・『SYNC なぜ自然はシンクロしたがるのか』スティーヴン・ストロガッツ
・『非線形科学 同期する世界』蔵本由紀
・『デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳』(『生存する脳 心と脳と身体の神秘』改題)アントニオ・R・ダマシオ
・感情とホメオスタシス
・『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
・『群れは意識をもつ 個の自由と集団の秩序』郡司ぺギオ幸夫
・『ゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想入門 豊かな人生の技法』ウィリアム・ハート
だがポイントは、人間の文化という物語(サガ)の幕を切って落とすためには、それ以外の何かが必要になるということだ。この「それ以外の何か」とは、動機づけにほかならない。ここで私が念頭に置いているのは、とりわけ痛み、苦しみから健康、快に至る感情である。
【『進化の意外な順序』アントニオ・ダマシオ:高橋洋〈たかはし・ひろし〉訳(白揚社、2019年/原書は2018年)以下同】
70ページで挫折。小難しい言葉がずらりと並び、これでもかと読む気を削いでくれる。「一人でも多くの人に読んでもらいたい」という気持ちはさらさらないのだろう。『意識と自己』(2018年)は30ページほどで挫折している。興味のあるテーマなのだが、やや遅きに失した感がある。
ならば単純に考えれば、健康から不快や病に至る、痛みや快の感情は、人間の心を他の生物の心から根本的に区別する、問いを立て、理解し、問題を解決するプロセスの媒介として機能しているはずだ。そうすることで人間は、日常生活で遭遇する苦境に対処するための巧妙な解決策をあみ出し、自らの繁栄を促進する手段を築いていくことができたのだろう。そして衣食住に関するニーズを満たし、身体の損傷を治療する手段を考案し、医術を発明するに至った。(他者をどう感じるかによって、あるいは他者が自分をどう感じているかを認識することで)痛みや苦しみが引き起こされたりしたときには、人間は拡大された個人的、集団的な資源を利用し、道徳的なきまりや正義に関する規範から社会組織、政治的ガバナンス、芸術表現、宗教的信念に至るさまざまな反応を生み出してきた。
翻訳がよくない。ワンセンテンスが長過ぎる上、読点が多くて何度も読み返す羽目になる。要は感情が群れを形成する動力となっているとの指摘である。これをホメオスタシスにつないだところに本書の独創性がある。
人間の本性のゆえに引き起こされた諸問題に対して、感情が知的で文化的な解決手段を講じる動機となったという確からしい考えと、心を欠く細菌が人間の文化的な反応の前兆となる社会的行動を呈してきたという事実を、いかに折り合わせられるのか? 進化の歴史のなかで数十億年の期間を隔てて出現した、これら二つの生物学的な現われを結びつける糸とは、いったい何なのか? 私の考えでは、それらを結びつける共通基盤は、「ホメオスタシス」の動力学(ダイナミクス)に見出せる。
ホメオスタシスは、生命の根幹に関わる一連の基本的な作用を指し、初期の生化学によって生命が誕生した、生命の消失点(バニシングポイント)をなす原初の時代から今日に至るまで続いてきた。それは思考も言葉も関与しない強力な規則であり、大小あらゆる生物が、その力に依存して他ならぬ生命の維持と繁栄を成就してきた。(中略)
感情は、生体内の生命活動の状態を、その個体の心に告知する手段であり、正(ポジティブ)から負(ネガティブ)の範囲で表現される。ホメオスタシスの不備は、おもにネガティブな感情で表現されるのに対し、ポジティブな感情は、ホメオスタシスが適切なレベルに保たれていることを示し、その個体を好機へと導く。感情とホメオスタシスは、一貫して密接な連携を取り合う。感情は、心と意識的な視点を備えるいかなる生物においても、生命活動の状態、すなわちホメオスタシスに関する主観的な経験をなす。したがって、感情とはホメオスタシスの心的な代理であるととらえればよいだろう。
ホメオスタシスとは恒常性と訳す。体内では心拍数や血圧・体温などを一定のレベルに保とうとする働きがあり、これをホメオスタシスと言う。ところがダマシオはもっと広い意味を持たせており、集団の恒常性にまで発展させている。血圧に倣(なら)えば同調圧と呼んでもよさそうだ。そう考えると確かに社会には体温や心拍数と呼べるような何かがある。
知覚の恒常性(例えば日中に見る信号の青と夕方に見る信号の青を同じ青と認識する性質など)の場合はホメオスタシスではなくコンスタンシーと言うようだ。
ダマシオは神経学者である。進化と群れに関する神経学的アプローチという方向性が目を引く。問題は彼が面白味に欠ける人物の可能性が高いという一点だ。知的ではあるが興奮が欠如している。
読む必要があれば再読するかもしれない。ま、今回はタイミングも悪かった。ユヴァル・ノア・ハラリ著『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』と重なったのが運の尽きだ。更にウィリアム・ハート著『ゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想入門 豊かな人生の技法』の書評を書いていたのが致命傷となった。
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