2017-01-14

パスカル・ボイヤー


 1冊読了。

 4冊目『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー:鈴木光太郎〈すずき・こうたろう〉、中村潔訳(NTT出版、2008年)/「叢書コムニス 06」。amazonの古書だと13510円の高値が付いている。定価は3800円。原書は2001年刊行。「訳者あとがき」によればボイヤーは1990年と94年に本書と同じテーマで2冊著しているそうだ。宗教を「進化」という枠組みで捉えた嚆矢(こうし)はジュリアン・ジェインズ(1976年)であるが、それに続いた人物と見てよい。因みに『ユーザーイリュージョン』が1991年、リチャード・ドーキンスとダニエル・C・デネットが1996年である。いっぺん刊行順に読む必要がある。ニコラス・ウェイドは多分本書やデネットに対抗したのだろう。再読であるにもかかわらず難しかった。アプローチが慎重過ぎて何を言っているのかよく理解できないのだ。しかも430ページ上下二段のボリュームでありながら外堀を埋めるのに250ページを要している。それ以降本格的に宗教を論じるのかと思えば決してそうではない。認知機能の説明に傾いている。その意味から申せば認知心理学入門としては素晴らしいのだが宗教解説としては物足りない。ボイヤーは複合的・複層的な推論システムということを再三にわたって述べるが、信仰を推論システムに置き換えただけで終わってしまっているような印象を受けた。ボイヤーとニコラス・ウェイドの違いは心理的機能と社会的機能のどちらを重視するかという違いに過ぎない。最大の問題は「錯覚」を取り上げていないことである。更にデータらしいデータが皆無であることも本書の根拠を薄いものにしている。神はまだ死んでいないし、宗教もまた死んでいないのだ。その事実をやや軽視しているように感じた。既に書評済み。翻訳のてにをはに、やや乱れがある。

2017-01-10

ニコラス・ウェイド


 1冊読了。

 3冊目『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド:依田卓巳〈よだ・たくみ〉訳(NTT出版、2011年)/再読。既に書評済みである。二度目の方が勉強になった。やはりある程度の知識を必要とするのだろう。キリスト教とイスラム教に関する記述がやや冗長で仏教への言及が少ない。宗教は人々を結びつけ、社会に道徳的活力を与え、団結の源となった――と肯定的な視点に貫かれている。著者は科学ジャーナリスト。宗教が果たす機能に重きが置かれている。「進化論からみた」とあるが進化生物学ではなく社会学視点が強い。ここのところ再読している書籍については毎年読み返すつもりである。いくらケチをつけたところで100点満点の作品。

2017-01-09

三田村武夫


 1冊読了。

 2冊目『戦争と共産主義』三田村武夫:岩崎良二編(民主制度普及会、1950年、発禁処分/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』自由社、1987年、改訂版・改題/呉PASS出版、2016年/Kindle版、竹中公二郎編)/私が読んだのは自由社版である。本文200ページ、資料100ページの構成。度肝を抜かれてしまったため資料は読んでいない。読み終えてびっくりしたのだが150ページ以上に付箋を付けていた。三田村武夫は戦前の内務省官僚でその後衆議院議員となった人物。大東亜戦争の生き証人といってよい。首相の近衛文麿を諌めたエピソードなどが生々しく描かれている。極めて実務的な文章で感情の澱(よど)みが少ない。政治家としての自らの責任についても端的に述べている。内務省で共産党を研究してきた三田村の結論は共産主義者が大東亜戦争のグランドデザインを描き、敗戦に導いたというものである。二・二六事件の背景についても詳しく書かれており、日本の社会が時流によってうねる様相が俯瞰できる。大きな閃きを得た。「必読書」入り。

バランスシート思考/『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター

 ・バランスシート思考

『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』橘玲

必読書リスト その二

「黄金の羽根」とはいったい何か? これを私は次のように定義しました。

【黄金の羽根】Golden Feather
 制度の歪みから構造的に発生する“幸運”。手に入れた者に大きな利益をもたらす。

【『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲〈たちばな・あきら〉(幻冬舎、2014年/幻冬舎、2002年『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計入門』改訂版)以下同】

