2014-05-24

今枝由郎、ケネス・フォード、石川幹人、佐藤健志、他


 7冊挫折、1冊読了。

死なないやつら 極限から考える「生命とは何か」』長沼毅〈ながぬま・たけし〉(ブルーバックス、2013年)/自分を語りすぎて文章の行方がわかりにくい。「やつら」というタイトルにも疑問が残る。

ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』佐藤健志〈さとう・けんじ〉(文藝春秋、1992年)/サブカルチャーから読み解くイデオロギーとしての民主主義論。発想は素晴らしいのだが文章がしつこい。

震災ゴジラ! 戦後は破局へと回帰する』佐藤健志〈さとう・けんじ〉(VNC、2013年)/動画「保守はゴジラを夢見るか」の方が面白い。やはりコミュニケーション能力の欠落が文体に露呈していると思われてならない。

そのとき、本が生まれた』アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ:清水由貴子訳(柏書房、2013年)/当てが外れた。出版文化史とはね。

定本 黒部の山賊 アルプスの怪』伊藤正一〈いとう・しょういち〉(山と渓谷社、2014年/実業之日本社、1963年)/山賊の正体が前科30犯の犯罪者だとわかってしまうと興味が潰えた。しかも終戦直後だから山賊というよりは盗賊というべきか。

人はなぜだまされるのか 進化心理学が解き明かす「心」の不思議』石川幹人(いしかわ・まさと)(ブルーバックス、2011年)/進化心理学入門。初心者向き。教科書的な説明で面白味に欠ける。

量子的世界像 101の新知識』ケネス・フォード:青木薫監訳、塩原通緒〈しおばら・みちお〉訳(ブルーバックス、2014年)/最初は面白かったのだが、100ページを超えたあたりからついてゆけず。

 33冊目『日常語訳 ダンマパダ ブッダの〈真理の言葉〉』今枝由郎〈いまえだ・よしろう〉訳(トランスビュー、2013年)/『スッタニパータ』は抄訳でこちらは全訳。非常によい。なるべく早めに中村元訳に取り掛かる予定。

汚職追求の闘士/『それでも私は腐敗と闘う』イングリッド・ベタンクール


 怒るよりも、
 蔑むよりも、
 嘆くよりも……
   ――パブロ・ネルーダ「死んだ義勇兵たちの母への歌」(羽出庭梟〈はでにわ・きょう〉訳)

【『それでも私は腐敗と闘う』イングリッド・ベタンクール:永田千奈〈ながた・ちな〉訳(草思社、2002年)以下同】

 これがエピグラフである。パブロ・ネルーダはチリの国民的詩人。アジェンデ政権で駐仏大使に任命され、翌1971年にノーベル文学賞を受賞。病死とされてきたが最近になって毒殺の疑いが指摘されている。


 ネルーダについては以下のページを参照せよ。

チリ人民の希望と悲劇の歌い手──ネルーダ Neruda, Singer of hope and tragedy of Chilean people
ツワブキ : 古い日記の続きの日記

 現在のアメリカは民主主義の宣教師を気取っているが、かつてアメリカが南米各地で行ってきた内政干渉の歴史を知れば、それが単なるプロパガンダにすぎないことが理解できよう。アジェンデ政権は民主的な選挙によって選ばれた社会主義政権であったのだから。

『禁じられた歌 ビクトル・ハラはなぜ死んだか』八木啓代

 アメリカが支援したチリ・クーデターに関しては『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』(ナオミ・クライン)が詳しい。

 危険はあります。子供たちの安全が脅かされ、私は子供たちと離れて暮らさなければなりませんでした。私自身、すでにマフィアに命を狙われています。危険なのはわかっています。それでも、後戻りすることはできません。希望はすぐそこにあるのですから。


