2018-11-07

読む=情報処理/『読書について』ショウペンハウエル:斎藤忍随訳


『社会認識の歩み』内田義彦

 ・劣悪な言論に鉄槌
 ・読む=情報処理

『仏教と西洋の出会い』フレデリック・ルノワール

必読書リスト その一

 学者とは書物を読破した人、思想家・天才とは人類の蒙をひらき、その前進を促す者で、世界という書物を直接読破した人のことである。

【『読書について』ショウペンハウエル:斎藤忍随〈さいとう・にんずい〉訳(岩波文庫、1960年)】

 書評を記そうとして関連文献を紹介していないことに気づき、更にその文献のための別文献にまでさかのぼってしまうことがままある。情報はつながることで強度を増し、あるいは意味を書き換え、はたまた過ちに気づく。

 脳機能は情報処理・計算に集約されるが、具体的には「読む」行為と考えてよい。脳は本を読み、人を読み、世界を読む。膨大な情報から感情という反応に引っ掛かった情報に重みをつけ、因果関係を築き、生き延びる可能性(※子孫も含む)を計算する。

 私の蒙(もう)が啓(ひら)けないのは目先の小事に囚われて感情を優先してしまうためだ。「カッとなって人を殺してしまった」という事件が時折ある。結局のところ「情報の読み方を誤った」のだ。

 地位・名誉・財産という世間の物差しがある。この物差しが示すのは「生存確率の高さ」であろう。しかし幸不幸を決めるものではない。それどころか世間の物差しはショウペンハウエルに言わせれば「蒙」そのものに他ならない。

 日本人の思考からすれば、やはり世界と社会の間に隔絶がある。日常生活で世界を意識することはまずない。政治や経済のレベルで考えても、せいぜいアメリカ・中国・南北朝鮮が浮かぶ程度である。

 読むとは解釈することである。情報は自我というフィルターを通して必ずバイアスが掛かる。合理性とは多くの人々を説得し得る「歪み」を意味する。あらゆる宗教が教義を巡る解釈によって分裂することからも明らかなように、言葉はいくらでも屁理窟をつけることができる。

 実はショウペンハウエルもその一人であった。本書の文体には逆らい難い魅力があり、人をして服せしめずにはおかない響きに満ちている。彼はまた仏教を厭世主義に貶めた哲学者でもあった。我々は騙される。姿形や見栄え、体型、声、文体などに。

読書について 他二篇 (岩波文庫)
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翻訳と解釈/『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー

