2017-01-08

嘘×嘘=真実か?/『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター


『史上最大の株価急騰がやってくる!』増田俊男

 ・嘘×嘘=真実か?

『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ
ロバート・キヨサキ「学校では教えない資本主義のプレイ方法」
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲
『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』佐藤航陽

必読書リスト その二

『金持ち父さん 貧乏父さん』を読んだ人は気がついたと思うが、あの本は高い教育を受けた人と金持ちとのあいだの闘争について書かれたものだ。高学歴だが貧乏だった私の実の父は、スタンフォード大学やシカゴ大学といった名門大学で高度な教育を受けたことをとても誇りに思っていた。金持ち父さんの方は、父親が早くに亡くなって家業を継がなければならなくなり学校は中退した。だからハイスクールすら出ていないが、ハワイ有数の金持ちになった。
 私が成長するにつれ、金持ちだが学歴のない父さんから大きな影響を受けていることに気づいた実の父は、ときどき、自分の生き方を弁護するような態度をとった。私が16歳くらいのときだったと思うが、ある日、父はふと次のように口にした。
「私は名門大学を卒業し、修士号、博士号も持っている。お前の友達の父さんはいったい何を持っているんだ?」私は少し間をおいてから静かに答えた。「お金と、自由な時間だよ」

【『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的事由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター:白根美保子訳(筑摩書房、2001年/改訂版、2013年)】

 真実が眼を開かせるのであれば、嘘×嘘=真実という式が成り立つのかもしれない。ロバート・キヨサキは素性のよくわからぬ人物で、本書に登場する二人の父もフィクションである。元々本書は彼が作った「キャッシュフロー101」というボードゲームの販促本であった。初めて読んだ直後にその事実を知った私は「説教泥棒みたいだな」との印象を受けた。だが、あれよあれよという間に『金持ち父さん』はベストセラーとなり、ロバート・キヨサキは次々と投資本を著す。

 説明能力が高く文章も練られている。翻訳もよい。となれば私の脳は書かれた言葉をあっさりと受け入れてしまう。

 私の二人の父は何かにつけてまったく正反対の考え方をしていた。一人は「金持ちはお金に困っている人を助けるためにもっと税金を払うべきだ」と考えていた。もう一人は「税金は生産する者を罰し、生産しない者に褒美をやるためのものだ」と言っていた。
 一方の父は「一生懸命勉強しろ、そうすればいい会社に入れるから」と私を励ました。もう一方の父は「一生懸命勉強しろ、そうすればいい会社を買うことができるから」と励ました。
 一方が「私にお金がないのは子供がいるせいだ」と言うかと思えば、もう一方は「私が金持ちなのは子供がいるからだ」と言う。
 一方がお金やビジネスについての話を食卓でするのを大いに奨励するかと思えば、一方は食事をしながらお金の話などしてはいけないと言う。
 一方が「この家は私たちにとって最大の投資であり、最大の資産だ」と言うと、一方は「この家は負債だ。持ち家が自分にとって最大の投資だという人は大いに問題がある」と言う。
 二人とも請求書はきちんと期日通りに支払った。だが、一方は請求書の支払をほかのどんな支出よりも優先させ、もう一方の父は請求書の支払を最後にした。
 一方の父は会社や政府が自分たちのめんどうを見てくれると信じて疑わなかった。この父はいつも昇給や年金、医療費の補助、病気休暇、有給休暇などといったことを気にかけていた。(中略)
 もう一方の父は、経済的に100パーセント「自分に依存する」ことが大事だと考えていた。(中略)
 一方の父はわずかな金を貯めるのにあくせくし、もう一方はどんどん投資を増やしていった。
 一方の父は、いい仕事につくためのじょうずな履歴書の書き方を教えてくれた。もう一方は、自分で仕事を生み出すためのビジネス・プラン、投資プランの書き方を教えてくれた。

【『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター:白根美保子訳(筑摩書房、2000年/改訂版、2013年)】


 2008年の時点で2800万部(日本では300万部)の売り上げというのだから、現在は3000万部を超えたと見ていいだろう。本書ではセミナーやMLMも推奨されていることからマルチ商法のバイブルとなった。ロバート・キヨサキを詐欺師と断じる声も多い。

