・『前夜』リー・チャイルド
・『キリング・フロアー』リー・チャイルド
・リー・チャイルド三昧
・『警鐘』リー・チャイルド
・『葬られた勲章』リー・チャイルド
頭は、同時にふたつのことをおこなっていた。ひとつは、時間をはかることだ。最後に腕時計を見てからそろそろ2時間がたつが、20秒ほどの誤差でいまの時刻を言いあてられる。実戦でいく晩も寝ずの番をしたときに身につけた特技だ。なにかが起こるのを待つ場合、冬場のビーチハウスのように体の動きを停止させ、刻々とすぎていく時間だけに神経を集中させる。いわば仮死状態になるのだ。そうすることで、エネルギーの浪費をふせぎ、意識のなくなった脳は心臓を鼓動させる役割から解放され、その分を体内のどこかに隠された時計にまわす。おかげで思考に費やす暗く巨大な空間が確保される。だが、ひとたびなにかあればいつでも反応できる程度には覚醒しているから、いつでも現在時刻を把握していることができる。
【『反撃』リー・チャイルド:小林宏明訳(講談社文庫、2003年)】
本を読む速度が急に衰えてきた。「これはいかん」と思い、昨年11月に『隠蔽捜査』シリーズを1日2冊ペースで読み、12月からはリー・チャイルド三昧である。ラドラム、パーカー亡き後、私が唯一頼みとするミステリ作家である。
ややスーパーマン的な要素に鼻白むが、娯楽作品と割り切ってしまえばいい。必ず美女と行為に及ぶ点も同様だ。一種のサービス精神か。
自然の要塞と化した地でミリシア(民兵)がアメリカからの独立を目論む。陰謀論に囚われた極右組織として描かれているが、アメリカのポリティカル・コレクトネスに配慮したものか。『最重要容疑者』の中には「トルーマンはリーチャーの好きな大統領だ」とある。民主党政権でフランクリン・ルーズベルトが死去し、副大統領から大統領に格上げされた。日本に原爆を落とした大統領でもある。
やはり、最初に『前夜』を読むのが望ましい。そうすればリーチャーの上司であるレオン・ガーバー大佐の立ち位置がよくわかる。