2018-09-27

魔女狩りと骨髄移植/『グレイヴディッガー』高野和明


『13階段』高野和明

 ・魔女狩りと骨髄移植

『魔女狩り』森島恒雄
『幽霊人命救助隊』高野和明
『ジェノサイド』高野和明

 井澤は頷いた。口の中を潤(うるお)すためか、喉をごくりと鳴らせてから語り始めた。「当時のヨーロッパで、イングランドだけが、例外的に魔女狩りの被害を免れていたんです。犠牲者は、数百人程度に抑えられました。大陸とは違って、拷問を受けつけない法体系を持っていたことが理由に挙げられますが、もう一つ、歴史の闇に埋もれた奇怪な話があるのです。『グレイヴディッガー』の伝説です」
 その聞き慣れない単語は、しかし確かな重量感をもって耳の奥で反響した。「グレイヴディッガー?」
「ええ。英語で、『墓掘人』の意味です。魔女迫害の機運がイングランドに及んだ頃、異端審問官たちが何者かによって虐殺されるという事件が起こりました。魔女裁判と同じ拷問の方法を使ってね。それに怖れをなした異端審問官たちが、魔女狩りを自粛したのではないかというのです。今となっては事件の真相は分かりません。しかし当時の人々は、拷問によって殺された男が墓の中から甦り、自分を殺した者たちに復讐をしたのではないかと噂しました。そして、この甦った死者を、『グレイヴディッガー』と呼んだのです」

【『グレイヴディッガー』高野和明(講談社、2002年/講談社文庫、2005年/角川文庫、2012年)】

 筋書きが少々込み入っているのだが十分楽しめた。魔女狩りと骨髄移植の勉強にもなる。

 ただし、「魔女狩りなどを行なう集団は、もはやありません」というのは誤り。キリスト教ではないがアフリカでは現在も魔女を火炙(あぶ)りにすることがあり、動画がアップされている。魔女を殺すのは魔女の力を信じている証拠だ。そこに魔女狩りの矛盾がある。

 高野はもともと脚本家だけあって科白(せりふ)やどんでん返しが巧みだ。グレイヴディッガーが実際に存在したかどうかはわからぬが、これを真似た連続殺人には目を惹かれる。

 物語は一日の出来事である。それゆえ週末の夜に一気読みするのが正しい(笑)。

グレイヴディッガー (講談社文庫)
高野 和明
講談社
売り上げランキング: 96,775

2018-09-26

曖昧な死刑制度/『13階段』高野和明


 ・曖昧な死刑制度

『グレイヴディッガー』高野和明
『幽霊人命救助隊』高野和明
『ジェノサイド』高野和明

必読書リスト その一

「それで」と南郷は続けた。「他人を殺せば死刑になることくらい、小学生だって知ってるよな?」
「ええ」
「重要なのはそれなんだ。罪の内容とそれに対する罰は、あらかじめみんなに伝えられてる。ところが死刑になる奴ってのはな、捕まれば死刑になると分かっていながら、敢えてやった連中なのさ。分かるか、この意味が? つまりあいつらは、誰かを殺した段階で、自分自身を死刑台に追い込んでるんだ。捕まってから泣き叫んだって、もう遅い」南郷は、苛立った口調になった。頬のあたりの筋肉が、心の奥底の憎悪を押し殺そうとするかのように硬く緊張している。「どうしてあんな馬鹿どもが、次から次に出てくるんだろうな? あんな奴らがいなくなれば、制度があろうがなかろうが、死刑は行なわれなくなるんだ。死刑制度を維持しているのは、国民でも国家でもなく、他人を殺しまくる犯罪者自身なんだ」

【『13階段』高野和明(講談社、2001年講談社文庫、2004年/文春文庫、2012年)】

 傑作といってよい。少し迷ったが「必読書」に入れた。迷ったのは他の作品が左翼史観にまみれているためだ。高い知性が正しい判断を導くとは限らない。欧米では神と悪魔を信じる科学者もいまだ多い。人の判断は情緒や情動に基づいているのだろう。