 個人的には町山智浩を尊敬しているのだが明らかに言い過ぎである。そもそもキヨサキは『金持ち父さんの投資ガイド 上級編 起業家精神から富が生まれる』ロバート・キヨサキ:林康史・今尾金久協力、白根美保子訳(筑摩書房、2002年/改訂版、2014年)を皮切りにアメリカ経済のバブルを指摘し、暴落の予想を再三にわたって述べているのだ。また小西克哉はジャーナリスト特有の常識に溺れている人物で自分の知性を嘲笑で示すことが多い。

 町山は元々リベラル肌であったが自らの出自(父親が韓国人であったことが最近判明)を知ったことでリベラルに拍車がかかったような印象がある。そして致命的な問題は彼の歴史観がオリバー・ストーンの影響を受けていることだ。オリバー・ストーンの夫人は韓国人であり、リベラルの域を超えた反米反日左翼といってよい。

 確かにロバート・キヨサキは詐欺師であるかもしれない。それでも私は本書を推す。マネーの仕組みをこれほどわかりやすく説明した本が他にないからだ。

 私は長いことドルが基軸通貨であることの意味を理解してなかった。そこで巡り合ったのが増田俊男の著作であった。初めてマネーの機能を理解した。蒙(もう)が啓(ひら)かれたといってよい。ご存じの方もいるかもしれないが増田は2011年に金融商品取引法違反事件で書類送検された。被害者の会も存在する。

 二人に共通するのは説明能力の高さである。その意味から申せばインチキ宗教家が説く道徳と似ている。嘘×嘘=真実か? そうかもしれないし、そうでないかもしれない。自ら紐解き判断するのが望ましい。

 本書のエッセンスは「自分の与信力を高めること」にある。資本主義における信用とは与信力のことだ。そして資本主義は借金と利子で回っている(←ここアンダーライン)。自分が金融機関から貸し付けを受けることを考えてみよう。何らかの資産がなければ無理である。そこでキヨサキは「資産価値の高い不動産」を買うよう奨(すす)める。終(つい)の棲家(すみか)としてのマイホームではない。買った時の値段より高く売ることができる不動産だ。ここから不動産を担保に借金し(=レバレッジを効かせる)、次の不動産を購入するという寸法だ。

 資本主義経済はインフレを運命づけられている。なぜなら利子の分だけマネーは増加するためだ。インフレとはモノやサービスの価値が上がり、マネーの価値が下がることを意味する。とすればやることは簡単だ。ドル・コスト平均法インデックス投資をすればよい。マネーの価値が下がるわけだからゴールド現物を毎月積み立てるのもいい。

 ところがである。サブプライム・ショック(2007年)~リーマン・ショック(2008年)を経た後、世界各国は通貨安競争を始め、金融緩和に次ぐ金融緩和を行ってきた。それでも尚デフレは解消できず、インフレ率の目標を達することもできない。マネーの洪水はどこに押し寄せているのだろうか? 社内留保に収まるような金額ではないのだ。これに勝(まさ)る不思議はない。とすると突然厖大な量のマネーが氾濫することもあり得るだろう。昨今、資本主義の終焉(しゅうえん)が説かれるのもそのためだ。

 2017年のマーケットは一旦調整した後、順調に上がり続けることだろう。日本株の見通しも来年あたりまでは明るいと思われる。短期的には現物(株式)でもよいが、やはり長期的にはゴールド現物(ETF、先物ではなく)の積立が最強か。ただし如何なる資産であっても戦争となれば没収される危険性がある。機を見て海外に移住することまで想定できる人以外は投資をするべきではない。



翻訳と解釈/『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー

2017-01-03

三田村武夫著『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』を呉PASS出版が復刻

昭和政治秘録 改訂新版 戦争と共産主義

 旧版を全面的に見直し改訂。戦前政治、軍事へのコミンテルンの影響を暴いた問題の書。近衛内閣以降活発になった、国内共産主義者の動向を、身近に接した著者が、証拠を挙げながら描く。日本を戦争へ、そして破滅へと導いたコミンテルンの謀略はいかなるものだったのか。

Kindle版
自由選書

【『戦争と共産主義 昭和政治秘録』三田村武夫(民主制度普及会、1950年:発禁処分に/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』自由社、1987年改題/呉PASS出版、2016年】