 アービトラージ(裁定取引、サヤ取り)という投資手法である。B・N・Fという有名な個人投資家がジェイコム株大量誤発注事件(2005年)で稼いだのも価格の歪みを捉えた取引だ。機関投資家などがアービトラージを行うことで価格は常に調整され、正常な値を目指す。

 橘玲が着目するのは制度や法律である。例えば税制には様々な優遇措置がある。制度は自ら歪み特定の人に恩恵を与える。

 旧版が刊行された2002年というタイミングも見事である。インターネット回線は電話回線~ISDN~ADSL~光ファイバーと進化してきたが、オンライントレードが広まったのはADSLが普及した1999年前後のことと記憶する。そして『金持ち父さん 貧乏父さん』が2001年に出版される。アメリカは不動産バブルに沸き、2007年の頂点に向かっていた。2003年から2013年に渡って証券優遇税制が布(し)かれ、株式投資のキャピタルゲイン、インカムゲインに対しては10%という軽減税率が適用された(通常は20%)。多数のデイトレーダーが誕生したのは政府の主導によるものと考えてよい。

 89年のバブル崩壊から、10年以上に及ぶ長い平成大不況が続いています。企業の収益は悪化し、不良債権は積み上がり、財政赤字は拡大の一途を辿っています。しかしその間、個人が豊かになったことは、あまり指摘されていません。
 企業の収益が悪化すれば株価が下落しますから投資家は損失を被りますが、従業員には関係ありません。なぜなら、業績が悪化しても賃金はそう簡単に下げられないからです。
 資金繰りに窮した企業がリストラをし、ベースアップを抑制し、賃下げを行なうようになれば従業員にも影響は及びますが、そこまで至るにはバブル崩壊後、10年を要しました。失業率の上昇や個人所得の減少が深刻な問題になってきたのは、最近のことです。
 企業収益が悪化し、それでも従業員の賃金が下がらないということは、企業から従業員に大規模な所得移転が行なわれたことを意味します。企業の富が株主のものだとすれば、株主が損した分だけ、従業員が得をしたということです。
 同時に、日本国の財政赤字も急速に悪化しました。いまや国と地方を合わせた債務残高は690兆円(2002現在)に達し、GDP(国内総生産)を大きく上回っています。
 財政赤字が拡大したということは、国家が国債の増発などで資金を調達し、その資金を公共事業などのかたちで国民に再分配したということです。その恩恵を被った度合いに差はあるでしょうが、結果としてみれば、この10年で400兆円に及ぶ国の借金が国民の所得に移転しました。こうして、1400兆円の個人金融資産が形成されたのです。

 橘玲の魅力はこのバランスシート思考にある。実に巧みな解説だ。メディアに出てくる経済評論家は政治テーマや景気の上っ面を撫でるだけで、経済の本質を全く語っていない。

 橘は元々編集者で本書の冒頭でも日本の出版流通が抱える問題にメスを入れている。その後、「ゴミ投資家」シリーズで投資家として頭角を現し、著作も精力的に発表してきた。目の付けどころも独創的で決して借り物ではない。わずかな制度の歪みに投資機会を見出すことは凡人には極めて難しい。そうした発想すら持てないことだろう。近著ではマイクロ法人の設立を奨励し、海外を転々と移住することまで進言している。やや愛国心の欠如が気になるところだが、合理性は易々と国境をも超えてしまうのだろう。

お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ世界にひとつしかない「黄金の人生設計」

2017-01-08

労働収入と権利収入/『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター

 ・労働収入と権利収入

ロバート・キヨサキ「学校では教えない資本主義のプレイ方法」
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲
『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』エリック・ジョーゲンソン

