2017-11-03

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世界はデタラメ: ランダム宇宙の科学と生活
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2017-10-24

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2017-10-16

「文字禍」/『中島敦』中島敦


『廃市・飛ぶ男』福永武彦
『物語の哲学』野家啓一

 ・「文字禍」

必読書 その一

 ナブ・アヘ・エリバは最後にこう書かねばならなかった。「文字ノ害タル、人間ノ頭脳ヲ犯シ、精神ヲ麻痺セシムルニ至ッテ、スナワチ極マル。」文字を覚える以前に比べて、職人は腕が鈍り、戦士は臆病になり、猟師は獅子を射損なうことが多くなった。(中略)ナブ・アヘ・エリバはこう考えた。埃及(※エジプト)人は、ある物の影を、その物の魂の一部と見做(みな)しているようだが、文字は、その影のようなものではないのか。(「文字禍」)

【『中島敦』中島敦(ちくま日本文学、2008年)以下同】

 新潮(218ページ)・角川(256ページ)・岩波(421ページ)からも文庫版が出ているが筑摩(480ページ)以外の選択肢はない。なぜなら「文字禍」が収められているからだ。

 中島は旧制一高(現在の東大)に入ってから小説を書き始めた。喘息の発作に苦しみながらもペンを執(と)った情熱を思わずにはいられない。その後高校の教員をしながら書き続けた。活字となったのは、『山月記』、『文字禍』、『光と風と夢』のわずか3作品で、亡くなる直前に2冊の本が刊行された。喘息のため33歳で逝去。名を遂げることはなかったが作品は今も尚生き続け、多くの人々が親しむ。本物の芸術家は時代に先駆けるゆえ正当な評価は遅れてやってくる。

「文字を覚える以前に比べて、職人は腕が鈍り、戦士は臆病になり、猟師は獅子を射損なうことが多くなった」――1942年(昭和17年)の『文學界』5月号に掲載されたということは多分31歳で書いた作品だと思われる。文明の発達と肉体の衰えを捉えて見事な一文である。漢籍の素養が日本語の抽象度を高め、矢の如く一直線に迫ってくる。しかもメタフィクション的な手法を使いながら、学者が文字を否定するというジレンマがユーモラスな興趣を添える。

 至為(しい)は為す無く、至言は言を去り、至射は射ることなし(「名人伝」)

 こうなると老荘思想や仏教の空に近い。中島敦にとって小説とは書くことで完結した行為であったのだろう。名誉やカネ目当てでは戦争の真っ最中に小説を書くことなど出来ない。

 そんなある日、敦が珍しく台所にいる妻に創作の報告をした。「人間が虎になった小説を書いたよ」。何て恐ろしいことと感じたが、後にこの小説「山月記」を読む度に妻は夫を思った。「あの虎の叫びが主人の叫びに聞こえてなりません」

中島敦「何故こんな運命になったか……」/YOMIURI ONLINE 2016年08月08日

 しかし、なぜこんな事になったのだろう。分らぬ。全く何事も我々には判らぬ。理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きものの【さだめ】だ。(山月記)

 中島の中には虎が生きていたのだろう。抑え切れない猛々しさが彼を原稿に向かわせたのだ。ペンは剣(つるぎ)と化した。その自在な動きの痕跡を我々は読むことができるのだ。偉大な人物は偉大であるというだけで人々を幸福にする。



70年の時を経て、中島敦の遺稿を〝リマスタリング〟
人間の知覚はすべて錯覚/『しらずしらず あなたの9割を支配する「無意識」を科学する』レナード・ムロディナウ

2017-10-12

可用性バイアス/『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』レナード・ムロディナウ


『デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳』アントニオ・R・ダマシオ:田中三彦訳
『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』デイヴィッド・イーグルマン
『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー
『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー、ブライアン・キング

 ・可用性バイアス

『感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性』高橋昌一郎
・『しらずしらず――あなたの9割を支配する「無意識」を科学する』レナード・ムロディナウ

