・服従の本質
・束縛要因
・一般人が破壊的なプロセスの手先になる
・内気な人々が圧制を永続させる
・アッシュの同調実験
・『服従実験とは何だったのか スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』トーマス・ブラス
・『権威の概念』アレクサンドル・コジェーヴ
・『マインド・コントロール』岡田尊司
・『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
・権威を知るための書籍
・必読書リスト その五
長らく絶版になっていたが遂に新訳(山形浩生訳)が出た。紙質も良く河出書房新社の気合いが十分伝わってくる。
スタンレー・ミルグラムといえばスモールワールド現象(六次の隔たり)と服従実験が広く知られており、多数の書物や文献で引用されている。実験結果を発表したのが1963年(昭和38年)。私の生まれた年だ。それまでは低く見られていた社会心理学の地位を一気に正当な学問の領域へ引き上げた歴史的実験である。
ポイントは二つだ。「人間はどこまで服従するのか」、そして「なぜ服従するのか」。ミルグラムは実験条件に変化をつけ、服従のメカニズムを探る。
服従の本質というのは、人が自分を別の人間の願望実行の道具として考えるようになり、したがって自分の行動に責任をとらなくていいと考えるようになる点にある。この重要な視点の変化がその人の内部で生じたら、それに伴って服従の本質的な特徴すべてが生じる。考え方の調整、残酷な振るまいの野放図な実行、そしてその人物の体験する自己弁明などは、心理学の実験室だろうとICBM発射基地の司令室だろうと、本質的には似たものとなる。したがって、心理学実験室と他の状況との明らかなちがいを並べ立てるだけでは、この結果の一般性についての疑問は解決しない。解決には、服従の本質をとらえた状況を慎重に構築すること――つまりその人が自分自身を権威に委ねてしまい、自分自身の行動を自分が実質的に引き起こしていると考えなくなるような状況を構築すること――が必要となる。
前向きな態度があって、強制がない限りにおいて、服従は協力的な雰囲気を持つ。実力行使の危険や罰則が脅しとして使われる場合には、服従は恐怖によってもたらされる。われわれの研究で扱う服従は、いかなる脅しもないのに自主的に行われるものに限られる。権威側はその服従を維持するにあたり、相手が自分の言うことを当然きくものだという、自身たっぷりの態度を示すにとどまる。この調査で権威が行使する力はすべて、被験者側がその権威側の持つものとして何らかの形で認知したものであり、客観的な脅威や、その被験者を左右するための物理手段の有無については一切頼っていない。(※序文)
【『服従の心理』スタンレー・ミルグラム:山形浩生〈やまがた・ひろお〉訳(河出書房新社、2008年/河出文庫、2012年/同社岸田秀訳、1975年)】
アッシュの同調実験を手伝っていたミルグラムは、同調を服従に発展させるアイディアを思いついた。それは単純だったが極めて効果的な実験法だった。一般市民が見ず知らずの他人に対して、どこまで苦痛を与えることが可能なのか。被験者は教師役に配された。生徒役と実験者はサクラである。服従実験を知らない人は以下のページを参照されよ――
・ミルグラム実験
・消費を強制される社会/『浪費をつくり出す人々 パッカード著作集3』ヴァンス・パッカード
読み物としても十分堪能できる。まるで映画のシナリオのようだ。被験者との生々しいやり取りが緊張感に満ちている。
多分、魔女狩りもナチスもルワンダも、虐殺に加わった殆どの人々は「普通の人」であったことだろう。日本の官僚にしても同様だ。なぜ人は権威に従ってしまうのか、権威に従うことがどのような利益と不利益を生むのか、そして権威とは何なのか――多くの問題に巣食う心理的メカニズムを本書は見事に解明している。立派な教科書たり得る作品だ。
・生産性の追及が小さな犠牲を生む/『知的好奇心』波多野誼余夫、稲垣佳世子
・恐怖で支配する社会/『智恵からの創造 条件付けの教育を超えて』J・クリシュナムルティ
・リビア軍に捕らえられた反乱軍の男の証言
・修正し、改竄を施し、捏造を加え、書き換えられた歴史が「風化」してゆく/『一九八四年』ジョージ・オーウェル
・物語の本質〜青木勇気『「物語」とは何であるか』への応答
・忠誠心がもたらす宗教の暗い側面/『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド
・エホバの証人による折檻死事件/『カルトの子 心を盗まれた家族』米本和広