2017-01-02

デイヴィッド・イーグルマン


 1冊読了。

 1冊目『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン:大田直子訳(ハヤカワ文庫、2016年/早川書房、2012年『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』改題)/再読。二度目の方が衝撃が強い。読む順序は書評に示した通りである。関連書は「必読書リスト」に網羅してあるが、認知科学と神経科学を私が混同していたため、順番は随時更新している。大田直子の翻訳は実にこなれていて読みやすい。「私」とは「私の意識」に他ならないわけだが、その意識が実は確かなものではなく怪しい蜃気楼のような存在であることを解明する。瞠目すべきは200ページあたりからで、イーグルマンは神経法学という領域に思考を飛翔させる。つまり犯罪者には脳を中心とした神経的な異常があり、社会から排除するよりも神経の更生に重きを置くべきであると。飛躍的な思考は大変に刺激的だが、社会システム論として見ると大きな穴があるのではないか。amazonカスタマーレビューで桐原氏が「新派刑法学の亡霊」との鋭い批判を寄せている。確かに「近代学派(新派) (moderne Schule)」を読むと変わりがない。ただしイーグルマンは具体的な証拠を示しており一定の説得力はある。チンパンジーの世界ではルールを破る者はその場で撲殺される。コミュニティが崩壊する危機を回避すると共に、危険な遺伝子を抹殺する意味もあるように思われる。イーグルマンの試みは素晴らしいものだがコストに見合うほどの社会的利益があるかどうか。

スパイは我々の中に~ヴェノナファイル



ヴェノナコミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾―迫り来る反日包囲網の正体を暴く昭和政治秘録 改訂新版 戦争と共産主義

機械の字義/『青雲はるかに』宮城谷昌光


『管仲』宮城谷昌光
『重耳』宮城谷昌光
『介子推』宮城谷昌光
『晏子』宮城谷昌光
『湖底の城 呉越春秋』宮城谷昌光
『孟嘗君』宮城谷昌光
『楽毅』宮城谷昌光

 ・友の情け
 ・機械の字義

『奇貨居くべし』宮城谷昌光
『香乱記』宮城谷昌光

「ちかごろは田圃(でんぽ)にも機械とよばれるものがはいってきております。ひとつを押すとほかが動くというしかけでして……」
「機械か……。機はともかく、械は罪人をしばる桎梏(かせ)のことだ。人はおのれを助けるためにつくりだしたからくりによって、おのれをしばることになるということか。械とはよくつけた名だ。わしもその械にしばられるひとりか」
 范雎〈はんしょ〉は鼻で哂(わら)った。

【『青雲はるかに』(上下)宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(集英社、1997年/集英社文庫、2000年/新潮文庫、2007年)以下同】

 宮城谷作品を支えているのは白川漢字学である。支那古典というジャングルの中で宮城谷は迷う。自分の居場所もわからなくなった時、白川静の漢字学が進むべき方向を示してくれた。白川の著作を読むと「たったの一語、たったの一行で小説が1000枚書ける」と宮城谷は語る(『三国志読本』文藝春秋、2014年)。

 白川静が明らかにしたのは漢字の呪能(じゅのう)であった(『漢字 生い立ちとその背景』白川静)。神との交流から始まった漢字に込められた宗教的次元を解明したのだ。漢字が表すのは儀礼と祈りだ。

 機械は作業や労働を楽にする。人類の特徴の一つに「道具の使用」がある。厳密に言えばサルも道具を使うため、正確には「道具を加工し利用する」。道具・機械の歴史は小型の斧(おの)からスーパーコンピュータにまで至るわけだがこの間(かん)、人類が進化した形跡は見られない。械が「罪人をしばる桎梏(かせ)」であれば退化した可能性を考慮する必要があるだろう。

 計算機(電卓)やコンピュータは脳の働きを補完する。私は日に数十回はインターネットを検索しているが、脳の検索機能が低下しているように感じてならない。デジカメや録音機器なども記憶の低下を助長していることだろう。

 レイ・カーツワイルは2045年に人工知能がヒトを凌駕すると指摘している(『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル)。その時、械の意味は「コンピュータの進化を阻むヒト」に変わっているかもしれない。

