こうち)や奸智(かんち)が育まれ、騙し合いに巧みな文化が形成されたのだろう。
当時の国際政治の世界は、ジャングルの掟(おきて)のまかり通る弱肉強食の世界であった。そして、清国は列強の帝国主義的侵略の格好のえじきとなっていた。
日清戦争(1894-95年)の敗北は、清国にとって二重の災難を意味した。
まず、第一の災難は戦勝国・日本との間に締結した下関条約の履行で、これは敗戦の汚名と共に、重く清国の肩にのしかかった。ちなみに、下関条約とは、清国が朝鮮の独立を承認し、日本に遼東半島・台湾・澎湖(ほうこ)列島を譲渡し、2億両(約3億6000万円)の賠償金を支払うことを規定して、1895年4月に調印された条約である。
しかし、第二の災難はさらに苛酷(かこく)であった。飢えた猛獣のように西欧列強が襲いかかってきたのである。アフリカ分割の余勢を駆って、アジアに迫った帝国主義的勢力は、清国を「眠れる獅子(しし)」とみなして手出しができず、遠まきにむらがり寄っていた。ところが、清国は新興の小国・日本との戦いにもろくも破れ、その弱体をさらけだしてしまったのである。もう、こうなったら遠慮はいらない。列強は猛然と襲いかかった。
朝鮮独立の立役者が日本だったとは知らなかった。韓国の学校教育でどのように教えているのか気になるところだ。それにしても隔世の感とはまさにこのことで、1世紀後の中国がアメリカや日本を脅かすようになるのだから歴史が動くスピードは想像以上に速い。
いつの時代も大衆は煽動される。民主政においても変わらない。むしろメディアを通じた煽動は広告技術や心理学をも駆使してマインドコントロール並みに行われる。群れを形成する動物には「従う」本能がある。従うことと引き替えに何らかの優位性を手に入れているのだ。一匹狼という言葉はあるが実際にはそのような狼は存在しない。狼もまた群れをなす動物だ。もしも 一匹狼がいたとすれば確実に飢え死にする(笑)。
中国は必ず日本を攻めてくることだろう。戦火を開くのは尖閣諸島あたりか。モリソンが日露を戦わせたのと全く同じ手法でアメリカが日中をぶつけるのだ。自分たちの手で憲法改正すらできないとなれば米軍は日本から撤収するに違いない。トランプ大統領が掲げるアメリカ・ファーストとは、アメリカが世界覇権から一歩退いて内向きになることを雄弁に物語っているのだ。大東亜戦争(1937-45年)の「欧米諸国によるアジアの植民地を解放し、大東亜細亜共栄圏を設立してアジアの自立を目指す」という理念は後付ではあったものの、決して間違ったものではない。1919年のパリ講和会議で日本が主張した「人種的差別撤廃提案」とも整合性がとれている。帝国主義の本質はキリスト教に基づく人種差別であった。本来であれば来る日中戦争を契機に日本がアジア・太平洋地域の警察として機能すべきであるが、学校教育で近代史すら教えていないのだからそうした気風が涵養(かんよう)されるに至っていない。ビジョンなき国家の弱味である。
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