 しかしたとえ、確率論者は一流数学者に値する、と信じるギリシア人がいたとしても、広範な記録がなされる以前の当時にあっては、なかなか一貫した理論をつくれないで困ったかもしれない。なぜなら話が過去の出来事の頻度の評価――それゆえ確率の評価――ということになると、人間の記憶力はあまりにもお粗末だからだ。
 5番目にnがくる6文字の英単語と、ingで終わる6文字の英単語では、どちらの数が多いだろうか。ほとんどの人間がingで終わる6文字の英単語を選ぶ。なぜだろうか。ingで終わる単語は、5番目にnがくる6文字の英単語より思いつきやすく、数が多いように思えるからだ。
 しかし、その推測が間違っていることを証明するのに『オックスフォード英語辞典』を調べる必要はないし、勘定の仕方を知る必要さえない。というのは、5番目にnがくる6文字の英単語のグループには、ingで終わる6文字の単語が含まれるからだ。心理学者はこの種の間違いを「可用性バイアス」と呼んでいる。われわれは過去を再構築する際、もっとも生き生きした記憶、それゆえもっとも回想しやすい記憶に、保証のない重要性を授けてしまうのだ。
 可用性バイアスの好ましくないところは、過去の出来事や周囲の状況に対するわれわれの認識をゆがめることで、いつのまにか世の中の見方をゆがめてしまうことだ。

【『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』レナード・ムロディナウ:田中三彦訳(ダイヤモンド社、2009年)】

 ランダムネス(偶然性、雑然性、不作為性)を解き明かす好著。株価の値動きは予測不可能であるとするのがランダム・ウォーク理論だ。株価は酔っ払いの千鳥足の如く次の一歩を予測することができない。仮に予測できる人がいたとするならば、世界の富をあっという間に独り占めできる。予言者に対して「だったら株価を当ててみせろ」と反論するのは本質を衝いている。

 元々確率論の世界で注目されていたランダム性だが2001年前後から量子力学や情報理論のトピックとして大きく扱われるようになった。もちろん熱力学におけるエントロピー増大則も関連している。

 日本語だと偶然性が一番ピンとくるように感じるが、エントロピーを考えると雑然性の方が正確だし、運命や宿命に対しては不作為性がしっくり来る。というわけでランダムネスに巧く対応する日本語がないので「ランダム性」と表記するのがよかろう。接尾辞の「‐ness」は性質や状態を表す。

 ヒューリスティクスソマティック・マーカー仮説ジェームズ=ランゲ説などの知識があれば面白さが倍増する。

 ロボット工学でにわかにヒューリスティクス(直感的な意思決定)が注目された。当初、ロボットが目的に沿った行動をするためにはあまりにも多くの情報が必要とされた。ドアを開けて部屋に入るだけでも、「ドアを壊さない」ことをプログラミングしなければならない。こうして「学習するロボット」が誕生した。

 ところがどうだ。認知心理学はヒューリスティクスの誤りを暴いてしまった。身も蓋もないとはこのことだ(笑)。我々の先祖は直感に頼って逃げなければ猛獣に食べられてしまったことだろう。文明が未発達な時代において「考える人」は死ぬ。だが差し迫った生命の危険が日常から薄れた現代社会においては「考えない人」が貧乏くじを引くのだ。

 宗教が往々にして「生きる実感」を人々に与えるのは可用性バイアスを強化するためだ。功徳と罰、祝福と断罪(=「保証のない重要性」)といった幸不幸の線引を自覚することで生活体験に重みを与えているのだ。

 美しい思い出は風化しない。ハハハ、そんなこたあ嘘だよ(笑)。美しい思い出は脳内で更に美しく脚色され、再構成を施され、全く別の物語になってゆく。昨日の記憶でさえ感情によって歪められ、事実から懸け離れているのだ。

 バイアス(歪み)は英知の欠如から生じる。我々の人生が労働と消費についやされる間はバイアスを免れることはないだろう。

たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する
レナード・ムロディナウ
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偶然か、必然か/『“それ”は在る ある御方と探求者の対話』ヘルメス・J・シャンブ

