2019-04-25

ジョン・ホイーラーが示したビッグクエスチョン/『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー


『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック
『量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』マンジット・クマール
『宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか』ルイーザ・ギルダー

 ・ジョン・ホイーラーが示したビッグクエスチョン

『すごい物理学講義』カルロ・ロヴェッリ
『宇宙を復号(デコード)する 量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号』チャールズ・サイフェ
『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド
『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス

情報とアルゴリズム
必読書リスト その三

 指導者としてのウィーラーは、言葉の持つ魔力を知り抜いていた。一例を挙げると、物理学会が星の崩壊という現象に真剣に目を向けるよう、彼は「ブラックホール」という言葉をこしらえ、この企ては予想を超えた成功を収めた。しかし、晩年になって名声が高まり、評論や講演がより幅広い人々を対象としたものになるにつれて、ウィーラーは、量子力学の解釈や宇宙の起源といった、物理学と哲学が衝突する深遠な問題に的を絞りはじめた。自分の考えを人々の記憶に残る取っつきやすい言葉で表現するために、彼は「ビッグ・クエスチョン」と呼ぶ神託めいた独特な言い回しを作り出した。その中で最も重要な「真のビッグ・クエスチョン」が、この生誕90周年記念シンポジウムにおける議題選定のきっかけとなった。講演者は一人ひとり、これらの謎めいた金言からどんな閃(ひらめ)きをエたのかを、直々(じきじき)に証言したのである。
 ウィーラーの「真のビッグ・クエスチョン」は、まさに抽象的な性質のものであり、また車のバンパーに貼るステッカーに記せるほど簡潔なものだが、運転中にそれに思いを巡らせるのはお勧めできない。その中の五つは、特に際だっている。

いかにして存在したか?
なぜ量子か?
参加型の宇宙か?
何が意味を与えたか?
ITはBITからなるか?

【『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー:水谷淳〈みずたに・じゅん〉訳(日経BP社、2006年)】

「ウィーラー」がジョン・ホイーラー(1911-2008年)のことだと気づくのに少し時間がかかった。名前くらいは統一表記にしてもらいたいものだ。昨今の潮流としては原音に近い表記をするようになっているが、もともと日本語表記のセンスはそれほど悪くない。「YEAH」も現在は「イェー」だが、1960年代は「ヤァ」と書いた。ホイーラーはブラックホールの名付け親として広く知られる。

 ぎりぎりまで圧縮されたビッグクエスチョンは哲学的な表現となって激しく脳を揺さぶる。さしずめブッダであれば無記で応じたことだろうが、凡夫の知はとどまるところを知らない。わかったからどうだということではなく、わからずにはいられないのだ。

 存在と認識を突き詰めたところに意識と情報が浮かび上がってくる。参加型の宇宙とは人間原理のこと。人間の意識が宇宙の存在に関与しているという考え方だ。

 人類の進化はまだ途中だろう。ポスト・ヒューマンがレイ・カーツワイルが指摘するような形になるか、あるいは新たな群れ構造が誕生するに違いない。技術の発達を人類の情報共有という点から見れば、我々は知の共有は既に成し遂げたと考えてよい。月から撮影された地球の写真が人々の脳を一変させた事実はそれほど遠い昔のことではない。

 情のレベルは国家や民族という枠組みがあるもののまだまだ一つになっているとは言い難い。祭りと宗教にその鍵があると思われるが、現代社会では音楽や映画の方が大きな影響を及ぼしている。近未来の可能性としてはバイブルを超えるバイブルの誕生もあり得るだろう。人類が戦争を好んでやまないのは群れとしての一体感を感じるためだ。

 種としてのヒトが完全な群れと進化した時、新たな「群れの意識」が創生されることだろう。知情意は共有され、合理的な行動が近未来に向って走り出す。宇宙に向けて偉大な一歩が踏み出されるのはその時だ。

2019-04-22

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2019-04-19

我々が知り得るのは「脳に起こっていること」/『養老孟司の人間科学講義』養老孟司


『唯脳論』養老孟司
『カミとヒトの解剖学』養老孟司
『希望のしくみ』アルボムッレ・スマナサーラ、養老孟司

 ・我々が知り得るのは「脳に起こっていること」

『人類が生まれるための12の偶然』眞淳平:松井孝典監修

情報とアルゴリズム
必読書リスト その三

 科学は宇宙の起源や星の進化を論じ、物質の基礎をなす単位について語る。ヒトの遺伝子はすべて塩基配列がすべて解読された。われわれはそういう時代に生きている。
 それならわれわれが知っていることは、つまりなにか。
 自分の脳のなかだけである。われわれが世界について、なにか知っていると思っているとき、それは自分の脳のなかにある「なにか」を指している。脳を消せば、その「なにか」が消えてしまうからである。それだけではない。脳のなかにないものは、その当人にとって、存在しない。私が知っているさまざまな昆虫は、多くの人にとって、まさに「存在しない」のである。
 歯が痛いとき、われわれは当然、歯のことを直接に「知っている」と思っている。しかし、実際に知っているのは、脳のなかの知覚に関わる部位の、歯に相当する部分に、歯の痛みに相当する活動が起こっている、ということだけである。なぜなら歯から脳に至る知覚神経を麻酔してやると、もはや歯が痛くなくなる。それどころか、主観的には歯がなくなってしまう。だから歯医者に歯を抜かれても、「なにも感じない」。しかし歯では相変わらず炎症が進行しており、歯に生じている実際の事情は、なんら変化したわけではない。だから「歯が痛い」と思っているとき、「歯に起こっていること」を知っているわけではない。「脳に起こっていること」を知っているだけである。

