・『13階段』高野和明
・魔女狩りと骨髄移植
・『魔女狩り』森島恒雄
・『幽霊人命救助隊』高野和明
・『ジェノサイド』高野和明
井澤は頷いた。口の中を潤(うるお)すためか、喉をごくりと鳴らせてから語り始めた。「当時のヨーロッパで、イングランドだけが、例外的に魔女狩りの被害を免れていたんです。犠牲者は、数百人程度に抑えられました。大陸とは違って、拷問を受けつけない法体系を持っていたことが理由に挙げられますが、もう一つ、歴史の闇に埋もれた奇怪な話があるのです。『グレイヴディッガー』の伝説です」
その聞き慣れない単語は、しかし確かな重量感をもって耳の奥で反響した。「グレイヴディッガー?」
「ええ。英語で、『墓掘人』の意味です。魔女迫害の機運がイングランドに及んだ頃、異端審問官たちが何者かによって虐殺されるという事件が起こりました。魔女裁判と同じ拷問の方法を使ってね。それに怖れをなした異端審問官たちが、魔女狩りを自粛したのではないかというのです。今となっては事件の真相は分かりません。しかし当時の人々は、拷問によって殺された男が墓の中から甦り、自分を殺した者たちに復讐をしたのではないかと噂しました。そして、この甦った死者を、『グレイヴディッガー』と呼んだのです」
【『グレイヴディッガー』高野和明(講談社、2002年/講談社文庫、2005年/角川文庫、2012年)】
筋書きが少々込み入っているのだが十分楽しめた。魔女狩りと骨髄移植の勉強にもなる。
ただし、「魔女狩りなどを行なう集団は、もはやありません」というのは誤り。キリスト教ではないがアフリカでは現在も魔女を火炙(あぶ)りにすることがあり、動画がアップされている。魔女を殺すのは魔女の力を信じている証拠だ。そこに魔女狩りの矛盾がある。
高野はもともと脚本家だけあって科白(せりふ)やどんでん返しが巧みだ。グレイヴディッガーが実際に存在したかどうかはわからぬが、これを真似た連続殺人には目を惹かれる。
物語は一日の出来事である。それゆえ週末の夜に一気読みするのが正しい(笑)。