2022-02-25

知的飛翔を欠く解説本/『あなたもきっと依存症 「快と不快」の病』原田隆之


『浪費をつくり出す人々 パッカード著作集3』ヴァンス・パッカード
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ
『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』デイミアン・トンプソン
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー

 ・知的飛翔を欠く解説本

『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』アダム・オルター
『快感回路 なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング

 人はなぜ、このように依存症になってしまうのだろうか。それは、人間というものは、依存症になりやすくできているからである。より正確に言えば、進化の過程で、依存症になりやすい遺伝的基盤を持っている人が生き残ってきたからである。

【『あなたもきっと依存症 「快と不快」の病』原田隆之(文春新書、2021年)以下同】

 文章はいいのだが、直ぐにどんよりした気分になってくる。たぶん有能な人物にありがちな常識信仰にあるのだろう。著者は典型的な官僚タイプの人物と見た。

 しかし、ときにはその装置が暴走して、「快」のためには、日常生活や人生などどうでもよいという状態にまでなってしまう。つまり、【人間の生き残りを目的とした戦略としての「快」であったはずが、「快」そのものが目的化してしまうのだ。これが依存症である】。

 解説は巧みなのだが、知的飛翔を欠いている。アイディアの乏しい能吏か。私は人間の価値をユニークさに求めるので、こういう人物にはあまり近寄りたくないというのが本音である。

依存症の教科書本/『快感回路 なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン


『浪費をつくり出す人々 パッカード著作集3』ヴァンス・パッカード
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ
『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』デイミアン・トンプソン
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』アダム・オルター

 ・依存症の教科書本

『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング

 人間と快感との関係は、複雑かつ微妙なものだ。私たちは、快感を追い求めることに、とてつもない時間と費用と労力を注ぎ込んでいる。私たちが何かをしようとするとき、その動機づけの鍵となるのは快感である。たとえば学習に際しては、快感が中心的な役割を果たす。そもそも人類が生存し、遺伝物質を次世代に伝えていくためには、食べ物、水、セックスが〈報酬〉的なものと感じられなければならない。
 快感の中には、私たちにとって特別な種類のものもある。とくに重要な儀式には、祈りや音楽や舞踏や瞑想が伴い、多くは超越的な快感を生み出す。そのような快感は、人間の文化活動の奥底に深く根付いている。
 いっぽう、これほどまでに影響力の強い快感を前に、私たちはそれをコントロールしようとする。快楽について明確に定義された概念や規則は世界中の文化で見られるし、それは人類の歴史を通じて実にさまざまな表現で語られてきた。

【『快感回路 なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン:岩坂彰訳(河出書房新社、2012年/河出文庫、2014年)】

 依存症の本はあまりいいものがない。部分や過剰に重きを置くあまり他人事に感じてしまう。「業」(ごう)を解く鍵があるように思ったが、私の志向を満足させる書籍は今のところ一冊もない。その中でも本書は教科書本としてお勧めできる。

「情報と刺戟」は今後一大テーマになると思われるが、薬物摂取以外の方法で脳を溺れさせることが可能となれば、人類が滅ぶまでの時間は大幅に短縮されることだろう。生き延びるための快楽システムが既に暴走しつつある。

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2022-02-24

6挺が放つ銃弾をかわす植芝盛平/『生命力を高める身体操作術 古武術の達人が初めて教える神技のすべて』河野智聖


 ・6挺が放つ銃弾をかわす植芝盛平

『身体構造力 日本人のからだと思考の関係論』伊東義晃

身体革命

 この話は陸軍の砲兵官が、合気道という素晴らしい武道があるからと軍の関係者を9人ばかり連れて植芝道場に見学にやってきたことからはじまります。そのときにいっしょにきた人たちというのは鉄砲の検査官でした。そういう人たちを前にして演武を行った植芝翁が、そのとき「ワシには鉄砲は当たらんのや」と言ってしまったのです。しかし彼らは鉄砲検査官。プライドを傷つけられ、怒ってしまいました。
「本当に当たりませんか?」
 彼らが先生に詰め寄ると、「ああ当たらん」「じゃあ、試してみていいですか」「けっこうや」と売り言葉に買い言葉となりました。
 植芝翁は撃たれて死んでも、文句が言えないように、その場で何月何日に大久保の射撃場で鉄砲の的になる、と拇印まで押し誓約書を書かされます。彼らはその写しを軍の裁判所のようなところへ持っていって、確認までしてもらったそうです。奥さまやお弟子さんに大変心配されても、「いや、大丈夫。あんなもん当たらんよ」とのんきに答えたそうです。そして射撃場での拳銃の一斉射撃となるのです。
 たっている植芝翁に向かって六つのピストルの引き金が引かれます。ところが、次の瞬間には、25メートルの距離を移動して、人一人投げ飛ばしているのです。
 25メートルの距離を瞬時に移動して投げ飛ばすなんて、信じられますか? その時にお供したお弟子さんの一人は合気道養神館館長、故・塩田剛三〈しおだ・ごうぞう〉先生です。
 塩田先生は現代武術において達人と尊敬される武術家です。その塩田先生が、何が起こるか見極めてやろうと目をこらしていても植芝翁の動きはなにひとつ見えなかったと告白しています。【あまりにも凄まじい話なので、誰もが嘘だと思ってしまうかもしれません。それを嘘だと疑ってかかるか、または人間の潜在的な力の実例ととらえるかでは自己の能力開発において大きな違いが生まれるでしょう】。

【『生命力を高める身体操作術 古武術の達人が初めて教える神技のすべて』河野智聖〈こうの・ちせい〉(経済界、2005年)】

 小野田寛郎もまた射撃をかわすことができると語っている。

小野田寛郎の悟り

 予備動作を見抜く以上の何かがあるのだろう。気配に先んじる何かがあるとすれば、それはもう量子力学的な世界だ。人間の認知能力には限りがないということか。

 河野智聖はユニークな武術家である。ただし文章があまりよくない。本書が一番おすすめできる。

2022-02-23

ユーザーイリュージョンとは/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ


『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

 ・ユーザーイリュージョンとは
 ・エントロピーを解明したボルツマン
 ・ポーカーにおける確率とエントロピー
 ・嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理
 ・対話とはイマジネーションの共有
 ・論理ではなく無意識が行動を支えている
 ・外情報
 ・論理の限界
 ・意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる
 ・神経系は閉回路

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン

必読書 その五

【ユーザーイリュージョンとは
パソコンのモニター画面上には「ごみ箱」「フォルダ」など様々なアイコンと文字が並ぶ。実際は単なる情報のかたまりにすぎないのに、ユーザーはそれをクリックすると仕事をしてくれるとので、さも画面の無効に「ごみ箱」や「フォルダ」があるかのように錯覚する現象を指す。】

本書で、著者は「ユーザーイリュージョンは、意識というものを説明するのにふさわしいメタファーと言える。私たちの意識とは、ユーザーイリュージョンなのだ……行動の主体として経験される〈私〉だけが錯覚なのではない。私たちが見たり、注意したり、感じたり、経験したりする世界も錯覚なのだ」という。(表紙見返しより)

【『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2002年)】

視覚というインターフェース/『世界はありのままに見ることができない なぜ進化は私たちを真実から遠ざけたのか』ドナルド・ホフマン

 本書のパクリだったか。