〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則
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だれがサダムを育てたか―アメリカ兵器密売の10年
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また長い咳き込みがあり、長い間があり、ふたたび口をひらいたとき、声の調子はまったく変わっていた。それはあまりにしずかな声だった。
「私は諸君になにをたのんでいるか、よくわかっている。諸君のだれもが、いかに疲れ、いかにみじめな、苦しい思いをしているか、私にはわかる。私は知っている――だれよりも知っている――諸君がどんな目に会(ママ)ってきたか、いま諸君にとって、なにがいかに必要か、諸君が休養を得るにふさわしいか。休養はあたえられる。18日ポーツマスに入港、さらにアレキサンドリアで艦修復の予定だが、その間、乗組員全員に10日間の休暇が許される」自分にはなんの意味も持たないかのような、無造作な言葉だった。「だが、その前に――残酷な、人道を無視したことにきこえるだろうが――いや、きこえないはずはない――いまいちど諸君に、それも諸君がかつて味わったことのないほどのものに耐えてくれと、たのまねばならない。だが、私にはいかんともしがたい――だれにもしがたいのだ」ひとことごとに、ながい沈黙がつづいた。艦長の声はひくく、そして遠く、言葉をききわけるのがむずかしかった。
「だれにも、諸君にそれをやってくれという権利はない。だれよりも私にはない……この私には。だが、諸君がかならずやってくれることを、私は知っている。私は信じている。諸君が私を見すてないことを、諸君がユリシーズを送りとどけてくれることを。幸運を祈る。幸運と神のご加護を。そして、いい夜(グッド・ナイト)を」
拡声器の音は消えた。だが、静寂はつづいた。だれもしゃべらず、だれもうごかない。目さえうごかない。拡声器をみつめていた者は、なおも呆然とみつめている。両手に目をおとしている者、疲れた目にひりひりとしみる煙も忘れて、禁じられたたばこの赤い火をじっと見ている者。それはまるで、だれもが自分ひとりになって、自分の心をのぞき、自分ひとりの考えをすすめようとしているみたいだった。ほかの者と目が会(ママ)えば、もう自分ひとりにはなれないと思っているかのようだった。それは異様な、一種幻妙な静寂、人間がおよそまれにしか味わうことのないあの無言の悟入であった。ヴェールがあがって、ふたたびおりる。人はなにかをかいま見たのか思いだすことはできないが、なにかを見たことを、二度とおなじものはあらわれないことを知っている。それはめったに、ほんと(ママ)にめったにあるものではない。それは絶妙なたぐいない日没の一瞬、偉大なシンフォニーの一断片、大闘牛士の剣があやまたず突き刺されたとき、マドリードとバルセロナの巨大なリングをつつむ恐ろしい静寂。スペイン人は、それをたくみによぶ――〈真実の瞬間〉と。
【『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン:村上博基〈むらかみ・ひろき〉訳(ハヤカワ・ノヴェルズ、1967年)/ハヤカワ文庫、1972年/原書は1955年】
ユリシーズ号のモデルとなったダイドー級軽巡洋艦。/ダイドー級軽巡洋艦 - Wikipedia https://t.co/m87aQ5UQz7 pic.twitter.com/Z4Z1OStlZz
— 小野不一 (@fuitsuono) 2017年9月23日
現時点でビッグデータの捉え方(と同時に、本書の方針)は、次のようにまとめることができる。「小規模ではなしえないことを大きな規模で実行し、新たな知の抽出や価値の創出によって、市場、組織、さらには市民と政府の関係などを変えること」。
それがビッグデータである。
ただし、これは始まりにすぎない。ビッグデータの時代には、暮らし方から世界との付き合い方まで問われることになる。特に顕著なのは、相関関係が単純になる結果、社会が因果関係を求めなくなる点だ。「結論」さえわかれば、「理由」はいらないのである。過去何百年も続いてきた科学的な慣行が覆され、判断の拠り所や現実の捉え方について、これまでの常識に疑問を突きつけられるのだ。
ビッグデータは大変革の始まりを告げるものだ。望遠鏡の登場によって宇宙に対する認識が深まり、顕微鏡の発明によって細菌への理解が進んだように、膨大なデータを収集・分析する新技術のおかげで、これまではまったく思いもつかぬ方法で世の中を捉えられるようになる。やはりここでも真の革命が起こっているのは、データ処理の装置ではなく、データそのもの、そしてその使い方だ。
【『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ:斎藤栄一郎訳(講談社、2013年)】