2019-05-19

牧馬入口(青野原)


 土山峠から宮ヶ瀬湖を周遊して牧馬〈まきめ〉峠を目指したのだが入口で断念。昨夜行ったスクワットが意外なダメージとなって残っている。土山峠で既に「こりゃダメだな」と自覚した。宮ヶ瀬湖は先週以上に水位が低くなっていた。






 明後日が大雨の予報なので水位が戻ればいいのだが。

 県道64号伊勢原津久井線は木陰が涼しくとても走りやすい。交通量も比較的少ない。


 山を見上げると筆を掃(は)いたような黄緑色がところどころに点在している。新緑の色は初々(ういうい)しく滴り落ちるような生気を湛(たた)えている。

 登坂で私がダンシングをしていると、若いのがシッティングのまま軽く抜き去った。「マジ?」と唸(うな)り、唖然とした。その後女性にも抜かれた。我が愛車のコンポはSORA(2×9速)なのだがインナーのギアが結構重いのだ。この間なんか、格安フラットバーロードが私よりもはるかに軽々とペダルを回していてショックを受けた。ま、いいよ。回せるようになればこっちの方が速いわけだから。

 あちこちで田植え前の田んぼが少し寂しそうに青空を映していた。

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2019-05-18

栄養学の無責任を嗤(わら)う/『「食べもの神話」の落とし穴 巷にはびこるフードファディズム』高橋久仁子


・『「食べもの情報」ウソ・ホント 氾濫する情報を正しく読み取る』高橋久仁子

 ・栄養学の無責任を嗤(わら)う

『給食で死ぬ!! いじめ・非行・暴力が給食を変えたらなくなり、優秀校になった長野・真田町の奇跡!!』大塚貢、西村修、鈴木昭平
『伝統食の復権 栄養素信仰の呪縛を解く』島田彰夫
『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』デイヴ・アスプリー
『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二
『医者が教える食事術2 実践バイブル 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方70』牧田善二
『DNA再起動 人生を変える最高の食事法』シャロン・モアレム

 食べものが健康や病気に与える影響を誇大に評価したり信奉することを「フードファディズム:Food faddism」といいます。もちろん、食と健康は深く関連しますが、それを過大評価することです。ただし、どこまでは適正で、どれ以上が過大なのかを判断することもむずかしいですし、過小評価もまた問題です。(中略)
 この言葉は私の造語ではありません。れっきとした英語です。

【『「食べもの神話」の落とし穴 巷にはびこるフードファディズム』高橋久仁子〈たかはし・くにこ〉(ブルーバックス、2003年)】

 悪い本ではない。狙いはいいのだがバイアス(認知科学)や行動経済学、はたまた心理学的アプローチを駆使する企業広告や宗教に関する知識が乏しい。

 この手の本を読むたびに思うのは、「散々デタラメを広めてきた栄養学の無反省ぶり」である。戦後はキッチンカーで油炒めを推奨し、肉・卵・牛乳の摂取を推し進め、1日30品目という馬鹿げた数を示して国民の食生活を混乱させてきた。その栄養学が今になってフードファディズムを語っているのである。

 高橋の文章はどっちつかずで腰が据(す)わっていない。ファディズムとは「流行へののめり込み」(Wikipedia)を意味する。その最大の原因は栄養学がきちんとした情報提供を怠ったことにあるといってよい。しかも高橋は居丈高にエビデンス(検証結果)を口にするが、食品メーカーの巨大さを思えば科学が厳密に食品を調べることはまずない。

 簡単な例を示そう。骨粗鬆症の原因は牛乳を始めとする乳製品摂取によるカルシウム・パラドックスである。骨粗鬆症は戦後になってから目立つようになった病気であり、牛乳を飲むようになったのもまた戦後のことである。

悪いとされる食品・調味料・食品添加物」を見てみよう。私が避けているものが列挙されている。例外はうま味調味料くらいだ。「実際に科学的な根拠に基づいたリスクがあるかどうかとは無関係である」とご丁寧に書いてあるが、重要なことは「健康によい」という科学的根拠も示されていない点である。このリストを見る限りでは、むしろフードファディズムに軍配を上げてもいいだろう(笑)。

 五十の坂を越えると体力は衰え病気がちになり食に対する意識が高まる。我々は無知を自覚すればこそテレビや書籍の情報に飛びついてしまうわけだが、もっともっと自分自身のセンサー(味覚)を信頼すべきだろう。ただし加工食品は避けるのが賢明だ。

 もしも私に幼い子供がいれば、人工甘味料・マーガリン・小麦やトウモロコシを原料とするお菓子・ファストフードは忌避する。現在でもそうだが食用油は胡麻油しか使わない。

2019-05-17

母と子の物語/『壊れた脳 生存する知』山田規畝子


『「自分で考える」ということ』澤瀉久敬

 ・病気になると“世界が変わる”
 ・母と子の物語

・『壊れた脳も学習する』山田規畝子
『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』山鳥重
『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー

必読書 その五

 もとを正せば、山鳥重〈やまどり・あつし〉先生の本の「人間の行動は『記憶』である」という言葉に衝撃を受け、神経生理学というものにかみついてみた結果が、この本だ。
 その山鳥先生に解説をしていただけるなんて、先生の解説を読んで、涙が出た。親にもほめられたことのない私をこんなにほめてくださり、事細かな解説をしてくださった。恥ずかしながら、自分の症状に「ああ、あれはそういうことだったのですか」と、今さら納得してうなずいている。人間、生きていれば、こんなにいいことも、うれしい出会いもある。
 生死を画する一線から、こちら側に引き込んでくれたのは、姉夫婦、片木良典〈かたぎ・りょうすけ〉・留美子〈るみこ〉両氏だ。親子二人の生活を、折に触れて明るいものにしてくれてありがとう。
 この本は、私がよたよたと生きてきた40年目の記念碑でもある。最愛の息子・真規〈まさのり〉には、母が生きた証(あかし)、彼を世界中の誰よりも愛した証として、近くに置いておいてもらいたい。

