2021-10-10

あなたが1日に使えるエネルギーの総量とその配分の仕方は法則により制限されている/『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男


『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 ・あなたが1日に使えるエネルギーの総量とその配分の仕方は法則により制限されている

『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
・『アフターデジタル2 UXと自由』藤井保文
・『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』藤井保文、小城崇、佐藤駿
・『アフターデジタルセッションズ 最先端の33人が語る、世界標準のコンセンサス』藤井保文監修

 これらの方程式が自然法則の基本であり、それらがすべて保存則、とくに「エネルギーの保存則」から派生する式だとすれば、「エネルギー」の概念こそが、自然現象の科学的な理解の中心にあることは疑いない。
 実は、このエネルギーの概念が、形を変えてあなたの今日の時間の使い方と関係があるのである。あなたが1日に使えるエネルギーの総量とその配分の仕方は、法則により制限されており、そのせいであなたは意思のままに時間を使うことができないのだ。
 あなたのまわりで起きているあらゆる現象や変化には、エネルギーが必要である。エネルギーはいろいろな形態で蓄積され、あらゆる現象に関わっている。原子力のエネルギーもあれば、化学エネルギーもあれば、熱エネルギーもあれば、電気エネルギーもある。
 エネルギーは形こそ変えるものの、トータルでは、増えもしなければ減りもしない。宇宙も地球も常に変化しているように見える。しかし、エネルギーは一定で増えも減りもしない。
 それでは、なぜ世界は変化するのだろうか。目に見えるあらゆる変化は、実は、エネルギーが別のエネルギー形態に変わることで起こる。たとえば、リンゴが木から落ちるとき、リンゴの重力エネルギーがリンゴの運動エネルギーに変化している。しかし、合計は少しも変化しない。総量は変わらず、その「配分」が変わるのである。
 逆に、配分を変えても実現できない変化は起きない。たとえば、低いところにある物体が、力を加えないのに自然に高いところに昇(ママ)ることはない。これはエネルギーを新たに生み出していることになるからだ。配分を変えることでは実現できない変化である。エネルギーの配分という見方が、科学的に起きうることと起きえないことを明らかにする。
 この300年の物理科学の歴史は、突き詰めれば、あらゆる自然現象をこのように「エネルギーの配分」という統一原理によって説明することであった。

【『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男〈やの・かずお〉(草思社、2014年/草思社文庫、2018年)】

 ウェアラブル(wearable)は「着用できる、身につけられる」との意(著者は「ウエアラブル」と表記している)。

 上記テキストは実験データに基づいている。矢野は自ら立ち上げたプロジェクトでリストバンド型ウェアラブルセンサを8年間にわたって装着。1秒間に20回も計測するこのデータによって、いつ寝返りを打ち、いつ作業に集中していたかが解析できる。つまり「左手の動き」という取るに足らないデータであってもビッグデータ化することで思わぬ人間行動や社会現象を探ることが可能になったのだ。

 私は先週の金曜日まで休みなしで21日間働き詰めだった。金曜日はいくつかの予定をやり過ごし、昨日は修理したバイクでツーリングにでも行こうと考えていた。ところが2~3km進んだところで何となく引き返してきた。夜は久し振りにウォーキングをしようと家を出たものの、やはり2~3kmで戻った。何となく疲労の蓄積が霧のように体を取り巻いていた。昨夜は22時に寝た。4時に目が醒めた。再び寝転がった。時計を見ると8時だった。結局起きたのは13時のこと。15時間も寝てしまった。

 私の場合、保存則は睡眠時間にはっきりと現れる。基本的に寝ないと駄目なタイプである。その代わり寝てしまえば、そこいらの男の3倍くらいのパワーを発揮する。

「エネルギーを使えばつかうほど時間が早く進む」という本川達雄の指摘とも重なる(『「長生き」が地球を滅ぼす 現代人の時間とエネルギー』)。多分、竜宮城では時間がゆっくり進んでいたのだろう。浦島太郎が一瞬で老け込んだのもエネルギー量の違いに原因を求めることができよう。