青雲はるかに〈上〉 (新潮文庫)青雲はるかに 下巻三国志読本

友の情け/『青雲はるかに』宮城谷昌光


『天空の舟 小説・伊尹伝』宮城谷昌光
『管仲』宮城谷昌光
『重耳』宮城谷昌光
『介子推』宮城谷昌光
『晏子』宮城谷昌光
『湖底の城 呉越春秋』宮城谷昌光
『孟嘗君』宮城谷昌光
『楽毅』宮城谷昌光

 ・友の情け
 ・機械の字義

『奇貨居くべし』宮城谷昌光
『香乱記』宮城谷昌光

「いずれにせよ、わしのように門地も財産もない男が、国政にかかわる地位に昇ってゆける門戸をひらけるのは、乱のあとしかない」
 と、范雎〈はんしょ〉は断言した。
「それは、わかる」
 鄭安平〈ていあんぺい〉はそういったものの、うなずかなかった。かれは、だが、といって首をかしげ、
「乱により入(い)らば、すなわちかならず乱を喜び、乱を喜ばばかならず徳を怠(おこた)る、ということばがある。なんじの将来のためには、乱れた国へはいるのは、賛同できぬ」
 と、はっきりいった。
 范雎〈はんしょ〉は鄭安平〈ていあんぺい〉をみつめた。范雎の目に複雑な色がでた。大梁にきて、このような愛情のある忠告をきいたのは、はじめてである。

【『青雲はるかに』(上下)宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(集英社、1997年/集英社文庫、2000年/新潮文庫、2007年)以下同】

 タイトルに陳腐の翳(かげ)がある。復讐譚(ふくしゅうたん)に愛する女性を絡めるといったエンタテイメント性をどう評価するかで好みが分かれることだろう。

 范雎〈はんしょ〉は中国戦国時代(紀元前403-221年)に生まれ、平民から宰相(さいしょう)にまで上(のぼ)り詰めた人物である。

 激しく揺れる時代は思春期と似ている。幼さを脱却して大人へと向かう時、自我は伸縮し反抗的な態度が現れる。歴史もまた同じ道を歩むのだろう。

 自分が形成されるのは13歳から23歳までの10年間と言い切ってよい。この時期における友情は眩(まばゆ)い光となって自分の輪郭をくっきりとした影にする。人格は縦(たて)の関係で鍛えられるが、豊かな情操を養うのは横のつながりである。

 上昇志向の強い范雎〈はんしょ〉は鄭安平〈ていあんぺい〉という友を得て圭角が取れてゆく。

 数日後、鄭安平〈ていあんぺい〉は「餞別(せんべつ)だ」と言って、有り金を范雎〈はんしょ〉に手渡す。

 ところが范雎〈はんしょ〉は志半ばにして帰ってきた。

「すまぬ」
 と、いった。鄭安平〈ていあんぺい〉のような男には、みえもきどりもいらないであろう。心を裸にして詫びるしかない。
「なにをいうか。わしはむしろ安心したのよ」
「そうか……」
 と、范雎〈はんしょ〉はいったが、鄭安平の意中をつかみかねた。
「そうよ。わしの心配は、もしやなんじが小さな成功を獲得して帰ってきたら、どうしよう、ということであった。大きな成功を得るには長い年月がいる。わしもなんじも、一代での偉業を夢みている。父の遺徳がない者は、父のぶんまで徳を積まねばならぬ。早い成功は、みずから限界をつくる。そうではないか」
 抱懐しているものを、いきなりひろげたようないいかたであった。
 ――こういう男か。
 范雎は心に衝撃をうけた。
 鄭安平をみそこなっていたつもりはないが、この男の胸のなかにひろびろと走っている大道がみえなかったおのれを愧(は)じた。なるほど天下で偉業をなす者は、若いうちから頭角をあらわしていない。暗い無名の青春をすごしている。管仲〈かんちゅう〉がそうであり、呉起〈ごき〉や商鞅〈しょうおう〉もそうである。なぜそうなのか。つきつめて考えたこともなかったが、鄭安平のいう通りかもしれない、と范雎はおもった。

 学友の中にあって大言壮語を放つ范雎〈はんしょ〉を見て、「あの男のちかくにいれば、おもしろい世がみられるか」と鄭安平〈ていあんぺい〉は思った。そんな小さな心の振幅から生涯にわたる友情が生まれた。鄭安平は後に将軍となる。

青雲はるかに〈上〉 (新潮文庫)青雲はるかに 下巻