【『壊れた脳 生存する知』山田規畝子〈やまだ・きくこ〉(講談社、2004年)/角川ソフィア文庫、2009年)以下同】

必読書」を精査するために再読した。二度目の方が感動が深かった。山田の父親も医師だった。少々複雑な家庭環境であったようだがあっけらかんと本音をさらしている。裏表のない性格が行間から伝わってくる。

「当たり前のこと」ができなくなった時にこそ生きる姿勢が問われる。少し前に知り合った男性の老人は「何もすることがない」「寝るのが仕事だ」「生きているのがイヤになってくる」と独りごちた。心が暗くなってしまえば暗い世界が現出する。自己否定に傾く心を否定する精神力が求められる。

 障碍(しょうがい)を背負うことになった山田はやがて離婚し、一人息子と二人三脚で雄々しく生きる。

〈いつもお母ちゃんを助けれくれたまあちゃんへ〉
 雨の日、風の日、いつもいっしょに歩いたね。でこぼこ道、暗い道、まあちゃんはお母ちゃんの手を引いてくれたね。
 まあちゃんがいてくれたから、お母ちゃんは天国に行かなくてすんだよ。いっしょに救急車に乗って、手を握っていてくれたね。真冬の夜中、暗い大学病院の待合室で、お母ちゃんが手術室に入ったあと、おばあちゃんが来るまでひとりで待っててくれたね。
 まあちゃんが寒くないかなって気になって、お母ちゃんは帰ってこられたよ。
 お母ちゃんのところに生まれてきてくれたのがまあちゃんだったから、お母ちゃんは生きてこられたよ。ほかの子だったらだめだったかもしれない。(以下略)

 この部分を5回読んで5回泣いた。巻末見開きに掲載されている真規〈まさのり〉君は賢そうな顔つきで笑っている。

 山田は友人にも恵まれ、本書自体が多くの医師仲間に支えられて出版の運びとなった。医師も捨てたものではないと思いたいところだが現実は異なる。ま、私が知る限りでは7~8割の医師は人間のクズだ。まともな常識すらないのが大半である。年がら年中病人と接しているから連中の精神も病んでいるのだろう。



ラットにもメタ認知能力が/『人間らしさとはなにか? 人間のユニークさを明かす科学の最前線』マイケル・S・ガザニガ

2019-05-13

「わかった」というのは感情/『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』山鳥重


『「自分で考える」ということ』澤瀉久敬
『壊れた脳 生存する知』山田規畝子

 ・「わかった」というのは感情
 ・人間の心は心像しか扱えない

・『「気づく」とはどういうことか』山鳥重
『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ

 わかったというのは感情なのです。
 知らない花を見つけて、名前を教えてもらい、実はそれが前から知っていた花だったりすると、そうかと納得します。わかったと感じるのです。

【『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』山鳥重〈やまどり・あつし〉(ちくま新書、2002年)以下同】

 山鳥重〈やまどり・あつし〉は神経内科医で高次脳機能障害研究の第一人者である。私は山田規畝子〈やまだ・きくこ〉の著書で知った。「わかったというのは感情」という指摘が鋭く胸に突き刺さる。山鳥は臨床で「わからなくなってしまった人々」(高次脳機能障害)を相手にしている。時計の針が読めない、階段は見えているのだが昇りか下りかがわからない、靴の向きを間違えるなどが具体的な症状だ。わからなくなってしまった不思議を思えば、わかることもまた不思議なのである。

「わかった」という体験は経験のひとつの形式であって、事実とか真理を知るということとは必ずしも同じではありません。
 真理を発見して興奮出来る人は古今東西を問わず、わずかな人たちにすぎません。しかし、「わかった!」「わからん!」はすべての人が毎日繰り返し繰り返し経験することです。わかったからといって、その都度、真実に近づいているわけではありません。わからなかったからといって、その都度、真実から遠ざかっているわけでもありません。「わかった!」からと言って、それが事実であるかどうかは、実はわからないのです。わかったと感じるのです。あるいはわからないと感じるのです。

 特定の思想や哲学・宗教を信じる人々は皆が皆、「わかった気に」なっている。彼らは自分こそが正しいと「わかって」いるのだ。しかも閃(ひらめ)きや悟りに近い経験をする人も少なくない(例えばパウロ)。人間が誤謬(ごびゅう)から脱却できないのは「わかった」という実感を合理性と錯覚するためなのだろう。

誤った信念は合理性の欠如から生まれる/『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ

 限られた脳内情報が結び合い、つながった瞬間に「わかった」との自覚が生まれるのだろう。きっとシナプス結合がすっきりしたのだろうが、それが事実かどうかはわからないのだ。家の中の整理整頓をしたところで世界が片づいたわけではない。

 わかるためには「わからない何か」がなくてはなりません。「わからない何か」が自分の中に立ち現れるからこそ、「わかろう」とする心の働きも生まれるのです。

 人生で最も大切な姿勢は「問う」ことである。問いの中身にその人の生き様が表れる。疑問をウヤムヤにしてしまうと眼が曇り、心は鈍くなってしまう。問わずして悩む姿を煩悩と名付ける。