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明日が変わるとき―クリシュナムルティ最後の講話
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夏草冬涛 (上) (新潮文庫)
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2017-10-07

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北の海〈上〉 (新潮文庫)
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2017-10-01

ヴァレリー艦長の威厳/『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン


『ボーン・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー
『レイチェル・ウォレスを捜せ』ロバート・B・パーカー
『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ

 ・ヴァレリー艦長の威厳

必読書リスト その一

 また長い咳き込みがあり、長い間があり、ふたたび口をひらいたとき、声の調子はまったく変わっていた。それはあまりにしずかな声だった。
「私は諸君になにをたのんでいるか、よくわかっている。諸君のだれもが、いかに疲れ、いかにみじめな、苦しい思いをしているか、私にはわかる。私は知っている――だれよりも知っている――諸君がどんな目に会(ママ)ってきたか、いま諸君にとって、なにがいかに必要か、諸君が休養を得るにふさわしいか。休養はあたえられる。18日ポーツマスに入港、さらにアレキサンドリアで艦修復の予定だが、その間、乗組員全員に10日間の休暇が許される」自分にはなんの意味も持たないかのような、無造作な言葉だった。「だが、その前に――残酷な、人道を無視したことにきこえるだろうが――いや、きこえないはずはない――いまいちど諸君に、それも諸君がかつて味わったことのないほどのものに耐えてくれと、たのまねばならない。だが、私にはいかんともしがたい――だれにもしがたいのだ」ひとことごとに、ながい沈黙がつづいた。艦長の声はひくく、そして遠く、言葉をききわけるのがむずかしかった。
「だれにも、諸君にそれをやってくれという権利はない。だれよりも私にはない……この私には。だが、諸君がかならずやってくれることを、私は知っている。私は信じている。諸君が私を見すてないことを、諸君がユリシーズを送りとどけてくれることを。幸運を祈る。幸運と神のご加護を。そして、いい夜(グッド・ナイト)を」

 拡声器の音は消えた。だが、静寂はつづいた。だれもしゃべらず、だれもうごかない。目さえうごかない。拡声器をみつめていた者は、なおも呆然とみつめている。両手に目をおとしている者、疲れた目にひりひりとしみる煙も忘れて、禁じられたたばこの赤い火をじっと見ている者。それはまるで、だれもが自分ひとりになって、自分の心をのぞき、自分ひとりの考えをすすめようとしているみたいだった。ほかの者と目が会(ママ)えば、もう自分ひとりにはなれないと思っているかのようだった。それは異様な、一種幻妙な静寂、人間がおよそまれにしか味わうことのないあの無言の悟入であった。ヴェールがあがって、ふたたびおりる。人はなにかをかいま見たのか思いだすことはできないが、なにかを見たことを、二度とおなじものはあらわれないことを知っている。それはめったに、ほんと(ママ)にめったにあるものではない。それは絶妙なたぐいない日没の一瞬、偉大なシンフォニーの一断片、大闘牛士の剣があやまたず突き刺されたとき、マドリードとバルセロナの巨大なリングをつつむ恐ろしい静寂。スペイン人は、それをたくみによぶ――〈真実の瞬間〉と。

【『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン:村上博基〈むらかみ・ひろき〉訳(ハヤカワ・ノヴェルズ、1967年)/ハヤカワ文庫、1972年/原書は1955年】

「ジャック・ヒギンズを知らない? 死んで欲しいと思う」と内藤陳〈ないとう・ちん〉が見出しに書いたのは1983年であった(『読まずに死ねるか!』)。私がヒギンズを読んだのは丁度同じ頃で、それ以降ミステリや冒険小説にハマった。『鷲は舞い降りた』(ジャック・ヒギンズ:菊池光訳、早川書房、1976年/完全版、1992年)、『初秋』(ロバート・B・パーカー:菊池光訳、早川書房、1982年)、そして本書の3冊は金字塔といってよい。