 イングリッド・ベタンクール自身が6年間にわたって捕虜となった。この時に書かれたのが『ママンへの手紙』である。

 民主主義を「利益の調整」と考えれば、その難しさが理解できる。蔓延する犯罪は受益者たちによって支えられているのだ。平和的な解決は粘り強いアプローチを必要とする。つまり時間がかかる。犯罪の撲滅が急務であれば暴力的な介在を余儀なくさせられる。こうした揺れの中で常に政治決断が行われることを忘れてはならないだろう。

 日本を振り返ってみよう。最も広範囲に及ぶ犯罪は官僚の天下りである。

官僚機構による社会資本の寡占/『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃
東京電力天下りの平均年収は3000万円

 かつてイングリッド・ベタンクールのような志をもつ政治家は一人だけいた。民主党の石井紘基〈いしい・こうき〉だ(『日本が自滅する日 「官制経済体制」が国民のお金を食い尽くす!』石井紘基)。そして石井は殺された(「日本病」の正体 石井紘基の見た風景)。遺志を継ぐ者はいない。

2014-05-21

遺伝上の父を知りたい 精子提供で生まれた6人が出版


 私は一体誰なのか。遺伝上の“父”を知りたい――。提供精子による非配偶者間人工授精(AID)で生まれた当事者の声を伝える「AIDで生まれるということ」(萬書房、税抜き1800円)が出版された。誰か分からない男性の精子で生まれたことを知った衝撃、家族との葛藤、永遠に消えることのない苦悩が、本人の言葉でつづられている。

 AIDは無精子症など男性側に不妊原因がある場合に実施される。国内では60年以上の歴史があり、1万人以上が生まれたとされる。近年、精子提供者の情報開示をめぐり、出自を知る権利の議論が高まっている。

 本に登場する当事者は横浜市の医師、加藤英明さん(40)ら30~50代の男女6人。大人になってからAIDの事実を偶然知ったり、両親の離婚などをきっかけに突然知らされたりした。共通するのは、自分が何者か分からないという不安や不気味さだ。

「人生の土台が崩れた」「自分の誕生に男女の『情』というものが存在しなかったという、絶望にも似た気持ち」。涙が止まらず、心療内科に通い続けた女性もいる。

「誰のための技術なのか」という彼らの問い掛けは、子どもを授かりたいという親の願望をかなえる一方、子どもの幸せが置き去りにされている生殖医療の在り方に警鐘を鳴らす。〔共同〕

【日本経済新聞 2014-05-21 夕刊】

AIDで生まれるということ 精子提供で生まれた子どもたちの声

















30分で判る 経済の仕組み:レイ・ダリオ


「腐敗した銀行制度」カナダ12歳の少女による講演

 ・30分で判る 経済の仕組み

「Money As Debt」(負債としてのお金)
武田邦彦『現代のコペルニクス』 日本の重大問題(2)国の借金
『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康
『マネーの正体 金融資産を守るためにわれわれが知っておくべきこと』吉田繁治
『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート

世界最大級のヘッジファンド創業者 日本語で経済入門動画

【ニューヨーク】世界最大級のヘッジファンド運用会社ブリッジウォーター・アソシエーツ(運用資産約1500億ドル)創業者のレイ・ダリオ氏はこのほど、経済のしくみを易しく説いた動画を日本語で制作し、ネットで公開を始めた。

「30分でわかる経済のしくみ」(ママ)(http://youtu.be/NRUiD94aBwI)と題したこの動画は、ユーチューブで見ることができる。昨秋公開した英語版は、すでにアクセス件数が百万件を超えた。

 ダリオ氏はアニメーション動画を通じて経済の仕組みを解説。借金は将来の自分からお金を借りるのに等しく、借金を返済しようとすると将来の出費が減少する。自分の出費の減少は、他者の所得の減少に等しく、よって経済は縮小する。

 金融危機後に起こった日米欧の景気後退はこうした「ディレバレッジ(負債縮小)」がもたらしたもの。ディレバレッジによって景気は減速するが、負債の重荷は軽くなる。これをダリオ氏は「美しいディレバレッジ」と呼び、こうした過程を経て経済は平常状態に戻ると指摘する。日本語版はぜひ日本の金融当局者にも見てほしいという。