 一つ疑問に思ったことは、スポーツ選手の場合どうなるのか? マラソン選手が短命な事実は知られているが高々数年程度である。その運動量を思えば辻褄が合わないような気がする。

2021-10-09

あらゆる行動がオンラインデータになって個人のIDとして結びつく/『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓


『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー
『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男
『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ

 ・あらゆる行動がオンラインデータになって個人のIDとして結びつく

・『BANK4.0 未来の銀行』ブレット・キング
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール

『AI監獄ウイグル』ジェフリー・ケイジ
『ジャック・マー アリババの経営哲学』張燕
『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』エリック・ジョーゲンソン
『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』佐藤航陽

情報とアルゴリズム
必読書リスト その三

 近年、中国は「デジタル先進国」として注目されています。約14億人の国民が生み出すビッグデータと優秀なIT人材、政府の強力な後押しによって、新たな社会インフラサービスを高スピードで生み出しています。

【『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文〈ふじい・やすふみ〉、尾原和啓〈おばら・かずひろ〉(日経BP、2019年)以下同】

 次代の新しい顔が見える。横書きテキストを嫌悪する私が間もなく読了する。見出しデザインに何の工夫もなく、まるで教科書以下の体裁だが内容は超弩級(ちょうどきゅう)である。更に藤井は中国在住だけあって、日本を凌駕するデジタルトランスフォーメーションの実態がありありとわかる。日本の場合、張り巡らされた官僚システムとサラリーマン社長が変容(トランスフォーメーション)を阻害する。

【こうした世界の変化において一番重要なことは、「オフラインがなくなる時代の到来」です】。今まではデータとして取得できなかった消費者のあらゆる行動が、オンラインデータになって個人のIDとして結びつくのです。

 買い物をした時の動き、どこで止まって、どこで迷い、結局何を買ったか、までが掌握されるという。現在はamazonのレコメンド機能(あなたへのおすすめ)など大雑把な商品推薦にとどまっているが、膨大なデータ集積によって自分の欲望にドンピシャリの商品がピンポイントで示されるようになる。

 モバイル決済ツールの浸透、そして、シェアリング自転車などデジタル技術にひも付いた新しいサービスの普及によって、より多くの行動データが集まると、新しいことができるようになります。それが、「信用経済・評価経済の活用」です。

 一時期、中国のニュースが報じられた。個人の信用(与信)をデータ化し、ヤフーオークションのように評価されるシステムだ。

 日本でジーマ・クレジットが報道されることはありますが、その際、負の側面にスポットライトを当て過ぎているように思います。よくある報道は、信用スコアが下がり過ぎて新幹線のチケットが飼えなくなったとか、ディストピア的な管理社会につながるといった悲観的な内容です。私は実際中国に住んでいて、窮屈で肩身の狭い実感はありませ。むしろ、信用スコアのサービスは「データを提供すると点数が上がってメリットがもらえるゲーム」といった印象です。

 その背景には、中国にはこれまでまともな与信管理がなく、多くの人が信用情報を持っていない状態にあったため、個人貸付などがまともにできなかったという現状があります。さらに、都市戸籍を持つ人と農村戸籍を持つ人は生まれながらにして権利が違い、農村戸籍を持つ人が都市に住もうとすると、社会保障・生活保障制度がなく、医療保険も年金もまともに受けられず、家を借りる時にも優先されないという状況でした(現在、中国政府が2020年までにこの格差をなくすと発表し、実現方法を議論しています)。

 続けてこうだ。

 これは私の主観ですが、【信用スコアが浸透してから中国人のマナーは格段に上がった】ように感じられます。(中略)