 再読は一度挫けている。文章が硬質なため一定の覚悟を持たなければ読むのが困難だ。上記テキストは100ページの手前だが、ここに辿り着けば後は一気読みである。

 ヴァレリー艦長の威厳と影の濃い群像がユリシーズ号そのものであった。戦争の悲惨・矛盾を記しながらも決して子供じみた平和論に堕していない。

 フィクションということもあろうが、ここには旧日本海軍のようなビンタやリンチがない。私は日本文化をこよなく愛する者だが、日本に特有のいじめや村八分といった気風を嫌悪する。

 男の曲がった背中を正す物語として本書は永く読まれることとなるだろう。

本人名義口座間の振込手数料を0円にする方法


 ま、大したことではないのだが便利なので紹介しよう。証券会社をハブ口座として使う。ただそれだけのことである(笑)。私は「ヒロセ通商【LION FX】」を使っているのだが、対応可能な銀行がどんどん増えている。

クイック入金 約380行対応!!

 リアルタイム出金であれば14:30までなら即時に反映される。地方銀行もあるので給与を他行宛てに振り込む際も一々ATMに行く必要がない。

 尚、出金口座を変更する手間はあるが、ATMへ行くことを思えばどうってことはない。

読み始める


 今までは別ブログにアップしていたのだが、読書日記をサボりがちのため今回からこちらで紹介する。尚、読みたい順番で並べている。

七帝柔道記 (角川文庫)
増田 俊也
KADOKAWA (2017-02-25)
売り上げランキング: 57,036

田中角栄 封じられた資源戦略
山岡淳一郎
草思社
売り上げランキング: 516,337

中核VS革マル(上) (講談社文庫)
立花 隆
講談社
売り上げランキング: 46,779

中核VS革マル(下) (講談社文庫)
立花 隆
講談社
売り上げランキング: 28,291

2017-09-22

つなぎ Prono(プロノ) vs. GRACE ENGINEERS(グレースエンジニアーズ)


 中年太りはベルトを嫌う。なぜならズボンが下がってくるからだ。私は30代半ばの頃から平然と人前でズボンを下げてYシャツの裾を直す癖がついてしまった。そしてデブの安易さがつなぎとサスペンダーに向かう。

 初めて買ったつなぎは「DOGMAN」というメーカーだった。確か5000円代の値段だったと記憶する。普段着にしていたため数年でヒッコリーの色が褪せ、袖が擦り切れてしまった。同じものが欲しかったのだが、ヒッコリーのストライプが太くなっていて好みに合わない。

 やむを得ずProno(プロノ)とGRACE ENGINEERS(グレースエンジニアーズ)というメーカーのつなぎを購入した。

 Prono(プロノ)は3000円ちょっとの値段でありながら生地がしっかりしており、ウエスト調整も可能だ。襟の形が気になったのだが実際に着てみるとそれほど悪くはない。カラーはカジュアル調なのでワッペンでも貼ればそこそこお洒落になるだろう。

 GRACE ENGINEERS(グレースエンジニアーズ)は5000円台という値段の割にはイマイチである。紺色のヒッコリーに黄色のアクセントはいくら何でも趣味が悪すぎる。生地はいいのだが要所要所にコスト削減の跡が窺え、着れば着るほど居心地が悪くなる。最悪なのは袖の切れ目が短く折り返すことは可能だが二つ折りにはできないところだ。マジックテープも正方形で小さく外れやすい作りだ。細部で手を抜いているのがよく伝わってくる。左側の胸ポケットは見せ掛けのフラップ(蓋)で、右胸のボタンも飾りだ。腰部分のポケットも微妙に小さい。内側にウエスト調整のベルトを付ける前に基本的な部分をしっかりと作るべきだろう。

 つなぎ選びは股下が文字通りの【急所】となる。大き目のサイズを選んで股下が下がるようだと動きが損なわれる。やはり実際に試着した方がいいのだが、ビニール袋に入っていて試着できない商品も多いのが実状だ。ネットで注文する際はユーザーのコメントでサイズを探るしかない。私は173cmで72kgという体型だが、どちらもLサイズで少々大き目といったところだ。綿100%だと洗濯すると縮むので丁度いいと思う。


