2011-12-25

他者の苦痛に対するラットの情動的反応/『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』フランス・ドゥ・ヴァール


『迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか』シャロン・モアレム、ジョナサン・プリンス
『なぜ美人ばかりが得をするのか』ナンシー・エトコフ
『徳の起源 他人をおもいやる遺伝子』マット・リドレー

 ・“思いやり”も本能である
 ・他者の苦痛に対するラットの情動的反応
 ・「出る杭は打たれる」日本文化

『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール
フランス・ドゥ・ヴァール「良識ある行動をとる動物たち」
『道徳性の起源 ボノボが教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール
『ママ、最後の抱擁 わたしたちに動物の情動がわかるのか』フランス・ドゥ・ヴァール
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」がうまれたとき』山極寿一、小原克博

「他者の苦痛に対するラットの情動的反応」という興味ぶかい標題の論文が発表されていた。バーを押すと食べ物が出てくるが、同時に隣のラットに電気ショックを与える給餌器で実験すると、ラットはバーを押すのをやめるというのである。なぜラットは、電気ショックの苦痛に飛びあがる仲間を尻目に、食べ物を出しつづけなかったのか? サルを対象に同様の実験が行なわれたが(いま再現する気にはとてもなれない)、サルにはラット以上に強い抑制が働いた。自分の食べ物を得るためにハンドルを引いたら、ほかのサルが電気ショックを受けてしまった。その様子を目の当たりにして、ある者は5日間、別のサルは12日間食べ物を受けつけなかった。彼らは他者に苦しみを負わせるよりも、飢えることを選んだのである。

【『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』フランス・ドゥ・ヴァール:藤井留美訳(早川書房、2005年)】

 既に二度紹介しているのだが、三度目の正直だ。

ネアンデルタール人も介護をしていた/『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』三井誠

 カラパイアで米シカゴ大学チームの実験動画が紹介されていた。

ネズミは仲間を見捨てない(米研究)

 興味深い映像ではあるが、実験手法の有効性には少々疑問が残る。っていうか、わかりにくい。

 動画より下に書かれているカラパイアの記事は完全な誤読である。フランス・ドゥ・ヴァールが明らかにしたのは、共感や利他的行為も本能に基づいている事実である。つまり、群れ――あるいは同じ種――の内部で助け合った方が進化的に有利なのだ。

 もちろん、これを美しい物語に仕立てて本能を強化することも考えられるが、実験結果を読み誤ってはなるまい。

チンパンジーの利益分配/『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール

 強欲は子孫を破滅させる。世紀末から現在に至る世界の混乱は、白人文化の終焉を告げるものだと思う。



英雄的人物の共通点/『生き残る判断 生き残れない行動 大災害・テロの生存者たちの証言で判明』アマンダ・リプリー
ラットにもメタ認知能力が/『人間らしさとはなにか? 人間のユニークさを明かす科学の最前線』マイケル・S・ガザニガ
マネーと言葉に限られたコミュニケーション/『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎
大塩平八郎の檄文/『日本の名著27 大塩中斎』責任編集宮城公子

光あれ


 闇を裂いて曙光が射す。2012年に光あれ。

Großmutter

2011-12-24

大橋力


 1冊挫折。

音と文明 音の環境学ことはじめ』大橋力〈おおはし・つとむ〉(岩波書店、2003年)/安田喜憲著『一神教の闇 アニミズムの復権』で世界的な評価を受けていると紹介されていた一冊。プロフィールを見てびっくりしたのだが、大橋は芸能山城組の主催者であった。映画『AKIRA』の音楽も手掛けている。定価4400円の大冊でよほど腰を据えてかからないとダメ。ビタミン同様、人間には「必須音」があるという。森で安らぎを感じるのは意識に上らぬ音が心地よいためであった。そして実は都会よりも森の方が音が賑やかであるとのデータには驚愕した。「音の環境学」の嚆矢(こうし)にして決定版といってよい。耳根得道(にこんとくどう)を考える上でも重要な資料だ。

国家崇敬に差異はあるのか?

仏シオニスト偽装人道的介入「SOSシリア」


 2011年7月4日。ベルナール=アンリ・レヴィの主催したシオニスト著名人を集めたパリの会合は、シリア政権打倒へ人道的介入という口実を与えるために他ならない。


 魔法使いみたいな顔つきをしている。これほどまでに自我が肥大した人物を見たことがない。

ベルナール=アンリ・レヴィ