2018-11-06

竹山道雄著作リスト


 ・『手紙を通して読む 竹山道雄の世界』平川祐弘編著(藤原書店、2017年)
『竹山道雄セレクション IV 主役としての近代』竹山道雄:平川祐弘編(藤原書店、2017年)
・『竹山道雄セレクション III 美の旅人』竹山道雄:平川祐弘編(藤原書店、2017年)
『竹山道雄セレクション II 西洋一神教の世界』竹山道雄:平川祐弘編(藤原書店、2016年)
『竹山道雄セレクション I 昭和の精神史』竹山道雄:平川祐弘編(藤原書店、2016年)
 ・『竹山道雄と昭和の時代』平川祐弘(藤原書店、2013年)
 ・『『ビルマの竪琴』をめぐる戦後史』馬場公彦(法政大学出版局、2004年)
 ・『知識人 大正・昭和精神史断章』坂本多加雄(読売新聞社、1996年)
 ・『昭和文学全集 第28巻 唐木順三、保田與重郎、亀井勝一郎、竹山道雄、加藤周一、他4人』(小学館、1989年)
・『尼僧の手紙』竹山道雄(講談社学術文庫、1985年)
・『主役としての近代』竹山道雄(講談社学術文庫、1984年)
『歴史的意識について』竹山道雄(講談社学術文庫、1983年)
・『竹山道雄著作集 8 古都遍歴』竹山道雄(福武書店、1983年)
・『竹山道雄著作集 7 ビルマの竪琴』竹山道雄(福武書店、1983年)
・『竹山道雄著作集 6 北方の心情』竹山道雄(福武書店、1983年)
・『竹山道雄著作集 5 剣と十字架』竹山道雄(福武書店、1983年)
・『竹山道雄著作集 4 樅の木と薔薇』竹山道雄(福武書店、1983年)
・『竹山道雄著作集 3 失われた青春』竹山道雄(福武書店、1983年)
・『竹山道雄著作集 2 スペインの贋金』竹山道雄(福武書店、1983年)
・『竹山道雄著作集 1 昭和の精神史』竹山道雄(福武書店、1983年)
『みじかい命』竹山道雄(新潮社、1975年)
『竹山道雄評論集 乱世の中から』竹山道雄(読売新聞社、1974年)
・『知識人と狂信』竹山道雄、武藤光朗(自由選書、1971年)
 ・『随想全集 第7巻 竹山道雄、西脇順三郎、渡辺一夫集』(尚学図書、1970年)
・『日本人と美』竹山道雄(新潮社、1970年)
・『カラー京都の庭 (1968年)』竹山道雄・文、岩宮武二・写真(淡交社、1968年)
 ・『日本現代文学全集 第93 中島健蔵・桑原武夫・中野好夫・竹山道雄・高橋義孝・竹内好集』(講談社、1968年)
・『時流に反して』(文藝春秋、1968年)
・『人間について 私の見聞と反省』竹山道雄(新潮社、1966年)
・『京都の一級品 東山遍歴』竹山道雄(新潮社、1965年)
 ・『角川版昭和文学全集 第30 竹山道雄・亀井勝一郎』(角川書店、1963年)
『剣と十字架 ドイツの旅より』竹山道雄(文藝春秋新社、1963年)
・『まぼろしと真実 私のソビエト見聞記』竹山道雄(新潮社、1962年)
・『人形の家』イプセン:竹山道雄訳(岩波文庫、1959年)
 ・『新選現代日本文学全集 第34 渡辺一夫、竹山道雄、桑原武夫、加藤周一集』(筑摩書房、1959年)
・『続 ヨーロッパの旅』竹山道雄(新潮社、1959年)
・『わが生活と思想より』シュヴァイツァー:竹山道雄訳(白水社、1959年)
・『偶像の黄昏』ニーチェ:阿部六郎、竹山道雄、氷上英広訳(新潮文庫、1958年)
・『文化の形態と接触 日本文化研究1』竹山道雄(新潮社、1958年)
・『白磁の杯』竹山道雄(角川文庫、1957年)
・『失われた青春』竹山道雄(新潮文庫、1957年)
・『樅の木と薔薇』竹山道雄(新潮文庫、1957年)
・『ヨーロッパの旅』竹山道雄(新潮社、1957年)
・『ゲーテ詩集 4』ゲーテ:竹山道雄訳(岩波文庫、1957年)
・『昭和の精神史』竹山道雄(新潮社、1956年)
『精神のあとをたずねて』竹山道雄(実業之日本社、1955年)
・『白磁の杯』竹山道雄(実業之日本社、1955年)
・『マリオと魔術師 他一篇』トマス・マン:竹山道雄訳(角川文庫、1955年)
・『古都遍歴 奈良』竹山道雄(一時間文庫、1954年)
・『善悪の彼岸』ニーチェ:竹山道雄訳(新潮文庫、1954年)
 ・『現代随想全集 第19巻 市原豊太、竹山道雄、亀井勝一郎集』(創元社、1954年)
・『ゲーテ詩集 2』ゲーテ:竹山道雄訳(岩波文庫、1953年)
『見て,感じて,考える』竹山道雄(創文社、1953年)
・『ハイジ(上)』『ハイジ(下)』ヨハンナ・スピリ:竹山道雄訳(岩波少年文庫、1952年)
・『失われた青春』竹山道雄(新潮社、1951年)
・『樅の木と薔薇』竹山道雄(新潮社、1951年)
・『手帖』竹山道雄(新潮社、1950年)
・『希臘にて』竹山道雄(早川書店、1949年)
・『憑かれた人々』竹山道雄(新潮社、1949年)
・『北方の心情』竹山道雄(養徳社、1948年)
『ビルマの竪琴』竹山道雄(中央公論社、1948年)
・『光と愛の戦士』竹山道雄(新潮社、1942年)
・『ツァラトストラかく語りき 上巻』『ツァラトストラかく語りき 下巻』ニーチェ:竹山道雄訳(弘文堂書房、1941-43年)
・『混乱と若き悩み』トーマス・マン:竹山道雄訳(新潮社、1941年)
・『わが生活と思想より』アルベルト・シュヴァイツェル:竹山道雄訳(白水社、1939年)
・『民衆の敵』イプセン:竹山道雄訳(岩波文庫、1939年)
・『幽霊』イプセン:竹山道雄訳(岩波文庫、1939年)
・『野鴨』イプセン:竹山道雄訳(岩波文庫、1938年)

2018-11-05

【討論】明治維新とは何だったのか?Part2[桜H30/11/3]


 昂奮せずにはいられない議論である。この放送自体を書籍化して欲しいものだ。星亮一の頑迷さに会津藩の歴史的苦悩を見る。私は柴五郎を敬愛しているのでもちろん会津派である。チャンネル桜の席次は年齢順だが末席の若い二人がとにかく面白い。水島の視点もいつになく鋭い。