GRACE ENGINEERS グレースエンジニアーズ GE-105 長袖ツナギ19ヒッコリーL
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2017-09-18

相関関係が因果関係を超える/『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ


『複雑系 科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』M・ミッチェル ワールドロップ
『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン
『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』マーク・ブキャナン
『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』マルコム・グラッドウェル
『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック
『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー
『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正

 ・相関関係が因果関係を超える

『正論』2021年6月号
『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男
『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー
『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ

必読書リスト その三

 現時点でビッグデータの捉え方(と同時に、本書の方針)は、次のようにまとめることができる。「小規模ではなしえないことを大きな規模で実行し、新たな知の抽出や価値の創出によって、市場、組織、さらには市民と政府の関係などを変えること」。
 それがビッグデータである。
 ただし、これは始まりにすぎない。ビッグデータの時代には、暮らし方から世界との付き合い方まで問われることになる。特に顕著なのは、相関関係が単純になる結果、社会が因果関係を求めなくなる点だ。「結論」さえわかれば、「理由」はいらないのである。過去何百年も続いてきた科学的な慣行が覆され、判断の拠り所や現実の捉え方について、これまでの常識に疑問を突きつけられるのだ。
 ビッグデータは大変革の始まりを告げるものだ。望遠鏡の登場によって宇宙に対する認識が深まり、顕微鏡の発明によって細菌への理解が進んだように、膨大なデータを収集・分析する新技術のおかげで、これまではまったく思いもつかぬ方法で世の中を捉えられるようになる。やはりここでも真の革命が起こっているのは、データ処理の装置ではなく、データそのもの、そしてその使い方だ。

【『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ:斎藤栄一郎訳(講談社、2013年)】

 いやはや吃驚仰天(びっくりぎょうてん)の一書だ。刊行されてから4年も本書に気づかなかった不明を恥じた次第である。

 Google社が検索データからインフルエンザを予測した。Googleでは1日に30億件以上の検索が実行されるが、上位5000万件の検索キーワードを抽出し、4億5000万に上る膨大な数式モデルを使って分析した。その結果、特定の検索キーワード45個と特定の数式モデルを組み合わせると、米国疾病予防管理センター(CDC)の公式データと高い相関関係を示した。

 これだけでも凄いのだが、CDCのデータには風邪をひいてから病院へ行くまでの時間やデータ調査にまつわる時間(週に一度)などのタイムラグがあるが、Googleの予測はほぼリアルタイムなのだ。つまりビッグデータによる予測という点では【相関関係が因果関係を超える】。これが驚かずにいられようか。

 科学的視点に立てば相関関係を因果関係と混同するところに誤謬(ごびゅう)が生じる。

相関関係=因果関係ではない/『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン
相関関係と因果関係の違いが一発でわかる具体例5選

「あなたが不運なのはご先祖様をきちんと供養していないからだ」ってなわけだよ。「祈ったから病気が治った」「高価な壷を買って人生が好転した」なんてのも同様だ。

 ところが膨大なデータから浮かび上がる相関関係は未来予測を可能にする。「風が吹けば桶屋が儲かる」のは因果関係を辿ったものだが、ビッグデータは風が吹く前にネズミ捕りが売れることを予測するのだ。

 ビッグデータはさながら人の無意識を思わせる。「巨大で複雑なデータ集合の集積物」(Wikipedia)が阿頼耶識(あらやしき)であるとするならば、データマイニングは一種の悟りなのかもしれない。



有害で悪質な数学破壊兵器のフィードバックループ/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール

2017-09-16

体との対話/『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』谷本道哉、石井直方


 ・体との対話

身体革命
必読書リスト その二

 筋肉を伸ばすと、体にはいろいろな変化が起こります。いちばんの高価は、もちろん柔軟性の向上でしょう。ここで言う柔軟性の向上とは、筋肉が伸びやすくなるということです。筋肉がよく伸びることで、関節の動く幅も広がります。
 また伸ばすことで、筋肉のこわばりが解きほぐせるという効果も。これによって血液循環が促され、コリや冷えなどの不調が解消し、筋肉と体を快適な状態へと導けます。さらにストレッチは本来、とても気持ちがいいもの。体がほぐれるだけでなく、精神的なリラックス効果もあるのです。