 私は死刑制度はあって然るべきだと考える。若い頃は反対の立場だった。死刑制度そのものが人の命を奪うことを正当化する矛盾を孕(はら)んでいる。生命が尊厳であるならばそれを踏みにじることは誰にも許されない。たとえどんな理由があったとしても。

 私の考えが変わったきっかけは二つあった。一つは「女子高生コンクリート詰め殺人事件」(1989年)である。4人の犯人は少年法で守られた。バブル崩壊(1991年)もさることながら、この事件は日本のモラルが崩壊する方向へと扉を開いた。本来であれば速やかに少年法を改正して厳罰に処すべきだった。法律のテクニカルなことはわからぬが勾留中に法改正をしていれば何とかなったのではないか。彼らは死をもって罪を償うのが当然だ。犯行現場が共産党員宅であったことが報道の熱を下げた節も窺える。息子のC少年が去る8月に殺人未遂事件を起こした湊伸治〈みなと・しんじ〉である。

 チンパンジーの世界で群れを危険に陥れる行動をした者はその場で撲殺されることを知った。確かドゥ・ヴァールの本だったと記憶する(『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』)。瞬時に死刑の意味を悟った。コミュニティを崩壊させる異分子を排除する目的で死刑は行われるのだ。死刑にはその血を絶やす意味もあったことだろう。

 左翼は死刑制度反対をイデオロギーの道具として活用する。彼らの活動は破壊に目的があり、国家の現体制に混乱を招くことができれば何でも利用するのだ。犯罪者の人権を声高に主張するのも仲間の多くが犯罪者のためだろう。

 定年間近の刑務官が仮釈放中の若者に仕事の声を掛ける。死刑囚の冤罪を晴らすための調査を依頼されたというのだ。しかも報酬は破格だった。若者の罪状は傷害致死。人を殺す意味が重層的に示され、曖昧な死刑制度にも踏み込んでいる。

2018-09-25

東亜の解放/『朝鮮・台湾・満州 学校では絶対に教えない植民地の真実』黄文雄


『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス
『生活の世界歴史 9 北米大陸に生きる』猿谷要
『ナット・ターナーの告白』ウィリアム・スタイロン

 ・東亜の解放

『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン
『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』加瀬英明
『世界が語る大東亜戦争と東京裁判 アジア・西欧諸国の指導者・識者たちの名言集』吉本貞昭
『人種差別から読み解く大東亜戦争』岩田温

「植民」とは「ある国の国民または団体が、本国と政治的従属関係にある土地に永住の目的で移住して、経済的活動をすること。また、その移住民」を意味する言葉です(『広辞苑』第6版)。つまり単なる移住や移民ではなく、征服やその他の隷属手段によって「政治的従属関係」を伴うのが「植民」ということになります。
 一般的には、比較的高度・強力な文化を持った国や民族が、文化の低い属領に移住して、その開発・利用することを指します。ここでの「高度な文化」とは、特に生産や貿易などの技術において社会的発展していることを意味します。インドのように高度な宗教文化を持っていても、イギリスの植民地になっている例があり、精神的文明の高低とは関係ありません。
 またオランダやイギリスの東インド会社のように、国家でなくても行政権を行使して従属関係を形成する場合があります。
 もう一つ、植民の特徴としてあげられるのは、植民者が現地に同化するのではなく、先住民の同化・隷属を目的としている点です。植民者の所属する社会的関係を強引に再現するのですから、先住民との間に必ず不平等が生じることになります。

【『朝鮮・台湾・満州 学校では絶対に教えない植民地の真実』黄文雄〈コウ・ブンユウ〉(ビジネス社、2013年)】

 植民という言葉からは「人間栽培」といった印象を受けるが実態としては「人間の畜産化」であった。植民地の歴史を古代にまでさかのぼっているのでやや焦点がぼやけてしまい、各節の流れが悪い。少々忍耐力が必要だ。

