私の治療法は主として、肉体の栄養状態の改善を武器とする治療法である。この領域で発見されたこと、およびその応用法の具体的な内容の多くは、すでに科学的な研究によってその確かさが確認されている。
【『ガン食事療法全書』マックス・ゲルソン:今村光一訳(徳間書店、1989年)以下同】
原書が刊行されたのは1958年(昭和33年)のこと。マックス・ゲルソン(1881-1959年)は1946年にアメリカ議会の公聴会で自身の研究を発表したが耳を貸す人はいなかった。きっと半世紀以上も時代に先んじていたのだろう。
その後、様々な技術が進展することで、農業・畜産業は工業と化した。土壌のバクテリアを死滅させ、農薬をまき散らし、現在では遺伝子をも操作し「自殺する種」(
『自殺する種子 アグロバイオ企業が食を支配する』安田節子)が世界中に出回っている。
家畜には成長を促進するためのホルモン剤や抗生物質が大量に投与されている。加工食品には防腐剤や得体の知れない食品添加物がてんこ盛りだ。市場に出回る食料品はそのすべてが微量の毒に侵されているといっても過言ではあるまい。
公認の治療法とは別のガンの治療法を世間に公表することには、大きな困難が伴う。また非常に強い反応が起きることもよく知られている。しかし慢性病、とくにガンの治療に関して、多くの医者が持っている根深い悲観主義を一掃すべき時期はもう熟したはずである。
もちろん何世紀にもわたってきたこの悲観主義を、一挙に根こそぎにするのは不可能である。医学を含む生物学の世界が、数学や物理学の世界のように正確なものでないことは、誰でも知っている。
私は現代の農業や文明が、われわれの生命に対してもたらしてきた危機を全て一掃し、修復するこはすぐには不可能だろうと心配している。私は人々が人間本位の立場から一つの考えにまとまり、古来のやり方によって、自分の家族と将来の世代のためにできるだけ自然で精製加工していない食品を提供するようになることこそが、もっとも大切なことだと信じている。
一般的な退化病やガンの予防、そしてガンの治療に必要な有機栽培の果物や野菜を入手することは、今後は今までよりなお難しくなりそうである。
「大きな困難」「非常に強い反応」とは医学界の保守的な傾向もさることながら、製薬会社の利権に関わってくるためだ。世界1位の
ファイザー(米国)の売り上げは500億ドル前後を推移している(
世界の医薬品メーカーの医薬品売上高ランキング2013年)。国内トップは
武田薬品工業で157億ドル弱となっている。
薬漬けにされる精神疾患の場合が特に酷い。エリオット・S・ヴァレンスタイン著『
精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』を読めば、病気そのものがでっち上げられていることがよくわかる。しかし溺れるものが藁(わら)を掴(つか)むように病者は薬を求める。医療は現代の宗教であり呪術でもある。我々は医師の言葉を疑うことが難しい。ひたすら信じるだけだ。よく考えてみよう。医者は裁判官のようなものだ。彼らは過去の例に基づいた発想しかできない。しかも西洋医学は対症療法である。患部を切除あるいは攻撃する治療法が主で、身体全体に対する視線を欠いている。患者はまな板の上の鯉みたいなものだ。
私の基本的な考えは、当初から次のようなものであり、これは今もまったく同じである。
ノーマルな肉体は、全ての細胞の働きを正常に保たせる能力を持っている。だから、この能力は異常な細胞の形成やその成長を防ぐものでもある。したがってガンの自然な療法の役割とは、肉体の生理をノーマルなものに戻してやるとか、できる限りノーマルに近いものに戻してやることに他ならない。そして次に、代謝のプロセスを自然な平衡状態の中に保たせるようにするのだ。
自然治癒力の発揮と言い換えてもよい。病は身体が発するサインなのだ。マックス・ゲルソン博士は友人であった
アルベルト・シュバイツァーの糖尿病とシュバイツァー夫人の肺結核をも食事療法で完治させている。
マックス・ゲルソンは2冊目となる著書の出版を準備していた時に急死する。そして跡形もなく原稿も消えていた。毒殺説が根強い。その死を悼(いた)んでシュバイツァーは次のように語った。
「ゲルソン医師は、医学史上もっとも傑出した天才だと思う。いちいち彼の名は残っていないが、数多くの医学知識のなかに、じつは彼が考え出したというものが多くある。そして、悪条件下でも多くの成果を出した。遺産と呼ぶにふさわしい彼の偉業が、彼の正当な評価そのものだ。彼が治した患者たちが、その証拠である」(
マックス・ゲルソン医師について)
尚、本書は医学書のためかなり難解な内容となっている。関連書と私がゲルソン療法を知った動画を紹介しておこう。具体的な食事療法については「
ゲルソン療法とは」のページを参照せよ。一人でも多くの人にゲルソン療法を知ってもらえればと痛切に願う。
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『迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか』シャロン・モアレム、ジョナサン・プリンス
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筋肉と免疫力/『「食べない」健康法 』石原結實