・『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』三井誠
・縄文時代の介護
・『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を超えて』加藤茂孝
・『続・人類と感染症の歴史 新たな恐怖に備える』加藤茂孝
・『感染症の世界史』石弘之
ポリオの歴史は古い。紀元前3000年ごろの古代エジプト王朝の壁画に、右足が極端に細くて、短く、つま先立ちの王子が杖(つえ)をついて立つ姿が描かれている。同時に、この王子のミイラが残る。両者を調査した結果、王子はポリオを患っていたというのが定説になっている。
縄文人の小児がポリオであったことが確かであれば、アジアの東の果ての日本でも、ポリオが発生していたことになる。興味深い問題を投げかけている。
話は変わるが、ポリオの骨が一家族の中にあったことは、縄文社会では身体障害児が親の保護のもとで生活していたことを物語る。彼らの生活は障害者を養う余裕があったといえる。
【『病が語る日本史』酒井シヅ〈さかい・しづ〉(講談社、2002年/講談社学術文庫、2008年)以下同】
最後の一言がずっしりと胸に堪(こた)える。現在でも大家族が織りなすインド社会では家族や親戚による介護が可能だが、核家族化が進んだ日本ではとっくに介護をアウトソーシングするようになった。1980年代から90年代にかけて共働きが増えたがバブルが弾けてからというもの生活が楽になる気配は一向にない。
1948年(昭和23年)は5171万人(15歳以上人口):3484万人(労働力人口)で67%となっている。
・1964年 7122:4710=66%
・1981年 9017:5707=63%
・1990年 10089:6384=63%
・2019年 11092:6886=62%
尚、15歳以上人口については2011年の11117万人で頭打ちとなっており、労働力人口は1990年以降6000万人台を推移している。労働力人口の人口比があまり変わっていないことに驚いた。高校・大学の進学率上昇と未婚率増加が共働き世帯と相殺しているのだろうか? にわかには信じ難い数字である。
今後の人口構成に関しては人口減少と65歳以上の人口比が高まることがわかっている。
人口ピラミッドは既にピラミッドの形を形成していない。
ポリオを患った骨は北海道南西部の縄文後期の遺跡からも出土している。ここから出た入江9号がポリオを患っていた。鈴木隆雄氏によると、この人骨は20歳未満の男性であった。頭や胴体は正常に発育していたが、腕や足の骨が、まるで幼児の骨と間違えるほど華奢(きゃしゃ)であった。骨の発育不全をもたらす病を患っていたのだろう。
鈴木氏は幼児期にポリオにかかって、手足が不自由になったのだと推測する。このからだでは狩猟に行っても、獲物を捕まえることはできなかっただろう。しかし、この骨は20歳ごろまで生きることができた。家族の愛情に恵まれた生活があったことを物語っている。
人口減少社会を生きる我々は縄文人よりも豊かな生活を送ることができるだろうか? 消費税を10%に増税し国民に負担ばかりを強いてくる国家で弱者を守ることは可能だろうか? 学校で繰り広げられるいじめが大人社会を映したものであるとすれば、我々は弱者を踏みつけにすることで社会の安定を保っているのだろう。
尚、酒井は入江9号を「男性」と書いているが、鈴木の論文には「正確な性の判定は困難である」(「北海道入江貝塚出土人骨にみられた異常四肢骨の古病理学的研究」鈴木隆雄、峰山巌、三橋公平)とある。また東京博物館の展示には「おそらく女性」と紹介されている(縄文がえりの勧め 心優しき縄文の村)。小さな誤りだが見逃せない。