【『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』谷本道哉〈たにもと・みちや〉、石井直方〈いしい・なおかた〉(高橋書店、2008年)】

 谷本道哉は『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系列)でお馴染みの人物で運動生理学・筋生理学という新しい分野を開拓する研究者だ。石井直方は元ボディビル日本チャンピオンで谷本の師匠である。この師弟コンビは翌年に『スロトレ』を刊行している。

 私は30歳から酒を呑み始めた。しかもかなり遅い時間に。寝るのは深夜の2~3時というのが普通であった。40歳近くなるとウエストが92cmになっていた(20代では76cm)。精神の澱(よど)みを感じ、「これはまずい」と2~3日走ったりしたものの息が上がって長続きしなかった。それから40過ぎで自転車に乗り少し痩せた。

 体のバランスが崩れ始めたのは45~48歳の頃である。まず床に積み上げていた本の山を引っくり返すようになった。続いて冷蔵庫などに爪先をぶつけることが多くなった。そして洗い物をしていると落とすことが目立ち始める。48歳で生まれて初めて肩凝りが出て、その後ぎっくり腰を数度経験した。

 肩凝りを治すべく直ちにストレッチを行い、1週間で治した。「善は急げ」である。


 本格的にストレッチを開始したのは2年前のこと。今年からバドミントンを始めたので筋トレも行っている。

 ストレッチ本は基本を押さえるあまり広く浅い内容にとどまりがちで本書も例外ではない。ただし全体的なバランスを考慮して「必読書」に入れた次第である。YouTubeにアップされている多彩な動画の方がはるかに有効だ。

 amazonに「腰痛から解放され、人生が救われました」という40代女性のレビューが掲載されている。私のように強い負荷を望むより、やはり基本から取り組むのがよかろう。

 ストレッチは体との対話である。柔軟性が増すと実際に体を近くで見るため意識が劇的に変わる。2~3ヶ月前にふくらはぎの肉離れを起こしたが、筋肉が歪(いびつ)に変形していることに直ぐ気づいた。そのまま呼吸を意識すれば直ちに瞑想となる。個人的にはヨガよりも断然ストレッチの方が取り組みやすい。柔軟な身体(しんたい)に柔軟な魂が宿る。多分。

2017-09-10

冤罪に陥れられながらも決して翻弄されることがなかった男の手記/『「疑惑」は晴れようとも 松本サリン事件の犯人とされた私』河野義行


 ・冤罪に陥れられながらも決して翻弄されることがなかった男の手記

『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子
『彩花へ、ふたたび あなたがいてくれるから』山下京子
『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』V・E・フランクル:霜山徳爾訳
『それでも人生にイエスと言う』V・E・フランクル
『アウシュヴィッツは終わらない あるイタリア人生存者の考察』プリーモ・レーヴィ
『イタリア抵抗運動の遺書 1943.9.8-1945.4.25』P・マルヴェッツィ、G・ピレッリ編
『石原吉郎詩文集』石原吉郎

必読書リスト その一

 私はこれまで、自分が生きてきた足跡というのは、日々、歩きながら消すものだと思ってきた。足跡を消しながら、また消しながら、最後に死ぬとき、ふっと地上から消えてなくなるのがいい。他人が気がついた時には、もう私はいなくなっていて、「そういえば河野という人間がいたな」というぐらい存在感のない、そういう生き方が好きだった。あらゆる意味で、名前はこの世に残したくなかった。
 それが私のささやかな人生観であり、無常ということばに心を惹かれるところがあった。
 しかし、そうした生き方は全てひっくり返されることになる。前年の松本サリン事件で妻澄子が重症を負ったばかりでなく、警察から私は犯人の扱いを受け、私の44年間の人生はこれ以上洗うものがないくらい徹底的に調べあげられた。私や妻の実家、子供たちはもちろんのこと、友人、知人、会社関係、およそ私たち家族に関係がありそうな膨大な人たちに警察は聞き込みに回り、予断を込めた質問が投げかけられ、あらゆることを調べていった。
 その意味で、私は丸裸になった。
 これまで私は一人の平凡な市民として生きてきた。それが突然、思いもよらない事件に巻き込まれてサリン被害を受け、なおかつ7人を死亡させた殺人犯の汚名を着せられ、プライバシーは跡形もなく踏みにじられた。