【日本経済新聞 2014-05-21 夕刊】


10分でみる 感染症の歴史 家畜のはじまりからパンデミックまで

2014-05-20

何かに打ち込む/『だれでも「達人」になれる! ゆる体操の極意』高岡英夫


 ・何かに打ち込む

『ひざの激痛を一気に治す 自力療法No.1』
『5分間背骨ゆらしで体じゅうの痛みが消える 自然治癒力に火をつけて、首・肩・腰痛・ひざ痛を解消!』上原宏
『高岡英夫の歩き革命』、『高岡英夫のゆるウォーク 自然の力を呼び戻す』高岡英夫:小松美冬構成
『究極の身体(からだ)』高岡英夫

 どんなつまらないことでも、打ち込めればおもしろくなる。おもしろければさらに打ち込みたくなる。これをくり返し体験することで、身体と心の中に中心となるものが育ってくる。そうすると、それがない人には見えないさまざまな対象の中身がとらえられるようになり、自分の軸と対象の中心をきちっと向かい合わせることができるようになる。これができるようになると、必要であればどんなことにも打ち込めるようになるのです。
 そして、いずれ自分が本当にしたいことを見つけ、それに打ち込みつづけ、達人への道を切り開いていくことができるのです。
 だから、打ち込むものは基本的になんでもいいのです。それによって育てられる自分こそが重要で、打ち込む対象はなんでもいいのです。たとえ、それが大人に叱られるようないたずらでもいいのです。たいていのいたずらは、大人たちから見れば、打ち込む対象としてはまったく価値のないものでしょう。だけど、大人からは許されないようないたずらも、こっぴどく叱られる必要はもちろんあるものの、それをしたことで、その子どもの中に打ち込める自分が育っているのであれば、それはきわめて重要な経験だと言えるのです。

【『だれでも「達人」になれる! ゆる体操の極意』高岡英夫(講談社+α文庫、2005年/運動科学総合研究所、2003年『カガヤクカラダ』改題、新版)】

 ツイッターで五十肩を訴えたところ、後輩が教えてくれたのが「ゆる体操」だった。ゆらゆら、ブラブラさせるのが基本。一理あることは直ぐわかった。素人判断のリハビリが危険なのは筋力アップだけに意識が向いて筋肉を緩めないためだ(『脳から見たリハビリ治療 脳卒中の麻痺を治す新しいリハビリの考え方』久保田競、宮井一郎編著)。

 ストレスが過剰になると身体は常に強(こわ)張る。固まった筋肉が脳へのフィードバック情報を減少させる。外界への注意力が散漫になれば事故や怪我につながりかねない。

 高岡は何かに打ち込むことを勧める。「自分の軸と対象の中心をきちっと向かい合わせることができるようになる」とは言い得て妙だ。野球や剣道の「打ち込み」を思えばストンと腑に落ちる。来る日も来る日も素振りを繰り返すのは身体の軸を定めるためだ。ぎこちない動きも少しずつ無駄な力が抜けて理想的なフォームに近づく。

 一つの言葉が思考を劇的に変えることがあるように、一つの動きが運動神経を一変させることがある。私は50歳になった今でもありありと覚えているのだが、小学2年の時、ドッジボールでファインプレーをしたことがある。ライン際でジャンプし相手のパスボールを奪ったのだ。やんややんやの大喝采を浴びた。たったこれだけのことが私の運動神経を一変させた。生まれて初めて野球をした際にも同様のプレーができた。それからというもの球技全般において抜きん出た才能を示した。

 きっとそれまではつながっていなかった神経やシナプスがつながったのだろう。そんな風に考えている。何かに打ち込む。そして一つの自信を得る。たったそれだけで子供の人生は変わる。世界は信じられるものと化して光り輝く。「子の日わく、これを知る者はこれを好む者に如かず。 これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」(『論語』金谷治訳注)と。我を忘れて打ち込むことは楽しい。