2021-12-22

物語の解体/『手にとるようにNLPがわかる本』加藤聖龍


物語の本質~青木勇気『「物語」とは何であるか』への応答
『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』岸見一郎、古賀史健
『悩んで動けない人が一歩踏み出せる方法』くさなぎ龍瞬
『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』草薙龍瞬
『自分を許せば、ラクになる ブッダが教えてくれた心の守り方』草薙龍瞬

 ・物語の解体

『NLPフレーム・チェンジ 視点が変わる〈リフレーミング〉7つの技術』L・マイケル・ホール、ボビー・G・ボーデンハマー
『“偽りの自分”からの脱出』梯谷幸司
『借金2000万円を抱えた僕にドSの宇宙さんが教えてくれた超うまくいく口ぐせ』小池浩
『科学的 本当の望みを叶える「言葉」の使い方』小森圭太
『未処理の感情に気付けば、問題の8割は解決する』城ノ石ゆかり
『マンガでわかる 仕事もプライベートもうまくいく 感情のしくみ』城ノ石ゆかり監修、今谷鉄柱作画
『ザ・ワーク 人生を変える4つの質問』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル
『人生を変える一番シンプルな方法 セドナメソッド』ヘイル・ドゥオスキン

必読書リスト その五

 NLPとは、Neuro Linguistic Programingの頭文字を取ったもので、日本語では「【神経言語プログラミング】」と訳されます。
 Nは「【ニューロ】(Neuro)」、脳の働きです。私たちがどのように「【五感】」(視覚、聴覚、身体感覚、嗅覚〈きゅうかく〉、味覚)で感じ、考えるかを意味します。
 Lは「【リングイスティック】(Linguistic)」、つまり「【言語】」です。これには、普通に話している「言葉」のほかに、「非言語」も含まれます。非言語とは、「表情」「動作」「姿勢」「呼吸」「声のトーン」など、言語以外で表現する情報のことです。
 そして、Pは「【プログラミング】(Programing)」を意味します。これはその人その人の脳に組み込まれた行動や感情のパターン、記憶のことです。
 NLPは「【五感と言語による体験が脳のプログラムを作り、行動を決定づける】」ことにより、原因(もととなる体験)から結果(現在の状態)へのプロセスに注目していきます。
 そしてNLPでは、プログラムそのものをさまざまな手法で書き換えていくことで、結果をより望ましいものへと変化させることを可能にし、より自分の能力を発揮できる状態へと導いていくのです。
 NLPにはたくさんの考え方やスキルがあります。ただし、その基本にあるものは「【幸福で、成功した人間になるために必要なステップを見つけるテクノロジー】」なのです。

【『手にとるようにNLPがわかる本』加藤聖龍〈かとう・せいりゅう〉(かんき出版、2009年)以下同】

 NLP関連書は数冊読んだがあまりよいものがない。しっくりきたのは本書くらいである。

 直観的に仏教の唯識(ゆいしき)や五蘊(ごうん)を示唆していると受け止めた。ただし仏教では部分から集まるシステムとして捉えるのは同じだが、プログラミングを書き換えるという発想はない。ただ欲望が作動する実体を見つめて、そこから離れることを目的としている。NLPの概念はプラグマティズムを踏襲するもので目から鱗が落ちる。

 NLPの誕生は、1970年代中頃のアメリカです。当時、カリフォルニア大学サンタクルーズ校で言語学の助教授をしていた【ジョン・グリンダー】と同大学心理学と数学を研究していた【リチャード・バンドラー】によって研究されました。この2人がNLPの共同創始者、つまり生みの親です。
 2人は当時、独創的で劇的な治療成果を誇っていた、【ゲシュタルト療法フリッツ・パールズ家族療法バージニア・サティア催眠療法ミルトン・エリクソン】という3名の天才的なセラピスト(心理療法家)に注目しました。
 そして、バンドラーとグリンダーは、彼らのセッション内容を撮影し、言語パターンや姿勢、声のトーン、クライアントに対する反応を徹底的に観察し、分析したのです。その結果、タイプの異なる3人のセラピストから治療に有効だと考えられる多くの「共通パターン」を見つけだしました。
 そして、バンドラーとグリンダー自身もそのパターンを習得し、従来のセラピー以上に短時間で治療を施すことを可能にしました。これらのパターンを体系化したものが、NLPの始まりです。
 その効果は、「PTSD」といわれる心の病に苦しむベトナム戦争体験者をはじめ、長年改善されなかった「恐怖症」などの症状に劇的な変化をもたらし、一度のセッションで治療が完了したこともあるほどでした。