【『「疑惑」は晴れようとも 松本サリン事件の犯人とされた私』河野義行〈こうの・よしゆき〉(文藝春秋、1995年/文春文庫、2001年)】

 本書が1995年、そして『彩花へ――』が1997年に刊行された。失われた10年で日本が経済的に沈滞する中で2冊の本は眩しいほどの光を放った。「市井(しせい)にこれほどの人物がいるのか」と感嘆したことをありありと覚えている。「まだまだ日本も捨てたもんじゃないな」と希望が湧いた。その後、河野の講演会にも足を運んだが、著書から受けた印象そのままの好人物であった。

 バブル景気という狂宴を経てマスコミは災害や猟奇事件を延々と報じるようになった。そしてインターネットが登場すると特定の人物をバッシングする傾向が顕著となる。マスコミは常に虎視眈々と獲物を求めた。その最初にして最大の犠牲者が河野義行であった。

 時に不条理が人生を襲う場合がある。私は若い頃から「極限状況における人間の振る舞い」に関心を寄せてきたが、その意味から申せば上記関連書と併せて読むのが望ましい。

 貧しい想像力を働かせて「もしも自分だったら」と考えてみよう。私なら確実に犯罪的な暴挙に出る。躊躇(ためら)うことなく松本警察署の署長と目ぼしい新聞記者を手に掛けることだろう。だが河野は道徳心を失わなかった。終始、水の如く淡々と振る舞った。夫人が意識不明の重体であるにもかかわらず。

 検察・警察とマスコミを罰する法制度を整備すべきだろう。取り調べの可視化も必要だ。河野は文字通り社会的に抹殺されたわけだから、実際にミスを犯した者と責任者には懲役10年程度が相応(ふさわ)しい。刑事罰がないため彼らは同じ過ちを何度でも繰り返しながら平然としている。

 冤罪(えんざい)に陥れられながらも決して翻弄されることがなかった男の手記である。

世界史対照年表の衝撃/『ニューステージ 世界史詳覧』浜島書店編集部編


 ・世界史対照年表の衝撃

『科学と宗教との闘争』ホワイト:森島恒雄訳

世界史の教科書
必読書 その四

人名の表し方 世界には様々な人物が登場するが、その人名の由来や成り立ちがわかると、その歴史的背景も見えてくる。

1 ヨーロッパ圏
◆解説 英語・フランス語・ドイツ語など、各言語で表記は異なるが、キリスト教、古代ギリシア・ローマ文化、ゲルマン文化に由来するものが多い。

●キリスト教と名前の由来
 ●パウロ(イエスの弟子、「異邦人の使徒」)
  →ポール(英)、パブロ(スペイン)
 ●ミカエル(天使の名)
  →マイケル、マイク(英)
 ●ヨハネ(イエスの洗礼者)
  →ジョン(英)、ジャン(仏)、イヴァン(露)
 ●ヤコブ(イエスの弟子)
  →ジェームズ(英)

●ギリシア・ローマ文化と名前の由来
 ●ヒッポ(ポセイドンの別称・馬を意味する)
  →フィリッポス(ギリシア)、フィリップ(英)、フェリペ(スペイン)
 ●ガイア(大地の神)
  →ジョージ(英)、ゲオルク(独)、ジョルジュ(仏)
 ●ニケ(勝利の女神)
  →ニコラス(英)、クラウス(独)、ニコライ(露)
 ●マルス(ローマの軍神)
  →マーク(英)、マルコ(伊)、マルクス(独)

