・日本人の悪徳
・『半沢直樹2 オレたち花のバブル組』池井戸潤
・『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』池井戸潤
・『半沢直樹4 銀翼のイカロス』池井戸潤
・『隠蔽捜査』今野敏
・『ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録』西川善文
銀行には様々な人間たちがやってくるが、こと態度が悪いという点で国税はヤクザの比ではない。ヤクザならせいぜい店頭で怒鳴り散らすぐらいが関の山だが、こいつらは銀行の中にまで土足で入り込み、国家権力を笠に来て威張り散らした挙げ句、気に入らないことがあると「シャッター閉めるか?」と常套句と化した脅しの言葉を吐く。間違ったエリート意識、歪んだ選民思想の産物で、つまらぬ奴らに権力を持たせるとこうなる、の典型だ。テレビドラマの「窓際太郎」など現実には存在しない。
【『半沢直樹1 オレたちバブル入行組』池井戸潤〈いけいど・じゅん〉(講談社文庫、2019年/文藝春秋、2004年『オレたちバブル入行組』改題/文春文庫、2007年)以下同】
全4冊を2日間で読んだ。テレビドラマの土下座シーンだけは見たことがあるが明らかなミスキャストだ。半沢役がひ弱すぎる。大和田役も大根すぎて見るに堪(た)えず。失われた20年で奮闘する銀行マンを主軸に「働く意味」を問いかける。
日本人の悪徳は「弱い者いじめ」である。明治維新以降は薩摩・長州が会津をいじめ、陸軍では若い兵隊を散々ビンタし、やむなく帰還した特攻隊員は裏切り者扱いをされた。戦時中に思想を取り締まった特高警察も決して国民の味方ではなかった。旧内務省・軍需省が築いた経済システムは戦後も維持された。カルテル、株式持ち合い、系列など。そして大陸から引き上げてきた満州閥が政治・経済の第一線に返り咲いた。バブル崩壊後になると中小企業が大企業や銀行からいじめ抜かれた。
警察や国税には捜査権という強大な権力がある。彼らが家宅捜索や税務調査をすると後片付けもしていかない。かつて日本は昭和初期まで世界有数のテロ国家であった。私からすれば殺害される国税専門官がいないのが不思議である。武士道が滅び、仇討ちの精神は跡形もなく消え去った。日本人はいじめと闘うことを知らず、ただ自裁するだけである。国全体がいまだに村の論理で動いている現実がある。
池井戸作品は初めて読んだが時折キラリと光る言葉がある。
「夢を見続けるってのは、実は途轍(とてつ)もなく難しいことなんだよ。その難しさを知っている者だけが、夢を見続けることができる、そういうことなんじゃないのか」
これはチト臭すぎる。半沢直樹はどこか竜崎伸也(『隠蔽捜査』今野敏)を想わせるところがある。