 中国では文化大革命の後、そうした儒教的な文化や考え方が一度リセットされたのです。そうした状況で信用スコアという評価体系が登場したことで、【「善行を積むと評価してもらえる」】とかンゲルようになりました。文化や習慣ではできなかったことが、データとIT技術によって成し遂げられようとしているのです。

 善行の点数制だ。陰徳のデータ化。ありとあらゆるものが「見える」ようになったら、どんな社会が出現するのだろう? 全てのデータを管理するAIが神の位置に君臨するのは確実だ。無駄がなくなり、合理化が限界まで推進した暁に待ち受ける世界象がどうも浮かんでこない。一定の必要悪を認めなければ、何らかの圧力が社会のそこかしこに形成されることだろう。

 なんだかんだとケチをつけたがるのは私が古い時代の人間であるためだ。人間と人間は自ずと信頼関係を結べる。とは言うものの、バブル崩壊以降、人間と人間が分断されバラバラになってきたのも確かな事実だ。既に人間関係ですら非正規化しつつある。そんな世紀末状況にある中で、AIやビッグデータというツールを利用して、再び人と人とが信じ合える世界を構築できるとすれば、その推進を妨げることはできない。ただし人間の身体能力や感性が劣化しなければ、という条件付きである。

小林秀雄は「非常時」という言葉を嫌った/『生きること生かされること 兄 小林秀雄の心情』高見澤潤子


『小林秀雄全作品 25 人間の建設』小林秀雄
・『兄小林秀雄との対話 人生について』高見沢潤子
・『兄 小林秀雄』高見澤潤子

 ・小林秀雄は「非常時」という言葉を嫌った

・『続 生きること生かされること 兄 小林秀雄の真実』高見澤潤子
・『永遠(とこしえ)のふたり 夫・田河水泡と兄・小林秀雄』高見澤潤子
・『生きることは愛すること 兄 小林秀雄の実践哲学』高見澤潤子
・『人間の老い方死に方 兄小林秀雄の足跡』高見澤潤子

 今日は個人主義思想はもう流行(はや)らないのださうですが、流行らなくなっても、人間いかに生くべきかは各自の工夫を要する事に変りはあるまい。  (文学と自分

 此の言葉は、昭和15年、戦争のはじまる前の年に書いた「文学と自分」という作品の中の言葉である。此の言葉の最初の「今日」というのは、その頃、国家総動員とか非常時体制とかものものしくいわれた時代のことである。個人のことなど考えてはいけない。すべて日本国家のために、軍部の命令通りに、動かなければいけないという時代だったから、「個人主義など流行らない」といったのである。しかし兄は、個人の大切さを知っていた。人間は一人一人ちがうのだから、一人一人ちがった歩みをするのが本当の生き方だというのである。兄は非常時という言葉も嫌っていたが、国民精神総動員などといって文士も国家の政策のために尽力するようにといわれても、文士は文学を一生けんめいやり、いい作品を創るだけだ、といっていた。

【『生きること生かされること 兄 小林秀雄の心情』高見澤潤子〈たかみざわ・じゅんこ〉(海竜社、1987年)】

 非常事態、はある。例えば災害は火急の事態だ。しかし災害が収まれば被災者の生活が始まる。戦争は非常時の最たるものだが、国民が織り成すのは日常生活である。つまり戦争状態が日常と化すのだ。小林の嫌悪はよくわかる。「非常時」という言葉は国民に犠牲を強いる時に使われるのだ。「非常時だから我慢せよ」というわけだ。

 2019年12月から始まったコロナ禍騒動も「非常時」で覆われている。法的根拠もないまま、国民にマスクや外出規制を強要するのは独裁国家と変わりがない。唯々諾々と従う国民の心理にあるのは「非常時だから仕方がない」との諦めだ。資本力の弱い飲食店は次々と倒れ、二百三高地状態となっている。政府の無策を思えば、切羽詰まった行動を起こす店主が現れても不思議ではない。

