・『悲鳴をあげる身体』鷲田清一
・なぜ私達は声が出ないのか
・『野口体操・からだに貞(き)く』野口三千三
・『原初生命体としての人間 野口体操の理論』野口三千三
・『野口体操 マッサージから始める』羽鳥操
・『「野口体操」ふたたび。』羽鳥操
・『リズム遊びが脳を育む』大城清美編著、穂盛文子映像監督
・『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ
・『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
・『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
・『心をひらく体のレッスン フェルデンクライスの自己開発法』モーシェ・フェルデンクライス
・『ストレス、パニックを消す!最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英
・『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
・『身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生』齋藤孝
・『息の人間学 身体関係論2』齋藤孝
・『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
・『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇
竹内敏晴は演出家である。若い頃、一時的に聴覚を失った経験があり、独自のボイストレーニングを行っている。言うなれば「声と身体」のプロ。理論をもてあそぶような姿勢がなく、経験に裏打ちされた論理は雄々しい説得力に富んでいる。
竹内は嘆く。「現代人は声が出なくなった」と。建物がコンクリートで造られるようになってから、子供は騒ぐことを禁じられた。何せ、赤ん坊の泣き声を嫌悪する父親がいるご時世だ。
こえの面から見たことばとは、本来からだの発する音、さらに主体とそのからだそのものに即して言えば、からだの動きに他ならぬことになる。こえを、そしてことばを発するとは、からだの内に発した動きを、もっとも敏感にからだ全体に拡大した時、呼吸器官の部分に現れる動きの一部である。だから、からだが充分に解放され、内なる情報に対して敏速に反応できるだけ柔軟である時、充分に豊かなこえが発せられるのは当然のこととなるだろう。こえの問題は、本来発声器官の問題ではなく、からだ全体の問題なのである。
気がつき始めてみると、こえの状態が悪い人があまりに多いので、私は不安になってきた。
なぜ私たちは、これほどこえが出ないのか。
なぜ私たちは、こんなにからだが歪んでいるのだろう。
【『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴(思想の科学社、1975年/ちくま文庫、1988年)】
発語と言葉の認識という観点からすれば、脳機能の働きが抜け落ちているが、それでも説得力は色褪せていない。我々は音の出なくなったスピーカーみたいな身体を抱えているのだ。
飽食よりも、むしろ身体を動かさなくなった生活様式の方が問題なのだろう。文明の発達は、額に汗して働くことを人々から奪い去った。私が流す汗の多くは冷や汗だ。
自分の声が反響しない身体は、他人の声に震えることもない。そして、共感は失われ、共鳴は途絶える。声の大小ではなく、相手に届いているかどうかが問われるのだ。
ストレスが多くなると身体は硬直する。硬直した身体はコントロールしにくくなる。そして、精神は拘縮する一方となる。
ポピュラーミュージックの多くが「泣き声」みたいに聞こえるのも、声が出なくなっている証拠なのだろう。
声を解放するには、身体の姿勢と生きる姿勢を変える必要がある。