 黄文雄は台湾人である。冷静な視点で朝鮮・台湾・満州を統治した大日本帝国の歴史を取り上げる。

 明治維新以降、日本は脱亜入欧・富国強兵・殖産興業の道をひたすら突き進んできました。西洋近代化のコースをひた走るうち、欧米と同じアジア侵略を意図するようになった、と指摘されることもあります。しかし実際はどうだったのでしょうか。
 ヨーロッパ諸国がアジアに進出するさなか、日本は独立自尊を維持するために必死に戦っていました。日本の安全を確保するにはアジアの保全が不可欠だったにもかかわらず、中国や朝鮮は西洋化を進める日本を見下し、これに味方しようとしませんでした。
 台湾、朝鮮、満州といった地域を清国から解放し経営することが、列強と渡り合うために不可欠でした。清の支配下にある限り、これらの地域は列強に奪われ、日本、そしてアジア全体が危機にさらされることになります。
 日本は朝鮮を独立、近代化させて共にアジア防衛にあたろうと図りました。しかし清は日清戦争でそれを妨害し、さらにロシアと提携して日露戦争を起こしました。アジアを守るため、まず列強と戦わなければならなかったのです。
 清が崩壊した後、中国は英米やロシア(ソ連)の操り人形となっていきます。日本はアジア防衛の陣地である満州、そして中国での権益を守るため、支那事変、大東亜戦争への道を歩んでいきました。
 日本にとってそれまで最も脅威だったのはロシアであり、国防の中心は朝鮮、満州、華北(中国北部)でした。しかし強大になっていく日本を「黄禍」(おうか)と英米が敵視するようになると、アジア防衛の重点は英米の植民地である東南アジアに移っていきます。これは当然の流れで、「日本がアジアに野望の牙をむけた」というには当たりません。
「東亜の解放」の名のもとに日本は逆襲し、それによって英米の支配から解放された東南アジア諸国は実際に独立を果たしていきます。1943年にはビルマ、フィリピン、1944年にはインドシナがそれぞれ独立を果たしました。
 その他にも、日本が組織したインドネシア義勇軍(PETA)、マレー興亜訓練所、インド国民軍などは、その後の独立運動に大きく貢献しています。
 これらの史実に対して「『東亜の解放』はただの建前だ。日本の真の目的はアジア侵略であって、植民地の独立はたまたまに過ぎない」という見方もあります。もちろん「東亜の解放」のためだけに戦争したわけではありませんし、現地住民からの抵抗や反発もありました。
 しかし当時の日本人にとって、「列強を追い出し、アジアの諸民族と共存共栄をはからなければ、日本の生存権は守れない」という意識を多くの国民が持っていました。「東亜の解放」は決して形だけのスローガンだったのではなかったのです。

 端的でわかりやすい文章だ。このような歴史すら知らない人々がまだまだ多い。日本が統治した国々は白人の植民地とは全く異なっていた。欧米は植民地から搾取するだけであったが日本は国家予算を割いてインフラを整備し、帝国大学を設け、医療・教育・民族文化の学術的な保全まで行った。奴隷にすることがなかったのはもちろんのこと、努力次第では出世をすることも可能だった。

 たぶん本当に頭のいい白人が日本の植民地経営を見て、「このままゆけば日本が世界を支配するに違いない」と危機感を募らせたことだろう。有色人種が決して劣っていないことを日本人が証明してしまったのだ。白人の怒りがどれほど凄まじかったかは日本の敗戦処理を見れば一目瞭然だ。マッカーサー率いるGHQは「日本が軍事的に二度と立ち上がることができないようにする」のが目的だった。その目論見は見事成功した。

 数百年にわたって欧米の支配から逃れられなかった植民地諸国を、日本はわずか数年で解放へと導きました。そして一度支配から解き放たれた植民地は、もはや欧米の言いなりにはならなかったのです。
 東アジアにおけるイギリスの最大拠点だったシンガポールが日本の手で陥落した際、フランスの軍人(のちの大統領)ド・ゴールは「アジアの白人帝国の終焉(しゅうえん)だ」と日記に書き記しています。