 小林が戦時中の言論について「反省なぞしない」と言い切ったのは、自己批判を繰り返す左翼への嘲笑でもあったのだろう(小林秀雄の戦争肯定/『国民の歴史』西尾幹二)。

 ラジオ番組で「(小林秀雄の)どこがいいんでしょうね? 読んでもさっぱりわからない」と佐藤優が語ったのを聴いて、「小林秀雄は読むべきだ」と直感した。私の勘は滅多に外れることがない。

 

2021-10-08

バイクのマフラー亀裂修理


 一昨年、エンジントラブルで修理をしたところ、ショップから「マフラーに穴が空いているので交換した方がよい」と言われた。ただしバイク屋は修理法については教えてくれなかった。私もその時は「交換するものなんだな」と思い込んでいた。それから穴を見た記憶がないから、「走ればOK」程度の浅い考えであったことがわかる。時折ビリビリする音が出る程度であった。

 数日前から異音が激しくなり、マフラーを確認したところ付け根部分に亀裂が入っていた。異音は爆音へと成長を遂げ、目抜き通りで暴走族が振り返るほどになっていた。

「バイク+マフラー+修理」で検索するとパテ埋め耐熱アルミテープ情報が出てくる。更に調べるとケミカル剤では長持ちしないことがわかった。一方、製造停止になったバイクのマフラーは中々見つかるものではない。だったら溶接しかないわな。

 次に「バイク+マフラー+溶接+地域名」で検索した。どうもGoogleの反応が鈍い。そこで「溶接+地域名」にして片っ端からページを参照していった。時折「マフラー」が出てきた。

 地域名を広域にしてみた。今行っている仕事の現場先も照会した。候補を三つに絞った。

アート溶接工業所:横浜市
KWD溶接工房:綾瀬市
株式会社MT工業:厚木市

 で、KWD溶接工房を選んだ。メールアドレスがなかったため電話連絡をした。今日足を運んだ。気さくな親方だった。私はアーク溶接の心得があるので、しばし溶接談議に花が咲いた。マフラーを見てもらったところ、完全に付け根から外れていた。「ちょっと難しそうですね」と言う。私が「鉄板を巻いてはどうか?」と提案した。「できなくもないんですが、丁度サイズの合いそうな単管があるので合わせてみます」と応じた。「ここまで錆が酷いと簡単にはくっつかないかもしれません」とも。「やっつけ仕事で構わないから出来るだけのことをやって欲しい」と頼んだ。

 マフラーの根元部分をグラインダーで切断し、単管を合わせ、コンクリートの床に這いつくばり、寝転がって溶接作業が行われた。年配の職人さんがバイクを傾けながら。到着してから1時間半後に修理は完了した。エンジンを始動すると以前より静かになっていた。ま、元々穴が空いていたわけだから。料金は6000円。私は安いと思った。設備+1人区と計算すれば1万円くらい吹っ掛けられるかなと考えていた。溶接の出来栄えも決して悪くない。


「これが駄目になればマフラーの錆びた部分ごとパイプを入れ替えることも可能です」と助言された。帰路につくと馬力まで少し上がった走りっぷりだ。「今朝までは気管切開された患者みたいな状態だったわけだな」と得心した。

 マフラーは下部にあるため見落としがちだが、やはり普段からしっかり点検するのが正しい。少しでも錆が出ればワイヤーブラシやサンドペーパーで錆を落とし、錆止め程度の塗装を行うべきだ。更に被害が小さいうちの方が溶接しやすいのは当然である。転ばぬ先の杖に倣(なら)えば、「穴空く前の錆落とし」である。

 この2~3日間というもの、騒音を撒き散らし心苦しい限りであった。ただただ、病人や要介護者、あるいは幼い子供たちの迷惑にならなければと切に祈ってきた。一度出した騒音は引っ込めることができない。我が悪業(あくごう)を謹んで謝する次第である。