 情報処理をシステムとして捉えるのはサイバネティクスオペレーションズ・リサーチの影響があるのだろう。コンピュータの第三世代が登場するのが1965年である。第二次世界大戦から20年を経て、文明は新しいフェーズに入った。

 成果から技術を求めるところにプラグマティズムの精神が垣間見える。

 西暦1700年か、あるいはさらに遅くまで、イギリスにはクラフト(技能)という言葉がなく、ミステリー(秘伝)なる言葉を使っていた。技能をもつ者はその秘密の保持を義務づけられ、技能は徒弟にならなければ手に入らなかった。手本によって示されるだけだった。

【『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』P・F・ドラッカー:上田惇生〈うえだ・あつお〉編訳(ダイヤモンド社、2000年)】

「ミステリー(秘伝)」とは密教である。鎌倉仏教の影響もあるのだろうが、日本文化における技や術は個人に限られていて、組織的なアプローチによる研究など望むべくもなかった。一子相伝的な色彩が濃い。

 実は、私たちの【脳は「現実」と「想像」を区別することができません】。
 いま、頭に思い描いているものが「想像」であろうと「現実」であろうと、同じ神経回路を使って処理され、各器官に指令が出されるのです。(中略)
 このように、ある体験を思い出したり、想像したりしているときも、脳にとっては現実に体験しているのと同じ作用が働いています。【何かをイメージするということは、脳にとって現実に体験していることと同じ】なのです。

 つまり、夢を既に実現したものとして感覚的に味わうことで、未来を手繰り寄せる営みである。こうなると因果倶時(いんがぐじ)や本因妙(ほんにんみょう)に近い。

 脳機能をIC(集積回路)になぞらえることで秘密の扉は開いた。デジタルトランスフォーメーションが加速すればヴァーチャル(仮想)とリアリティ(現実)の差は消失する。このバーチャル即リアリティの中心に脳が存在しているのだ。計算は創造へと飛翔する。それでも人間の欲望が変わることはないのであるが。

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2021-12-19

基準値を下げて病人を製造する日本高血圧学会/『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之

 ・基準値を下げて病人を製造する日本高血圧学会

『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命
必読書リスト その二

 とくに標準血圧のガイドラインは、目に余るものがありました。
 2000年まで、最高血圧160以上の患者さんが高血圧症として降圧剤が処方されており、その数は1800万人といわれていました。
 2000年に、日本高血圧学会が高血圧治療ガイドラインを発表し、高齢者については最高血圧140以上が高血圧症となり、患者さんは3700万人に増えたといわれます。
 さらに2008年のメタボ健診に便乗して、高血圧症は最高血圧130以上という基準が示され、今日、私の推測では、6500万人が高血圧症を患う病人となっています。
 今や、65歳以上の高齢者を集めたら、降圧剤を服用していない人を探すのは難しいと思います。
 いったい、これは誰が臨んだ結果でしょうか。少なくとも、けっして患者さん自身が望んだ結果ではないと思います。
 また、このように基準値を少し下げるだけで、一気に何千万人と患者が増えるわけです。
 現状として、最高血圧130以上の人のほうが多いのであれば、統計学的にはむしろ、最高血圧130以上の高血圧の人が正常で、それ未満の人のほうが正規分布から外れた異常である、と考えるべきではないでしょうか。
 わかりやすくいえば、ふたりにひとりは薬を飲んでいる場合、それはもはや異常な現象としての「病気」とは呼べないのではないか、ということです。
 糖尿病の基準である血糖値、高脂血症のコレステロール基準値も、しかりです。

【『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎〈うえだ・こういちろう〉(講談社+α新書、2014年)】