 白人帝国を終わらせたがゆえにいまだ日本は国際社会で悪者扱いをされるのだ。イギリスが旧植民地に対して謝罪したことはただの一度もない。

 やはり白人と日本人は情緒が異なる。結果的に利用される同盟関係となることを避けられないように思う。歴史的なつながりを考えれば、台湾・インド・トルコと連携するのが望ましい。

学校では絶対に教えない植民地の真実
黄文雄
ビジネス社
売り上げランキング: 87,992

2018-09-23

読み始める

触れることの科学: なぜ感じるのか どう感じるのか
デイヴィッド・J. リンデン
河出書房新社
売り上げランキング: 9,015

図説 世界の数学の歴史
リチャード マンキェヴィチ
東洋書林
売り上げランキング: 1,094,277

ペコロスの母に会いに行く
岡野 雄一
西日本新聞社
売り上げランキング: 21,370

転迷: 隠蔽捜査4 (新潮文庫)
今野 敏
新潮社 (2014-04-28)
売り上げランキング: 24,071

宰領: 隠蔽捜査5 (新潮文庫)
今野 敏
新潮社 (2016-02-27)
売り上げランキング: 32,861

自覚: 隠蔽捜査5.5 (新潮文庫)
今野 敏
新潮社 (2017-04-28)
売り上げランキング: 10,690

去就: 隠蔽捜査6
去就: 隠蔽捜査6
posted with amazlet at 18.09.23
今野 敏
新潮社
売り上げランキング: 10,182


数学入門〈上〉 (岩波新書)
遠山 啓
岩波書店
売り上げランキング: 10,808

数学入門〈下〉 (岩波新書 青版 396)
遠山 啓
岩波書店
売り上げランキング: 13,312

2018-09-22

ポルトガル人の奴隷売買に激怒した豊臣秀吉/『人種差別から読み解く大東亜戦争』岩田温


『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス
『生活の世界歴史 9 北米大陸に生きる』猿谷要
『ナット・ターナーの告白』ウィリアム・スタイロン
『学校では絶対に教えない植民地の真実』黄文雄
『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン
『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』加瀬英明
『世界が語る大東亜戦争と東京裁判 アジア・西欧諸国の指導者・識者たちの名言集』吉本貞昭

 ・「人種差別」こそが大東亜戦争の遠因
 ・ポルトガル人の奴隷売買に激怒した豊臣秀吉

『平和の敵 偽りの立憲主義』岩田温
『植民地残酷物語 白人優越意識を解き明かす』山口洋一
・『パール判事の日本無罪論』田中正明

・『だから、改憲するべきである』岩田温

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

「伴天連追放令」に際し、秀吉はイエズス会のパードレ・ガスパール・コエリョに対して詰問しているのですが、この中で見逃すことが出来ない一言が登場しています。
 秀吉はコエリォ(ママ)に対し、次のように問うています。

「何故ポルトガル人は日本人を購い奴隷として船につれていくや」

 ――ポルトガル人は日本人を奴隷として売買していた。
 極めて重要な事実なのですが、多くの日本人はこの歴史を知りません。秀吉の「伴天連追放令」の背景には、知られざる日本人奴隷の問題があったのです。秀吉はポルトガル人が日本人を奴隷として売買していることに憤りを感じた政治家だったのです。
 秀吉は次のように主張しています。少々長いのですが、重要な文章なので引用します。

「予は商用のために当地方に渡来するポルトガル人、シャム人、カンボジア人らが、多数の日本人を購入し、彼らからその祖国、両親、子供、友人を剥奪し、奴隷として彼らの諸国へ連行していることも知っている。それらは許すべからざる行為である。よって、汝、伴天連は、現在までにインド、その他遠隔の地に売られて行ったすべての日本人をふたたび日本に連れ戻すよう取り計らわれよ。もしそれが遠隔の地ゆえに不可能であるならば、少なくとも現在ポルトガル人らが購入している人々を放免せよ。予はそれに費やした銀子を支払うであろう。」