●ゲルマン文化と名前の由来
 ●Karl(「男」を表すゲルマン系の言葉)
  →チャールズ(英)、シャルル(仏)、カール(独)カルロス(スペイン)
 ●Hluodowig(「高名な戦士」を表すゲルマン系の言葉)
  →クローヴィス(仏)
  →ルイ(仏)、ルートヴィヒ(独)、ルイス(英)
 ●Heinrich(「家の主」を表すゲルマン系の言葉)
  →ヘンリ(英)、アンリ(仏)、ハンリヒ(独)



「~の子ども」という名
 父祖の名に由来した名前や、それが姓として定着した例は、世界の各地に見られる。




【『ニューステージ 世界史詳覧』浜島書店編集部編(浜島書店、1998年)】

 テーブルタグがわからないので先程慌てて写真を撮った次第である。多分中高生向けの副読本と思われるが、はっきり言って子供に読ませるのがもったいないほど(※飽くまでもレトリックね)の出来栄えだ。似たような副読本(いずれも1000円以下)を一通り読んだが本書が一頭地を抜いている。

 若い頃から海外ミステリに親しんできたこともあって西洋人の名前に不思議な共通点があることは気づいてた。例えばマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)とミハエル・シューマッハ(Michael Schumacher)のファーストネームは綴りが同じだ。外国人名に興味が高まったのは堀堅士〈ほり・けんじ〉著『仏教とキリスト教 イエスは釈迦である』を読んでのこと。

 また、仏教とキリスト教の酷似するキーワードが次々と示される。釈迦の母親・摩耶(Maya)=イエスの母・マリヤ(Maria:Mary)、釈迦の父・浄飯王(じょうぼんのう)は、イエスの父・ヨセフ(Ioseph:Joseph)と関係ないが、イエスの宗教上の父であるヨハネ(Ioannes:John)という名は、イタリア語で「ジョヴァンニ」(Giovanni)と発音する。

依法不依人/『仏教とキリスト教 イエスは釈迦である』堀堅士

 よもや本書で長年にわたる疑問が氷解するとは思わなかった。宗教と神話の彩(いろど)りが強いのは根強い信仰の表れか。また父祖の名を名乗る文化が何となく男系天皇の正統性と重なる。

 西洋人名の意味を知ればユダヤ系ミステリ作家が描くナチスものなどには必ずこうしたアイコン的要素が埋め込まれていることだろう。「名は体を表す」のではなくして、「名は宗教的正義を示す」のだ。

 本書はどこを開いても目から鱗が落ちるのは確実で、一気に読もうとするよりはトイレに置いて少しずつ堪能するのがよかろう。巻頭の「世界史対照年表」で衝撃を受けるのは私一人ではあるまい。


 日本は「世界最古の国」である。天皇制を巡る政治的な議論も「永き伝統を破壊しよう」と目論む勢力があることを見失ってはならない。週刊誌による皇室報道も同様で様々な国の諜報機関が情報提供していると囁かれている。天皇陛下がどの国へゆかれても丁重なもてなしを受けるのは、こうした歴史を世界が知っているからだ。

 尚、ポツダム宣言に署名したのは米・英・中華民国であって中華人民共和国ではない。巷間指摘される通り「中国3000年の歴史」という言葉はデタラメなもので、中華人民共和国の歴史は70年にも満たない(1949年建国)。シナという地理的要件がたまたま一致しているだけで国家としての連続性はなく、王朝がコロコロ変わるのがシナの歴史であった。「中国」という幻想をしっかりと払拭しておく必要があろう。

マッカーサーが恐れた一書/『アメリカの鏡・日本 完全版』ヘレン・ミアーズ

 また日本の領土の変遷も図示されており大東亜戦争で東南アジアにまで版図が拡大する。


 ただし日本が戦ったのは白人帝国主義であって侵略・簒奪(さんだつ)を目的としわけではない。もちろん侵略的要素はあったが、宣戦布告をするしないはまだまだ曖昧で確固たる国際基準が成立していたわけではなかった。

 参考までに私が目を通した世界史副読本を挙げておく。

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