 降圧剤は1兆円市場である。武田邦彦は「降圧剤の投与によって認知症患者が増大した」と指摘している。こうなるとまるで麻薬や覚醒剤の売買と変わらないように見えてくる。私は酒をやめてから血圧がずっと180台だったが自分で少し低くした。今は多分140台である。

 植田は現場の感覚を重んじる歯科医である。リハビリ現場で目撃した高齢患者に衝撃を受ける。そこから唾液に着目したオーラルケアを編み出す。口ストレッチはいずれも簡単な動きで、「エ、たったこれだけ?」と思う程度の運動である。ところがどっこい実に重要なストレッチで、死命を分かつといっても過言ではない。

 私は最近、嚥下(えんげ)機能が衰えてきているのでよくわかる。もともと扁桃炎持ちで、睡眠時無高級症候群もあり、口を開けて寝る悪い癖がある。近頃はセロテープを貼って寝ている。更に年をとってから寝返りの数が極端に減っていて、仰向けで寝ていると腰に疲労感が残る。長時間にわたってクルマを運転した後のようなずっしりとした疲労感だ。というわけで横を向いて寝るようにしている。

 ここ数年間で、筋トレを始めとする運動~ウォーキング~ストレッチ~ヨガなどの本を読んできた。そして血管マッサージ~自律神経から口に至った。自然な流れではあったが、きちんと外側から内側に向かっている。で、最後は呼吸である。まだまだ本の選球眼は衰えていない。

恩讐の彼方に/『木村政彦外伝』増田俊也


『北の海』井上靖
『七帝柔道記』増田俊也
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也
『VTJ前夜の中井祐樹』増田俊也

 ・恩讐の彼方に

増田●もしヒクソンさんが木村先生の立場だったら、どう思いますか。

ヒクソン●ありえない。

増田●ありえないとは?

ヒクソン●私をフェイク(※八百長)の舞台に上げることは誰もできない。どれほどの大金を積まれても私がフェイクのリングに上がることはありえない。

増田●木村先生はフェイクの舞台、プロレスのリングに上がった時点で間違っていたと?

ヒクソン●そうです。私がそのようなことをやっていたら、もちろん自分のことを許すことはできないし、そのリングへ出た時点で格闘家として負けだと思います。

【『木村政彦外伝』増田俊也〈ますだ・としなり〉(イースト・プレス、2018年)以下同】

 プロ柔道からプロレスラーに転向した木村政彦が力道山にノックアウトされた動画を見た後のヒクソン・グレイシーの言葉である。父親のエリオ・グレイシーはグレイシー柔術の創始者で木村に敗れている。この時決めた腕緘(うでがらみ)をグレイシー柔術では木村に敬意を表して「キムラ・ロック」と呼んだ。

 一流の心は一流の人にしかわからない。そんな思いで増田はヒクソンにインタビューしている。北大時代の増田の後輩である中井祐樹がヒクソンと対戦していることも縁を感じさせる。

 結局は経済の問題なのだ。いざ食えなくなれば体を売り物にするしかない。男も女も一緒だ。肉体労働と性産業の違いがあるだけだ。近代社会は労働を売り物に変えた。あらゆるものが値段をつけられ売り物にされるのが資本主義だ。そうした厳しい現実に木村は晒(さら)されたのだろう。ヒクソンの言葉は正論だが、正論だけでは喰ってゆけない。

青木●でも結局みんなまともじゃないんで。「中井祐樹」がまともかって言ったらまともじゃないし、僕もまともではないだろうし。でも逆に「普通」って何なの? という話にもなりますよね。

増田●まともだったら、ある世界でトップを取るような存在には絶対になれない。一流の人は、持ってる秤(はかり)が狂ってる人ばっかりですよ。どの世界の一流の人と会ってもそれは思います。その秤の狂いこそ、一流の魅力なんです。そういう人に会うと僕は嬉しくなりますけどね。

 青木真也は「跳関十段」(とびかんじゅうだん)との異名をもつ柔道選手で後にプロ格闘家へ転向した。廣田瑞人〈ひろた・みずと〉の腕を折って勝った後、侮辱したポーズをとった試合はよく覚えている。私は格闘技で骨折に至るシーンを初めて見たので衝撃を受けた。