 秀吉は、ポルトガル人をはじめとする外国人が日本人を奴隷としている事実を掴んでおり、日本人奴隷に同情しているのです。費用を支払ってもかまわないから、彼らを解放しろと主張しているわけです。
 何度読み返してみても、極めてまっとうな意見であり、筋の通った主張です。豊臣秀吉は同胞が悲惨な奴隷の境遇に置かれていることが我慢ならなかったのです。日本人を奴隷として扱うなど「許すべからざる行為」との言葉には、秀吉の強い憤りを感じることができます。

【『人種差別から読み解く大東亜戦争』岩田温〈いわた・あつし〉(彩図社、2015年/オークラNEXT新書、2012年『だから、日本人は「戦争」を選んだ 』改訂改題)】

 売られた日本人奴隷は手足に鉄の鎖をつけ、船底に詰め込まれた。婦女子は当然のように強姦された。秀吉のバテレン追放令は1587年に発令されたものだが、400年という時を超えても私の胸は怒りで煮えたぎる。有色人種を家畜同然に扱いながらも性欲の刷毛口とするところに白人の非道が見て取れる。現代においても教会では青少年が性虐待されているとのニュースがしばしば報じられる。教義では性を抑圧しながらも陰では性衝動を狂乱させているのだ。ありのままの人間性を否定するドグマが精神を歪め、二重人格に至るのは当然だ。クリスチャンには取り澄ました顔つきの偽善者が多い。

 私は本書によってバテレン追放令の背景を知った。豊臣秀吉の鋭い国際感覚に脱帽し、日本人を思いやる心に涙を催した。秀吉はキリスト教の宣教が植民地支配の第一段階であることを見抜いていた。

 白人帝国主義は大航海時代(15世紀中頃-17世紀中頃)に始まる。

・1434年 エンリケ航海王子が派遣した船がボジャドール(ボハドル)岬を踏破。
・1492年 クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸に到達。
・1494年 トルデシリャス条約によって世界をスペインとポルトガルで二分する。
・1498年 ヴァスコ・ダ・ガマが新航路を発見しインドに到達。
・1522年 マゼランが世界一周を成し遂げる。
・1542年 ラス・カサスが『インディアスの破壊に関する簡潔な報告』を執筆。

(※「異民族は皆殺しにせよ」と神は命じた/『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』小室直樹

 船以外の通信がない当時を思えば、秀吉のバテレン追放令は大航海時代のリアルタイムといっても過言ではあるまい。日本以外の有色人種は白人に支配され、500年もの長きに渡って搾取の対象とされた。日本が辛うじて植民地を免れたのは武士を中心とした軍事国家であったためだ。秀吉は1591年(天正19年)にはフィリピンに、1593年(文禄2年)には台湾に対して朝貢を命じた。そしてキリスト教の魔手を防ぐために自ら打って出て朝鮮に出兵した(文禄・慶長の役)。天下統一の余勢を駆って無謀な戦争を仕掛けたものだとばかり思い込んでいたが実は違った。二度に渡り15万人もの出兵をし、スペインに対して軍事的脅威を与える狙いがあったのだ(『植民地残酷物語 白人優越意識を解き明かす』山口洋一)。秀吉の目論見は見事に成功し江戸時代の日本を長く守ることとなる。

 明治維新によって武士は髷(まげ)を落とし刀を置いた。鎖国は解かれ国を開いた。不平等条約を結ばされ、いくつかの戦争を経て独立国とはなったものの最後の戦争で完膚なきまでに叩きのめされた。そして平和憲法を持たされた。かつて武士が守ったこの国では外国のスパイや共産主義者が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)している。官僚は当然のように天下りを繰り返し、政治家は甘い汁を啜(すす)りながら保身に走る。敗戦は昭和20年の出来事ではなく現在に至っても終わらぬ歴史である。その恐るべき事実を教えてくれる一冊だ。

人種差別から読み解く大東亜戦争
岩田 温
彩図社 (2015-07-17)
売り上げランキング: 48,243