必読書リスト その二

 キャッシュフロー・クワドラントは、図3のような四つのクワドラント(円を四等分したもの)から成り立っている。
 私たちはみんな、この四つのクワドラントのうち少なくとも一つに属している。どこに属するかは、お金がどこから入ってくるかによって決まる。たいていの人は給料がおもな収入源だから従業員(E)だ。そのほかに、自分の雇い主は自分だという自営業者(S)もいる。この従業員と自営業者がキャッシュフロー・クワドラントの左側に来る。右側にいるのは自分が所有するビジネスや投資から収入を得ている人たちだ。
 キャッシュフロー・クワドラントは、「どこからお金を得ているか」に基づいて人々を分類するための簡単な方法だ。クワドラントはそれぞれが独自の特徴を持っていて、そこに属する人々には共通する特性がある。キャッシュフロー・クワドラントを理解すれば、いま自分がどこに属しているか、経済的自由に続く道を選んだとしたら、将来どこに属したらいいか、そこに到達するにはどんな道をたどったらいいか、そういったことがわかってくると思う。

【『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター:白根美保子訳(筑摩書房、2001年/改訂版、2013年)以下同】


 冒頭で紹介しているエドとビルの話は『超パイプライン仕事術 自分らしく生きるために』(バーク・ヘッジ:真中智恵子訳、オープンセンス、2005年)ではパブロとブルーノとして全く同じ内容がある。刊行年からいうとキヨサキの方が先のようだ。


「権利収入」のわかりやすい具体例だ。

 キム(※夫人)と私がホームレスになってまでBとIのクワドラントにこだわったのは、私がそれまで受けていた訓練、教育が主にこの二つのクワドラントに関するものだったからだ。四つのクワドラントのそれぞれが持つ、金銭的に有利な点、職業的に有利な点を私が知るようになったのは、金持ち父さんのおかげだった。右側のクワドラント、つまりBとIのクワドラントは私にとって、金銭的な成功、経済的自由を手に入れるために最も有利なチャンスを与えてくれるクワドラントだった。

 キヨサキは「人に使われるのはいやだ」という自営業者を「DIYタイプ」と名づける。「Do it youself」(自分でやる)だ。ここを読んではたと気づいたのは学校教育や家庭教育がE(従業員)とS(自営業者)の育成を目的にしていることだ。優秀な大学を優秀な成績で卒業する学生を考えてみよう。彼らは官僚か士業(弁護士・公認会計士・税理士)を志す。医師も士業に含めていいだろう。官僚はE(従業員)で士業はS(自営業者)である。S(自営業者)は自分が働かないと収入は生まれないが、B(ビジネスオーナー)は自分が働かなくても収入が生じる。つまり右側のクワドラントは不労所得を意味する。労働そのものよりも仕組み(システム)を構築する者に高いインセンティブがあるのは当然だろう。

「働かざる者食うべからず」とは新約聖書の言葉だが、キリスト教において労働は神が与えた罰と考えられている(『働かない 「怠けもの」と呼ばれた人たち』トム・ルッツ)。もともとヨーロッパの貴族は労働とは無縁であった。彼らが諸外国の大使を務めたのも自費でパーティーを賄(まかな)えるためだった。

 I(投資家)クワドラントも同様でデイトレーダーが実はS(自営業者)であることに気づく。チャートを分析し、ザラ場をひたと見つめ、建玉(たてぎょく)から決済に至る時間は労働そのものだ。彼が手にする利益は労働対価である。

 教育の目的が社会への隷属にあり、そこから脱することが経済的自由であるならば、具体的にはE(従業員)でありながら同時にS(自営業者)・I(投資家)であるというスタイルを築くしか道はない。インターネットによってスモールビジネスは格段にやりやすくなったし、不動産投資もREIT(不動産投資信託)という金融商品があり少額投資が可能だ。

 あらゆるマネーは最終的に投資される。自分で行うか、銀行や保険会社に任せるかの違いがあるだけだ。

 尚、ロバート・キヨサキの著作はこの2冊を読めば十分だ。