 増田の「秤(はかり)が狂ってる」という言葉は巧みな表現だ。指導や常識を重んじれば、ある枠に自分をはめ込む結果となる。

狂者と獧者/『小村寿太郎とその時代』岡崎久彦
狂者と狷者/『中国古典名言事典』諸橋轍次

岩釣●(木村)先生のトレーニングってとにかく半端じゃないんだよ。俺が(大学)1年の夏に60kgのバーベルを100回×2セット上げて、先生の前で胸張って「できました」って言ったら、先生が「君、何回やったんだ?」って言うから「100回できました」って言ったら、「僕は1時間それを続けたよ」って言われてさ。真剣な顔で。60kgを1時間続けてみてよ。全然パワーが違う。40代始(ママ)めの頃でもまだまだ強かった。

 あまりの凄まじさに笑い声をあげてしまった。柔道やレスリングの練習が厳しいのはよく知っている。高校生ですら桁違いの練習量だった。

岡野●今、いい背負いを見ることはないでしょう? 大体が膝を畳に着く。膝を着くということは体全体のパワーが使えないということです。背負いでもつま先、足首、アキレス腱、そして最後は親指の力、これ全部使うわけですからね。片膝着けばパワーが半分減る、両膝着いてしまえば、そこから下のパワーを自ら殺してしまう。やっぱり全身の力、特に親指から腰まで繋がる下半身の力は非常に重要ですよ。

 こうした体に関する技法の話がてんこ盛りで非常に嬉しい。ホリスティック(全体)とはこういうことを意味するのだろう。体の部分部分を鍛える筋トレは全体性につながらない。単純な自重トレーニングにも同様の陥穽(かんせい)がある。

岡野●どんなに立派な理想でも、それを長く維持するためには経営が大切なわけですから、その経営と中身の充実がバランスを取れてなくてはいけない。

 岡野の正気塾も牛島道場も長く続かなかった。それに対する自戒の言葉である。あらゆる団体に通じる話である。

増田●毎日9時間も練習すると、あのルスカでも痩せちゃうんですね……。ルスカが「私の柔道生活の中で最も苦しく厳しいものだった」と振り返っていたのはこいうことだったんですね。そんな苦しい稽古のために何度も日本に来て、岡野先生についていくルスカもすごい。ルスカのほうが3歳年上ですよね。よほど岡野先生の正気塾が魅力的だったのでしょうね……。ミュンヘン五輪でルスカが2階級を制覇したとき正気塾のジャージーを着て表彰台に上りましたね。自分は岡野先生の弟子だからって。

岡野●気を遣って表彰台に上ってくれたわけですよね。その思いやりが非常にうれしかったですよ。私はそのことを知らなかったからね。

増田●岡野先生はミュンヘン五輪のときは日本にいらしたんですか。

岡野●で。後で人づてに聞いたんです。

増田●国家を代表する最高の栄誉の場所で、母国のユニフォームを脱いで、外国のいち私塾のジャージーに着替えるということは、通常ありえないことです。正気塾のネームの入ったジャージーを着て表彰台に上がる、そういう気遣いをするようになったこと自体、きっとルスカが正気塾での修行、共同生活を通して、日本人の静かな感謝の仕方、武道的な心を学んだのではないでしょうか。

岡野●そうだと思います。

 ウィレム・ルスカ(オランダ)はミュンヘンオリンピックの無差別級・重量級の金メダリスト。「オリンピック同一大会で2階級を制覇した唯一の柔道家」(Wikipedia)である。1976年、アントニオ猪木と異種格闘技戦を行いTKO負けを喫した。

 正気塾のジャージ姿は画像で紹介されている。岡野功は東京五輪(1964年)の80kg級金メダリスト。著書の『バイタル柔道 投技編』(1972年)、『バイタル柔道 寝技編』(1975年)は世界中の柔道家に愛読され、今日もロングセラーを続けている。引退後も数多くのメダリストを育てた名伯楽である。

 半分ほどがインタビューだが、どれも実に面白い。面白さだけなら星五つである。怨念で綴った前著に続き、恩讐(おんしゅう)の彼方に見える風景は決して暗いものではない。「木村 vs. 山下」にこだわるところは子供っぽくて好きになれないが、嘘のなさが読者に訴えるのだろう。