・『天空の舟 小説・伊尹伝』宮城谷昌光
・『太公望』宮城谷昌光
・『管仲』宮城谷昌光
・『重耳』宮城谷昌光
・『介子推』宮城谷昌光
・『沙中の回廊』宮城谷昌光
・『晏子』宮城谷昌光
・『子産』宮城谷昌光
・術と法の違い
・策と術は時を短縮
・人生の転機は明日にもある
・天下を問う
・傑人
・明るい言葉
・孫子の兵法
・孫子の兵法 その二
・人の言葉はいかなる財宝にもまさる
・『孟嘗君』宮城谷昌光
・『楽毅』宮城谷昌光
・『青雲はるかに』宮城谷昌光
・『奇貨居くべし』宮城谷昌光
・『香乱記』宮城谷昌光
・『草原の風』宮城谷昌光
・『三国志』宮城谷昌光
・『劉邦』宮城谷昌光
「この世には、いかなる財宝にもまさる物がある。それが人のことばというものだ」(八巻)
【『湖底の城 呉越春秋』宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(講談社、2010年/講談社文庫、2013年)】
范蠡〈はんれい〉の言葉である。
・言葉の重み/『時宗』高橋克彦
人は言葉を必要とする。きちんと言葉を掛けられていない子供は大人になって異常性が露呈する場合がある。犯罪者の遠因としてネグレクト(育児放棄)が指摘されることは珍しくない。英語の意味は「意図的な無視」である。コミュニケーションの遮断と言い換えてもよかろう。
たぶん本当は言葉ではない。感情の共有が必要なのだろう。言葉を知らぬ赤ん坊に対して我々は大袈裟な表情や声の抑揚でコミュニケーションを図る。確実に伝わるのは笑顔だ。驚いた表情も理解されやすい。抱っこをし、優しく揺すり、頬に触れる。コミュニケーションの原型はそこにある。
言葉にされた思いが相手の心を打つのだ。感情は思考よりも脳の深層に位置する。迷い、悩み、疲れ果てた後に何気ない一言で救われたことは誰しも経験したことがあるだろう。特に心が揺れる若さの季節にどういう人間が周りにいるかで人生は大きく変わる。運不運といっても結局は人に極まる。出会いこそが人生の幸福であり、自分を激変せずにはおかない出会いを知らぬ人生はプラスチックのように無味乾燥であろう。
あの一言、この一言が胸の底で渾然(こんぜん)となって現在を支えている。その渾(にご)り具合が個性であり人格なのだろう。