【討論】明治維新とは何だったのか?[桜H29/4/22]


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2018-11-04

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2018-11-02

もしもアメリカが参戦しなかったならば……/『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ


『國破れて マッカーサー』西鋭夫
・『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉

 ・もしもアメリカが参戦しなかったならば……
 ・建国の精神に基づくアメリカの不干渉主義

『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』岡崎久彦

日本の近代史を学ぶ

 日本との間の戦争は不必要であった。これは、お互い同士よりも共産主義の脅威をより恐れていた日・米両国にとって、悲劇的であった。われわれは、戦争から何も得るところがなかったばかりか、友好的であった中国を共産主義者の手に奪われることとなった。
 イギリスは、それ以上に多くのものを失った。イギリスは、中国に対しては、特別の利益と特権を有していたし、マレーシア、シンガポール、ビルマ、インドおよびセイロンをも失った。
 蒋介石は、オーエン・ラティモアの悪い助言を受け入れて、日本軍の中国撤兵を要求する暫定協定に反対した。同協定は、蒋介石の中国全土掌握を可能にしたかもしれない。これはヤルタ会談でルーズベルトがスターリンに譲歩を行なったその3年前のことである。
 われわれの同盟であったスターリンの共産軍に対して、満州侵攻を許す理由は何もなかったはずである。蒋介石は、米国の友人として、中国共産主義者の反攻を打ち砕くに必要な、すべての武器および資源を持ちえたはずであった。
 われわれが参戦しなかったならば、すなわち日本のパールハーバー攻撃がなかったならば、事態はどう進展していたか、という疑問はしばしば呈される。この疑問は、詳細な回答を与えられるに値する。
 私は、米国は簡単に日本との間で和平条約を締結できたであろうし、その条約の中で日本は、フィリピンとオランダ領東インドを含む極東における全諸国との交易権とひきかえに、中国およびインドシナからの友好的撤退に合意したであろうことを確信している。

【『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ:岡崎久彦監訳(PHP研究所、1985年/PHP文庫、1992年)】

 ハミルトン・フィッシュは共和党の党首を務めた下院議員で、戦時中の議会においてフランクリン・ルーズベルト(民主党)を批判した人物として広く知られる。

 開戦当初、フィッシュは議会で挙国一致を説きルーズベルト大統領を力強く支持した。ところが後にルーズベルトの秘密外交や日本を戦争にけしかけた手法、更には真珠湾攻撃を事前に知りながらアメリカ海軍を犠牲にしたことなどを知り、大統領を猛々しく糾弾するようになる。戦時中にありながらも議会やマスコミが正常に機能していたところにアメリカの真の勝因があったのだろう。

 フィッシュの指摘によればアメリカは戦略を誤り、友邦のイギリスをも凋落(ちょうらく)させてしまった。その後、ヤルタ体制(1945年)によって冷戦がソ連崩壊(1991年)まで続くことを思えばルーズベルトの判断がどれほどアメリカの国益を損ねたか計り知れない。それまでモンロー主義(孤立主義)を貫いてきたアメリカは以降、次々と世界各地で軍事介入をするようになる。トランプ大統領が掲げるアメリカ・ファーストはルーズベルト以前のアメリカを取り戻すということなのだろう。

 日本が開戦を決意したのは永野修身〈ながの・おさみ〉軍令部総長の言葉に言い尽くされている。「戦わざれば亡国必至、戦うもまた亡国を免れぬとすれば、戦わずして亡国にゆだねるは身も心も民族永遠の亡国であるが、戦って護国の精神に徹するならば、たとい戦い勝たずとも祖国護持の精神が残り、われらの子孫はかならず再起三起するであろう」(昭和16年〈1941年〉9月6日の御前会議)。

 最後の一言に慚愧(ざんき)の念を覚えぬ者があろうか。我々の父祖は子や孫を信じて敗れ去る戦いに臨んだのだ。

 もしもアメリカが参戦しなかったならば……日本は領土を拡大し、アメリカと手を組むことでソ連を封じ込め、中国の共産主義化を防ぐことができたに違いない。しかしながら帝国主義が50年から100年は続き、アジア・中東・アフリカ諸国は植民地のまま21世紀を迎えたことだろう。とすれば大東亜戦争は日米にとっては不幸な戦争であったが、世界のためには植民地の歴史にとどめを刺す壮挙であったと考えるべきだろう。日本人310万人、世界では5000-8000万人(病死・飢餓死を含む)の死者は大惨事であったが、もしも第二次世界大戦がなければ長期間に渡ってもっと多くの人々が殺されたに違いない。

 歴史は死者の存在によって変わる。これが人類の宿痾(しゅくあ)であろう。

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