・『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン
・『徳の起源 他人をおもいやる遺伝子』マット・リドレー
・『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男
・『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
・共同体のもつ【集団脳(集団的知性)】
・戦争が向社会的行動を促す
・『文化的進化論 人びとの価値観と行動が世界をつくりかえる』ロナルド・イングルハート
・『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
・『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス (
・『人類史のなかの定住革命』西田正規
・『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
・『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン
・『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
社会規範が強化され、共同体の結束が強まると、より多くの、より活発な共同体組織が生まれてくるようだ。戦争の【影響を受けていない】共同体で、農業協同組合や婦人団体のような新たな地域組織が設立されたところは【まったく】なかった。それに対し、戦争の影響を受けた共同体では、その40%において、戦後、新たな組織が設立されていた。暴力を経験した共同体では、新組織の設立がなかったところでも、既存の組織や外部の者た起ち上げた組織組織の活動が、暴力を受けていない村の組織よりも活発になった。戦争を経験したことで向社会的な規範が強まり、その結果、より多くの活力に満ちた共同体組織が生まれたのである。 戦争にはなぜ、このような向社会的行動を促進する効果があるのだろう? 何十万年にもわたって集団間競争が繰り広げられるなかで、さまざまな社会規範が広まっていった。団結して共同体を守ろうとする気運を高め、干魃、洪水、飢饉のような自然災害に対処するためのリスク共有ネットワークを作り、食物、水、その他の資源の分かち合いを促すような社会規範である。つまり、時が経つにつれてだんだんと、個人の生存や集団の存続は、集団を利する向社会的な規範を遵守できるかどうかで決まるようになっていった。とくに、戦争の脅威が迫っているとき、飢饉に襲われたとき、干魃が続くときはそうだった。 このような世界では、文化-遺伝子共進化によって、集団間競争に対する心理的反応が促された可能性がある。集団の結束力を高めなければ生き残れないような脅威にさらされると、あるいはそれが常態化した環境に置かれると、個々人をしっかりと監視し、違反者に厳しい懲罰を加える習慣が集団間競争で有利になって広まるので、その結果、(飢饉にときに食物を分かち合わないなど)規範を破ろうとする誘惑は抑え込まれていく。また、そうした脅威のもとでは、違反者は村八分、鞭打ち、死刑など苛酷な制裁を受けるようになるので、その結果として、人々は無意識かつ反射的に社会規範を遵守するようになり、信念や価値観や世界観をも含め、集団やその社会規範にしがみついて生きるようになっていったのかもしれない。 つまり、集団間競争がきっかけとなって、集団の結束力や自集団への帰属意識が強められ、規範を守ろうとする意識が高まっていったのだ。規範意識が高まると、規範が遵守されるようになると同時に、違反行為に対するネガティブな反応が強まる。
【『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック:今西康子訳(白揚社、2019年)】
逆説的ではあるが戦争が向社会的行動を促すのは国民の結束を強めるためだろう。もう一段深く捉えれば国民感情の結合が戦争を求める姿が浮かび上がってくる。これだけでも驚くべき指摘だが、後半のテキストは私がかねがね考えてきた「集団と暴力」の実相を鮮やかに描写している。
集団には必ず同調性が働き、時に同調圧力となって個人の自由を抑制する。教室コミュニティからいじめがなくならないのは同調圧力が作動するためだ。加担しなければ次は我が身に降り掛かってくることがわかれば、リスクを回避する行動は自動的に選択される。いじめが多勢で行われるのも「団結の形」である。マイナスのインセンティブを与える何らかのシステムが必要だ。
向社会的行動からコミュニティ内の団結が生まれる。そう考えると最強の社会は軍隊で、次に官僚・政党・宗教団体が続き、その後を企業や組合が追いかける。いずれも利益(国益)が原動力となっていることがわかる。
自由が自発性に基づくのであれば理想的な社会はスポーツチームやオーケストラであろう。個々人は部分に過ぎないが協力から全く新しい価値が生み出される。
中国共産党の一党支配や、イスラム教の独裁王政、インドのカースト制度を批判するのはたやすいことだが、社会規範として機能するからには何らかのメリットがあると考えられる。民主政こそが正しい政治システムだと思い込むのは勝手だが他国にまで押しつける道理はない。
振り返ると明治維新前後は様々な結社ができた。その後も雨後の筍のように政治結社を輩出した。大正デモクラシーに至るまでの半世紀に渡って日本人は離合集散を繰り返して多彩な化学反応をし続けた。そして昭和に入ると行き過ぎた政党政治を払拭すべく軍が立ち上がった(昭和維新)。
戦後は労働運動や学生運動は活発化したが、結社の伝統が根づくことはなかった。このあたりがイギリスとは異なる(『結社のイギリス史 クラブから帝国まで』綾部恒雄監修、川北稔編)。日本はもう一度私塾からやり直した方がよさそうだ。