【『養老孟司の人間科学講義』養老孟司〈ようろう・たけし〉(ちくま学芸文庫、2008年/筑摩書房、2002年『人間科学』改題)】

 関連する書評をはてなブログから移動しているのだがとにかく面倒臭い。当ブログのアクセス数や私の年齢を思うと無駄な行動にしか思えない。見知らぬ誰かが本を手繰り寄せる時に道標(みちしるべ)を示すことができればとの思いだけで、よくもまあ20年も駄文を綴(つづ)ってきたものだ。

 書評リンクを一々貼るのも煩わしいので今後は「ラベル」を活用しようと目論んでいる。記事タイトルの一覧表示ができればいいのだが、無料ブログなので多くを求めるまい。

 脳化社会(『カミとヒトの解剖学』養老孟司、1992年)では人生の万般が脳内現象に収まる。これを仏教では「識」(しき)と名付ける(唯識)。

 一冊の本を読んでも感想は人によって異なる。受け取るメッセージも様々だ。ある風景に心を奪われる人もいれば、漫然と見過ごす人もいる。すべての情報は受け手によって解釈され、一つの経典やバイブルから教義を巡って数多くの教団が派生する。その意味から申せば人が人を理解することは不可能だ。不可能という現実を受け入れた上で互いに歩み寄る努力が必要なのだろう。

 脳内現象をアイドリング状態に戻すのがスポーツで、脳内現象をゼロに向かわしめるのが瞑想なのだろう。

 人々の妄想をより大きな妄想に収束させるのが政治と宗教だ。

 そして現代の妄想は資本主義の発達によってマネーを媒介とした欲望の解放に向かう。神をも恐れぬ我々がカネの価値だけは信じているのだから、もはやマネー教と言ってよいだろう。

 人類がいつの時代も戦争を欲するのは種としてのヒトが一体感を感じるためなのだろう。祭りにもまた同様の効果がある。それを超えたコミュニケーションは可能だろうか? もっと静かでもっと知的でもっと和(なご)やか一体感を得る道はあるのだろうか? ある、とは思う。どこに? ここに、とまだ答えることのできぬ自分が歯痒(がゆ)い。

2019-04-15

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2019-04-13

曲がった背中を伸ばす/『5秒 ひざ裏のばしですべて解決 壁ドン!壁ピタ!ストレッチ』川村明


『足裏を鍛えれば死ぬまで歩ける!』松尾タカシ、前田慶明監修
『ベッドの上でもできる 実用介護ヨーガ』成瀬雅春

 ・曲がった背中を伸ばす

『ひざの激痛を一気に治す 自力療法No.1』

身体革命

人の体の「伸展力」はひざ裏が決める!

●重力に逆らって体を立てる力=伸展力

 なぜ、ひざ裏がのびると体や心の不調が改善するのでしょうか? その秘密は、人間の体の「伸展力」にあります。
 私たち人類は二足歩行する生き物です。地球の重力に逆らい、地面に足の裏だけをつけて、筋肉の力を利用してまっすぐに体を立てて生きているのです。
 体をのばす筋肉の力、それが伸展力です。伸展力を担うのは、主に体の後ろ側の筋肉です。(中略)
「背中が曲がってきた」「姿勢が悪い」と気づくと、私たちは背筋をのばします。でも、それは一時的なもの。またすぐ元に戻ってしまいます。なぜでしょう。ひざ裏がのびていないからです。
 伸展力の起点となるのはひざ裏です。ひざが曲がると、太ももの筋肉が縮み、骨盤が倒れ、背中が曲り……と筋肉の連鎖反応が起こり、左ページの写真のような姿勢になります。これでは体幹(体の内側にある筋肉)に力が入りませんから、腹筋や背筋をはじめ、さまざまな筋肉がゆるんでしまいます。気がつけば、まさに「腰の曲がったおばあさん」という姿勢のでき上がりです。この姿勢こそ、心身の不調の原因なのです。

【『5秒 ひざ裏のばしですべて解決 壁ドン!壁ピタ!ストレッチ』川村明〈かわむら・あきら〉(主婦の友社、2018年)】

 仲好しだったオバアサンは背中がかなり曲がっていた。あれこれ検索したところ川村のブログがヒットした。

どうすれば、曲がった腰は伸びるのでしょう? | 山口宇部発の介護予防!医師・川村明の健康コラム

 アメブロは死ぬほど重いので中々開かないことがある。見た瞬間にピンとくるものがあった。私が調べた限りではヨガも効果があるようだがやり方まで紹介しているサイトが見当たらず。

 確かにオバアサンは酷いO脚だった。そのため膝の間にゴムまりを挟んでスクワットをやらせたりしていたところだった。壁ドンも壁ピタも上手くできなかったがやっている内に膝への意識が高まった。仕方がないのでベッドに坐らせ、脚を私の膝に載せて膝裏を伸ばすマッサージを行った。

 時折、背骨が伸びることもあって本人は洗面台の鏡を覗き込んで「アラ、背が伸びているよ!」とビックリしていた。今となってはよき思い出だ。

「ひざ裏のばし」シリーズが50万部近いベストセラーになっているのも頷ける。この手の本にありがちの余計な能書きがなく、簡単に実践でき確かな効果を感じることができる。

「そういうわからないもの、人が作ったわけではないもの、それを自然という。人のからだは、自然である。だから、からだは、根本的には理解できないものに属する」(『解剖学教室へようこそ』養老孟司〈ようろう・たけし〉、1993年)。加齢に伴い誰もが「体という自然」に向き合わざるを得なくなる。50年も60年も使っていればガタが来るのも当たり前だ。ところがここに脳化社会を脱却するチャンスがあるのだ。意識は妄想の虜(とりこ)であるのに対し、肉体という現実が立ちはだかるのだ。身体(しんたい)を鍛える目的もここにある。